餌の用意
本日、4話同時更新。
この話は1話目です。
呼吸を整え、3匹のスライムに向けて魔力を放出する。
スライムは……体を震わせて魔力に飛びついてきた。伝わってくる感情は、喜び。
一見ただスライムが震えているだけに見えるが、魔力感知スキルのおかげでスライムが魔力を少しずつ取り込んでいるのが分かる。
「やっぱりか……」
昨日、進化するスライムが体から魔力を出し入れするのを見て、魔力とスライムについて考えた。
まずヒールスライムも回復魔法を使うのだから、魔力を持っているのは間違いない。ヒールスライムに進化した時の原因も回復魔法だと考えている。
あの時は火属性や水属性の魔法を使えるスライムも居るんじゃないか? と考え、実験もした。ただしその時は攻撃魔法でスライムを傷つけるだけの結果に終わったため中断していたが、今回はどうだろうか?
各属性の魔法を使えるスライム。以前は回復魔法を使えるスライムがいるなら、ほかの魔法を使えるスライムもいるはずだと予想した。それが先日のメイリーンさんの話で確定している。
既存のスライムなら、これまでと同じく食料で進化させられる可能性は十分にあると思う。あとはスライムが魔力を食料としているか……
もう一度魔力を放出。今度は火属性の魔法を使うように、魔力がガスのように燃えるイメージを持って。イメージは人によって違うと聞くが、こうして人体に備わった無属性の魔力を、火属性魔法にもちいる火属性の魔力に変化させることができる。
この変換は属性魔法を使うためには必須の技能。しかし通常は変換と同時に魔法として放つので、魔法にする寸前で止め、属性を変えた魔力の状態で放出するのは初めてだ。
「普通に魔法を使うより、神経使うな……」
慣れないからだろうけど……
「無属性は嫌いなのか?」
そのままの魔力を放出してみると、先程までより吸収量が少なくなった気がする。
他の属性にも変えて試すと、3匹の内2匹が土属性、1匹が闇属性の魔力を最も多く吸収する事が分かった。
どうやら個体によって、魔力の属性にも好みがあるみたいだ。
魔力に味ってあるんかね?
とりあえずスライムは喜んでいるので今後も続けてみよう。
それから布が乾くまでの間は魔力切れ寸前まで魔力を与え、休憩をとってから乾燥した防水布を回収。街に戻り、ジークさんの肉屋へ向かった。
「へいらっしゃい! 今日は何の肉をお求めで?」
肉屋で俺を迎えたのは、10代の男の子。見た感じ……14か15歳位だろう。
「すみません、店長のジークさんにお話がありまして。お時間いただけませんでしょうか?」
「そっすか。店長! 店長に客が来てますよ!」
その言葉で奥の作業場から血で汚れた服を着たジークさんがやってきた。
青白い肌、病的な細さ、血で汚れた服……仕事中のこの人の見た目、ウォーガンさんとは別の方向で怖いな……
「リョウマ君じゃないか、何か用かい?」
「はい、実は……」
事情を話してお願いしてみる。
「……なるほど、そんなスライムがいるのか。いいよ、今すぐいるかい? 今日は若手の冒険者が大量に獲物を狩れたようで、大量にあるんだ」
「ありがとうございます、いただきます」
そのまま作業場に通された。中では5人の男性が働いており、作業場の壁際には天井の大きな梁に付いた沢山のフックと紐で、血の滴る獣がぶら下がっている。
「こっちだ」
案内されたのはその獣の下。大きな入れ物が2つあり、中には血が溜まっていた。入れ物は部屋の長さとほぼ同じだ。
「ありがとうございます。このまま飲ませても良いですか?」
「いいよ」
許可が取れたので俺はブラッディースライムを入れ物の中に入れる。するとブラッディースライムはみるみるうちに血を吸い上げ、入れ物の中の全ての血を飲みつくしてしまう。
「へぇ……便利そうだね」
「ジークさんもそう思いますか?」
「血抜きをしたら血を汲み出して捨てる作業もある。そうでなくてもこまめに洗わなければならないからね……入れ物が大きいだけに、重くて大変なんだ」
「特に大物が来たり、今日みたいに大量に血抜きをする場合は手間が多くて面倒でな」
「なるほど」
近くにいた従業員まで手間がかかる作業、だがそれでもやらなければならない作業だと言い始める。
ところで血を使った料理はないのかと聞いてみたが
「血を食材に? 知らねぇなぁ」
「血は捨てるのが常識だろ?」
「食えるなら捨てるのはもったいないけどな……」
「血の魔力は放置していると抜けると聞いたことがある。でも抜けるころには腐るか乾いてそれはそれで食べられないね」
魔力の含まれた血液は、本当に邪魔な廃棄物らしい。
その後、ジークさん達はこれからも血が必要なら何時でも来いと言ってくれた上、売れ残りで悪くなった肉や骨なども譲って貰える事になった。ゴミになる物なら構わないと、気前よくくれたのだ。これでスカベンジャーやアシッドスライムの餌も手に入るだろう。
「ありがとうございました!」
考えていた以上の利益に機嫌よく、ジークさんに感謝しつつ店を出た。
すると……
「キビキビ歩け!」
「痛えな!」
「おいこらテメェら何見てやがんだ!」
「見せもんじゃねぇぞ!」
「黙って歩け!!」
うちの店から数人、柄の悪そうな男達が警備隊に連行されていった。何かあったのか!?
