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腕試し

本日、3話同時投稿。

この話は2話目です。

 セバスがリョウマと共に宿を出た後、部屋に残ったレミリーが聞く。


「ラインバッハちゃん、貴方から見てあの子、どれくらい強いの?」

「正直に言えば、わからん。何度か訓練や魔法を行使するところは見たが、実戦を見たわけではないのでな……だが、出会った頃から既に盗賊の討伐をしていたらしい。先程話していた件でも、闇ギルドから送り込まれた刺客を返り討ちにしたと聞いている。腕利きと言って差し支えないとは思うが、底が見えん。だからこそ、シーバーに頼みたかったんじゃ」

「なるほどな……そういえば、レミリー」

「何かしら?」

「先程、魔法の話をしていたが、話の流れからして気付かれたのか? 気付かせたのではなく」


 その問いに、レミリーは怪しげな笑みを浮かべる。


「気になる?」

「当たり前だろう。昔から、悪戯半分に城の警備(・・・・)をすり抜けていたお前が言うのだから」

「あら、悪戯だなんて嫌ね。あれは警備の抜き打ち訓練でしょ? エリアスちゃんの指示もあったじゃない」

「それはそうだが、警備をする側としてはたまったものではなかったぞ。私や宮廷魔導師長、騎士団や衛兵の精鋭達がどれほど頭を悩ませたことか。警備体制の強化に繋がったのは認めるが、思い出す度に愚痴を言いたくなる」

「まぁまぁ、もう終わったことだしいいでしょ。でも、私も気付かれるとは思ってなかったのよねぇ。抱きつくどころか忍び寄った時点で見つかっちゃったわ。その後の警戒も含めて、猜疑心の塊……これは言いすぎかしら?

 少なくともセバスちゃんと会ったり、ラインバッハちゃんと話したりしているときは、表情も雰囲気も和らいでいた。それを考えると心の奥底、根っこの部分に、他人への強い警戒心や不信感みたいなものがあるのかもね」

「相変わらず、そういう目は確かじゃのぅ……わしも詳しくは聞いておらんが、過去の環境がよくなかったことは間違いなさそうじゃ。最初に出会った時など、人目の届かぬ森の奥に隠れ住んでおったからな。年齢に見合わぬ態度や発言も多く、人生に疲れたような印象を受けた。

 尤も、先程は前と比べて、若干だが明るくなったように見えたが」

「ふむ……あの子もあの子なりに苦労してきたのだろう。少なくとも子供と考えるべきではないか。よし、後は戦いながら見極めさせてもらおう」


 シーバーはそう言うと、足早に自室へと戻り、試合の準備を始める。


 彼の装備は現役時代から使っているハルバードと、退役後に購入した重厚な鎧一式。重く着づらいそれらを、着慣れた服のように素早く装着すると、ハルバードを手に取り感触を確かめる。そして、おもむろに独り言を呟いた。


「ああは言ったものの……この身体の老いが恨めしいな……」


 体の一部の様に軽々と振るえていた愛用のハルバードを、段々と重く感じ始めた。やがて、昔と同じように振るうには、長い修練の末に得た気による補助が必要不可欠になり、次第に技の冴えも悪くなっていく。


 周囲の人間は何度も“老いてはいない”、“まだ十分に職を全うできる”と彼を引き止めたが、自らの老化は止まらない。周囲の期待や職務への責任感で心と体を支えていても、限界を常に感じてしまう。故に彼の決意は固く、自身の後釜に座るに足る者が育った事を見届けて、騎士団長の職を辞した。


 その後もなるべく腕は落とさぬように、体の老いに抗おうと心がけているが、老いは心構えでどうにかなる物でもない、と思い知らされるばかり。昨夜などは酒を飲み、それを吐露していた。


 そんな彼の言葉を、隣で聞いていたレミリーは、


「時の流れはそんなものよ。貴方も私も、老いは受け入れるしかないの。でも、シーバーちゃんは心構えがあるだけ老いも緩やかだと思うわよ、気を抜いていたらもっと早く老いるもの」


