飢渇の刑場
本日、4話同時投稿。
この話は2話目です。
「『シャドーバインド』」
レミリーさんの声と同時に、2体の甲冑の足元から黒いロープのようなものが飛び出した。それは瞬時に甲冑の腕から槍を絡め取ると、甲冑は糸が切れた操り人形のように崩れ落ちる。
「はい、捕獲完了」
「あっさりですね」
影の縄に絡め取られた槍は、見えない誰かに振り回されているかのように暴れている。魔力感知でも甲冑より槍の方から魔力を感じるので、この魔獣は槍が本体だったのだろう。
ひとりでに浮かび上がり生物を襲う武器で、アンデッド系に分類される“ロームウエポン”という魔獣の存在は聞いていた。魔力が溜まっている場所に長期間放置されたり、多くの人や魔獣を殺して血を浴びたりした武器はロームウエポンになりやすいらしいけど、
「昨日の看守の武器とか、この甲冑はどこから来たのでしょうか?」
「ゾンビやスケルトンは傷つくと再生するじゃろう? それと同じように、上位種のアンデッドは自らの一部として装備を生み出すのじゃよ」
「装備も含めて、生前の姿に近づこうとしているのではないか? と考えられております」
「そういうものなんですね……」
俺達が話している間も、ロームウエポンはもがくように暴れていた。しかし、レミリーさんがライトボールで追い討ちをかけると動かなくなり、拘束が解かれるとそのまま床に落ちる。相手が武器の姿をしていても、光魔法が有効であることには変わりないようだ。
それよりも、
「あれが影魔法ですか」
「シャドーバインド。見ての通り、実体化した影のロープで拘束する魔法よ。難易度は高いけど、ロープを出すだけじゃなくてある程度自由に操れるから、覚えておくと色々と便利よ。敵の拘束はもちろん、ちょっとした物の固定とか、咄嗟の時に命綱としても使えるわ」
「ぜひ習得したいです」
「だろうと思った。常闇草の採取が終わったら、もっと詳しく教えるわ。あと、これも見ておいて」
レミリーさんは地面に転がった槍に対し、再び魔法をかける。
「ディスペル」
淡い光が動かない槍を包み、しばらくすると槍に染みこむように消えた。
「ロームウエポンを倒すとただの武器になるのだけど、時々武器に闇属性の魔力が残っていて、呪いという形で所有者の精神や肉体に害を及ぼす事があるの。そしてディスペルは解呪の魔法。これを使ってちゃんと処理をすれば安全だから、自分で使ったり街で売ったりもできるわよ。
ちなみに呪いは闇魔法で人為的にかける事もできるから、その対策としてもディスペルを覚えておいた方が安心ね。影魔法と一緒に、後で教えてあげるわ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
その時が今から楽しみだ。飢渇の刑場は目と鼻の先だし、このまま採取も終わらせてしまいたいが……そうもいかないようだ。扉の先に多数の魔力を感じる。
「いますね」
「一番アンデッドが生まれやすい場所だ、仕方ない。入る前に確認するが、このまま私とリョウマが前、3人は後方からの援護でいいな? それからリョウマ、エンペラーはここに残して、挟撃される可能性を減らしてもらいたい」
「それが一番じゃな」
「接近戦は貴方達に任せるわ」
「私も異論ありません」
「僕も賛成です。スライムはキング1匹分だけ分離させて、残りでここを守ってもらいましょう」
そんな確認を終え、気を引き締めて、慎重に扉を開けると、
「「「キャアアアア!!!」」」
正面にいた3体のグールが素早く反応して、叫びながら襲い掛かってくるので、冷静に光属性の魔力を纏わせた刀で斬り倒し、ライトショットを連射しながら刑場に進入。
内部は聞いていた通り、反時計回りの螺旋階段が続いている。死刑囚を拘束するために一段がかなり広い。横幅がおよそ7m、縦が3mといったところ。下に下りていくと、一定間隔でさらに広い踊り場もある。足場はしっかりしているし、戦う場所には困らないだろう。
注意すべきは、螺旋階段の中心にある吹き抜け。昔は柵があったのだろうけれど、今は何もないも同然だ。なるべく壁際で戦い、押し込まれないように気をつけよう。
「どんどん来るわよ!」
下からやってくるアンデッドにキングスカベンジャーをけしかけるが、3つの影がキングスカベンジャーを飛び越えて来た。
「『ライトショット』!」
レミリーさんが即座に1体撃ち落とし、残り2体のグールは俺とシーバーさんで始末。その間にも、次から次にグールがやってくる。どうやら、ここのアンデッドは大半が上位種になっているようだ。
正面から突っ込んできた1体が爪を振り上げ、俺に斬りかかろうとする。確かにゾンビと比べると速いが――
「まだ遅い」
爪が振り下ろされる前にグールの胴を薙ぎ、続いて頭部を脳天から首元まで斬り倒せば、そのまま後ろに倒れて再生も動きもしない。上位種にも光属性を纏わせた一刀は十分に通用するのだから、囲まれることと落下に注意すれば、問題ない。
「このまま徐々に階段を下り、次の踊り場で迎え撃とう。スライムには適宜、足元に残った死体を処理させてくれ。溜まると戦いにくくなる」
シーバーさんの言葉に従い、襲ってくるアンデッドを倒しながら踊り場まで進む。ラインバッハ様、セバスさん、レミリーさんの3人は、階段の少し上から魔法で敵の数を削ってくれている。
