開店
本日、4話同時投稿。
この話は3話目です。
翌日
~Side 竜馬~
昨日の集まりのあと、明日からでも営業は始められます! というカルラさんとカルムさんの勢いに押されて今日から開店する事にしたため、早朝から店にやってきた。
現在、朝の5時。
「さすがにちょっと早すぎたか……」
うっかり前世基準で出社してしまったのがいけなかった。当分2人は来ないだろう。
しかたがないので、スライムと戯れて時間を潰す。
「「おはようございます、店長」」
「おはようございます、カルムさん、カルラさん。今日からよろしくお願いします」
2人が来てから簡単な確認をし、開店準備を整えた。と言ってもクリーナースライムを待機部屋に入れたり、つり銭と袋を用意しただけだ。
袋も今朝2人が注文しておいた物をもってきてくれたし、さっそく役立ってくれている。
「さて……では、行ってきます」
「「行ってらっしゃいませ」」
初日から人任せもどうかと思うが、チラシや広告による宣伝が出来ないので俺がギルドで仕事を受ける際に宣伝をする事にした。セルジュさんは本当に全てを任せられる人材を用意してくれたし……ぶっちゃけ俺要らなくない? まぁその為に人を雇うってのが目的なんだけども。
そんな事を考えつつ、ギルドに行く前にお隣に寄る。ポリーヌさんにも開店した事を伝えなければ。
「すみませーん、誰かいらっしゃいませんか?」
開店はしているようだが、誰も店内にいなかったので、声をかけると奥からポリーヌさんが出てきた。
「はいはい、あら! リョウマ君じゃないか。今日も種を買いに来たのかい?」
「いえ、今日から洗濯代行業者・バンブーフォレストが開店の運びとなりましたので、お伝えしようと」
「おやおや、もう開店かい? 早いねぇ」
「はい、皆さんのお陰です。この前、渡したひと袋はタダですので、是非一度ご利用下さい。メリーさんやキアラさんにもそうお伝えください。店員2人には話を通してありますから」
「アンタ、人を雇ったのかい?」
「知人の紹介で。冒険者の仕事をしている時は、完全に2人に任せることになりますね。あと、経営が軌道に乗るまでは冒険者業の稼ぎで給料を払わなければいけませんし」
最終的に働かせて頂けるなら給料は要りません!! とまで言っていたが、流石に申し訳ないからな……正直何故そこまでウチで働きたいかが分からん。多分ウチよりセルジュさんの所の方が能力活かせるし、給料多いと思うんだがなぁ……あるとしたら人脈?
ま、こっちは助かるから文句は無いけど。
「店の大きさを考えると必要なのかねぇ。ま、頑張んなよ。アタシも応援するし、今日早速利用してみるからさ」
「ありがとうございます。では、仕事に行ってきます」
挨拶をして店を出る。そしてギルドに行くと、すぐに声をかけられた。
「リョウマ、洗濯屋がもうすぐ開業だってな?」
「何時から?」
「早く開業してほしいな~」
廃坑の魔獣討伐からは乗合馬車で知り合った冒険者とも雑談をする事が少し増えてきた。彼らも洗濯屋の開業を待ってくれているようだ。
「洗濯代行業者・バンブーフォレスト、今日から開店ですよ」
「ホント!?」
「はい。冒険者の方には防具や武器を含めた全身洗浄サービスもありますから、どうぞご利用ください」
「おっしゃ! 今日の帰りに絶対行くぜ!」
こうして宣伝のために態と大きめの声で開業と店の場所を伝えてから、今日は薬草採取の依頼を受けた。廃坑の見回りついでに片付けてしまおう。
数時間後
店は任せるとは言ったものの、気になって手早く見回りを済ませて戻ってみた。
すると……開店初日なのに人が集まっている。
……え、外に20人以上人が居るぞ!?
慌てて店内に入ってみると、カルラさんが俺を迎えた。
「いらっしゃいま……店長!」
「カルラさん、この状況は?」
「嬉しい悲鳴です!」
「店長! ご近所の奥様方に洗濯を依頼しに来て頂けました!」
奥から洗濯物運びをしていたカルムさんも出てきて、そう言った。とにかくこの人数を捌かなきゃいかん!
「僕も手伝いに入ります、お2人は接客を、運ぶのは全て僕がやりますから!」
そう指示を出した後、俺は只管接客と洗濯物を運び続けた。
それを続けるものの、その間にも人が来る。どうなってんだ!?
