店作り 2
本日、4話同時投稿。
この話は2話目です。
店建築3日目
昨夜宿で考えた結果、俺の建築スキルでは地下1階、地上2階までの建物が限界だと感じた。よって店は建築スキルの実験を兼ねて限界まで、地下1階と地上2階の建物とする。
ただし土地全体を店にすると大きすぎるので半分を店舗、4分の1を従業員用の寮、そして残りの4分の1を裏庭とする。
店舗建設予定地でクリエイト・ブロックを使い、地下室掘りと石材作りを同時進行。できた石材はスライムに運搬と保管を任せる。
その作業でできた大穴を建築スキルの知識を応用して作った土魔法、『ペイブメント』で舗装・補強し、地面を頑丈な土台に変える。地面を押し固めて罅も空洞も無い平らな一枚岩に作り変える感じだ。これにより地球で言う基礎工事の割栗石・捨てコン・ベースコンクリートが一気に終わった。
日本だと捨てコンとベースコンクリートの間に配筋という作業があったが、この世界の建築知識には無かった。良いのだろうか? 耐震性が心配だ。
地球の建築の知識はバイトの時のままで曖昧だし、こっちの世界の知識には無い。とりあえずこの世界の建築方法では基礎工事の全てが終わっている……中途半端で逆に何か問題が起こっても困るし、とりあえず良しとしよう。
スティッキーの硬化液をセメント替わりにして先程作った石材を組み上げ、固めて更に補強。この作業は魔法が不要なのでスライムにも手伝いを頼んでどんどん進め、さらに魔法で石柱を設置。地下室とその壁、1階の床を作り上げ、店舗の外壁になる部分を作る。
本当に魔法は便利だ。ここまで木材を、そしてお金を1スートも使ってない。石の箱の中に石の柱と壁を設置して補強しているような単純な作りだけど、強度が十分なのは分かる。
あまりに順調すぎて一瞬、学生時代に教科書で見た古代の神殿の柱みたいにしてみようかと遊び心が出てきたが、止める。店の地下室をそんな豪華にしても仕方がない。
魔力もだいぶ使ってるし、今日は作業もここまでにするか……
店建築4日目
1階の床の上に、硬化液と石材で壁と部屋の仕切りを作る。その後2階も作っていく。今日はこれだけで1日を費やした。
店建築5日目
天井を作り、内装を整える。廃坑付近に生える木を切り倒し、木工スキルの知識に従って魔法で加工を試みた。
錬金術で木の水分を少しずつ抜き、風魔法のウインドカッターを応用して地球の木材加工用の丸鋸をイメージした新魔法『サークルソー』を開発。板に出来たものを更に、風魔法と土魔法を合わせて作った魔法、『ポリッシュホイール』で研磨して表面を綺麗にする。
ポリッシュホイールはブレイクロックで砂を作り、風魔法のサークルソーの周りに纏わせてタイヤのように回転するイメージ。物を切るのではなく、高速回転する風の中の砂で物体の表面を研磨する魔法だ。
錬金術で乾燥させた木は、水分を取り除けるのは良いが一気に水分を抜くから反り返りや割れが出来る物も多い。まぁ柱にする訳ではないので良いだろう。
板や木材には加工出来たが、木材作りで一日を終えてしまった……
店建築6日目
昨日の木材で棚やカウンターを作る。その後粘着液をニス替わりにしてコーティングした後に乾燥させ、更に壁や床にも粘着液で板を貼っていく。
石造りの建物は店としては内装の雰囲気が重苦しく感じたからだ。
土魔法も使って調整することで内装を木造風に変更したが、ここでクリーナースライムが妙な動きをしているのに気がついた。
作業で出た木屑やゴミを食べてる? 汚れは食べるが、ゴミは今まで自発的に食べたりしなかったのにな……スカベンジャーならやってたけど……ん? 食べてるんじゃない、集めて、吐き出して一箇所に……掃除か!?
