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リーダーライノス討伐

本日、4話同時投稿。

この話は3話目です。

 素材収集に精を出した翌日。

 優雅に遅めの朝食を楽しんでいると、唐突に外からドンドンと雷のような音が鳴り響いた。


「例のリーダーライノスが来たみたいですね。行きますか」

「食後の腹ごなしにちょうどいいな」


 グレンさんと2人で屋敷を出て、聞いていた村の溜め池跡地に向かう。グレンさんは一度村の周りを回った時に見た覚えがあったそうで、道中は特に迷うことはなかった。しかし、池に近づくにつれてより大きな物音と荒々しい気配を感じる。


 遠くからハイドの魔法で身を隠しながら様子を窺うと、体高3m程で体長は4m近くある巨大な魔獣が、溜め池周辺の放熱樹に体当たりを繰り返しているのが見えた。サイのような角に、長い体毛。キャノンボールライノスであることに間違いはないが、体格が資料にあった平均を大きく超えている。


「あいつが例のリーダーか。事前に聞いちゃいたが、本当に様子が変だな」

「キャノンボールライノスは草食で、体当たり自体は放熱樹の葉や枝を落として食べるためにやる行動だそうですが……食事にしては興奮しすぎていますね」

「飯食ってるようには見えねぇな。かといって何かと戦ってるわけでもなさそうだし、何がしてぇんだ?」

「さぁ……っ!?」


 巨大ライノスから10メートルほど離れた草むらに、体高・体長共に1mもない子供のキャノンボールライノスが隠れていることに気づく。咄嗟に俺は風魔法を放つと、同時にグレンさんが飛び出していく。

「キュオーン!!!」


 あれはおそらく、コルミの話にあった子供ライノス。甲高い鳴き声を上げて、無謀にも巨大ライノスに立ち向かおうとしているが——彼らが動き出す一寸先に、俺の魔法が届いた。しかし目に見えた効果はない。キャノンボールライノスは頑丈な体毛に加えて魔法耐性を持つと聞いているから、そのせいだろう。


 だとしても、一瞬注意が引ければいい。


「ドラァ!!」


 接近したグレンさんが、リーダーライノスの横っ面にハンマーを叩き込んだ。その衝撃によってリーダーライノスは体を大きく揺さぶられるが、悲鳴一つ上げない。それどころか血走った眼でグレンさんを睨みつけている。


 幸いと言っていいのか、リーダーライノスが暴れて踏み荒らしたおかげで、溜め池周辺は草木が倒れて少しだけ見通しがよくなっていた。空間魔法でグレンさんの隣に並ぶ。


「グレンさん」

「ああ、しっかり叩き込んだってのに効いちゃいねぇ。コルミといい、この村はこんな奴ばっかりだな……面白れぇ!」

「面白いんかい!」


 本当にこの人は頼もしいけど、この状況を楽しめる感覚は理解しがたい。


「アレ、しばらく任せていいですか?」

「おう、チビの方は頼むわ」


 そう言って、再び殴りかかるグレンさんと、彼を叩き落とすべく、鬱陶しそうに角を振り回しながら追いかけるリーダーライノスを尻目に、子供ライノスに目を向ける。


「キュー!!!」


 途端に、こちらを威嚇してくる子供ライノス。さっきの俺達の位置からは見えなかったが、彼?の後方には、コルミが言っていた母親らしき成体のキャノンボールライノスがいた。


 母親は屋敷にいた村長達と同じく、姿は完全に生きているみたいだが、その首元には大穴があき、後ろ足は折れた上に潰れている。状況的にまず間違いなく、リーダーライノスにやられたのだろう。アンデッドなので母親の体は徐々に再生しているが、すぐには動けそうにない。


 それで子供ライノスは母親を守ろうとしていた。そして今も俺から守ろうとしているのだろう。


「心配するな、俺は敵じゃ……って、コルミがいなきゃ伝わるわけないよな」

「キュッ!」

「危なっ!」


 とりあえず意思を伝えるために契約するかと考えたタイミングで、子供ライノスが突進してきた。子供と言ってもサイに似た魔獣の子供。回避はできるが、気を付けないと怪我では済まない。特に今はグレンさんが引き付けてくれているが、リーダーライノスもいる。


