大規模な討伐依頼
本日3話同時投稿。
この話は2話目です。
翌日
今日もお嬢様は昨日の反省を活かして廃坑で訓練をするらしい。
そして俺はというと、ラインバッハ様に今日冒険者ギルドへ出される廃鉱山の魔物討伐依頼を受けてくれと言われた。お嬢様は一緒に行けば良いと言ったが、ラインバッハ様と奥様に反対された。
昨日改めて分かったが、俺とお嬢様では戦闘経験が段違いだ。実際の戦闘能力も大きな差がある。討伐という点では非効率的な上、お嬢様が俺に頼りすぎる可能性があるらしい。
確かに俺も頼られたら断らないだろうしな……
という訳でギルドに行くと、ギルドマスターの部屋に呼ばれた。
「来たか、リョウマ」
「お呼びとの事で、何かありましたか?」
「たいした事じゃないがな。さっき公爵家の執事が来て明日からの魔獣討伐依頼を出された、それに関してちと確認したい。お前さん、昨日廃鉱に行ったか?」
「行きました」
「そこで出た魔獣を教えてくれ。後は荒れ具合もだ。必要な情報は執事からも聞いたが、情報は多く集めておきたいんでな」
「なるほど。僕が戦ったのはケイブマンティスとケイブバット、それにスモールマウスで、お嬢様はスライムも倒したそうです。あと、廃坑内にメタルスライムも居ました。
荒れ具合は人の手が長いこと入っていない感じで、雑草だらけでしたね。ただ僕の入った廃坑の作りはしっかりしていましたし、他所も地盤が緩んでいたり落盤していたりという話は聞いていません」
「ならGランクからでも依頼を受けさせて大丈夫そうだな。しかしメタルスライムも居たのか」
「ええ、その時は別行動だったんですが、プレゼントに捕獲してきてくれまして。契約しました」
「そういやお前さん、スライムばっかり集めているんだったな。聞いた話だと1000匹以上だとか」
「そうですね、今はスティッキースライム728匹、ポイズンスライム323匹、アシッドスライム211匹、クリーナースライム11匹、スカベンジャースライム3033匹、ヒールスライム2匹、メタルスライム1匹、ただのスライム1匹の計4310匹になります」
「集めすぎだろ」
ここまで多いとは思っていなかったのか、若干苦笑いを浮かべられた。
「スカベンジャースライムがこんな数になったのはこの前の件が原因です。アレのせいで短期間に何度も分裂して、3000匹を超えたんですから。
スライムはほぼ水だけで生きられるので楽ですが、これが他の魔獣だったら餌代に困って必死で働かないといけない所です」
「そうか……っと、そうだ、また汲み取り槽の掃除の依頼が出ているんだ。できれば受けてくれ」
今日の仕事はまだ決めていないのでそれは構わないけど、早くないか?
「前のあれから数日しか経ってませんが?」
「前回長いこと掃除されなかったんだ、次いつ掃除されるか分かんねぇから今のうちから依頼出しておこうぜ! って考える連中が大勢いたみたいでな。長期間来なきゃ苦情を死ぬ程出してやるって脅し付きで。
役所の方は結局スラムの連中を説得できなかった。一部の職員が処理をさせられたそうだが、今まで踏ん反り返っていた奴らだからな。お前さんとは仕事のできが違うのさ」
「なるほど……了解です。今日は何本ですか?」
「30本全部、いけるか?」
「前回でスライムの処理速度が向上したので、丸1日使えば何とかいけるかと……量も少ないでしょうし」
「なら全部頼むわ、街の連中がうるせぇんだ」
「了解です。あ、廃坑の討伐依頼の手続きは?」
「大丈夫だ。今日依頼から帰った時にでも手続きするといい。人数制限はねぇし、話も通しとく」
「わかりました、それでは……あ」
俺はその後、明日以降討伐された魔獣をスライムの餌として買い取れないかと思いつき、二つ返事で許可が出たことに喜びつつギルドマスターの部屋をあとにして前と同じ受付嬢さんのいた受付で手続きを行った。