 と、長命のダークエルフらしい、達観した言葉をシーバーにかけていた。それを思い出したのか、シーバーの顔に苦笑が浮かぶ。


「全くレミリーは……ダークエルフにも分かりづらいだけで老いはあると言うが、本当なのか? 年齢を正確には知らないが……私の倍近い可能性もあるというのに、初めて会った時と姿が変わらん。体の動きも衰えている様には見えん。あれで老いていると言われても納得がいかん。

 恥をしのんで秘密でもあるのかと聞いたら、心が若いから、とはどういう事だ。……いや、今そんなことを言っても仕方があるまい。今は試合に集中せねば」


 鬱屈とした雑念を払い、ラインバッハやレミリーのもとへ戻る。すると、既にセバスが戻ってきていたので、そのまま空間魔法で移動した。


 街の門を抜け、二度目の転移が終わると目の前には岩場。何故かその一部だけが綺麗に均されており、多くのスライムに囲まれたリョウマが駆け寄ってくる。


「胸を借ります、シーバーさん」

「こちらこそ、よろしく頼む。ところでこのスライムと地面は?」

「スライム達は僕の従魔です。あと地面の方は試合ができるように、魔法で均しておきました。訓練場の様にした方がやり易いかと思いまして」

「それは有り難いが、魔力は大丈夫なのか?」

「大丈夫です、土魔法を使えるアーススライムに頼みましたので」


 それを聞いて、シーバーは納得。


「成程。では試合のルールだが、騎士団式で良いだろうか?」

「えっと、騎士団式とは、どのようなルールでしょうか?」

「今回は1対1で、魔法も中級までならば使用可の実戦形式だ。武器は魔法武器でも構わない。決着が付くまでは、倒れた者への攻撃も許される。姑息で汚い手を使う者は好まれないが、そういう手を知っておかなければ、実戦で使い物にならんのでな。

 無論、故意に相手を死に至らしめるような行為は厳禁だが、それ以外なら何でもありと思ってくれて構わない。優秀な回復魔法使いがいなければ危険もあるが、幸い今はレミリーがいる」

「私は回復魔法も上級まで使えるわ。仮に手足が切り落とされちゃっても、切れてすぐなら繋げるから、安心してね。あ、あと簡単な結界も張っておくから、周りの被害は気にしなくてもいいわよ」


 リョウマはその言葉に驚きつつも、そういう物だと自身を納得させ、ルールについて1つ質問をする。


「武器の事ですが」


 言葉と同時にリョウマの持つ刀が一度歪み、再び刀の形に戻った。


「僕が使っている武器はスライムを変形させたものなのですが、1対1というルールに抵触しますか?」

「スライムが武器か……君個人の実力を見るという目的があるので、スライムに襲わせるのは反則とさせて貰おうか。あくまでも武器としての使用なら問題ないだろう」

「ありがとうございます」


 こうしてルールが決まり、互いに武器を構えて、整えられた試合場の上で向かい合う。審判を務めるのは、2人の間に立つセバスだ。


「では、始め!」

「ふっ!!」


 試合開始の合図と同時。シーバーが鋭い突きを放ち、リョウマは躱して間合いを詰める。

 そうはさせじとシーバーが石突を振りぬき、踏み込みを妨害すれば、リョウマは離れて火の矢を放つ。

 それを読んでいたかのように、シーバーは魔法を悠々と避けながら、風の刃を撃ち返す。


 その後も互いに魔法を撃ち合い、幾度も武器を打ち合わせるが、これはまだ小手調べ。相手の出方を窺っているだけであり、どちらも本気ではない。……しかし、もしこの試合をセバス達以外の、何も知らない誰かが見ていれば、そうは思わなかっただろう。


 2人の周囲の地面には、それまでの攻防で放たれた魔法の爪痕が散見され、その中心に居る2人は激しく己の武器を打ち合わせている。辺りに響く金属音、魔法の応酬による破壊音は、その激しさを如実に表す。とても試合で、なおかつ相手の出方を窺っている様には見えない激しさだ。


