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井戸端会議

 話題のお店で昼食を楽しんだ後は、再び街を歩く。


「評判通り、美味しかったですね」

「開店から間もなく人気が出ているのも納得の味でした」

「なんでも、結構な名店で修行していた人が厨房に立っているらしいよ。師匠の許しを得て独立を考えていたところで、この街の景気が良くなりそうだって話を聞いて来たんだって」

「へぇ……事前にある程度、現地の調査はしたと思いますが、見ず知らずの土地に飛び込むのは思い切りも必要ですよね」


 まだまだギムルの新参者同士、機会があったら話してみるのもいいかもしれない。


 話すと言えば、


「そろそろカルムさん達に挨拶をしに行きましょうか」

「今から向かえば、お店も落ち着く時間になるだろうしね」


 ということで我らが洗濯屋の本店に向かったところ、


「でね! あの人ったらもう! 本当にずぼらなのよ!」

「そうそう、うちもよ~。子供が真似するからやめてって言っているのに」

「大きな子供が1人増えたみたいだねぇ、まったく……あら?」


 洗濯屋のお隣の店の前で、顔なじみの奥様3人組が井戸端会議をしているところを発見。向こうも歩いてきた俺達に気づいたようで、手を振っている。無視をするという選択肢は存在しないので、洗濯屋を通り過ぎて話しかけることにした。


「こんにちは~、皆さんお元気ですか?」

「おかげさまでね。リョウマ君はどうだい?」

「最近姿を見なかったけど、冒険者としてのお仕事かしら?」

「今回は公爵家の技師としての仕事で、1週間ほど街を出ていました。ちょうど今帰ってきたところなんですよ」


 ここで後ろの2人にも目を向けると、2人が奥様方に一礼したところだった。エレオノーラさんは凛としてやや硬く、ユーダムさんは柔らかい笑顔を浮かべる。表情は対照的だが、どちらも美しいことは確かであり、奥様方も目を見張る。


「あらまぁ、目の保養ねぇ」

「ユーダムさんとエレオノーラさんも一緒に出かけていたの? お疲れ様」

「公爵様から直接お仕事を頼まれるなんて、大したもんだよ」


 そのまま奥様方のマシンガントークが始まりかけたので、エレオノーラさんには、カルムさんへの連絡を任せるという体で退避してもらう。ユーダムさんはともかく、エレオノーラさんでは彼女達の勢いは受け止めきれないだろう。困っている姿が目に浮かぶ。


「今回のお仕事はどんなお仕事だったの?」

「ちょっとキアラ、公爵様からのお仕事なんだから、あまり聞いたらダメじゃない?」

「少しくらいは大丈夫ですよ」


 瘴地の存在や呪術の指導を受けたことは機密でもなんでもないので、大まかに説明をすると、3人は表情を曇らせた。


「それで一週間も山の中にいたのかい」

「名前と“よくないものだ”ってことくらいは聞いたことがあるけれど、詳しく教えてもらったのは初めてだわ」

「瘴気って怖いのねぇ……」

「扱いを誤れば危険ですが、適切に対処すればそこまで心配することはありませんよ。街の中ではまず発生しないように、仮に発生してしまった場合は早期発見と対応ができるように対策がされています。ね? オーナーさん」

「ユーダムさんの言葉通り、僕も管理を請け負うにあたって、紹介していただいた呪術の師匠から瘴気の確認方法や注意点を一通り教えていただきました。おかげで管理業務はお墨付きを貰えましたし、僕にかけられた呪いを抑えることもできるようになったんですよ」

「まぁ! 噂の呪いをどうにかできたの?」

「完全に解けたわけではありませんが、今のところはこのミサンガで生活に支障がない程度に軽減できています」

「ふ~ん? その紐って何が特別なの?」


 と、3人の奥様方のものではなく、子供の声で問いかけられた。気づけばお隣、花屋の中からポリーヌさんの娘さんが顔を出していた。


「あれ、レニも居たんだ、気づかなかった」

「奥で店の手伝いをしてたのよ。頼まれた仕事が終わったから出てきたの。もう暑くてたまんないわ。

 それよりその紐、特別なものなの?」


 改めて問いかけられたので、ローゼンベルグ様から教わった呪術の使い方を説明。自分ではなんとなくでも使えているけれど、他人に説明するとなると、意外と難しいものだが……奥様方とレニにはきちんと伝わったようだ。


