人員追加
本日、5話同時投稿。
この話は1話目です。
翌日
朝から開店準備をした後、新人2人を歓迎するための買い出しをすませ戻ってみると。
「もうこんなに人が来てるのか」
8時の開店と同時に店を出て、買い物にかかったのは1時間くらい。だから今は9時位のはず……来客の時間帯、特にピーク時が気になるな。
そんな事を考えつつ、店の奥へと続く従業員用の入口から奥に入る。仕事はカルラさんとフェイさんが接客、カルムさんとリーリンさんが洗濯物運びと返却の担当で分担されていて、店は今の所問題なさそうだ。仕事は任せて、俺は料理に取り掛かる。
いつまた急に忙しくなるか分からないし、食べられるうちに食べてもらいたい。
生地をこねて、丸くして伸ばす。出来上がった生地にミートソースを塗っていく。
ちなみにこのミートソース、2日前の完成祝いの時のミートソースの残りを使用。結界魔法を応用した冷蔵庫を作ってあるから外より保存も効いたし、念のため鑑定で調べても問題はなかった。セルジュさん辺りが冷蔵庫の事を聞きつけたらまた騒がれるかもしれない。
……いや、これはピオロさんの方が騒ぐかな? 食材を扱ってるって言ってたし。
できたベースの上にはチーズとスライスした玉ねぎ、少量のハーブを散らして温めた竈に入れて焼く。その間にサラダや飲み物を用意……
と、色々やってるうちにピザが焼きあがった。
香ばしい香りを漂わせるそれを1枚、自分の分を味見を兼ねて食べてみる。
……うん、上出来。時間も混雑する前にちょうどいいかな。
「皆さん、食事が用意できています。手伝いますから交代で食事を摂って下さい」
「「「「ありがとうございます」」」」
最初にリーリンさんとカルラさんが俺と交代。2人が先に食事を摂って、次にフェイさんとカルムさんが食事に行き、全員に食事と休憩をとってもらえた。
しかし昼を過ぎるとまた昨日と同じ状態になってしまい、今日も店員総出でなんとか乗り切る。
「お疲れ様でした」
「「「「お疲れ様でした!」」」」
昨日より改善はしているけれど、誰かが過労で倒れる程度から、何とか普通に営業できる程度になっただけなんだよな……まだ誰か一人でも抜けると負担が大きい。さらにそうなると昼食を作る暇なんて彼らには無いだろうし……
「今日もお客さん、沢山来ましたね。今日の売り上げはどうなりました?」
「私が計算させて頂きましたが、計11,877スートです」
カルラさんはメモも一緒に見せてくれた。
昨日の1.5倍なら、1日の増加にしては上等だな。
「売り上げは上々ですね」
「上々どころか、大繁盛ネ」
「この分なら、もっとお客さん増えるヨ」
「リーリンさん、フェイさん。お二人もそう思いますか? ……やっぱりもう少し人を増やすべきですよね? 元々3、4人雇う予定でしたし、今のままだと万が一誰かが働けなくなれば、他の方にかかる負担が大きいのではないかと」
「そうですね。そのほうが宜しいでしょう」
「昨日の今日ですが、ギルドで雇い入れて頂けると助かります」
「了解です。あと料理人も1人雇いたいのですが、そちらも商業ギルドで雇えますか?」
思いついたことを聞いてみると、カルムさんが答えてくれた。
「雇えます。しかし、何故料理人を?」
「皆さんは仕事で手一杯で、昼食を作る暇はないでしょう? ですから、料理人を雇って料理を任せようと」
「確かにそれはその通りですが、そういった事は使用人でやる事ですよ」
「でも専門の方を雇えば余裕もできますし、どうせ食べるなら美味しい物を食べた方がやる気も出るでしょう。福利厚生です」
「その意見には同意しますが……フクリコウセイとは何ですか?」
「あー……何と言うか……店で従業員が快適に働けるようにする仕組みとか考え方ですね」
福利厚生という考え方はこちらにないのか……それとも一般的でないのだろうか?
「確かにリョウマ様は店員の待遇をよく考えておられますね」
「住み込みなのに、お給料イッパイもらてるヨ。ここまで良い待遇、なかなかないヨ」
「いいお給料、暖かくて住みやすい部屋、今日のご飯も美味しかた。父もワタシも、他の店に行けないネ」
「そう言ってくれると嬉しいですね。では、後は任せて良いですか? ギルドで人を雇って、そのまま帰りますので」
「「「「お疲れ様でした」」」」
俺は4人に見送られて店を出た。
ギルドへ行くとまたも応接室に通されギルドマスターと面会。
「お疲れさん。今日も人を雇いに来たのかい?」
「店が思いのほか順調で、資金にも余裕があるので」
「なるほどね……なら何人雇いたいんだい?」
「店の仕事に携わる従業員を3名、それと料理人を1人と考えています」
「料理人?」
「店が忙しくて従業員は料理までこなす余裕がない事と、せっかくなので美味しいものを食べられるようにと考えています。それに健康のために栄養も考えて作ってもらえるかと」
「だからってわざわざ専門の料理人かい。珍しいことするねぇ……」
「やっぱり珍しいですか?」
「普通は店員の誰かがやるよ。店が大きくなったら雑用の人員を雇うだろうけど、わざわざ料理人を指定するのは少ないね。まぁ別に悪い事じゃない。ちょっと待ってな、希望者を探してみるよ」
「昨日は居なかった方でお願いします」
と言う事でしばらく待っていると、今日はギルドマスターが直々に声をかけたという4人を紹介された。
「初めまして! ジェーンです!」
「私はマリアです~」
「フィーナと申します」
「料理人のシェルマと申します」
先の3人は貧しい村から集団で出稼ぎに来たという若い女の子。ジェーンさんは活発そう、マリアさんはおっとりした雰囲気があり、フィーナさんはしっかりしてそうな人、というのが第一印象。シェルマさんは3人よりふた回りは行かないだろうけど、年上だ。母親のような雰囲気がある。
