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店作り 4

本日、4話同時投稿。

この話は4話目です。


 11日目


 朝から買い物に奔走して大量の食材を購入し、今日のうちからできる料理の下ごしらえや用意に時間を使う。


 明日のメニューはサラダとミートソーススパゲッティーとステーキ。それにデザートはアップルパイ。


 何を出すかは迷ったが、この世界にもパスタやステーキはある。そういった無難な物にしておけば困らせる事は無いだろう。パーティー料理っぽくはないかもしれないが。


 パーティー向きの料理と言えば、俺の中ではピザなんだけど、まだこの世界では見たことがないのでやめた。



 そして飲み物は水とお酒に果物のジュースを2種類。


 お酒は祝いの席なので少々奮発して30人分で小金貨3枚の予算を店員に伝えて薦められた物を購入しただけだが、果物のジュースは自家製だ。


 そして料理には錬金術が思いのほか役に立った。例えばスパゲッティーの麺を打った後、錬金術で水分を分離すると即乾燥麺になる。これで明日は茹でるだけ。ジュースも果物を潰して果汁を分離すれば搾りかすが取り除かれ、100%果実ジュースになる。


 錬金術ってこんな使い方でいいんだろうか?



 あとは……ミートソースを作るのに前世は市販のコンソメとかを使っていたけど、それはここにはない。今日のうちに鳥と野菜のスープを作っておく事にした。これに明日、トマトと今日肉屋で買った肉をひき肉にして炒め、スープを加えて味を調(ととの)えればそれらしくできるだろう。


 できあがった物は木製で全面スティッキースライムの硬化液コーティングされた箱に、本来外からの冷気を防ぐ防寒結界を逆に、内から外に冷気を逃がさないように張った保冷庫に入れて保管。


 ちなみにこの保冷庫、鑑定を使うと保冷庫という一つの物の説明に、内部の○○が傷みかけている、など中身の種類や鮮度などの情報も一緒に確認できる優れ物だ。……保冷庫の効果と言うより鑑定魔法の小技と言ったほうが正しいか。









 料理が終わると夕方より少し早い微妙な時間だった。


 これからギルドに行くには遅いし、帰るにも早いかな……?


 そのままフラフラと街を歩いていると、教会が目に付く。


 そうだ、最近祈れてなかったし祈っていこう。

 

 思いつきで教会に足を向け、今日は10代と思われる少女に出迎えられた。


「ようこそいらっしゃいました。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「時間ができたので神様に祈りを捧げたいと思いまして」

「そうでしたか、ではこちらにどうぞ」


 案内されたのは祭壇の前に沢山の椅子が並ぶ広い部屋。ここで自由に祈ればいいらしい。少女はごゆっくりどうぞ、と一言言い残して部屋を出ていく。


 ごゆっくりと言われてもな……と考えつつ、手近な椅子に座って手を合わせ目を瞑る。


 それから数秒。


 体から何かが抜けていくような、しかし悪くない感覚に包まれる。


 目を開けると……そこは2度も見た真っ白な部屋だった。


「また来たのか……?」

「うん、来ちゃったね」


 後ろからのその声に、振り向くとそこにはクフォが居た。


「クフォ、また会ったな」

「久しぶり~って程でも無いね。前回から一ヶ月経ってないし」

「今日はガインとルルティアは居ないのか?」

「うん。ちょっと出かけてるよ」

「え、神様は出かけるのか?」

「滅多にあることじゃないけどね」

「へー、何処に行ってるんだ?」


 俺がそう言うとクフォはしまった! という顔をした。


「あ……えっと、実は君が元居た世界」

「地球に!? なんでまた? まさかまた人を呼ぶのか?」

「いやいや! そんなんじゃないよ、今回のは……」


 そこでクフォが言い淀む。


「今回のは? 言いにくいのなら無理には聞かないが……」

「う~ん…………竜馬君なら良いかな? 観光だよ」

「は?」


 観光?