 コルミとの約束を守るには……


「ちょっと手荒になるけど我慢してくれよ!」


 意味はなくとも宣言しつつ、池を背にして全身に気を全力で巡らせる。

 子供ライノスは猪突猛進、真っすぐに突っ込んで容赦なく角を突き立てようとしてきた。

 そんな全身全霊の突進を体に受ける——直前で自ら後方に体を倒して、相手の首と角を掴む。


「お前は離れとけ!」

「キュオーン!?」


 強化した全身を使った変則的な“巴投げ”で、子供ライノスは空中で弧を描く。そして背後の池 、母親の近くに着水した。キャノンボールライノス同士の戦いでは相撲のように投げられた、あるいは倒された方が負けを認める事があるらしい。これで小さい方がこれ以上襲ってこない事を願うが……念を押しておこう。


「そうだな……『ステイ』!」

「キュウ!?」


 水中から岸に上がった子供ライノスに向けて、“母親の傍にいろ”という思いが伝わるイメージで闇魔法を放つ。恐怖を感じさせる“フィアー”のように、漠然とした感情だけでも通じれば十分。通じなかったとしても、襲ってこなければ今はそれでいい。


 即興だったが、子供ライノスはこちらを警戒しつつ、後ずさりをするように母親の首元に近づいていく。


「こっちはこれでいいとして……ん?」

「おい! どうした! 来いやオラ!」

「クオォオオォオ!!!!!!」


 何をやっているのだろうか……グレンさんは大声を上げて挑発をしているようだが、リーダーライノスはまったく意に介すことなく、池と岸をジグザグに走って泥を巻き上げていた……かと思えばまた放熱樹への体当たりを始めるし、グレンさんと戦うどころか、存在に気づいてすらいないようにも見える。


(早いところどうにかしないと、俺はともかく親子ライノスの方に行かれると困るな)

「グオォオオォオ!!!!!!」


 そんな思考がフラグになったのか、リーダーライノスが突然雄叫びを上げ、一直線に俺へと向かってくる。


「っと!」


 咄嗟に『フィアー』を放ちながら、親子とは反対側の草むらに飛び込んで突進を躱す。


 するとリーダーライノスは鼻の上に生えていた角を前に突き出したまま、俺を追って方向転換。さらに俺が空間魔法で溜め池のほとりに転移すると、俺が居た場所を走り抜け、勢い余ってその先にあった木に衝突していた。


 驚いたことに衝突された放熱樹は傾き、壁のような太い幹には角が刺さった場所から亀裂が広がっている。


「分かっていたけど直撃は即死だな……」

「おいリョウマ、あいつなんか妙だぞ」

「妙って、そんなの最初からでしょう」

「違う。あいつの行動もおかしいが、俺が言いてぇのは強さだよ。あいつ、防御力だけなら俺が昔戦ったSランクのドラゴンと同じくらいかもしれねぇと思うんだが、それにしちゃ案外弱そうっつーか……強化魔法で強くなったと思い込んでる雑魚みてぇな感じもするんだよ」


 グレンさんがそう感じたのなら、信憑性は高い。強化という点を念頭に置いてリーダーライノスを見ると……先程までの興奮状態はどこへ行ったのか、半開きの口から盛大に涎を垂らし、今にも眠りそうにフラフラ歩いている。先程突進して来た時のような敵意も一切感じない。


 そんな姿を見て、何かを思い出しそうになる。


 強化、興奮状態、眠気……!!