「つまりこの紐が特別なんじゃなくて、この紐飾りっていう形に意味があるのね?」

「その通り。このミサンガを自然と切れるまで身につけていると、学業成就とか、運動が上手くなりたいとか、そういう願いが成就する……っていう願掛けが昔、故郷の子供の間で流行っていたんです」

「あー、あるわよね、そういうの」

「私達が子供の頃にも流行ったねぇ……あれ、なんだったっけ? 好きな人の名前を書いた紙を暖炉の火にくべるんだったかい?」

「そうそう! 私も昔それをやって、親に紙とインクを無駄にするな! って怒られたわ」

「お母さん達そんなことしていたの?」

「えっ、今の子たちはやらないの?」

「やらないわけじゃないけど、お母さんが言ったのは知らないよ」


 呪術が存在する以上、熱意によってはなんらかの効果が出る可能性は否定できないけれど……やっぱりこの世界にも、子供が遊びで行う“おまじない”は存在するようだ。そして、どうやらジェネレーションギャップが出てくるのも同じらしい。


「と、とにかく僕がミサンガを使っているのは、その“おまじない”のイメージと身につけやすいからです。

 正直、ミサンガは子供が作っても“編まれた紐”ですからそう簡単には切れるものではないと思いますし、自然と切れるまで何かを継続していたらおまじないとか関係なく上達はすると思うので、それが真実なんじゃないかと思いますけどね」


 1万時間の法則といって、どんな分野でもプロと呼ばれるだけの技術を身につけるには、約1万時間の練習が必要だという話があった。勉強に1日1時間を費やすなら1万日。10時間を費やすなら1000日。何かを身につけるには“継続が重要”ということだ。


「そういえば私達が子供の頃に流行ったおまじないも、1回だけじゃなく長い期間、ものによっては“叶うまで続けろ”みたいな条件があった気がするかも……それか“途中で止めると願いは叶わない”とか」

「そうだったわ。私も毎日やっていたから、紙とインクが無駄だって叱られたのよ。お母さんが料理を作るついでにやっていたから、薪に関しては何も言われなかったの」

「叶うまでやって叶ったら、おまじないが効いたと思う。途中でやめて願いが叶わなかったら、おまじないを途中で止めたせいだと思う。なんだか詐欺みたいな話だねぇ」


 確かにそうだ、とポリーヌさんの同意と笑いが巻き起こる。そして一通り笑った後、ユーダムさんが感想を一言。


「でも、そういう“おまじない”には悪意がなくて可愛らしいね。あくまでも遊びの範疇、って感じで」

「それも確かに。呪術を悪用したら、もっと悪質なものもありそうなのに」

「あー……少し話がズレるかもしれないけど、オーナーさんが言った“学業成就”のために呪術を使う人って実際にいるよ? 貴族で学生時代に悪い成績を残すと、一生それが付きまとうことになりがちだからね……

 学業のための術をかけますよ~って怪しい呪術師がそれとなく売り込みに来たり、逆に呪術師を探している人の噂を聞いたり。特に試験が近づくと噂をよく聞いたよ。大抵ろくな結果にならないけど」

「そういえばユーダム君は貴族の生まれなのよね?」

「いつも気さくで優しいから忘れてしまいそうになるけど」

「やっぱりこう、ドロドロしているのかい?」


 ちなみにユーダムさんが貴族の3男であることは皆さんご存じだ。承知の上で、ユーダムさんは奥様方からの信頼を勝ち取っているので、こうして敬遠されずに話すことができている。


 若干の遠慮は見せつつも、興味が勝ったのか一歩踏み込んできた奥様方に対して、ユーダムさんが苦々しい顔で語った内容は、酷いものだった。


 成績が悪い。自信がない。理由は様々だけれど、呪いの対象が依頼者本人であれば、それは本人の意思なのでだいぶ良い方だと思う、と。問題は対象と依頼主が別人の時だ、とも言った。