なおその際、受付嬢さんの名前が“メイリーン”であることと、前回の件で俺は1本で1つの依頼に相当する汲み取り槽の掃除を30本分行い、内容問わず20件の依頼達成というGランクからFランクへの昇格条件を満たしているため、今日からFランク冒険者として扱うと伝えられた。
ちなみにEランクへの昇格条件は30件以上の依頼達成と1件以上の討伐依頼の達成。前回の余剰分10件と今日の分を合わせ、明日からの魔獣討伐に参加すれば晴れてEランク冒険者となれる見込みだ。
日に一つ上がるなんて早過ぎないかと聞けば、メイリーンさんからはこんな答えが返ってきた。
「確かに早いとは思うけど、Eランクまでなら魔獣討伐でも大人なら大抵有利に戦える弱い相手ばかりだし、全体的に誰にでもできる仕事が多いわ。だからこの期間はどちらかと言うと、ギルドが冒険者を観察する期間なの。
受けた依頼の達成率や頻度を見て、この人は途中で依頼を放り出しちゃう人なんだな~とか、この人はあまり頻繁に仕事を請けないけど確実にこなしてくれる人なんだな~とかね。まじめに働いていれば、条件なんて無いようなものなのよ。
その点リョウマ君は今のところ一度も依頼の失敗がなくて、この間の関係者からは評判いいから問題ないわね」
との事だった。評判が悪くないことにホッとした反面、受付を離れた直後にボソッと呟かれた
「まったく、無理して依頼を失敗するくらいなら、君みたいに雑用依頼を受けてくれた方がよっぽど助かるのに……駆け出しの子は特に嫌がるのよねぇ……」
という彼女の呟きが耳に残った。
普通の新人冒険者は雑用依頼を嫌うのか。……血気盛んな若者ならそうなのかもしれない。俺は今ある信頼を裏切らないよう、時々は受けることにしよう。
俺はそう心に決めて今日の仕事へ向かう。
次の日
二度目の汲み取り槽の掃除はつつがなく終わり、昨夜は早めに寝たため余裕を持って目が覚める。時刻は朝の5時。
とりあえず朝の用意を整えるが、それでも時間は有り余る。男の用意なんてそれほど時間がかかるものでもない。これが女性ならもっと時間はかかっただろう。
スライムに餌をあげたりしつつ時間を潰し、適当な時間に宿を出てのんびりと冒険者ギルドへ向かうと、ギルドには大勢の冒険者がつめかけ、道には何台もの馬車が行き来していた。
「思っていたより多いな……」
ギルド前に止まる馬車はすべて、討伐依頼に向かう冒険者のための乗合馬車だ。朝の8時までにギルド前に来ればタダで乗れると受付で聞いたけど、こんなに人が集まるとは思わなかった。
混んでいるなら、時間に余裕もあるし朝の運動がてら走ろうか? 11時までに廃坑前に集合できればなんでもいいという話だったし……
どうしようか考えていたら、遠くから声がかけられた。
「おーい! リョウマ!」
「え? あ、ジェフさん!」
声をかけてきたのはジェフさんだ。よく見るとその隣にはレイピンさんとシェール君も居る。
「お早うございます、ジェフさん、レイピンさん、シェール君」
「おう、おはようさん」
「おはよう、リョウマ君」
「おはようなのである。リョウマもこの依頼を受けたのであるな」
「はい、皆さんもですか?」
「俺たちゃおっさんからの指名依頼でな。今回の依頼はGランクでも安全だろうが、もし大物の魔獣がいたら大惨事になるから、ってことで俺達も参加だ。俺とレイピンだけじゃなくてミーヤやアサギも来てるぜ。もう先に行っちまったけどな」
「今までもこういう大きな依頼はあったけど、今日は特に参加者が多いね……」
「それは仕方がないのである。今回の廃鉱にいる魔獣はGランクでも問題ないとされるものが殆どであり、この領の領主からの依頼で参加するだけでもそれなりの報酬が貰え、なおかつ倒した魔獣の死体を持ち帰れば微々たる額だが追加報酬も出る。
稼ぎの少ない低ランク冒険者にはこれ以上無い稼ぎ時である。戦えない者でも死体を拾い集めるだけで報酬が出るのであるからな、これで行かぬ者は居ないのである」
