事情聴取
本日6話同時更新。
この話は4話目です。
そうか、F・Gランク冒険者と合同だから彼らもいるんだ。
「はい! 昨日はお世話になりました!」
『お世話になりました!』
最初に話しかけてきた女子に続いて全員が唱和し、頭を下げたので周りが何事かとこちらを見ている。こっち見るな、と言っても無理か。俺の周りには作業の補助をした無数のスライム達が集まり待機場所の一角を占領しているため、居るだけでも結構目立っているのだから。
「えっと、これはどういう……」
理由に予想はつくけど、昨日と随分態度が違う。
「助けてもらったことのお礼と、昨日の態度の謝罪をしたくて」
「それはわざわざどうも、そちらも無事でよかった。僕は人族のリョウマ・タケバヤシといいます。こっちは見ての通り、従魔のスライム達」
これで彼らと顔を合わせるのは三回目だけど、俺は彼らの名前すら知らない。お礼を言いにきたようだから、と俺が名乗ると向こうも緊張しつつ名乗り返してくれた。
ここで驚いたことに彼らは
男子が
小猿人族のベック、13歳。
犬人族のルース、12歳。
大猿人族のウィスト11歳。
女子が
ハーフエルフのマルタ、12歳。
ハーフドワーフのフィニア、12歳。
犬人族のルーミル、12歳。
獣人族2人と人族4人だと思っていたが、違ったようだ。
ハーフの2人は外見まるっきり人族だし、大猿人族と小猿人族とか紛らわしいわ!
ちなみに小猿人族のベックはあのよく喋る一番背の低い奴。残念ながら身長と乱暴な口調で生意気盛りの子供にしか見えなかったけど、本人は年長者なので率先して矢面に立とうとしていたらしい。
それから大猿人族のウィストは一番年下なのに体が一番でかい。俺は彼が一番年上だと思っていた。
「し、身長は、種族的な問題だって、大人が言ってたよ……」
しかもこの子、気弱を絵に描いたような性格をしている。昨日壁のように立っていた時と印象が少し違ったので聞いてみると、冒険者としての仕事中、特に昨日は舐められないように気力を振り絞っていたらしい。無言でしっかり立っていれば年の割りに威圧感はあるかもしれない。
大猿人族と小猿人族。聞いてから改めて見ると、どことなくゴリラとキンシコウみたいな雰囲気がするな……髪の色がとくにそんな感じだ。失礼なので口には出さないが、気づくとそうとしか見えなくなってきた。
とりあえずそれは置いておくとして……
彼らは全員そろってまだ子供だが、それぞれの種族の特性上身体能力や魔力に秀でている。
ルースとルーミルは犬人族の特徴である鋭い嗅覚とバランスの良い身体能力を持っていて、ハーフエルフのマルタは魔法が得意だと言う。小猿人族のベックは身軽でそこらの木に苦もなく登り、大猿人族のウィストとハーフドワーフのフィニアは子供にしては驚きの力で俺の手を握って実際にみせてくれた。
種族の特徴をこうして比べると面白い。けど……
「凄いな、身体能力に優れているのがよくわかった」
「凄くない、です」
「ぼ、僕、同じくらいの子に初めて力で負けたよ兄さん」
「見たよ……二人は負けたけど、“力だけ”なら大人の冒険者とそう変わらないくらいある。俺達はそういう長所を活かして稼ぐために冒険者になったんだ。けど大人より動けても、稼ぎは大人の方が多くて、だから俺達より若そうなリョウマは俺達より、って思ってあんな事言っちまった。本当にすまねぇ」
身体能力が高ければ当然有利だが、それだけで仕事ができるとは限らない。一度の狩りでも狙う獲物の見付け方、狙うポイント、方法の選択など、色々とやらなければならない事がある。だけど彼らはそういう技術がまだ身についていない。経験不足なんだ。
「バカにされた事は前も言ったけど気にしてません。けどいくつか気になることがある」
「何でも聞いてくれ。もう隠すような事ねぇし」
なら遠慮なく聞かせてもらおう。
「僕はスライムに餌をやっていて、たまたま転げ落ちたメタルスライムを拾いに行ったから、あそこの騒ぎに気づけた。けど君達は何であんな所に?」
男達に連れ込まれたんだろうけど、あの時はまだ昼食の時間だった。広場に居れば助けを求められそうなものだと考えていると、彼らの表情が曇る。
「リョウマの班から譲って貰った魔獣の死体が一度じゃ運びきれなかったんだ」
「袋が足りなかった、です」
ベックの説明にフィニアが付け足した。言われてみれば、彼らだけで運び出すには少々多かったかもしれない。アイテムボックスはたぶん使えないんだろうし。
「アレを取りに行って絡まれたのか」
「それが無くてもいつか絡まれたと思うけどね。あいつらに絡まれたのって昨日が二度目だし」
ルーミルの言葉に詳しい説明を求めると、6人は少し悔しそうな顔をした。