「大抵は親が子供に(・・・・・)呪いをかけてほしいと依頼するんだろうね。子供のために、良かれと思って、危険性を理解せずに依頼するんだよ。そして子供の心身に、勉学どころではない傷を負わせる結果に繋がる。

 僕が聞いた話の中で多いのは、特定の行動や定めた範囲からの移動を条件として、強い不安や恐怖を感じさせるそうだよ。それで机の前から離れられないようにして、強制的に勉強させるんだって。もっと酷いと肉体が麻痺して動けなくなるような術を使う人もいるらしい」

「うわぁ……聞いているだけで嫌な予感しかしない……」

「そういう術は主に、罪人の行動を制限するために使われていて、使用するには色々と制限がついているはずなんだよ。そんな術を悪用して強制的に勉強をさせたところで、ろくなことにはならないと普通は思うよね。

 一度、僕の同級生が成績不振で親が手配した呪術師に“用意された問題集を解いている間だけ不安から逃れられる呪い”をかけられたことがあってさ……恐怖に襲われることを恐れて問題集にかじりついた結果、食事や睡眠にまで支障をきたしていたよ。

 明らかに異常だったからすぐに発覚して解呪されたんだけど、呪いが消えても恐怖の記憶まで消えることはないから、勉強そのものを恐れるようになったみたいで……そのまま退学して療養生活を始めることになっちゃったんだ」


 その人は精神のケアを専門としている呪術師の治療を受けることになったらしいが、その事実を生徒達に伝えた教師は“まだ良かった”と口にした。同様の案件で専門家の処置を受けていない者は“まだ苦しんでいる”か“自死を選んだ”かのどちらかだ。誘いを受けても絶対に、安易な気持ちで手を出すな、と強く釘を刺されたそうだ。


「さらに困ったことに、これって親が呪術の危険性に対して無知というだけじゃなくて、危険を無視してお金のために術をかける悪質な呪術師がいるのも問題なんだよね……小遣い稼ぎにしている人もいれば、家庭教師が本業で自分の実績を上げたいがために、こっそり術を使う人もいるみたいで」

「そんな奴らもいるのかい? おっそろしいねぇ……」

「私、呪われてまで何かを勉強したいとかこれっぽっちも思わないし、家庭教師にお世話になる機会もないと思うけど、あったとしても絶対にお断りだわ」


 ポリーヌさんとレニの感覚は正常だろう。俺も同感だ。教育熱心過ぎる(・・・)親の話は前世でもよく聞いたけれど、子供を持ったことのない俺には全く理解できない。


「まぁ、でもそういうのはちゃんと違法みたいですし、取り締まりも厳しいんですよね?」

「そうだね。そういうのは結局、詐欺師と同じで人の弱みや不安につけこんでくる悪人だよ。真っ当な呪術師はちゃんと法に則って、人のためになる仕事をしている。怖がらせるような話になってしまって申し訳ない」

「そんなことないわ。私達が先に聞いたんだもの」

「そうよ。教えてくれてありがとう」


 奥様方もレニも気にしていない様子で、ユーダムさんが気にする必要はないと笑っている。皆さん、本当に明るくて気のいい人達だ。ここは強引かもしれないけど、サラッと流しておいた方がいいかな。


「どんな力も使い方次第、ということですね。

 使い方と言えば……キアラさん、旦那さんは木工職人さんでしたよね?」

「ええ、そうだけど。それがどうかした?」

「先程話した瘴地は周囲の山も含めて管理することになっていまして、これから整備を進めていく予定なんですが、その過程で出る間伐材で木箱を作ることは可能でしょうか?

 木材は乾燥させる必要もありますからまだまだ先の話ですが、考えているだけでも注文量が多くなりそうですし、少々細かい注文もつけたいので、知識のある方に相談に乗っていただきたくて」


 俺がイメージしている形は、バイトで使った引っ越し業者の折りたたみコンテナ。プラスチック製で軽くて丈夫だったし、必要ない時は畳んで収納スペースを節約できてべんりだった。


 開拓作業にも収納は必要だし、線香やミサンガなど呪術の媒体を外注するならいずれ使うだろう。本格的に発注する前に下調べをしておきたいし、もし話の流れでキアラさんの旦那さんが引き受けてくださるなら、それでも助かる。