「グレンさん、あの魔獣と戦っていて、体のどこかに“紫色の斑点”を見ませんでしたか?」

「紫色? それなら口の中がそんな感じだったぞ。ほれ」


 ハンマーで示されたリーダーライノスの口元をよく見ると、確かに鮮やかな紫色が所々に浮き出て見える。


「ああ、やっぱり」

「なんだ、あれが何か関係あんのか?」

「あのキャノンボールライノスは“ドーピングビー”に刺された可能性が高いです。蜂の魔獣の一種で、分泌する毒には強い興奮作用と鎮静作用、そして他種の魔獣を強化する作用があります。なんでも巣の近くの魔獣を毒で強化して暴れさせることで敵を排除するそうで、刺された箇所が紫色になるのが特徴ですね」

「そんな魔獣もいるのか」

「あのキャノンボールライノスを見る限り、いるみたいですね。事前にギルドに依頼して用意してもらった資料には載っていなかったのですが……存在自体が希少な種ですし、この広大な樹海じゃ見逃されていたのかもしれません」

「ここだと魔獣が多少凶暴になっても分からねぇだろうしなぁ……つか、そんな資料にも載ってない魔獣をよく知ってたな」

「ドーピングビーから取れる針と蜜が薬の材料になるので、そっちで気づきました」


 気づいた、とはいえそれで状況が変わるわけではない。今は大人しいが、じきにリーダーライノスは再び暴れ始める。その前に倒してしまいたいけれど、グレンさんの攻撃を何度か受けても平然と動ける相手だと、並みの攻撃では通用しそうにない。


「毒の効果で痛みを感じにくくなっているだけで、攻撃が効いていないわけではないはずです。じっくりと攻撃を続ければ、いつかは倒れますが」

「面倒臭ぇ。相手があんな状態じゃ面白くねぇ」

「ですよね」


 言うことが大体予測できるようになってきた。そうなると特に強力な一撃を急所に叩き込むしかない。そのためには——


「グォオオオオ!!!」

「また興奮しやがった」

「『バインドアイビー』!」

「グオウッ!?」


 周囲の放熱樹に絡まっていた蔦を木魔法で操り、リーダーライノスを絡め捕る。蔦そのものも強靱だが、絡み合えばさらに強固な拘束具へと変わった。


 しかし、長くは持たない。リーダーライノスが体を大きく前後左右に動かす度に、蔦が徐々に千切れていく。


「『マッドプール』!」

「グォア!?」


 ダメ押しの魔法で地面と溜め池の水を混ぜ、リーダーライノスの足元に泥沼を生む。蔦はギシギシと悲鳴を上げているが、リーダーライノスは踏ん張りが利かず、引きちぎるだけの力を出せていない。接近戦主体の俺としてはあまり使わない魔法だけど、習っておいて良かった。


「グレンさん!」

「お? ああ、そういうことか。んじゃ思いっきり行くぜ!」


 俺が腰から()を抜き、変形させると、グレンさんは周囲の放熱樹を蹴って上へと昇っていく。どうやら俺のやりたいことは理解してくれたようだ。俺も空間魔法で、まともに身動きのできないリーダーライノスの首元に飛んだ。


「っと」


 拘束から抜けられないとはいえ、もがき続けるキャノンボールライノスに振り落とされないよう、蔓を足場に体を固定。魔力感知に集中し、鞘のメタルスライム達と視界を共有する。


「グルルルゥォオ」


 足元から響く敵意むき出しの鳴き声と揺れ、頭に流れ込む膨大な情報が邪魔をするが、気合で押し込み集中。


「ここか!」


 回復魔法の要領で、リーダーライノスの魔力体から正確な脳の位置を見極め、目印として変形させた鞘を突き立てる。湾曲した鞘から真っ直ぐで空洞のない棒状に。鯉口は漏斗のように広げた平面に、逆にこじりは尖らせたそれは、巨大な()に近い物体。


「行くぜぇ!!」


 はるか上空、放熱樹の頂上付近の枝を足場にしたグレンさんの声が聞こえた。視線を向けることすらなく、気を用いて全力で体とメタルスライムを強化した、直後。


「——!!」


 降ってきた大声と衝撃が、手元から全身を貫いた。

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― 新着の感想 ―
ハンマーヘル!
あ〜!!!うちのメタちゃまが… いつも手荒すぎです(T ^ T)
[一言] ロマン武器パイルバンカー…で良いのか?
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