安否確認
本日、4話同時投稿。
この話は1話目です。
業務連絡のつもりで行った神界で神器と有益な情報を手に入れた後、数日かけて一気にガナの森の住処まで戻ってきた。帰りはこの拠点まで戻ったら、すぐ公爵家に一報を入れることになっていたので、既にリムールバードに頼んで連絡済み。
手紙が届いたら時間を作ると言っていたので、じきにラインハルトさん達がやってくる。
「せっかくだから実験をさせてもらおう」
思い付きで実験の準備もしつつ、皆さんの到着を待っていると、外のウィードスライムが反応する。皆さん忙しいはずなのに、本当に昨日の今日で予定を空けてくれたようだ。
「リョウマ君、いるのよね?」
「外の立て札に“実験中のため、中に入ってお待ちください”とあったから入っていいと思うけど、帰って早々に何をやっているんだろうね?」
入口から声が聞こえてきた。もうそろそろだ。
「いらっしゃいませ、皆さん」
「リョウマ君! おじゃまさせてもらう、よ?」
「おかえりなさい! あら?」
ラインハルトさんと奥様を先頭に、ラインバッハ様とセバスさん。さらに護衛の4人と、以前紹介していただいたエレオノーラさんが部屋に入ってくる。しかし、彼らは部屋に入るや否や、違和感を覚えたようだ。
彼らの目には、普通に俺がテーブル横の椅子に座っているだけに見えると思っていたのだが、親しい人なら分かってしまうのだろうか?
「すみません。実験の都合上、座ったままで失礼します」
「それは別に構わないけど、一体何をやってるんだい?」
「何もやっていないように見えるし、それに表情が硬いわよ?」
「声の調子も若干、本当に若干ですが普段と違う気がしますな」
「ああ、やっぱり分かるんですね。では早速ですが説――」
説明を、と考えたその時。
「おいおい、まさか樹海で怪我でもしてきたんじゃないだろうな?」
「あっ」
心配そうな顔をしたヒューズさんが前に出て、座っている肩に手をかけた。瞬時に“まずい”と思うが、時すでに遅し。肩に手を置かれ、バランスを崩した体が傾き、椅子の上から滑り落ちた。
「危ねっ!?」
ヒューズさんが地面に激突する前に支えてくれたが、四肢はだらりと垂れて動かない。心配した皆さんが一気に駆け寄ってくる。
「大ジョウィッ!?」
「うわぁっ!? く、首がぁ!」
「リョウマ! おい!」
いかん、無事を伝えようとして余計に状況が悪化した。体の挙動もおかしいし、首がねじ曲がったせいでまともに声も出せていない。この口からの説明は無理だ。
判断と同時に、俺は奥に続く廊下から 部屋に飛び込む。そこには倒れて動かない俺の体、もとい“俺に擬態したミミックスライム”を囲む皆さんの姿があった。
「皆さん大丈夫です! 僕は無事です!」
「ぬっ!? ……どういうことじゃ?」
「リョウマが2人?」
ラインバッハ様やジルさんに続き、他の人達も異様な状況には困惑しつつも、冷静さを取り戻してくれたところで事情を説明。それは樹海で発見して契約したミミックスライムであること。本物と遜色のない姿になれる高度な擬態能力を持つことを、スライムに擬態を解かせて説明する。
「――というわけで、僕は自分自身に擬態させたスライムと感覚共有を行い、スライムの目、耳、口を使って皆さんと会話していたんです。
感覚共有が可能なことは事前の実験で分かっていたので、遠隔でこのスライムを操ってバレずに会話をする事ができれば、例の呪いがあっても問題なく他者との交流ができるかと考えたので。驚かせてしまって本当に申し訳ありません」
「心臓に悪いわ……でも本当にすごいわね。見た目ではまったく区別がつかなかったもの」
「悪戯のつもりはなかったんだろうし、新しいスライムの能力とその活用法としては妥当だと思うよ。特にリョウマ君の呪いを考えると、実験が成功すれば助かるだろうしね」
「しっかし、これでこそリョウマが帰ってきたって感じだな」
ヒューズさんのその言葉は疑問に感じたが、俺以外の人たちには納得だったようだ。
……色々と迷惑をかけたり、突飛なことをしている自覚はあるが、ホラー的な脅かし方をしたことはないと思うのだけれど……
「さて、皆もリョウマ君の無事を祝って話を聞きたいだろうけど、まずは我々だけで話をさせてもらっていいかな?」