ギルドマスターの人選なので俺よりは確かだと思いつつ、一応働く意思を確認すると全員首を縦に振る。理由は繁盛している噂を聞いたか、実際に昨日の行列を見たこと。さらにギルドマスターからうちの店の安全性を説かれたそうだ。
確かにうちは俺を含めて、一度はギルドマスターじきじきに見定められた人間のみで構成されている。女性の不安も少ないか。
娘3人組は裏表のなさそうな村娘。特別な技能はないけど、問題もない。シェルマさんの前の職場は普通の宿屋だそうで、高級な料理は作れないと言っていたが、それも問題にならない。人柄も悪くなさそうなので、全員雇うことに決める。
ここまでで、ギルド到着からわずか10分程度の早業。
コネの有無って重要だよな……マジで。
今日雇った4人も住み込みで働くことを希望したので、いつの間にか用意された馬車で店に戻る。その前にギルドマスターが一言。
「リョウマ、これが続くようなら別の街に2号店3号店を構える事も考えておきな。すぐにでも良いよ、その時は相談しな」
カルムさん達と同じ事を言われて面食らっていると、杖で背中を軽く叩かれ、しっかりしな! と激励を受けた。
その後、4人を店に送り届けるとまだカルムさん達は帰っていなかったらしい。
「「店長、お帰りになったのでは?」」
住み込み希望の新人を連れて来た事を伝え、紹介してから後は任せた。
4日後
新しい人を雇ってから4日が経った。
女の子3人組はよく働いてくれるし、シェルマさんの料理は美味しい。初日は念のため店に居たけれど、問題なし。一昨日は俺が店の外で店の外壁の洗浄や芝生の手入れをする時間も取れ、昨日は廃坑の見回りにも行けた。
まだ開店してようやく1週間だが、売り上げはまだ落ちない。つつましく暮らせば3ヶ月は生活できる額の売り上げが1日で出ている。若干恐ろしくなってきたけど、これも文句も言わずに仕事を頑張ってくれる皆様のおかげ。
もう俺が抜けても大丈夫だろうし、これで冒険者業に戻れる………………と思いきや、今日俺はセルジュさんに呼び出された。
「お待たせしました」
「リョウマ様、よくいらして下さいました。ささ、こちらへ」
「失礼します」
「急にお呼び立てして申し訳ありません」
「いえ、もう店は雇った人に任せられるようになりましたから。セルジュさんの所から来て頂いてる2人も良く働いてくれていますし」
「そうですか。2人がお役に立てているようで、安心しました」
「セルジュさんにはいつもお世話になってます」
「こちらこそ。おかげさまで、こちらも儲けさせて頂いております。毎日大量の袋や日用品をお買い上げ頂いていますからな」
「こちらも色々と助かっていますよ。順調すぎて怖くなるくらいで」
「最近は町の噂にもなっていますね。ギルドでも注目を集めているとか」
そしてセルジュさんは一息ついて、こう言った。
「それに、まだ儲け話があると言うのですから驚きですな」
その言葉に首をかしげていると、セルジュさんがこう言ってきた。
「リョウマ様、防水布の事でございます」
「あ、そうでしたね……」
すっかり忘れてた……
「もうじきグレルフロッグの大量発生の時期だと言うのはご存知ですね?」
「はい、聞いてます」
「グレルフロッグは沼に生息する魔獣でして、革は防具に、内臓は良い薬になるため高額で売れます。だから大量発生の時期は生息地の泥沼に赴く冒険者が非常に多くなります。
そこであの防水布で作られた胴付長靴などの商品の宣伝には良い機会なので製造・販売を少しでも開始しようと思いまして……つきましてはあの布の生産量をお聞きしたく、お呼び立てした次第でございます」
え~っと……今居るスティッキースライムが907匹で……布がどれくらいかにもよるな。
「普通の布に加工を施すので布を用意して頂く事になりますが、加工前の布1反の長さはどれくらいでしょうか?」
「こちらでご用意させて頂くなら、1反およそ70mでございます」
出来ない量を引き受けても後でお互いに困るだけだし……余裕を考えると、スライム1日10匹で1反くらいか。20匹と考えても45反。
「それでしたら、製造準備が整えば1日45~90反程でしょう。乾燥に時間がかかりますので、もう少し減るかもしれませんが」
俺がそう言うとセルジュさんは表情を明るくした。
「初めは1日に10反もあれば十分でございます。それ以上なら尚の事ありがたいですな」
「了解です。早速今日から作り始めましょうか?」
「お願いします」
「では、材料の布を買いたいのですが……」
「無料で用意させて頂きます。防水布になって返ってくるのですから、防水布の引渡しの時、加工料はお支払いします。加工料は如何程でしょう?」
「お任せしますよ。加工の適正価格でお願いします」
俺がそう言うと、セルジュさんは軽く笑う。
「商人でしたら自分が有利な商売ではもっと吹っかけるものですよ。こちらとしては非常に助かりますが……話は変わりますが、どこで作業を行われますか? リョウマ様が製造者と知れると何かと妙な輩が来ないとも限りません。安全な作業場所に心当たりはございますか? 無ければこちらで用意させていただきますが」
「先日廃坑となった鉱山の中で作業を行いたいと思います」
「確かに人は寄り付きませんが、あそこで大丈夫ですか?」
「僕はあそこを彷徨いていても管理人という肩書きがありますから怪しまれませんし、土魔法で広い作業場を作れますから」
こうして話が纏まり布を受け取った俺は、店を出たその足を廃坑へ向けた。




