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実験三昧

「ふー……お疲れさまでした」


 最後に参加者全員での打ち合わせを終えて、コルミとまだ残っている部下の2人に声をかける。


「お疲れ様~」

「お疲れ様でした。本日の議事録は後ほど提出いたします」

「お疲れ様。諸々、無事に話が進んで良かったね」

「本当に良かったです。

 ところで3人とも、今日のこの会議方法はどうでした? 特にコルミ。この方法はコルミ頼りだから、疲れてないか?」

「全然! すごく楽しかった! 魔力は使ったけどちょっとだけだし、周りから取り込んでいるから大丈夫!」

「私も特に不満は思い浮かびません。強いて言えば、この連絡方法そのものが私達の常識からすれば革命的過ぎて、不慣れさを感じるくらいでしょうか」

「逆に慣れ過ぎると普通の連絡が億劫に感じてしまいそうだけどね」


 心から楽しそうにコルミが語る一方で、エレオノーラさんとユーダムさんは苦笑いだ。


「まぁその辺りは使いながら考えていくということで、ひとまず問題はなさそうですね。公爵家への報告は終わりましたし、こちらでやるべき仕事のことを考えましょう。

 エレオノーラさんの業務はこれまで通りお任せするとして、ユーダムさんは3日後、僕とガウナゴの街に向かう準備をお願いします。モールトン奴隷商会での商談と、公爵家から追加の指示を受け取る必要があるので。

 あとは指示の内容次第ですが、そのまま他所に移動する可能性が高いので、ユーダムさん用の馬か馬車の用意もお願いします。街の移動だけなら僕が空間魔法で連れて行けますが、別行動が必要な場合はそれぞれ足があった方がいいですしね」

「了解。“貸し馬屋”で適当な馬を借りておくよ。あ、この場合の適当はもちろん“パルフリー”という意味ですからね。公爵家の技師の従者として行くわけですから」


 2人が話しているパルフリーとは? と思って聞くと、貸し馬屋で借りられる馬にはランクがあり、パルフリーは貴族や騎士向けの上等な馬。一般人が借りるような馬は“ラウンシー”と言って、馬の質と値段で昔から分けられているとのことだった。


「騎士課の卒業生に対して、そのような心配はしていませんよ。それよりも、どうせなら専用の馬と厩舎の購入を検討してはいかがですか? 今回はゆっくり検討するほどの時間はありませんが、このような機会も増えてくると思われます」

「あー、そうか……まず“馬を飼う”という選択肢が頭にありませんでした。馬車の御し方を習ったことはありますが、空間魔法と身体強化だけで特に困りませんでしたし、馴染みがなかったんですよね……」


 馬主なんて前世じゃ大金持ちの象徴 みたいなイメージがあるし、飼育には相応のお金もかかるだろう。満足に世話のできない生き物を飼うのも、飼われる方が可哀想……でも今なら問題はない。馬も必要な設備も、飼育員だって雇えてしまう。


「では厩舎に馬を数頭、馬車も1台注文しておきましょう」

「馬選びと世話役は僕がやるよ。学生の頃はずっと騎士課の馬の面倒を見ていたし、主に乗るのは僕だろうからね。日頃から信頼関係を築いておいた方がいいからさ」

「分かりました。では馬関係はユーダムさんにお任せしますが、手が足りない場合はすぐにエレオノーラさんに伝えて手配してくださいね。

 他に確認事項は……ないみたいですね。では、これでお開きということで。僕はしばらく研究という名の趣味に没頭しますので、何かあればコルミに伝えてください。見ての通り、こうして会話で済む内容ならすぐに対応できるので」

「かしこまりました」

「了解」

「ではまた3日後に。お疲れ様でした~」


 2人に手をふり、コルミに接続を切ってもらう。


「切断したよ~」

「よし、それじゃ研究を始める前に……一旦全体の様子だけ見ておこうか」

「OK!」


 コルミの元気な声と共に、空中に複数の画面が浮かぶ。映っているのは各々のペースで働いている従魔達の視界。従魔術により従魔から俺、記憶の共有で俺からコルミへ、数珠繋ぎにすることで複数のリアルタイム映像を映し出すという合わせ技だ。