上の3人の所にグールを行かせないように、光魔法を絶やさず、動き続けた。亡霊の街に着いてから一番激しくて危険な戦闘。にもかかわらず、気負いがない。体は全身のコリがほぐれていくように、調子がいいと感じる。まるで、シーバーさんとの試合の時のようだ。
……でも、まだ足りない。あの時と同じで、魔法と体の動きに微妙なぎこちなさがある。
「リョウマ! 魔法と剣を同時に使うのではなく、交互に使え!」
「! 了解!」
一体の眉間を貫くと、左右の斜め前からほぼ同時に2体が襲来。左の方が近いので、攻撃を躱して一太刀入れて蹴り、距離を空ける。続いて右の攻撃に来た腕を切り落とし、体に一太刀浴びせて時間を作る。
「シーバーさんの言葉に従うなら……」
自分から2体の間に入り、左のグールに向き合う。これで一直線、前後にグールがいる状態。ここから刀を担ぐように構え、切先から背後にライトショットを放ち、正面のグールを脳天から両断する。今の魔法と次の敵への構え、そこからの攻撃はスムーズだった。
「いいぞ! 武器の隙を魔法で補い、魔法の隙を武器で補う! それが魔法剣の戦い方の一つだ!」
「はい!」
今の感覚を忘れないように、さらに戦い続ける。煌めく刀が近くを薙ぎ払い、魔法が離れた敵を撃つ。刀と魔法の無限ループを繰り返すたびに少しずつ、だけど確実にぎこちなさが取れていく。
グールを相手に魔法と武術を合わせた戦い方を磨いていると、さらにシーバーさんから追加のアドバイスをいただいたので、すぐに反映させてみる。こうして戦い続けること……どのくらいだろうか? 体感ではほんの10分程度で刑場の最下層に到達、アンデッドの姿はなくなっていた。
「……終わりました?」
「ああ、終わったな。いい集中力だった。腕前だけなら、既に騎士団への推薦状を書いてもいいくらいだ」
お褒めの言葉をいただいたけれど、もう少し敵が多ければ、まだ改善できたと思う部分がいくつかある。及第点といったところだろうか? 魔法と剣の組み合わせは奥が深い。今後も訓練を続けていくとして……
「あっ、沢山ありますね」
飢渇の刑場の底には苔むした地面が広がり、その上にツヤのない黒色の草が群生している。この黒い草が、俺とレミリーさんの必要としている常闇草だ。
「想定よりも生えているわね、常闇草」
「こんな所まで採取に来る物好きはそう多くない。アンデッドのことも考慮すれば、しばらく誰も入っていないのだろう」
「品質はどうじゃ? 瘴気の影響などもあるのではないか?」
近くの常闇草を取って調べてみると、品質は最高に近い事が分かる。
「かなり良質ですね。僕の目的のためには十分です」
「私の方も問題ないわ。常闇草は瘴気にも強いし、わずかだけど瘴気を寄せ付けない効果もあるから。欲を言えば、アンデッドに踏み荒らされてないものを選びたいわね」
「これだけ群生しているのですから、探せばあるでしょう」
セバスさんが率先して、踏み荒らされていない常闇草を探し始める。俺達も続いて無事な常闇草を探し、採取をするが……ここで妙な感覚を覚えた。何か、違和感のような、それでいて懐かしいような……
「どうした?」
「いえ、何か……気のせいでしょうかね?」
妙な感覚を言語化できず、次第にその感覚が本当にあったのかも疑わしくなってきた。
「何もないならいいが、おかしな事があればすぐ言うのじゃぞ」
「はい」
特に異常があるわけでもないので、気のせいだろうと思って作業続行。次第に謎の感覚は頭から消えて、採取した常闇草で用意していた袋の5つ目が一杯になった頃。あの感覚を、先ほどよりもハッキリと覚えた。
「皆さん」
「何かあったのか? 先程も何か考えていた様じゃったが」
俺の呟くような声に、皆さんが反応し、ラインバッハ様が聞いてくる。
「何かあったかと聞かれると、上手く答えられないのですが……何かを感じませんか?」
「また漠然としているわねぇ……私は何も感じないけど」
「アンデッドも見当たりません」
皆さんは特に何も感じないそうだが、俺の言葉を信じて飢渇の刑場の底を調べてくれる事になった。もちろん違和感を訴えた俺も一緒に原因を探す。その結果、
「ここら辺です。このよく分からない感覚の発生源」
「ここ?」
俺が示したのは、俺達が下りてきた螺旋階段から少し離れた場所。刑場の中心部から、微妙に端に近づいただけで、何の変哲もない床の上だ。見た目に特別変わったところはない。でも、間違いなくここだという確信がある。
自分でもなぜそう思うのかが理解できず、非常に気持ちが悪い。という訳で
「ちょっと掘ってみてもいいですか?」
「法的な問題はございません」
「頑丈な造りだから、ちょっとぐらいなら問題もないと思うわ。でも気をつけてね」
刀になってもらっていたスティールスライムに、大きなシャベルになってもらう。おまけに魔力コーティングの要領で、土魔法のブレイクロックを纏わせ、掘り始める。……すると、掘るたびにあの感覚が段々と強くなってきた。
本当に何なんだろう? 嫌な感じはしないけど、良い感じもしない。生き物の気配でもない。何か分からない感じだけが強くなってくる……掘って、掘って、また掘って。体がすっぽりと穴に入っても掘り続け、穴の深さが4メートルほどまで深くなったところで、上から声がかかった。
「リョウマ君、大丈夫か?」
「もう結構掘っているけど、何かあった?」
ラインバッハ様とレミリーさんの声だ。
「どんどん近づいている気がします。たぶんもうすぐ、っ!? 何かの手応えがありました!」
報告してからスコップの先を見ると……
「魔石、か?」