「あらまぁ、山の手入れまでするの? 本当に忙しいのねぇ……質問の答えだけど、間伐材で木箱を作るのは可能よ。

 引き受けられる量と期限は、作業に携わるのが旦那だけか、息子を含めた見習いの子達を参加させてもいいかどうかで、大きく変ってくるわね。もちろん見習いの子の作品でも作業中は旦那がきちんと監督するし、品質の確認もするから下手なものを納品することはないけど」


 ここでキアラさんは、ただ……と申し訳なさそうに続ける。


「うちは普段、問屋さんが製材した木材を買って加工しているから、製材の分の時間と手間賃を余計に貰うことになるわ。それにうちの旦那は家具とか小物を中心に作っているから、間伐材を消費するために依頼をするなら、規模が小さすぎると思うの。

 間伐材を無駄にしたくないなら大工さんとか、木材問屋さんの方が力になってくれるんじゃないかしら?」

「そちらも考えていたのですが……ユーダムさん、あの木の質って、あまり良くないですよね?」

「手付かずのまま長く放置されていた山の木だからね。人の管理下で育てられた木と比べれば質のバラつきが大きいし、曲がっているものも多い。木挽き職人さんに任せれば製材してくれるとは思うけど、余計な労力がかかるし、無駄も多く出ると思うよ」

「あら……それだと問屋さんもちょっと困っちゃいそうねぇ」


 あちらも商売であり、素人でもない。必要な分は懇意にしている取引先から、良質かつ既製品を確保しているはずだ。キアラさんはやんわりと言ってくれているが、付き合いのない相手に粗悪品を持ち込まれても迷惑なだけだろう。


「ですから、ひとまずは“近々必要な物に使えるだけ使う”という方針で考えています。良い品を作っていただけるなら、手間賃も惜しまないので」

「リョウマ君がそれでいいなら、今度うちにいらっしゃい。できる限りの協力を約束するから」

「頼りにしています。可能であれば、間伐材の利用方法にも案があれば教えていただけると助かります。今のところ他の用途は薪にするか、趣味で陶芸でも始めるくらいしか考えていなかったので」


 と、何気なく現状を口にしたところ、奥様方の目が光ったように感じた。何か変なことを言っただろうか?


「皆さん? どうかしましたか?」

「ああ、ごめんね。リョウマ君達が来る前の話を思い出しちゃって」

「ついさっきまで私達は“薪がちょっと高くなった”って話をしていたんだよ」

「薪の値段が、今の時期にですか?」


 寒さの厳しい冬場ならまだしも、今はまだ夏。後半に差し掛かっているので、じきに涼しくなってくるとは思うが、まだ買い込むには早いのではないだろうか? ユーダムさんに尋ねても同様の考えと、薪が高騰しているなんて聞いていないという言葉が返ってきた。


「2人とも街にいなかったんでしょう? 薪の値段が上がったのは2日くらい前からよ。それに高いと言っても、この時期の値段にして(・・・・・・・・・・)()という意味だから。お母さん達は気にしているけど、気にしない人も多いんじゃない? 私もそうだし」

「まだ高騰は微々たるもの……でも今の時点で値上がりしているということは、本格的に寒くなり始めた頃にはどこまで上がるのか。気になるのはそこですね」

「そうなのよ! ちょっとの誤差でも積み重なると大きくなるんだもの。でも高くなったからといって、薪を使うのをやめるわけにはいかないわ。今ならともかく冬場はダメ」

「薪をケチって寒い中で風邪をひいたら元も子もないのは誰でも分かっているし、去年の冬は異様な寒さだっただろう? 今年もなんだか気候が変だし、また去年みたいになったらと考えると“まだ安い今のうちに多めに買っておこうか”って3人で悩んでいたんだよ」

「あぁ……それはちょっと、良くない流れですね……」


 ぱっと頭に浮かんだのは歴史の教科書にも載っている“オイルショック”だが、似たような問題はいつの時代にも起きていた。特にオタク系のコンテンツには、作品や販売店限定グッズの類が大量に作られていたので、多数の事例を目にしてきた自負がある。


