表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/381

炭を焼きながら

本日、10話同時更新。

この話は7話目です。

 次の日。


 今日は1日、廃坑の手入れと炭焼きに使うことにした。


 これまでは備蓄していた炭を使っていたが、そろそろ残りが少なくなってきたからだ。完全に使い切る前に焼いておかないと、デオドラントスライムの餌がなくなってしまう。それに先日刈っておいた雑草がそろそろ良い具合になっている頃だろうし……


「お、良い感じ」


 雨の無い天気が続いたんだろう。生乾きなら錬金術でパッと乾燥させるつもりでいたが、ちゃんと乾燥した草が確認できた。


「さーて、使ってみますか」


 地面に散らばる草を、新品のピッチフォークでかき集める。


「ほー、これはなかなか……」


 柄についた金具へ魔力を流すと、肉体強化の魔法が発動する魔法道具。その効果は手に持ったピッチフォークの重さが一瞬消えたように錯覚させた。雑草も軽々、面白いように集まっていく。


 一山に纏めた雑草をディメンションホームへ押し込む時など特に、単純作業で成果が目に見える。これはなかなか楽しい。


「次は……次回用の雑草の刈り込みだな」


 続いてアイテムボックスから取り出したるは……“大鎌”。ライトノベルでは大抵武器として登場するが、これは農具である。形状は片手用の鎌を巨大化させた物の柄から、刃に対して垂直方向に2本、平行な棒が飛び出ている。


「これは……こうでいいんだよな?」


 ピッチフォークと同じ金具が2本の棒についているから、そこを持ってみる。すると巨大な鎌は地面と平行。刃の先端を前に向けたまま寝かせ、宙ぶらりんにした状態になった。使ったことが無いのでいまいち自信は無いが、間違ってはいないはずだ。


「よっ!」


 右手を前に、左手を引く。刃を当てられた草は大半がなぎ倒されただけだ。しかし少しは切れているし、使い方は正しそうだ。ならば後は練習あるのみ。




「ふっ、ふっ、ふっ……うん」


 一時間も試行錯誤と練習を繰り返していると、だんだん効率が上がってきた。重要なのは刀と同じで刃筋を立てること。振る時には腕よりも腰のひねりを強く意識したほうが良い。腕の力は支えるだけ、くらいの気持ちでよさそうだ。草に当てる部位は、刃の先端に近い部位。


 これらを守って大鎌を振るうと、刃の先端に触れた草が気持ちいいように刈れる。また、腰を使って振る事で一度に刈れる範囲も広がった。


 刈られた草とまだ刈られていない草。双方の境界線をじわじわと押し広げていく。手元しか刈ることのできない片手持ちの鎌よりも効率が良く、上手く使えると楽しい。これも中々良い買い物だったな。


「……このくらいでいいか」


 草刈りはここまでにして、ふもとから炭にする木材を切り出す。


 ここでも使うのはもちろん、魔法道具の斧。斧はそれなりの重量があり、それが威力の元にもなっているが……この斧は魔法道具を組み込むことで軽量化せず、使用者が軽々と扱えるようになっている。


 個人的には攻撃魔法よりも、こっちのほうがだいぶ使いやすい。


 木は4、5本あればいいだろう。切り倒しては運ぶ作業。後は枝を落として適度な大きさに割って、焼くだけなんだけど……いつの間にか太陽が天辺に昇っている。


 休憩を兼ねて昼にするか。


 ……? この音……


「あぶなっ」


 体をわずかに横へずらす。一瞬の後、俺の頭があった位置を鉄球が通過した。


「気をつけろよー!」


 通り過ぎた鉄球。もといアイアンスライムを注意すると、落ちた場所から動かない。


「行っていいよ」


 そう言うとアイアンは廃坑を登る道の方へ、再び球体になり転がって(・・・・)いった。




 ……最近、アイアンとメタルが思わぬ成長をしている。


 廃坑での魔獣討伐に加わった時。体を撫でて球体にしたことを覚えていたのか、変形の練習をさせていたら最初にメタルが球体になり、続いてアイアンまで球体になれるようになった。


 それを俺は少しずつ成長してるな……としか思っていなかったのだがその数日後、メタルとアイアンは球体のまま自由自在に動き回れるようになっていた。


 調べてみると、体は硬く重い金属でも内部の核は素早く自在に動かせるようで、彼らは球体の体と核による重心移動で行きたい方向へ転がっていた。最初は偶然だったと思うが、その偶然を“より早く移動するための手段”として今や完全に身に着けている。


 実際俺のスライムの中で最も動きの鈍かった2種類が、今では移動速度で1、2を争う存在になった。おまけにこの2種類は“高速移動Lv.1”という新しいスキルまで習得している。


 まぁ、もっともそれは傾斜のない平らな地面の話であり、坂道では重力に逆らえず転がり落ちてしまうが……


 ただ本人スライム達からするとそれはそれで楽しいらしく、放し飼いにしている日中は頻繁に坂から転がり落ちてくる。さらにそこで勢いがつきすぎるとコースアウトし、さっきのように上からすっ飛んでくることもある。体は金属なのでとても危ない。


 また、メタルとアイアンは毎日の潤沢な餌で数も増えてきている。その全てが同じように転がっているのだ。


 ……どこかの坑道に専用のコースでも作ってやろうかな……


 近いうちに計画を立てよう。















 昼食後、いよいよ炭焼きを始める。


 まずは適当な大きさになるまで割った木材を窯の奥から詰め、手前に乾燥した雑草の束や切り落とした枝葉を積む。そして着火。ディノームさんから試供品として貰った着火用魔法道具を使ってみたが、火が出る先端から持ち手が適度な長さで使いやすい。