釈然としないが、ラインハルトさんが促したので、公爵夫妻とラインバッハ様、そしてセバスさんの4人を奥の部屋に案内した。そして樹海に向かう前と同じように、防音の魔法道具を使っての会話になる。
「早速だけれど、目的は果たせたのかい?」
「はい。無事にコルミ村に到着し、祖父母の遺産を回収できました」
祖父母のネームバリューが大きいだけに、慎重になっているのだろう。防音の魔法道具を使っているにもかかわらず、ラインハルトさんは無意識に声を潜めている。
「遺産の中身は研究資料に武器類、またそれらを作るための道具や素材が大半でした。あとは彼らの思い出の品のようなものと……日記が数冊」
「リョウマ君は、それらをどうするつもりかな?」
「どれも貴重なものだと思いますが、武器類以外は、基本的に販売や譲渡をするつもりはありません。研究資料を軽く調べたところ、いくつか僕の今後の研究にも役立ちそうな内容がありましたし、無関係でも 興味が引かれる内容が多数ありましたので。
それに……」
ここで俺が一瞬、言っていいものかと躊躇したが、これまで世話になった皆さんを信じて話すことにする。
「これら、特に賢者メーリアの研究書は非常に学術的価値が高いもので、研究者であれば誰もが欲するものだと思います。それを活用できる国の研究機関などに寄付するのが筋だと考える人もいることでしょう」
「それが分かっているなら、私達は干渉しないわ。もちろん不要になったらいつでも、対価を用意して引き取らせてもらうけどね」
「リョウマ君が解析してくれても、研究資料を買い取って他のものに研究させるとしても、我が家に損はないからのぅ」
安心したように笑う3人につられて俺も笑顔になった。
そうだ、遺産の話のついでに樹海の拠点、コルミについても話しておこう。協力を仰ぎたいことも色々あるので、早い方がいい。
「――ということなんです」
「「「……」」」
コルミ村に到着してからの事を説明すると、だんだんと3人の顔から笑顔が消え、終わるころには無言になっていた。3人の後ろに控えて立っていたセバスさんも、涼しい顔だが額に汗している。
「皆さん、大丈夫ですか?」
「うん、一応理解はできたと思うよ。理解は、ね」
「私はもう正直、ミミックスライムの件で十分驚いたと思っていたのだけれど……セバス。お茶を一杯いただけるかしら」
「はっ。以前から聞いていた遺産の件は衝撃が少なく、私も少々油断しておりました。今から用意をいたしますので、少々お待ちください」
「いつも完璧なセバスさんの対応が遅れるなんて」
「それ相応に衝撃的な話だったのだから、仕方なかろう。先日の呪いの魔宝石といい、リョウマ君は想定外の出来事によく遭遇するのぅ」
「そこに関しては、僕も何も言えません」
今回は神々の依頼があったけれど、コルミ村に向かうこと自体は、コルミが目覚めるよりも前から決まっていた。そうなると、依頼の有無に関係なく俺たちは遭遇したことだろう。
あのアンデッドの数を見て、何も知らない状態で攻略しようと思うかどうかはわからないけれど……そういえば、ラインバッハ様と似たようなことをガインも言っていたな。運を良くしたはずなのに妙に運が悪いとか、極めて稀な確率を引き当てるとか。
悪運というか、奇運というか、神様がそう言うくらいなんだから、もうそういう風に生まれたのだと思うしかない。
「僕の運勢よりも、実はこの件に絡んでお願いが、それも複数あるのですが」
「おや、珍しいね。我々にできることであれば、いくつでも言ってくれていいよ」
お願いという言葉で気を取り直したラインハルトさんが、前のめりで聞いてくる。
「それでは遠慮なく。まず1つめは、先程の話にも出た姿が人に限りなく近いアンデッド、デストリア男爵の鎧をコルミが保管していたので、遺品として遺族に届けられないでしょうか?」
「家同士の付き合いがないから少し時間はかかると思うけど、連絡は取れるし喜ばれると思うよ」
「デストリア男爵家は軍閥貴族じゃ。少し迂遠かもしれんが儂から知人に話を通し、間に入ってもらう方が円滑に進むじゃろう。後で遺品と、その方の最後の様子を詳しく教えてほしい」
ということでこの件は解決。軍に在籍していた過去があるラインバッハ様が、快く引き受けてくださった。
「次に、従魔用の鞍を作れる腕のいい職人さんを紹介していただきたいのです。対象はミミックスライムが擬態したテイクオーストリッチと、親から託されたキャノンボールライノスの子供、“リノ”ですね」