急いでクリーナースライムを魔獣鑑定してみると、スキルに清掃作業Lv1というスキルが増えていた。こんなスキルあるのかよ、というか、スライムが覚えるスキルか? …………今更か。そう言えば棒術とか覚えてるやつ居るしな。
気になって他のスライムも調べたら、アシッドスライムが木工Lv1を覚えてた。確かに手伝わせたけど……取り壊した建物の木材を消化させて処理して貰ったり、ちょっと道具与えて木材削らせたり、木材溶かさせて簡単な加工はさせてたけど……この世界のスキルってこんなもんで得られるの?
まぁ、作業が捗る分には困らないか。
その後、足りなくなった板は俺が切り出した後大きさと形を整えるのはアシッドスライムに任せることによりまた作業速度が上がる。出来上がった木材を見た感じ、アシッドスライムは意外といい仕事ができるみたいだ。
店建築7日目
お客から見える部分の内装は整った。残るは外装。単に土を固めたブロックの色でも業務に支障は無いが、ちょっと手を加えたい。洗濯屋、つまりクリーニング店……イメージ的には白いイメージ。外壁をできれば白く、少なくとも土色より清潔感のある色にしたい。
こればかりは土魔法ではどうしようもないので、セルジュさんの所に行って聞いてみることにした。
「壁の色を白く、ですか……」
「出来ませんか?」
「可能です、しかし、商売を行う店舗にはあまり使われませんな。大抵貴族の館の壁に使われますが、白い石材は少々高く汚れも目立ちます」
「それは確かに…しかし、洗濯屋としては今の外壁の色はどうかと思うんです。土の色の外壁より、白い外壁の方が清潔に見えるでしょう?」
「そうですな。その点は非常に納得できます。しかし在庫もそれほど多くはないのです」
「そうですか……」
というかそもそも建築の事なら普通大工か工務店に行くものだよな? いまさらだけど。
むしろどうして少しでも在庫があるんだろう?
「我がモーガン商会の強みは品揃えにありますからな。在庫がなくとも、時間を頂ければ大抵の品は手に入れられますぞ」
と言うことは取り寄せることはできるのか。でも土地を買うのにだいぶお金を使ってしまったし…………そう言えばこの街は鉄鉱山のある鉱山街だよな?
「セルジュさん、この街は製鉄所もありますよね?」
「ございますが、それがどうかなさいましたか?」
「製鉄所があるという事は、製鉄に石灰を使ってませんか?」
「よくご存知で。確かに石灰は使われています」
「その石灰を手に入れる事は出来ますか? できれば安く」
「可能です。私共の店でも取り扱っていますし、元々さほど高い物ではございません」
「良かった。でしたら石灰を固めて白い石材にできるかもしれません」
石灰なら日本でも漆喰の材料として使われていたから建材としても、色も問題ないはずだ。生憎漆喰の作り方は知識に無いが、魔法でブロック化出来ればいい。上からスティッキースライムの粘着液を塗れば、雨や汚れも落ち易くなるだろう。
セルジュさんにもその発想は無かったらしく、早速用意してくれたのは生石灰。水と錬金術を使う事により消石灰に変化させ、一塊にする事で石材が精製できた。
しかし、セルジュさんが安価で白い石材という点に若干の興味を示していたので、石灰の大袋を大量に買い込んでさっさとお暇する。いい人なんだけど、今は店作りに集中したいんだ。
そうして店に帰り、黙々と大量生産した石材をこれまた黙々と外壁に貼り付け、日が沈み始める前に白い石材で壁を覆い、隙間も魔法と石灰で固めた後でスティッキースライムを総動員。粘着液でコーティングされた白い外壁が完成した。
石灰が結構余ってしまったが、とりあえずディメンションホームの中にとっておく。
「大分形になってきたな」
突貫工事で建物は概ねできてきた。しかし、店が白いと今度は店の周りが淋しくなってくる。