 コルミの能力を検証する過程で判明したことだが、従魔術による感覚共有には“伝わってはいるものの、認識できていない情報”があったらしい。これは俺の従魔術の熟練度が低いから、もしくは脳の処理能力不足だと思われる。


 この能力不足をコルミが補ってくれることで、例えるなら細いケーブルでも十分なデータの送信量と速度を確保できるようになり、このような複数との接続と一括管理が可能になった。


 さらにこの効果は従魔と接続できる限界距離の延伸にも役立った。これまでは俺が廃鉱山にいたらギムルの街の手前までが限界だったのに、ギムルを通り越して建設中の新しい街まで届くようになったのだ。


「従魔術も奥が深い……サポートがない状態でも、これを目標に鍛えるか……クレイスライムに問題はなさそうだな」


 映像を確認していると、先程ラインハルトさん達にも見せた“レンガ製造ライン”が目を引く。


 樹海で増やしてきたクレイスライムは全部で500匹……一言で“粘土”といってもその種類は成分によって様々。たとえばクレイスライムが生まれるきっかけになった実験場の粘土は“白土”で、樹海の地面から掘り出した粘土は“黒土”、そして廃鉱山の土は“赤土”。


 最初はこの土の成分の違いでスライムに悪影響がないかと警戒したが、今に至るまで体調などに異変は起きていない。クレイスライムは“粘土質”があれば、細かい成分はどうでもいいようだ。


 逆に言えば、粘土質が含まれていて適度な水分があれば、その辺の土からでも粘土を作ってくれるので助かる。陶芸をする上でも成分とそれによる焼き上がりの色や質感は代わるというし、複数の土を混合して色合いを調整するには役立つだろう。


「強いて言えば、水が減ってきているな」


 レンガ製造ラインではまず材料となる粘土を作るため“ゴブリンが廃鉱山の赤土を掘り出し、別途で用意しておいた水と共にビッグクレイスライムに与える”という手順があるのだけれど……生産と消費が早すぎるようだ。


「とはいえこれなら水を足せばいいだけだし、問題というほどではないな」


 水を溜めている容器の中に待機させていたウォータースライムに指示を出し、水魔法を使ってもらう。さらに現場を管理しているゴブリンにも水を追加した旨を伝えておく。同じように廃坑内の乾燥室や外で働いているゴブリン達の様子もチェックして、必要があれば指示。


 リノは元気に麓の広場で好きにくつろいでいるし、リムールバード達が悠々と空を飛びながら廃鉱山を監視しているので、何かあれば教えてくれるだろう。


「……従魔術で状況を把握し、従魔術で指示を出して、一歩も動かず対応が完了。コルミがいると自由度が段違いだな」

「本当?」

「これまでも従魔術での分業はしていたけど、全体の一体感があると言えばいいのか……前より断然やりやすいな」


 卵生産担当のクレバーチキン達は引きこもってチェスとか頭を使うゲームに熱中しているが、頭脳担当として加えたらとんでもないことになる……かもしれない。あいつらリーダーのコハク以外はもう完全なニート思考だから、協力しない可能性もあるけど。


「卵はしっかり生んでくれているし、可能性が広がったということでいいか。

 それより実験だ。例のスライム達の様子は?」

「全員、まだ変化なーし。置いておいた餌は全部食べちゃったよ」

「なら追加するか」


 コルミを宿す廃坑内の倉庫から、樹海で倒して山ほどあったラプターの“骨粉”の袋詰めを、実験中のスライム達がいる部屋まで直接転送。転送した袋をコルミがひっくり返した途端、撒かれた骨粉に普通のスライム達がむらがる様子が画面越しに確認できた。


