店作り 1
本日、4話同時投稿。
この話は1話目です。
魔獣討伐5日目 店建築1日目
「リョウマ、助けて欲しいにゃ……」
仕事が昼休みに入り、食事をもらって休憩しているとミーヤさんたちがやってきた。その後ろからジェフさんとアサギさんとレイピンさん、皆一様に返り血まみれでどうしたんだろう……
「この血を落としてくれないか? 臭くてたまらないよ」
「ゴブリンですか? また派手にやりましたね」
そう言いつつクリーナースライムに命令して7人の体を綺麗にする。
「あ~やっと綺麗になった……リョウマ君のクリーナースライムってホント便利よね」
「助かったでござる。先程までのなりでは、昼飯を貰いに行きづらいでござるからな」
「まったく、ジェフは仕事が雑なのである」
「もう謝っただろ……」
7人が昼食を貰ってくるのを待って食べながら話を聞くと、彼らは新しく見つかったゴブリンの巣を潰してきたそうだ。この前のゴブリンの生き残りらしく、巣の規模は7人と他数名の少人数で問題なく潰せる大きさだったが、問題は討伐の後。死体の処理の段階でジェフさんが自分の槍で死体を刺し、引っ掛けてぶん投げるという豪快な方法で一箇所に集めていた時だ。
「早く片付いたのはいいが、積み上がったゴブリンの死体が不安定でな。ここに戻ろうと話していた所で崩れてきたのでござるよ」
転がり落ちてくる死体は躱せても死体から噴き出る血しぶきまでは躱せず、レイピンさんに至っては死体の直撃をくらったらしい。
「大変でしたねぇ……」
「まったくだよ。リョウマがいなきゃ体が臭いまま飯を食って午後の仕事をしなくちゃいけない所さ」
「ゴブリンの汚れをこんなに手軽に落とせるなんて、本当にすごいですよ」
「ありがとうございます」
そこで俺は7人に洗濯屋の事を話していないのを思い出した。
「そう言えば、3日前話した洗濯屋の事覚えてますか?」
「覚えてるぜ、それがどうかしたか?」
「あれ、今度から始めてみる事にしました」
「おっ、マジか? 何時からだ?」
「まだ店舗の用意などが出来ていませんので少し先になりますね。値段はこの前話していたのと同じ中銅貨1枚です」
「店舗、という事は店を構えるのであるか?」
「知り合いの商人の方と相談をして、そういう事になりました。もう商業ギルドへの登録も済ませましたし、ちょうど昔倒した盗賊の賞金があったので土地も買ってあります。店員はギルドで雇うか、相談した商人の方が協力して下さるそうなので冒険者業も続けますよ」
「なるほど。その歳で店を構えるとは驚きであるが、考えてみると当然であるな。我輩はもちろんの事、リョウマのスライムの能力を知っている冒険者はまず利用するである。更に珍しい商売で噂が広まる可能性は高い。繁盛すれば一人で行うのは難しいであろう」
「できない事は無いかもしれませんが、それでは冒険者業をする時間は取れなくなりますよね」
「はい。予想以上の大事になって驚いていますが、冒険者としての仕事も続けられるので良いかと。開店前にはお知らせしますので、是非ご利用ください。集団で申し込むと値段がお得になる割引サービスもございます」
「お、そうなのか? なら誰か誘ってみるか…」
「リョウマ君がもう商人みたいににゃってるにゃ」
「元から丁寧な喋りをしていた故、違和感がまったく無いでござるな」
そんな話をしながら食事をすませ、今日も午後の仕事に励んだ。
「こちらがリョウマ様の土地になります」
「本当に広いですね」
仕事を終えたその足でセルジュさんを訪ね、購入した土地を確認にきた。
目の前には2階建てで崩れ放題な建物と、少年野球の練習場より少し小さい位の空き地があった。20m×100m位か? 広さだけならばセルジュさんの店より大きいだろう。