リノ……最初はキャノンボールライノスという種族と、あの時戦ったボスが突進した時の雷のような衝突音から、将来そのくらい力強くなることを願って“ライ”と名付けようとした。しかし、コルミに提案したところ女の子だと指摘されたので変更。コルミがいなかったら、きっと気づかずにライと名付けていたことだろう。
「ミミックスライムは自分で体の大きさを調整できるかもしれないけど、リノちゃんは子供だからすぐに体が大きくなるわよね。後で私が懇意にしている工房を教えてあげるわ。ルオーグや他の子達の装具も全部任せているから、腕は確かよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
奥様の従魔は大型の狼系魔獣、リトルフェンリル。その装具を作れる職人さんがいる工房なら、将来的にリノが成長して大型化しても対応してもらえるだろう。
「今度はお願いというより相談なのですが、先日お世話になった呪術師のローゼンベルグ氏にご協力いただきたいことがあります」
「それは例の呪いについてかな?」
「無関係ではありません。実は回収した祖母の遺産の中から、解呪に関する研究資料を見つけました。それがどうも樹海に呑まれた大昔の都市国家で運用され、現代では失伝している古代の魔法のようです」
「解呪の遺失魔法か……」
「はい。しかも、祖母の手によって再現可能と思える状態まで情報が揃えられている上に、覚書には現代のものよりもはるかに効果が高くなる見込みだと書かれていました」
賢者と呼ばれたメーリアさんの守備範囲がそれだけ広かったのだろうけど、まさかこれほどタイムリーな魔法の資料が手に入るとは思っていなかった。見つけた時には、フェルノベリア様が研究資料のタイトルだけでも把握しておけと言っていたことに納得した。
「正直なところ、情報が揃っているので僕一人でもこの魔法を使うことはできそうです。しかし呪いに関する知識が乏しい自覚もありますし、専門家に監修もしていただけると安心です。ただ、祖母の研究資料のことを話す必要がありますので、信用のある方でないとと思いまして」
「うん。それならローゼンベルグ氏を頼るといいよ。彼なら信用できる。何よりリョウマ君にかかっているのは強力な呪いみたいだからね。未知の魔法で下手に解呪を試みて、おかしなことになるのは最も避けるべきことだ」
「あとは呪術の指導もお願いしたいのです」
メルトリーゼ様から聞いた、呪術を学べというアドバイス。それがコルミに他者との交流を持たせる鍵になるかもしれない。必要な情報はすでに全部揃っているらしいが、いまいちピンと来ていない。専門家の指導を受ければ、何か ヒントがつかめるかもしれない。
「分かった。日程などは追って連絡するけど、相談内容は事前に伝えておくよ」
「よろしくお願いします。
そしてこれが最後ですが、もしもコルミと外界の交流に成功した場合。人間社会の常識やルールを正しく教えられる教師の方を紹介していただけないでしょうか?」
「教師の派遣というと? もう少し詳しく教えてほしいな」
「まだ具体的な方法は分かっていませんが、何らかの方法で人と交流を持つことに成功した時、コルミは他の人との接し方を学ぶ必要があると考えています。僕も教えられることは教えたいと思いますが……はっきり言って、僕もコルミと大差はないと思います。
元々は森に引きこもっていた人間ですし、そもそも僕、というか神の子は地球という……土地と言えば分かりやすいでしょうか? 神々の力を借りなければ来ることができないほど遠い所から来た人間なので」
「生まれ育った国が違えば、常識が異なるのも当然よね。逸話の中の神の子も、一風変わった人として描かれていることが多いもの」
「僕の出身地には“郷に入っては郷に従え”という、“よその土地へ行ったら、その土地の風習を尊重し、それに従え”という意味の言葉があります。その言葉通りに個人的な努力はしているつもりですが、教師としては心許ないと言わざるを得ません。
それにコルミは人格こそ幼い子供のようですが、心を読みとる能力のためか、偏りはあるものの知識は豊富で理解力も高く、なかなか返答の難しい質問をしてくることも多くて……」
これだけの説明では分かりにくいだろう。俺は具体的な会話例を交えて話すことにした。