 あとはしばらく入り口で火を焚いて熱が窯の中に行き渡るのを待つ。するとだんだん煙突から白い煙が立ち上り始めた。どんどん勢いを増すこの煙が、やがて透き通りやや青くなるまで火を焚きながら待つ。そして煙の状態が変わったら石と練った赤土で煙道や入り口を塞ぎ、空気の流入を制限するのだ。


 ……言葉にすると簡単そうだが、作業に慣れてタイミングをつかむまでは大変だった。


 俺が炭焼きを始めたのはこの世界に来てから。前世では環境と時間が無く、テレビ番組やネットでやり方を見て憧れていただけ。そんな記憶以外の情報も無く、うっかり窯の中身を燃やし尽くしたり、逆に炭になる前に火を消してしまったことが何度もある。


 それが今では慣れたもんだ。まだ煙に変化があるのはしばらく先と経験から知り、のんびり眺める余裕もある。でもこのままボーっとして待つには少々長い……


「……戦力強化」


 シュルス大樹海へ行くには必須だ。情報収集や魔獣の討伐はやっていくつもりだが、それだけで大丈夫とは言い切れない。他にできる事はないだろうか? 付け焼刃で通用するとは思えないし、自分の技術を磨く方向で……


 こう考えた結果、4つの候補が上がった。


 候補その1“装備の強化”

 大樹海に限らず、俺は基本的に体と武器を用いた近接戦闘が主体になる。そのために良い武器や防具をそろえる。これはまぁ基本かな……


 候補その2“魔法の訓練・開発”

 生活用の魔法であればともかく、俺の攻撃魔法の腕は正直それほど高くはないと思っている。全属性を扱えるものの、魔法専門で経験を積んだ冒険者ならさらに上を行くだろう。これは仕方が無い。俺も訓練をして技術を身に付けていくしかない。


 ただ、俺には前世の知識というアドバンテージがある。これを利用して何か使える魔法を生み出せれば楽になるかもしれない。まぁ、そのためには何をすればいいか、どんな環境かの情報も必要だし……ギルドの書類待ちか。



 候補その3“薬品・毒薬の研究”

 俺にはこちらに来る際に受け取った薬学の知識がある。この知識をこれまでは薬作りにしか使っていなかったが、作ろうと思えば毒薬を作ることも可能。さらにポイズンとメディスン。毒や薬に長けたスライムの力を借りられるし、いまなら必要な素材を注文して手に入れることができる。これらを合わせて戦闘用の毒物を作ってみるのも、1つの手だろう。


 幸いにもグリシエーラさん。フェイさん。リーリンさん。少し考えただけで相談相手になってくれそうな方もいる。



 候補その4“新しい道具の開発”

 そのままだ。新しい……と言っていいのかは分からないが、前世のサバイバル用品だとか、便利グッズだとか。そういう物をこちらの素材で再現できないかと試みる。すでにあればそれで良し、無くて役立てば万々歳だ。具体的な案はまだ無いが……あ。




 遠くから金属音が聞こえた。


「また落ちたのか……」


 今度はどっちだろう? 一応あの2種類は落下しても平気と言うことが分かっているのであまり心配はしてないが、できるだけ落下はやめてほしい。球体への変形を身に着けて以来、早く動けるようになって嬉しいのは分かるが……?


「待てよ? あれは他のスライムが触手状に体を伸ばすのと同じく、体を球体に変形させている。種の特性で金属なだけで……ということは」


 もしかして……こっちで形を指定すれば、刃物や鈍器の形にもなれるんじゃないだろうか?球体になったきっかけも俺が丸めたからだと思うし……最初は俺の手で形を整えて、じっくり教えてやれば……可能性はあるな。


 気づいてしまうと、試さずにはいられなくなった。


 すぐに2種類を呼び寄せて、窯の様子を見ながら手でアイアンをナイフの形に整えてみる。


「おぉ! いける! これはいける!」


 連日球体になっていたことで、スライム自身の技術が向上していたようだ。手を当ててサポートしてやれば、大まかな形はすぐに整った。あとは細部、刃にあたる部分を薄くしていけば……



「とりあえずこんなもので、どうだ?」


 できあがった状態から動かないように指示し、乾燥した草の束で試し切り。


「……なるほど」


 きっと俺の顔はにやけている。


 アイアンスライムのナイフの切れ味は……悪い。刃には厚みのバラつきや歪みが残っている。もしこれが店売りの品であれば間違いなく粗悪品だろう。


 しかし、草の束は切れた。少々のこぎりのように前後させて何とかと言った所だが、それでも切れたことは違いない。もっと丁寧に、刃物を研ぐように。今後の訓練で問題点を修正できるようになれば……と、俺には十分に期待できる結果が出た。


「そうと決まれば……やるか!」


 窯の状態が整うまで、俺はひたすらにアイアンとメタルを磨き続けた。


 そして炭焼きに失敗しかけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ・スライムの刃物化案(但し、核ありスライム系なのでそこだけ微妙) [気になる点] ・炭焼き竈で炭焼きする必要性を感じない。 ・シュルス大樹海からどうやって始まりの森まできたのか ・地球で才…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