お宝発見?
本日、4話同時投稿。
この話は3話目です。
露出した魔石らしき物体に傷がついている所を見ると、さっきの手ごたえはこれを突いたのだろう。それ以上傷つけないように、丁寧に掘り出してみる。石の大きさは縦が人差し指くらいで、横幅は指2本分。色からして属性は闇属性。鑑定の魔法で確認すると、間違っていなかった。
しかし、どうやら魔石は1つだけではないようだ。たった今この魔石を掘り出す過程で、周囲から同じ魔石が幾つも顔を出している。スコップに纏わせたブレイクロックで周囲の土が崩れたから簡単に見つかったのかもしれないけど、手に持ってるものより大きい物もある。
……俺が感じたのは、この大量の魔石の魔力? ……とりあえず報告が先か。
「皆さん! 魔石を見つけました! 闇属性の魔石です!」
掘り出した魔石を、穴を覗き込んでいた皆さんに届くよう軽く投げて渡すと、セバスさんが受け取って鑑定したようだ。感心したような声が聞こえる。
「確かに、1級の闇属性魔石でございます」
その言葉で他の3人からも声が出る。1級、俺の鑑定ではそこまで分からなかった。おそらく品質はいいと思うけど、どのくらいなのだろうか? 気になったので聞いてみると、魔石には第1種・第2種・第3種という分類があり、その中から品質によって6つの等級に分けられる事を知った。
まず第1種に分類されるのは光・雷・木属性。
次に第2種に分類される闇・毒・氷属性。
最後の第3種が火・水・風・土・無属性。
この分類はその属性の希少性で分けられていて、1種が最も珍しくて価値が高く、そこから2種、3種の順に安くなる。なお、空間属性は魔石の存在が確認されていないため分類に含まれていない。
ちなみに魔石は同じ属性の場合、1つ上の等級になると値段が倍になるとのこと。第3種の魔石を例に出すと、こんな感じになる。
1級32000スート以上
2級16000スート以上
3級8000スート以上
4級4000スート以上
5級2000スート以上
6級2000スート未満
5級の魔石は魔法の杖として使うのに最低限必要な品質で、6級は庶民でも買える安価な魔法道具を動かすために使われる。電池のようなもの。
6級は5級以上の杖に付ける魔石を加工した時に出る魔石の欠片と一緒に売られている事があり、言い方は悪いが一般的には“クズ魔石”と呼ばれる。
基本的に質の良いものほど魔力を多く内包していて、用途も多くなるので、このような値段がつくのだそうだ。
次に第2種の魔石だが……これは第3種より希少なので、およそ3倍の値が付く。しかし第2種なら3種より高いという訳でもない。
1級96000スート以上
2級48000スート以上
3級24000スート以上
4級12000スート以上
5級6000スート以上
6級6000スート未満
この通り、第3種の魔石でも品質が良ければ下手な第2種の魔石より値がつく。
しかし今回の場合は、
「えーっと、その魔石は闇属性。つまり第2種で、品質は1級。属性も、品質も申し分なくて高いという事ですか」
「その通りでございます。魔石は高品質な物が採れにくいですし、良質な物が売りに出されれば魔法使いや職人等、様々な方が買い求めますので、ここまで高品質の魔石はなかなか見ることができません。
先程お教えした金額はあくまでも“最低額”、しかるべき所に売りに出せば、その2倍3倍の値にはなります」
「私も新しい杖のために闇属性の魔石が欲しかったから、リョウマちゃんさえよければそのくらいで買い取るわよ」
さっきの額で最低でも!? 1つで四捨五入したら10万スート、大金貨1枚なんて大金なのに!? しかもレミリーさん、即決ですか!?