地図で見た時はもっと狭いと思ってたんだが……
「この場所にあった酒場は宿屋も兼ねていましたからね。客室や倉庫などがあったのです」
「なるほど………ここを本当に好きにして良いんですか?」
「はい。敷地内でしたらどうぞご自由に。今日から作業を始められますか?」
「そうですね。今日は雑草刈りと建物の取り壊しを少ししたいと思います」
スカベンジャーをディメンションホームから出し、建物から離れた場所にある草を食べるように指示を出す。あとは任せておけば雑草刈りは進むだろう。
徐々に倒れて飲み込まれる雑草のしげみを横目に確認して、俺は建物に張った防音結界で騒音を出さないよう、上の階から少しずつ天井の板を崩した。音と安全に気を配れば、近隣住民に迷惑をかける事はない。
力技でガンガン作業を進めて天井を全て破壊したら、横の石壁を『ブレイクロック』で土に変える。天井の破片、家具の残骸、元は壁だった土など、それらを安全確認の後、豪快に外へ押し出せば内部は片付いた。
残る骨組みや柱は『ウインドカッター』で少しずつ解体。
俺の建築知識はほとんどバイトで言われた事に従う単純作業とそれに伴っての聞きかじりだけ……のはずが、この世界に来た際にレベル相応の知識が与えられていたようで、今では単純な作りの建物なら頑張れば設計もできる。解体もどこをどう壊せば建物が崩れるかが分かるので非常に楽だ
建築スキル凄い。魔法、超便利。
1時間程で敷地半分の雑草刈りと建物半分の解体が終わり、夜遅くなるので帰る事にする。
ちなみにこの作業中。セルジュさんはずっと様子を見ていて、スライムによる人手と俺の膨大な魔力によるゴリ押し、それによる作業速度に驚いていた。
魔獣討伐6日目 店建築2日目
鉱山の魔物討伐は今日で終わり。色々とハプニングもあったが、これでこの依頼も達成だとギルドマスターから参加者全員に言葉がかけられる。
しかし今後は俺が管理する事になるんだ。忙しくてもしっかりやらないといけない。少なくとも向こうに住むまでは週に1回は見回ろう。
と考えていると、ギルドマスターに呼び出された。
「リョウマ、ちょっと来てくれ」
「はい」
「まず今日までお疲れさん。今日の分の魔物の死体はいつもの所だ。それからこの依頼の達成を以て、お前さんは正式にEランクに昇格だ。で……公爵家の執事から聞いたが、この廃坑の管理、お前さんがやるんだよな?」
「はい、そうです」
「お前さんなら大丈夫だと思うが、気をつけろよ。手が足りなければ何時でも言え、その報告もお前さんの仕事だからな」
「了解です」
「しかし公爵家の援助を断って自立とは、お前さんもよく決断したもんだ」
「少々甘え過ぎていた事に気づきましたので、気を引き締めたいと思いまして」
「ガキなんだから無理はすんなよ。で、こっちが本題なんだが……その自立のためにクリーナースライムで洗濯の仕事もするとか聞いたがマジなのか?」
「本当ですけど、もうご存知だったんですか?」
「この依頼を受けた冒険者の間じゃかなり有名な噂になってるぜ? 連中は店が開くのを待ってるみたいだ。大方汚れっぱなしでほっぽり出してる服やらなんやらがあるんだろうよ」
「それは嬉しいですね。店の建造を急ぎますから、もうしばらくお待ち下さい」
「おう。もう一つ聞きたいんだが、俺も洗濯屋は利用できるんだよな? 値段は?」
「勿論。どなたでもご利用になれますよ。値段は専用の袋1つにつき中銅貨1枚となっております。また、集団向けのコースが2つあり、そちらに申し込まれると割引が効きますよ」
「ほー、なら職員集めて申込みてぇ奴居ないか聞いてみるわ。……ぶっちゃけ、どのぐらい得になるんだ?」
「個人向けと一番大きい集団向けのコースを1週間分の支払いで比べますと、一人当たりの支払額が単純計算で2割減りますね」