結局人の波が途切れたのは昼の3時過ぎだった。数はまだ多いとは言えないが、1人1人にこの店の事を説明しなければいけないので時間がかかる。
どうやらこの店の値段設定は本当に安いらしく、本当にこの値段で洗濯を請け負うのか? 後から別途で大金を請求するんじゃないか? と聞かれる……なかなか納得しない人もいて大変だった。一時は大勢の人が集まっていた事で、警邏中の街の警備兵が何事かと訪ねてきたし。
だがここで思わぬ幸運に恵まれた。店を訪ねてきた警備兵から話を聞いた警備隊長が、警備隊の洗濯物を頼むと35人分のコースに申し込んで袋を2枚買っていったのだ。
なんでも去年まで警備隊の洗濯には人を雇っていたらしいが、役所の前任者が指示した経費削減で人を雇う事が出来なくなっていたらしい。給料が減らなかっただけマシだったと言いつつも少し役所への愚痴を零してから、とりあえず一度頼んで良かったらまた追加で頼むと言ってきた。早速の大口契約になるだろうか?
しかし……朝8時から開店だから……客一人につき平均3分位は費やしたよな? 何時から客が来たかわからないが、カルムさんとカルラさん、昼飯も食えず休めずに7時間ぶっ通しで仕事してたのか?
……これはヤバイんじゃないか? 俺はいいけど2人の体が……このままではこの店がブラック企業化してしまう! それは何としても避けたい!! 俺の前世にかけて!
「お疲れ様でした、カルムさん、カルラさん」
「お疲れ様でした、店長」
「凄い人でしたね」
「ええ、本当に……いきなりなんですが、人を増やした方が良いでしょうか?」
「そうですね。早めに増やした方がよろしいかと。交代で休憩を取るために4人から6人ほど必要でしょう。今日はお客様への説明が中心でしたが、今日のお客様の反応を見る限り、じきに作業のみでも人が足りなくなると思われます」
カルラさんが速やかに必要な人員の数を答えてくれる。
「お客様には洗濯の早さ・仕上がりにはとても満足して頂いたようなので、明日からも顧客は増えます。ギルドで募集をかければ直ぐにでも雇用できる人材を紹介して頂けるはずです」
「そうですか……人を雇う場合、お給料はいかほどでしょうか?」
「1日に120~150スートもあれば十分です。それだけあれば普通に生活していても貯蓄が可能です。初任給でこれは破格の条件ですので、すぐにでも人は集まるでしょう」
「今回のように緊急でなければもう少し時間をかけて、安い賃金で雇える人材を探す事も可能でしたが、今はすぐにでも働ける者を雇う事が先決だと思われます」
「では、さっそくギルドに行ってきます。早い方が良さそうですから」
「「お願いします」」
淀みなく出てくる2人の意見を信じ、俺は急いで店を出る。問題解決は可能な限り早いほうが良い。
しかし店を出たところで大きな袋を抱えたお隣の一家4人と遭遇した。
「おや、リョウマ君」
「ポリーヌさん、レニもリックも、ジークさんもお揃いで。その荷物は?」
「君の店で洗濯を依頼しようと思ってね。ウチは肉屋だから、血の汚れが染み付いた服がたくさんあるんだよ」
答えてくれたのはジークさん。彼はポリーヌさんの旦那さんで、職場は花屋の隣の肉屋。完成祝いの料理に使った肉はすべて、ジークさんの店で用意してもらった。
アニメとかで肉屋の主人というと筋骨隆々の大男のイメージがあるが、この人は真逆。背丈はそれなりにあるのだが、細い。非常に細い。風が吹いたら飛びそうな、不健康に見える男性だ。
「リョウマ君の店に出せば、血の汚れも綺麗にしてくれるって冒険者の人から聞いてね」
「買い換える予定だった服を出してみる事にしたのさ」
「ありがとうございます。つかぬことを伺いますが、従業員は雇っていますか?」
「僕を含めて10人だよ」
「それでしたら、7人以上で申し込めるコースがありますので、それをご利用ください。14人分の服が入る袋1袋で中銅貨1枚と小銅貨8枚になり、お安くなります」
「本当かい? そりゃ得だねぇ」
「それを頼もう」
セールストークをしていると、リックが割り込んでくる。
「リョウマは何してるんだ? 仕事サボってるのか?」
「ははは、そう見えても仕方がないですね。けどサボリではなくて、これから商業ギルドに行くんですよ」
「そうなの?」
そう聞いてきたのはレニだ。
「予想以上に繁盛して、もうこのままだと人手が足りなくなりそうなんですよ」
「嘘!? 開店初日でしょ!?」
「色々宣伝はしてたけど、まさかここまで人が来るとは思ってなくて。急遽人を雇いに行くんです」
「驚いたね、そんなに人が来たのかい?」
「ええ、朝から働いてくれていた2人は7時間休み無しでしたよ」
そんな話をしてから4人と別れ、商業ギルドを訪れる。すると一人でも応接室に通され、ギルドマスターがやって来た。
「よく来たね。でもアンタ、今日から開店のはずだろう? 何か問題でもあったのかい?」
「予想以上の大繁盛ですよ、おかげで初日から人手が足りなくなりそうになりました」
「初日でかい? そいつはアタシにも予想できなかったね……今日は人手の補充か。分かった、明日からすぐ働ける奴を集めるよ。その中でアンタが決めな」
言うや否やギルドマスターは部屋を出て、俺は応接室で待たされる。
そして人が集められたと連絡を受け、案内された先は会議室だった。
性別も種族もバラバラな老若男女がすでに30人ほど待機している。
ん?