「ルルティアは君の世界のスイーツ巡りをしてるし、ガインは日本のアイドルグループの曲とかにハマったみたいでさ」

「何だその理由!? 別にいいけどさ……そんな気軽に世界って行き来できるのか?」

「基本的に神は互いに互いの世界とは不干渉だよ。でも僕らと地球はずっと前から人と魔力をこっちに寄越して貰うって形で交流してるし……この世界って娯楽が少ないからね。ほら、ルルティアのスイーツ巡りだってこっちの世界では大した種類が無いし、君の世界の物に比べたら不味いし」

「まぁ、それはそうかもしれないな」

「僕もこの前地球の秘境巡りをしたよ。生命神として厳しい環境で生き抜く生物を見て回ったりね。アマゾンとか、サハラ砂漠とか、アトランティスとか、深海とか」

「1つおかしな場所が混じってるぞ!?」

「この事は他の人間には秘密だよ? 神の威厳が無くなるから」

「いや、スルーするなよ。大体言っても誰も信じないだろう……」

「それもそうだね」


 クフォは外見相応にケラケラ笑う。


 ……話のスケールが壮大じゃなかったら、神様なのを忘れそうだ。


「でも、ガインのはともかくルルティアのスイーツの方はもう少し広まってても良いんじゃないか? 転移者多いんだろ? この世界」

「それはそうなんだけど、料理のレシピとか広まりにくいんだよ。こっちの世界は地球みたいにネット? とかいう便利な物ないし、砂糖や香辛料も手軽には手に入らないんだから。香辛料をふんだんに使った料理なんて高級品だって知ってるでしょ?」

「ああ、確かに」

「王族とか貴族の贅沢品として幾つか伝わってるけど、庶民には材料から手が届かないよ。だから転移者がこっちの世界で故郷の料理を作ろうとしても作れる人が限られていて、後世に伝えられないか、伝えられても段々と失伝していくからね。例えば……君の最近出会った人にピオロ・サイオンジって人が居るでしょ?」

「居る。サイオンジって家名で思ってたが、やっぱり転移者の子孫か?」

「うん。転移者はお好み焼き屋の息子で、料理の専門学校に通ってた学生だったはずだよ。

 この世界でお好み焼きを作ろうとしたけど、ソースが作れない、具にする魚介類が手に入らないって事で、材料を掻き集めるために世界中を巡った人でね。その路銀や材料費を捻出するために道中行商と屋台で荒稼ぎしてたんだ。その結果、お好み焼きを作れて満足はしたけど普及は出来なかったんだ。

 そしてお好み焼きを作るまでの過程で得た人脈と食材の知識を利用して、食材を中心として取り扱う商会を立ち上げたんだ。それが現在のサイオンジ商会の成り立ちだね。

 逆に言えば彼が生きた時代では、世界を巡って商会を立ち上げられる位の事をしないとお好み焼きを完全に再現できない位材料が手に入りにくかったんだ。今ではサイオンジ商会やそのやり方を真似た他の商会もあるから、多少食品は手に入りやすくなってるけどね」


 そんな事があったのか……


「そういうのは食事に限らず他にも色々あるね。技術でも知識でも。そもそも転移者全員が彼みたいな情熱を持ってる人ばかりじゃないし、やる気はあっても実力や知識が足りなかったり運が悪くて失敗した人も多いよ。それに戦争や他の転移者が原因で失伝させられた技術もあるし」

「そう言われたらまぁ、納得できるな。しかし、他の転移者が原因で失伝させられるって何だ? もっと良い技術が持ち込まれたとかか?」

「……運が悪かったとしか言い様が無いんだけど、ずっと昔に医大生がこの世界に来て、医学知識や病気の知識を広めたんだよ。でも今、そんな知識殆ど無いでしょ?」

「ああ、そう言えばギルドマスターも疫病についての知識を持ってなかった」

「実は、君の前の前に来た女の子がね……聖女になりたいって言ったんだ」

「聖女? 教会とかで祭り上げられそうなアレか?」

「そうそう。神秘的な力を持って、人を癒して、って奴ね。そういう活動をしてチヤホヤされたがってたんだ。でも悪い子ではなかったよ。チヤホヤされたい! って気持ちもあったけど、人助けをしたいって思ってた事も事実だった。

 だからルルティアと僕とガインで加護をあげたんだ。死者の蘇生は出来ないけど、息があればどんな怪我でも病でも治す力と、彼女には毒も薬も効かず、病気にもならず、絶対に傷つけられない、何者にも縛られない守りの力を。それで彼女は生涯聖女としての活動を続けたんだけど……」

「だけど?」


 何があったんだ?