「そんなに安くなんのか?」
「元々冒険者としての仕事の合間に最低限の生活費が稼げればいいと思って考えた仕事ですから、お安く請負うつもりです。割引は初回限定等ではなく、申し込んだコースによって毎回その割引がされますから、ギルドで申し込みをされると得ですね」
「なら、尚更声かけてみねぇとな」
「よろしくご検討下さい」
その後、話が終わってから俺は街に帰り、建物の解体作業に勤しんだ。
廃坑の仕事が昼前に終わったため、建物の解体と雑草刈りが全て終わってなお時間が残っている。土地の整備はまだこれでいい、後はどんな建物にするか……
ここで何気なく敷地前の道に目を向けると、子供たちが数人遠巻きに俺を見ていたのに気づく。
「何か用ですか?」
怖がらせないように声をかけると、子供の集団の中で一際幼い少年が答えた。
「お前、見ない顔だな? 誰だ!」
「こらリック! 失礼でしょ!」
その喧嘩腰の言葉に、隣に立っていた少女が幼い少年を叱り、代わりに一番の年長と思われる少年が頭を下げる。
「いきなりごめんね、リックはちょっとやんちゃでさ。それに、仕事の邪魔しちゃってごめんなさい」
「いえいえ、作業に夢中で気づきませんでしたから。それにちょうど終わった所ですし、問題ありませんよ」
俺はそんな事より、この子達の年齢が気になる。
子供だよな? またあの六人組みたいに一番小さいのが年長だったりしないよな?
「そう? ありがとう。君、凄いね。僕とそんなに年が違うように見えないのに、あんなに魔法使えるなんて」
「お兄ちゃん、魔法使い?」
「冒険者?」
周りの子達から矢継ぎ早に質問が来る。無邪気かつ遠慮のない追求に少々押されつつも返答しようとすると、その前に女性の声が飛んできた。
「ちょっと落ち着きな! そんなに一気に聞いてもその子が答えられないだろ!」
声のした方を振り向くと、恰幅のいい女性が立っている。
「悪いね、うちの子達と近所の子が迷惑かけて」
「迷惑なんてとんでもないです。あと、ありがとうございました」
「へぇ、その年で礼儀正しいね。うちの息子にも見習ってほしいよ。アンタ、冒険者なのかい?」
「はい、先日登録したばかりですが」
「そうかい、頑張んなよ。今日は何か依頼を受けたのかい? 長い事あった空き地が綺麗になってるけど」
「いえ、今度ここで洗濯屋を開くので整備をしに。……あ、申し遅れました、僕はリョウマ・タケバヤシといいます」
「アタシはポリーヌ。このやんちゃなのが息子のリックで、こっちのおてんばが娘のレニだよ」
「俺はリックだ、子分にしてやってもいいぞ!」
「何馬鹿な事言ってるの! ゴメンね。私はレニ、よろしくね」
「僕はトールだよ、よろしく」
「よろしくお願いします、リョウマ・タケバヤシです。皆さんこの近所にお住まいですか?」
「ああ、あたし達もこの子達も、全員そこの住宅街に住んでるよ。それにあたしはここの隣で花屋をやってるんだ」
「そうでしたか、ではお隣さんになりますね。これからよろしくお願いします。後日また挨拶に伺いますので」
「いいよいいよ気にしなくて。それより洗濯屋って言ったね? お金を払えば洗濯してくれる店なのかい?」
「はい」
俺はアイテムボックスから個人向けの袋をひとつ取り出し、簡潔に説明する
「これが家庭用の袋で、これ1袋に入る服は中銅貨1枚で洗濯させていただきます」
そう言うとポリーヌさんは興味を持ってくれたようだ。
「これ1袋で中銅貨1枚かい? 思ったよりだいぶ安いね」
「よろしければ、洗濯屋がオープンした際には一度無料で請負いますよ。お隣さんですし」
「本当かい? じゃあ、一度頼んでみるよ。」
それからこの辺の話をすこし聞かせてもらい、お礼を言って今日は帰る事にした。