「「……」」
妙な2人組がいる……彼らは一瞬こちらに視線を向けたが、すぐに前を向いた。俺と同じく値踏みをしたのか? 他にも一瞬俺に視線を向けて、興味を失ったように視線を外す人は大勢いるけど……
「さて、この連中は皆基礎の算術は修めてる。どいつでもすぐに店で使えるよ」
「分かりました。初めまして皆さん、私は洗濯代行業者・バンブーフォレストという店を経営しているリョウマ・タケバヤシと申します。本日はお忙しい中お集まり頂き、ありがとうございます」
その言葉に周囲にざわめきが起こる。ぼそぼそと聞こえてくる声によると、俺は雇用主ではなくその使いっぱしりか何かだと思われていたようだ。
さっきのは値踏みされたんじゃなかったのか。まぁ姿が11歳の子供だからなぁ……
俺の挨拶の直後、明らかにテンションの下がった人々を無視して質問する。
「えー、まず1つお聞きしますが、こちらに居られる方は皆、私の店で働く事に異存はありませんか?」
その問に、ポツポツと異を唱える声が上がる。主に若い者たちだ。
人手不足と言っても、外見11歳の俺が店主だというだけでやる気の無い人、嫌々働く人は要らない。この分だと給料の話は最後にした方が良さそうだ。高い給料だからと群がられても困る。数多いし、減らせそうなうちに減らそう。
不満げな人たちが出たので、そういう人達には私の店で働きたくない人には無理強いは致しません、と言って部屋を出て行ってもらう。
1人、2人、3人……あれっ?
出て行く人の流れが止まらない。こんなあっさり出て行くのか? もっとこう、面接中にここはちょっと……と感じても面接だけは最後まで受けていくとかないんだろうか? 出て行って良いとは言ったけど……
なんと全体の6分の5が出て行ってしまった。残ったのはたった5人。まぁ出て行った連中の不満も分からなくはないけどさ……残ってくれた人には礼を言っておこう。
「残って頂いた5人は、私の店で働く意志ありとしてお話しさせて頂きます。その前に、こんな若造の経営する店で働いても良いと言って下さった5名様には感謝を申し上げます」
俺はそう言って頭を下げ、それから話し出す。
「それでは本題に入らせて頂きます。私の店、バンブーフォレストでは現在、接客と荷運びの出来る人材を募集しております。荷運びと言っても、運ぶ物は衣服ですので女性でも問題はありません。ただし注意点として1点、店主である私は従魔術師でして、店内に従魔であるスライムが居ります。私は、スライムも人手として使っているのです」
その言葉に残った5人が驚く。従魔術師である事は普通に聞いていたが、スライムを人手にしているとは思わなかったらしい。
「よってスライムを恐れたり、嫌う方には我が店での仕事はやりにくい物となるでしょう。そこの所は、いかがですか?」
そう言うと1人の女性が手を上げる。
「何でしょうか?」
「そのスライムは、人手がないから使っているのですか? それとも人手があっても使うのですか?」
「人手があっても使います。こう言うと嫌がる方も居るかもしれませんが、スライムも皆様の同僚として扱って頂きたい」
そう言うと彼女とその他2人の男女がスライムと言っても魔獣と仕事をするのは……と断って出て行った。これで部屋に残ったのは中年の男性と若い女性の2人のみ。
面接ってこんな物だっけ? いや、俺のやり方が悪いのか?
単にすぐ働ける人を集めただけで、元々俺の店で働きたいって人のみが集められた訳じゃないとしても、流石に驚きだ……YesとNoがはっきりしていて分かりやすいといえば分かりやすいけど……残りの2人はどうだ?