「しっかり食べているな……この調子なら近いうちに進化してくれそうだ」

「わかるの?」

「これまでの経験からなんとなくね。食事量が多ければそれだけ進化も早くなる傾向があるし、骨を餌にするスライムはアシッドスライムという前例もあるから」


 そう、これはアシッドスライムと同じ“骨”という餌を与えて進化させる実験。


 まずこれまでのスライムの進化……例えばソイルスライムなど土系のスライムの進化から、スライムの進化は不可逆な一方通行ではなく、さらに異なる種類のスライムに共通の進化先がある場合もある、ということが判明している。


 そしてアシッドスライムは先程も述べた通り骨を食べて進化したスライムだが……これまでの例では食べた物に近い進化をするスライムが多い。骨を食べて酸に変化したアシッドスライムは、稀な例なのだ。


 一体、何故ボーンスライムではなくアシッドスライムになったのか? と考えた末に、俺は“骨を食べてアシッドスライムになった”のではなく、“骨を食べるために(・・・・・・・・)アシッドスライムになった”のではないか? という仮説を立てた。


 初めてアシッドスライムが生まれた頃、俺は獲物の骨をそのまま与えていたが、骨というのは固くて普通のスライムにとっては吸収しにくい餌。これを効率的に吸収したいがために、骨のカルシウムや灰分を溶かせる酸のスライムになったのでは? と考えている。


「だから今回は食べやすいように、粉にしたものをあげているんだよね」

「それだけじゃないぞ。元となるスライムが好む“魔力の違い”も考慮に入れてある」


 アシッドスライムが好む魔力は“毒属性”。そして俺が通信室を設置するためにガナの森の家に行き、付近のスライムを捕獲して調べた結果、あの家の周囲には毒属性の魔力を好むスライム達が多かったことが新たに判明した。


 あの家がある崖は少し掘ると有毒成分入りの岩塩が採掘できていたし、ラインハルトさんもガナの森の岩塩の事を知っていたから、おそらくあそこは元々毒属性の魔力が豊富な土地だったのだろう。


 スライムの体は魔力で構成されていて、魔力に好みがある等々、スライムと魔力には強い関係性がある。よって同じ餌でもスライムの進化に影響・変化がある可能性は十分にあるのではないか?


「ということだから、実験室のスライム達は好む属性ごとに仕切りで分けているんだ。大雑把ではあるが、属性と進化先の組み合わせで仮説が正しいかどうか、他にも見えてくるものがあると思う」


 彼らが進化する日が楽しみだ! と期待しつつ、同時並行で他のスライムの進化実験も進めたり、陶芸や薬の研究をしてみたり……楽しく過ごしていると、思いのほかその日は早くやってきた。


「うおおおお! ボーンスライム誕生ッ! 属性は――無属性!」


 ボーンスライム

 スキル 硬化Lv1 物理攻撃耐性Lv1 ジャンプLv2 消化Lv3 吸収Lv3 分裂Lv2


「見た目は白い塊。スキルはアイアンとかメタル系と同じ構成だけど、レベルは低いしこちらの方が脆いな。ただ重さは断然ボーンの方が軽いし、触手を触ってみるとそれなりにしなりもある……軽さを重視した防具になら使えるかも……」

「リョウマー、明日はガウナゴの街に行く日だよー? そろそろ寝ないとじゃない?」

「うん……大丈夫、もうちょっとしたら寝るから」


 こうして今日も夜が更けていく……

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― 新着の感想 ―
特性というディープラーニングによる進化を図り、文句を言わずに働く労働力の提供を行うスライム達と単純作業に特化はするが文句を言わずに働くゴブリンの存在は現在のAI、ロボティクスを象徴する流れそのもの。 …
良かった……無難な見た目のスライムで本当に良かった……肉塊みたいなスライムも前作ではありましたからねぇ
ドラクエでおなじみのバブルスライムは、 この世界で実現できるかなぁ? 泡食べさせても石鹸の泡ならソープスライムとかになりそうだし。
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