「先週皆で薬草採取の依頼を受けて北の森に入ったんだけど、あの人たちも5人そこで仕事をしていて、私達が近付いたから獲物が逃げたって怒鳴りかけてきたから。たぶん、その時に目をつけられたんだと思う」
「大丈夫だったんですか?」
「その時は俺達もヘマやってたし、喧嘩になるのは避けたかった。それに昨日みたいな無茶な要求じゃなかったから金を払ったんだ。あのサッチって奴が偶然通りかかって、罠に使った餌が無駄になったらこのくらいの損だとか、依頼の違約金はだいたいこの位のはずだとか色々教えてくれてさ……あいつらの仲間だったなんて知らなかった。今考えると最初から打ち合わせてたんだろうな」
仲裁するふりをして、金を巻き上げたってところか。
「でも、あんな大人数で分けたら一人に入る額なんてすずめの涙だろうに……」
「昨日は私達の少ない稼ぎでも、一晩の酒代にはなるって言ってた……です」
小金で構わなかったのか、それとも他の人からも集めていたのか? まぁあいつらの事はギルドが調べるだろう。それよりも
「じゃ次の質問ですが……これまで聞いていると君達は狩りも多少はできるみたいですね」
少なくともケイブバットやスモールラットくらいなら倒せると見た。そう言うと、6人は俺の言葉を肯定する。
「だったら何で、人の獲物を盗むような真似を?」
「……その方が多く稼げると思ったからさ」
「私達も最初は普通に討伐をしていました。けど時間がかかるんです。そのうち大人の冒険者がしとめた獲物をめんどくさい、って捨てていくのを見て……本当にごめんなさい」
マルタがまた頭を下げるが、俺は聞きたいのはそう言うことじゃない。
「聞き方が悪かった。どうしてそんなにお金が必要なのかを聞きたいんです。生活の苦しさに耐えかねたのか、他に理由があったのか」
「生活も苦しかったけど、住民税を払うためだよ」
ルースの口から意外な言葉が出た。
「住民税。一応聞くけど住んでる街に払う税ですよね?」
「それ以外に何があるんだよ、街に住むなら納めなきゃいけないだろ」
この世界の住民税は街の外壁の整備や警備隊の給金、その他諸々の費用に当てられると同時に、住民は住民税を払うことで魔獣や盗賊から守られる権利を得ている。森(街の外)に住んでいた俺は一度も払ったことはないが、街の中に居を構えるのであれば支払い義務が生まれる。彼らの言葉は正論だ。
でも、すまん。君達が税金をちゃんと払ってるのが意外だと思ってる自分がいる。
「すみません。街の住民税については詳しくなくて。そんなに高いんですか? ギムルの住民税って」
「俺達が払うギムルの住民税は1人400スートだ。他所の街に住んだ事ないから知らねぇけど、高いと思ったって払うしかねぇよ。払わなかったら街に住めなくなるんだから」
6人分で2, 400スート。俺ならすぐにでも払える額だけど、ギリギリの生活をしているらしい彼らには大金だろう。
「でも、これまではどうやって払っていたんですか?」
彼らに親がいるかはわからないが、街に住んでいたなら何らかの方法で払っていたはずだ。
「便所掃除で稼いでいたよ」
「……もしかして汲み取り槽の?」
「知ってるのか。あれを掃除すると役所から金が貰えたんだよ。でもその額がどんどん減って、スラムの大人達からも病気になるだけだからもうやめろって言われてさ。それで俺達、冒険者になったんだよ」
「ああ、なるほど……」
なんだろう、この脱力感。元々彼らに怒っていた訳ではないが、話を聞いたらいっそう怒る気力がなくなった。
「……なぁ、なんか俺、まずい事でも言ったか?」
「わ、わからないけど……お、怒ってるのかな……」
あっ、なんか不安にさせてるみたいだ。
「怒ってないから。安心して。えー……その住民税の件、救済措置は無いの?」
俺が知る限りでは、住民税が払えなくても即追放とはならないはずだが……
「他にも鉱山で働き口があるとか聞いたけど」
「キューサイソチ? ……金を払えない時の事なら、タダ働きで済ませてくれる時もあるとは聞いてるけどよ……それだって俺らに金を払わなくなった奴らが指示する仕事だぜ? 信用できねぇし、便所掃除が無くなって困ってんのは俺達だけじゃねぇから、その仕事からもあぶれるかもしれねぇ。
あと鉱山じゃ子供は雇って貰えない。昔、どっかの誰かがそう決めたんだってさ。どれだけ体力があっても、雇って欲しい大人が大勢くるからカンシューは破らないって追い返された」
あの汲み取り槽のしわ寄せがこんな所に……
「とりあえず聞きたいことは聞けた。ありがとう」
「お、おう?」
突然の礼が腑に落ちないような6人になんでもないと言い、現在汲み取り槽掃除の仕事は冒険者ギルドが管理している事を教えておく。給金がごまかされる事はないと伝えると、6人は本当かと真剣に聞いてきた。真面目に働く気はあるようだ。
汲み取り槽の掃除はスカベンジャーの餌不足か、どうしてもという場合に限ろう。