「あのー、セバスさん?」
「はい、どうされましたか?」
「この奥、まだ同じ様な魔石がゴロゴロあるみたいなんですけど……」
そう伝えると、この品質の物が幾つもあるのかと驚かれ、とりあえず採掘できるだけ採掘してみる事になった。
ディメンションホームの中からアーススライムとダークスライムを出して、手伝ってもらう。最初はアーススライムのみ出すつもりだったんだけど、ダークスライムが外に出たがったから出した。どうやらこの周辺の魔力を吸いたかったようだ。
俺も時々、属性魔法を使うスライムには魔力をあげるけど、それは彼らにとって“おやつ”みたいな扱いらしく、普段の食事は勝手に自然の魔力を吸っている。ここはダークスライムにもいい餌場みたいだ。
アーススライムに土魔法で穴を掘って貰い、ダークスライムが魔石を拾い集め、俺が運搬。穴の外に居る4人が袋を引き上げて、品質を鑑定してくれた。そして、大小合わせて22個の闇属性魔石を発掘したところで、忘れかけていたあの感覚がやってくる。
「っ!」
その感覚に引き寄せられるように土魔法を使い、穴を掘った。やがて見えてきたのは、
「……大きいな、あの魔石……」
それは、大小様々な魔石に囲まれた、黒い柱のような魔石。高さは60cm程になるだろうか? 土の中から姿を現したその魔石は、これまで掘り出したどの魔石よりも美しく、強い魔力を感じさせーー
「!?」
思わずその魔石に触れようとした瞬間、今度は言葉にしようがない悪寒が体を包んだ。跳ね上がる心臓とどちらが早いか、咄嗟に後ずさり距離を取った俺の体からは、滝のような汗が吹き出している。
今のは何だ? あの石、ヤバイのか?
「リョウマちゃーん? また何か――すごい汗じゃない! どうしたの!?」
上から光魔法で俺の顔を照らしたレミリーさんが叫んだので、答える。
「今、すごく大きな魔石を見つけたんですが、それに近づいた瞬間、物凄く嫌な感じがしまして……」
「リョウマちゃん、一旦出てきて」
その声は、有無を言わさぬ真剣さを感じさせた。スライムと共に、言われた通りに穴を出ようとするが、あの魔石がどうも気になって、後ろ髪を引かれる。先程の悪寒を思い出す事で迷いを振り切り、穴から這い出ていく。
「『ディスペル』」
そんな俺を出迎えたのは、レミリーさんの魔法だった。穴から出たとほぼ同時に、魔法で生まれた光が体の中に染み込む不思議な感覚を覚え、同時に何かから解放されたような、爽快な気分になる。そして頭も働くように……いや、今までが鈍っていたように感じる。
「呪いですか?」
解呪の魔法が使われ、なおかつそれで何かが改善した感覚があったということは、そういうことなのだろう。
「闇属性の魔石が発掘できる場所では、時々その手の事故が起こるそうよ。闇は精神攻撃とか直接的でない攻撃を行う魔法だから、魔石に含まれる魔力の影響を受けてしまうのだとか。自分で採掘しないから、すっかり忘れてたわ」
「僕も迂闊でした。それと、ありがとうございます。僕1人だったら、呪われたことに気づくのも遅れていました」
「お礼なんていいわよ。一緒に活動している以上は協力し合うものだからね。呪いの対策も、後でできるだけ教えてあげるから、しばらく休んでなさい。私はその魔石の呪いを解いてくるから」
レミリーさんはそう言って俺の頭を撫で、一言“アンチカース”と唱えてから、穴の中に入っていった。
「お水です、どうぞ」
「ありがとうございます」
セバスさんからコップに入れた水とタオルを受け取って、汗を拭き、水を呷る。穴の中から光が溢れたかと思えば、十秒ほど経ってからレミリーさんが戻ってきた。
「レミリー、どうじゃった?」
周囲を警戒していたラインバッハ様がそう聞くと、レミリーさんは困った顔。
「うん、あれはどう話せばいいのか、とりあえず凄いものだったわ。あれ、魔宝石だったのよ」
魔宝石って確か、エリアから預かったネックレスに付いてたルビーもそれで、超高級品だったはずじゃないか?