むき出しの土じゃなくて芝生か花でも植えたいが…………
…………そういえばお隣さんが花屋だった。種か何かも売ってるかも。
善は急げで行ってみる。すると店の前に立った瞬間声をかけられた。
「いらっしゃいませー! あ、リョウマ君!」
「こんにちは、……レニさん」
一瞬名前が思い出せなかった。
「さんは要らないよー。アタシの方が年下だし、レニでいいよ。で、何か用?」
「じゃあレニ、花か芝生の種を買いたいんです」
「種? 何種類かあるよ。ちょっと待ってね。おかーさーん!」
レニが店内に向けて大声を出すと、カウンターで2人の女性と話をしていたポリーヌさんが返事をする。
「何だい大声で、はしたないよ」
「お母さんがおしゃべりに夢中だったからでしょ! それよりお客さんだよ!」
「おや、リョウマ君じゃないか。何か買いに来たのかい?」
「あら、この子がリョウマ君?」
「こんなに小さいのに凄いのね」
なんか、ポリーヌさんと井戸端会議をしていた2人の女性までやってきた。とりあえず挨拶しとこう。
「初めまして、リョウマ・タケバヤシです」
「あら、本当に礼儀正しいわね。うちの子にも見習わせたいわ。私はキアラよ、よろしくね」
「メリーよ、よろしくね。噂は聞いてるわよ」
「噂?」
噂って何の事だ?
「アンタ、ここのところずっとウチの隣で店作ってるだろ? 思ってたよりかなり立派だからさ、アンタが凄腕の魔法使いだって噂になってるんだよ」
「凄腕ではないですよ。生活に使える魔法ばかり使ってきたので、こういう仕事が得意なだけです」
「あんだけ頑丈そうな建物を建てられりゃ十分凄腕さ。それに大量のスライムを飼ってるって噂もあるね」
「それは事実です」
「知ってるよ、あたし達はこの目で見たからね」
「すごい数のスライムが、リョウマ君が作った石を運んでる所とかね」
「あれを見てたんですか」
「スライムがあんな動きをする所を初めて見たわ。ついつい見入ちゃった」
「ギムルじゃ従魔術師も珍しくはないけど、いかつくて怖い魔獣ばっかりだからねぇ。おっと、買い物だったね。何が欲しいんだい?」
「花と芝生の種が欲しいんです、ありますか?」
「あるよ。花の種は種類によって値段が変わるけど、芝生は1袋130スートだ。どれくらい必要なんだい?」
「今建ててる店の周りの土を覆うくらいの芝生が欲しいですから……」
どれくらい必要か考えてみると、そんな俺を見てポリーヌさんが手助けを申し出てくれた。
「ちょっと店を見せてくれるかい? アドバイスするよ」
「よろしくお願いします」
俺はそう言ってポリーヌさんを案内すると、後ろにレニやキアラさんとメリーさんも続いている。全員来るのか。
4人は俺の店を見て立ち止まり、店をしげしげと眺めている。
「どうかしました?」
「ちょっと驚いちまったよ。この店、今朝までこんな色じゃなかったろ?」
「さっき塗り替えたばかりなんですよ。洗濯屋をやるのに土の色の店ではイマイチ清潔感が無いと思いまして。石灰を買ってきて魔法とスライムでちょちょいと」
「はぁ~、アンタほんとに仕事が速いんだね」
「確かにこの方が綺麗ね」
「洗濯屋だったかしら? うちも一度頼んでみようかな? 洗濯の時間が節約できれば家事に余裕ができるし」
「是非、お試し下さい。せっかく知り合えた事ですし、初回1袋分だけ無料で洗濯させて頂きますよ」
俺は2人にアイテムボックスから出した袋を1枚ずつ配る。こういう機会に顧客を獲得しておかないとな!
その後ポリーヌさんに見立てて貰い、芝生の種15袋と4種類の花の種を2袋ずつ購入。種まきは明日から行うことにする。
そう言えば、ギルドの掲示板に広告を出せるって誰かから聞いたっけ……?
スカベンジャーに肥料を作って貰うためにも、明日はギルドに行こう。
そうと決まれば、帰って広告の内容を考えないとな。