急いで店に飛び込むと、従業員全員が集まっている。
「皆さん、大丈夫ですか!?」
「あっ、店長!」
「警備隊に連行されていく男たちがこの店から出てくるのを見かけまして……それより皆さん、お怪我は?」
「大丈夫です~、誰にも怪我はありませんよ~」
「フェイさんが一人で取り押さえてくれました!」
「そうですか、ありがとうございます、フェイさん」
「気にする無いネ。これも私の仕事ヨ」
「今日は本当に助かりました。フェイさんとリーリンさんは勿論、前もって2人を雇い入れて頂いたリョウマ様のお陰で店と店員、そしてお客様には何の被害もありませんでした」
「いえいえ、僕は何もしてませんよ」
俺、完全に事が終わってから来てるし。
そう考えていると、リーリンさんに呼ばれる。
「店主、ちょと話があるネ。今後のために、対策しておく必要あるヨ」
そう言われて、俺はフェイさんと3人娘に店番を任せ、頼りになる双子も伴い執務室へ。
「対策と言ったけど、まだ今のままで問題無いネ。私か父が店に居れば問題無いヨ。ゴロツキ程度、1人で十分。でも1つ、店主に聞きたい。店主、人に恨まれるおぼえあるカ?」
「人に恨まれるおぼえ?」
「あのゴロツキ達、誰かに雇われたそうヨ。取り押さえてから警備隊が来るまでに、持ってた自白剤で聞き出したから間違い無いネ」
「誰かに雇われた?」
そう言われて考えてみるが……
「前に子供からカツアゲしようとしていたゴロツキ冒険者集団をボコボコにしたくらいですが……」
ここに来るまでは森に引きこもっていたし、その前はそもそも異世界にいた。町に出てきてからも基本的にいい人としか会ってないし、誰かに喧嘩を売ったりもしていないはず。いざこざを起こしたのも本当にあの時くらいだ。
「さっきのゴロツキ、大金を積まれたと言てたヨ。やる事は小さかただけどネ」
「小さかった、というと?」
「近くの客に絡んだり大声で怒鳴り散らす程度でした」
「それを注意したフェイさんに掴みかかり、フェイさん本人が取り押さえましたが」
店の破壊や従業員への危害はなく、営業妨害が目的だったようだ。
「……やっぱり、心当たりはまったく」
「妬み、かもしれませんね。他所から見れば、突然現れて急激に利益を上げている店でしょう」
「そういった輩は何処にでも居ます。とにかく注意しておきましょう」
「ゴロツキが何か知てたら良かったけど、依頼主もバレない様に気をつけてるみたいネ」
「儲けが出てくれば、多かれ少なかれある事です。備えをして、その都度対処するしかありません」
こうして話が進んでいき、まずカルラさんとカルムさんがセルジュさんや商業ギルドのギルドマスターに今日の件を通達、俺が公爵家の人達に今日の件を話しておく事。
そしてこれから基本的に日中はフェイさんとリーリンさんに任せ、夜間の警備にスライム達を店や敷地内に放しておく事に決まった。
そして宿に帰ってラインハルトさんに話したが……店の警備員を公爵家の伝で雇うとか、かなり大事になりかけた。
すぐに雇えるのは、と前置きされて話された人は全員が元軍人か元騎士。退役したり怪我を負って辞職した腕の立つ方々を紹介してくれると言われたが、誰一人としてうちの店で雇われるような人達とは思えない肩書きを持つ方々だ。
ちなみに紹介された中で最も腕の良い人は退役して隠居している元騎士団長。ラインバッハ様の戦友らしいが……いくらなんでも雇えるか!!
時間をかけて交渉し、今のところは静観してもらった。
そういや、うっかりスルーしてたけど自白剤とか……リーリンさん達そんな物まで持ってたのか……まぁいいや、頼りになるし。
今日はもう寝よう。