そんなことを考えていたら、レミリーさんに“疲れているところ悪いけど、魔宝石を回収してきて欲しい”と言われたので、先程の魔石を発掘しに行く。またその前には、呪いを防ぐための魔法もかけてくれた。
……改めて見ると、さっき俺が魔石だと思っていた物は、大きな黒水晶のクラスターだった。前世の取引先の待合室にも水晶のクラスターが飾ってあったが、ここまで大きな物は見た事が無い。しっかり見れば気づけただろうに、それにも気づかなかった。やはり呪いで判断力が落ちていたのだろう。
それにしても、綺麗な黒水晶だ。こういう物を家とかに飾ったらオシャレかな? ……欲しいかもしれない。そんな気持ちが湧いてくる一方で、さっきまでのような悪寒は感じないのに、触れたくないとも思ってしまった。
だから、なんとなくクリエイトブロックを使い、土魔法でクラスター全体を包む。魔宝石を封入した分だけ大きくなってしまったので、アーススライムに道を広げてもらい、気功を使って一気に運び出した。
「こ、これは」
「凄いものじゃが、扱いに困るのぅ……」
「呪いがかかっていなければ、確実に国宝級だな」
搬出して土を取り除くと、既にこの黒水晶を見ていた俺とレミリーさん以外が絶句した後、かろうじて感想を搾り出していた。予想はしていたが、この魔宝石は希少性、質、大きさ、どれをとっても規格外。高級品に慣れ親しんでいる皆さんでも、売りに出したらどれほどの値がつくか分からないそうだ。
俺はもう金額が大きすぎて想像できない。売りに出したら騒ぎになりそうだから売るつもりもないし、ずっと家に置いておこう。
「リョウマちゃん、もしよかったら、この魔宝石を譲ってくれないかしら?」
「え、これをですか?」
唐突なレミリーさんの申し入れは、即座に断ろうと思った。しかし、その瞬間に違和感を覚える。俺はどうしてすぐに断ろうとしたんだろう? どうせ売ったら悪目立ちしそうだし、レミリーさんはタダとも言ってないのに……話も聞かずに断るほど執着はしてないつもりだったけど、やっぱり欲しかったのかもしれない。まぁ、かなり高価な物らしいし、これは仕方ない、のか?
「『ディスペル』」
自分の中の矛盾と相反する感情に困惑していると、レミリーさんがまた解呪の魔法を放つ。再び頭の中がスッキリとするが……大人組は渋い顔。
「やっぱり、呪いが解けてなかったのね」
「解けてなかった? 回収の時にまたかかったのではなくて?」
「その場合、私がかけておいた“アンチカース”が破られるはずだし、私がその魔宝石にディスペルをかけた時の手ごたえがおかしかったのよ。言語化は難しいけど……呪いが解けたというより、解かせてくれたというか……解けたとは思うんだけど、本当に解けたかどうか確信できなくて気持ち悪いのよ。
ちなみに、呪いの媒体となった物品を身近に置きたがる、執着を見せるというのも呪いをかけられた人によくある行動の1つよ」
さっきの質問は、それを確認するためだったのか。
「魔宝石の品質的には欲しいと思っても無理のない一品だし、判断は他にも質問をしてからのつもりだったけど、リョウマちゃんが自分で違和感に気づいてくれたから、そこは分かりやすかったわ」
「では早急に呪術師か祓魔師、もしくは教会で高位の聖職者に診てもらうしかないか」
「そうすべきね。残念だけど、私にはこれ以上できることはなさそう。呪い関係は解呪の“ディスペル”と防御の“アンチカース”、それを習得する為に覚えた基本的な呪いをいくつかしか使えないから。
幸いと言っていいのか、今のところ体調を崩すような呪いではなさそうだけど……リョウマちゃん、変なところはあるかしら?」
聞かれたので考えてみるが、先ほどの執着の話を聞いて納得してから、目の前の魔宝石への興味はだいぶ薄れた。先ほどは混乱したけれど、解呪の魔法を受けるとそれも解消された。他に心当たりもないので。まだ呪いがかかっているのか? という疑問がわくくらい、何もない。
「それなら慌てる必要はないわ。呪いは対象の魔力量が多ければ多いほど、効果が出にくくなるものだから。まずはここを出ましょう」
「そうじゃな、こんな薄暗いところでは、出る案も出まい」
「では戻ろう。……そうじゃった、この階段を上るのは骨じゃのう……」
「空間魔法で戻りましょう。アンデッドも減って安全ですし、脱出に時間をかけることもありますまい」
こうして俺達は塔を脱出し、亡霊の街の探索と常闇草の採取を終えた。最後は想定外のトラブルもあったが、特に症状らしい症状はなく、得るものは多い探索だった。