 そして今回の場合、手に入らなくても命に関わることもないオタクグッズとは違い、薪は生活必需品であり冬場の生命線。手に入るか否かは文字通り、死活問題だ。


 奥様方の思考は自分と家族を生かすために、人としてごく自然な思考。だけど、不安に駆られて大勢の人が普段よりも多く買い込み始めたら、市場では薪の在庫が減る。需要に供給が追いつかなければ品薄になり、薪の値段はさらに高騰して余計に人々の不安を煽ってしまう……悪循環の始まりだ。


 尤も、そうなる前に公爵家の皆さんや商業ギルドの方々が手を打つだろうけれど、


「分かりました。近い内に商業ギルドで話を聞いてみて、ギルドマスターには間伐材のことも話してみましょう」

「それは……リョウマ君ならできるわね」

「そうしてくれると私達も安心だわ」

「既存の業者さんとの兼ね合いもありますし、薪として使うには乾燥させる必要があるので、いざという時の時間稼ぎの1つくらいだと思ってほしいですが」

「そんなこと言うんじゃないよ。あんたは去年も街を駆けずり回って、頑張ってくれたじゃないか。それを知っている人なら皆、心強く思うはずさ」


 ポリーヌさん達から温かい言葉をいただいた直後、街に教会の鐘の音が響く。


「あら、もうこんな時間? いやだわ、楽しい話をしているとすぐに時間が経っちゃって」

「名残惜しいけど、家事と夕飯の支度もしなくちゃ。それじゃ皆、また明日。リョウマ君は今度うちにいらっしゃいね」

「はい! 箱のサンプルを持ってお邪魔させてもらいます」


 そうだ、線香に使ったカレッパシの木の粉が残っていたはずだから、それで“オガライト”みたいな再生材料を使った成形薪が作れないか試してみるのもいいな。木工職人さんの工房ならおがくずも出るだろうし、再利用できれば選択肢が増えるかもしれない。


 なにはともあれ、今日の井戸端会議はこれで終了。ポリーヌさんとレニはお店へ入っていき、俺とユーダムさんも隣の洗濯屋へと向かう。


「エレオノーラさんを待たせてしまいましたね」

「向こうはカルムさんと仕事の話をしているだろうから、大丈夫じゃないかな?」

「確かに。さっきの話もそうでしたけど、ちょっと街を離れていただけでも新しい出来事が起きていましたからね」


 そんなたわいもない話をしながら洗濯屋の扉をくぐり、目に飛び込んだのは日常の光景だったが……思わず足が止まる。


「あっ、オーナーおかえりなさい! 奥で――あれ? 急に固まってどうしたんですか?」

「オーナーさん? 大丈夫?」


 長く悩んでいた問題が、ふとした拍子に訪れたひらめきで解決した瞬間。これまで一体何を悩んでいたのかと思うほど簡単なことだった。そしてフェルノベリア様の“俺は既に必要な情報を持っている”という言葉の意味を理解する。コルミを他者と交流させる呪術のヒントは身近なところに、当たり前のように存在していたのだ。


「これだぁっ!!」


 思わず上げた歓喜の声が、お客様のまばらな店内に響いた。






 ■ ■ ■






 あの日から5日。全速力で準備を整えて街を飛び出した俺は、空間魔法を駆使して一気にコルミ村までの道のりを駆け抜けた。そして今、目の前にはつい一月ほど前に苦戦を強いられた屋敷の門が見えている。


 だけど今の門は俺の再来を歓迎するように開け放たれ、内と外の境界線には俺を模した子供の姿が浮かび、待ちわびたという気持ちを表情と態度で十二分に表していた。


「リョウマ!! おかえり!!!」

「ただいま、コルミ」


 俺は親になった経験はないけれど……長く留守番をして親を待つ子供は、きっとこういう感じなのだろう。

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― 新着の感想 ―
オガライトって初めて知りましたが、材料はおがくずだけで良ければ作れそうですね 圧縮は魔法でやっちゃいそう
だんだんとラノベあるあるの、終わらせられない物語になってきてる。今回など最後の数行以外は完全に脇道で余計。ズバッと終わらせるのも作者のテクニックだけど、先の展望がないのでだらだらやってますか? 
upotuデース。
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