「しかし誰なんだろうな? 追加報酬を払ってまで魔獣の死体を買い取る奴は。確認された魔獣リストを見たが、どれもこれも売り物になる部分なんか取れない雑魚魔獣だぜ?」
「こんな大規模討伐で出るほどの量は研究に使うにも多すぎる。こちらには得しか無いので良いのであるが、確かに気になるのである」
「いや、大した使い道じゃないですよ。従魔の餌にするんです」
「リョウマ君、何か知ってるの?」
「知ってるも何も、魔獣の死体を買い取るの、僕ですから」
「なんと、魔獣を買うのはリョウマだったか。スライムの餌にするのなら納得である。……リョウマの飼うスライムは数が数であるからな……」
「普段はどうしてるんだ? あれの食事」
「凄く食費がかかりそうだけど。従魔って種類によっては凄いお金がかかるらしいし」
雑談をしていると、新しい乗合馬車がやって来る。せっかくなので、このまま3人と一緒に乗り合い馬車に乗る事にした。
数時間後
馬車は無事に到着。廃鉱山入口前に設営されたギルドの簡易受付に到着した事を申し出るように御者から通達された俺たちは、言われた通りに申し出を済ませて待機。やがて11時になると例の広場に集まるようにと集合がかかる。
「今日の参加人数は264人! 討伐は安全のためそれぞれの6人ずつのパーティー毎にやってくれ! 獲物の取り合いは無しだ! パーティーに所属してない奴はこっちで班を分けておいたから確認して集まってくれ! 最後に……今日から稼げるうちに稼げよ!」
ギルドマスターの簡潔な作業開始の号令に方々から声が上がり、そのままそれぞれ集まって坑道に入っていく。
……え、今ので終わったの? こうしちゃいられない。俺はどこの班に入ればいいんだ?
班分けを確認してみるとメンバーはジェフさん、ミーヤさん、ウェルアンナさん、ミゼリアさん、シリアさん。見事に知り合いのみで気楽だけど、これはギルドマスターに気遣われたか? とにかく合流しなければ……
周囲を見渡して探すと、ウェルアンナさんを先頭に5人が俺の方に歩いてきているのが目に入る。
「ウェルアンナさん、今日はよろしくお願いします。他の皆さんも、よろしくお願いします」
「よろしくな、リョウマ」
「よろしく頼むにゃ」
「よろしくお願いしますね」
「先輩冒険者としてしっかり指導してあげるからね」
「ミゼリアにそれは無理だろ。さっきぶりだが、よろしくな」
「ちょ、ジェフ! それは私に失礼じゃない!?」
「お前は腕はあってもそそっかしいからな」
「何よそれ!」
「何やってんだいあんたたち……リョウマ、こいつらはほっとくよ。で、戦力の確認なんだけど、リョウマの武器は? あとケイブバットとスモールラットはいいとして、ケイブマンティスとは戦った事あるかい?」
「ケイブマンティスとも戦った事はあります。普段は弓を使っていますが、短剣と格闘も出来ます。後は魔法で」
「じゃあリョウマは魔法で飛ぶ奴を中心に攻撃してくれ、ウチの班、リョウマ以外攻撃魔法使えないから」
「全く使えにゃい訳じゃにゃいけど獣人は魔力がすくにゃいから、あたし達の魔法はあんまり頼りにはしにゃいで欲しいにゃ。シリアは比較的魔力は多いけど……」
「私は回復魔法しか使えないので、あしからず」
「俺とミゼリアは魔法全般が苦手だ。無属性の強化と硬化以外は捨てた!」
「あんたと一緒にしないで、私は強化と硬化に特化してるのよ!」
「……言い方が違うだけでどっちも同じにゃ。で、リョウマの属性は何かにゃ?」
「全属性ですが、主に土を使います」
「全属性とはまた珍しいにゃ」
「戦い方のバリエーションが増えるね。土って事はアースニードル?」
「アースニードルとロックバレット。他の属性の魔法で、洞窟内で使えそうなのは氷属性のアイスアローと雷属性のスタンアローあたりでしょう」
「それだけ使えりゃ十分だね。よっしゃ、行くよ!」
こうして討伐は始まった。