「彼女はどんな病気も治したけど、他の人達が出来たのは普通の回復魔法で、それで病気は治せなかった。当時のこの世界の医学でも治らない病気はあったから、そういう病気に罹った人は彼女に治療を受けられない限り、亡くなっていった。

 それを見て思ったんだね、自分の死後はそういう人が増えるって……その結果、彼女は人生の最後に自分の全てをかけて神の力を行使したんだ。この世界から、全ての病を消し去りたいって願って」

「世界から全ての病を消す!? そんな事出来るのか?」

「普通は出来ないよ。でも、彼女は僕達が直々に力を与えた転移者だったから。それに彼女はそれまでの実績で多くの人から信仰を集めてたから、その多くの人の願いも彼女に与えた力を増幅させる後押しになった。早い話が裏技(・・)を使えたのさ。

 それに彼女自身も文字通り全てをかけたからね。力を使った直後、彼女は亡くなったし、その魂も消滅したよ。普通は輪廻転生するはずだけど、その力まで使い果たして力を行使した結果、消滅したんだ」

「なんか、すごい人だな……」

「聖女に憧れて活動を始めたら困ったりもしたけど、使命感とか色々あって最後には名実共に本物の聖女になってたんだよね、あの子。

 信仰をエネルギーに変えるなんて僕達にとっては当たり前なんだけど……それを彼女がやった結果、完全にとは言わないけど大体400年近く世界中で病気に罹る人が激減してさ。怪我はあったから回復魔法は残ったけど、病気の知識や治すための薬の知識が一部失伝して、そのまま今に至るという訳。

 現代では彼女の力の効果がなくなったけど、一度失伝した知識は戻らないからね」

「なるほどなぁ……」


 でも、1人の人間がそんな事出来るのかは信じがたい。チートの力だとしても……


「あ、魂の消滅さえ覚悟すれば、彼女程じゃないけどリョウマ君にもできると思うよ。同じ事」

「マジか!?」

「人間の魂と神の力を合わせると、結構な力が生み出せるんだよ。そのおかげで僕らも君みたいな人の魂を使って、別の世界からこの世界に魔力を持って来るなんて事が出来る訳だし。

 まぁ同じ事をやろうとした場合、今のリョウマ君だと病を消せるのはできて数年位だろうけどね。彼女の場合は周りからの信仰があったし、癒す事に特化してたから400年も保ったけど、君の場合は信仰無しの上に特化とは正反対の万能型だから。

 その分成長に制限がほぼ無いし、成長速度も速いから時間をかければ単なるチートより強い力を得る可能性もある。何より僕達が見ていて面白いから良いんだけど」

「結局そこに行き着くのか?」

「だって神界って基本的に何も無くて退屈だからね~」


 クフォがそう言った時、周囲が光りだす。こりゃあれだな。


「時間切れか」

「え、もう? ……そっか! ガインとルルティアが居ないから、僕だけの力じゃ留められる時間がそれだけ短くなったんだ! リョウマ君!」

「何だ? そんなに慌てて……」


「僕、君にちょっと言いたい事があって呼び出したんだよ! 関係ない話をして時間潰しちゃったから、用件だけ言うね! 言い忘れてたけど君、若返った肉体に精神が影響を受けて微妙に幼児退行してるから! これ他の転移者も同じだよ!

 君は地球で30年以上生きて死んだ竹林竜馬であり、この世界に生きている11歳のリョウマ・タケバヤシでもある! 自分を抑えられなかったりポーカーフェイスが出来なかったりするのは、そのせいでもあるから! 修行や自分を鍛え直すのは良いけど、無理はしないようにね!」


 クフォが慌てた様子でそう言った直後、俺の視界は光で満たされ、元居た部屋に戻ってきた。


 どういう事だ? 俺の精神が肉体の影響を受けてる? 良く分からないが……結構重要なことじゃないか?


 幼児退行は何となくわかる気もする……前世の会社に勤めていた頃は、何を考えてるのか分からないと言われる程のポーカーフェイスだった筈。しかし今では良く考えが顔に出ると言われている。俺も子供の頃はよくそう言われていた……まぁ、だからといってやる事は変わらんが、せっかくクフォが態々教えてくれたんだ、気には留めておこう。


 一度クフォに心の中で礼を言い、少し喜捨をしてから教会を出た。


 少し暗くなり始めていたので、今日はこれで宿に戻った。


 さあ、明日は皆さんが店に来る! 今日は早めに休んで、頑張ろう。

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― 新着の感想 ―
全ての病気を消し去る事普通できないから凄いって思う
[一言] あるんだ、アトランティス(笑)。
[一言] >錬金術ってこんな使い方でいいんだろうか? まあ、錬金釜で調味料作る鑑定士もいることですし。
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