 開始早々に放たれたシーバーの突きも、小手調べと思っているのはシーバーとリョウマのみ。並の兵士や冒険者ならば、反応しきれずに貫かれている一撃。そんな攻撃の応酬が続く中、ここでシーバーが勝負に出た。


 ハルバードを振り上げ、リョウマの肩口に振り下ろすと共に魔力を通す。

 リョウマは一歩引いて躱すが、魔力が流された事を察知して、右に跳ぶ。

 次の瞬間、ハルバードから噴出する風の渦が、リョウマのいた場所に無数の浅い傷を付けた。


「これにも気づいたか」

「武器に込めた魔力を感じられなければ、今ので終わりでしたね」


 シーバーのハルバードは風の下級魔法の『ウインドカッター』と中級魔法『トルネードカッター』が込められた魔法武器。今の一撃は勿論、殺さぬように威力の加減がされてはいるが、直撃を受ければ戦闘不能かそれに近い怪我を負っただろう。


 魔力の感知。魔法として発動するつもりか、武器に込めたかの判断。判断の後の回避の実行。そのどれか1つでもできなければ、もしくは判断に迷いがあれば、リョウマの回避は間に合わなかった。しかし、リョウマは見事に躱して無傷。シーバーは心の中で賞賛すると同時に、一層気を引き締める。


 だが今の一撃で気を引き締めたのはリョウマも同じ。今度はリョウマが勝負に出た。


「『ファイヤーアロー』」


 リョウマが魔法を放ち、斬り込む。ここまでなら今までと何も変わらないが、リョウマは切り込む直前にもう一度、アースニードルを“無詠唱”で放っていた。


「っ!」


 正面から放たれた魔法と、それを避けた先を狙うようなリョウマの動き。その両方を囮にして、足元から音もなく飛び出る石の針。


 シーバーは冷静に判断し、矢も針も躱したが、それにより僅かな隙が生まれた。間合いが瞬時に詰められ、気を纏わせたハルバードの柄で刀を受け止めざるを得なくなる。


 この状況を打開すべく、シーバーは即座にウインドカッターを連発。リョウマの足止めをしつつ距離を取り、ハルバードからも風の刃を放つ。


 ここでシーバーの中にある疑問が浮かんだ。


(妙だ……この少年は私の魔法を防いだが、その後に反撃をしてこない。いや違う、反撃はしてくるが、不自然な間がある。剣術の腕前は見事としか言いようがなく、魔法も無詠唱まで使えている。が、その腕前の割に妙な“ぎこちなさ”がある。

 隙を見せてこちらの攻撃を誘っていると思っていたが、それにしては少々露骨……もしやこの少年……)


 打ち合いを続け、シーバーは自身が見つけた隙を軽く突いて、様子を見る。そしてシーバーは確信した。


(なるほど。おそらくだが、この子は魔法を身に付けて間もないのだろう。剣術は見事だが、魔法は我流か? 歳を考えれば十分以上だが、経験が足りん!)


 ここから、リョウマが劣勢になる。


 相手が魔法を使う事、それに魔法を使って対抗する事はこの世界では当たり前だ。しかし、リョウマの居た地球には魔法が存在せず、地球で学んだ剣術は、魔法と組み合わせて使う事は考えられていない。


 リョウマも独自に魔法の創意工夫を重ねてはいるものの、その期間はこの世界に来てからの4年間。それも森にいた頃は、生活のための魔法がほぼ全てであり、攻撃魔法を覚えたのは森を出てから。戦闘のための魔法に本腰を入れたのは、長くとも半年ほど前からだろう。


 対するシーバーは、元からこの世界の住人。初めから敵も自分も魔法を使う事を前提とし、騎士としての訓練により技を数十年にわたって洗練させてきた男。魔法の修練、そして実戦経験では、リョウマはシーバーの足元にも及ばない。


 これまでリョウマは、戦ってきた相手との実力差が“ありすぎた”。そのため、多少ぎこちなくとも、生兵法でも問題にはならなかった。


 しかし、シーバーは武術においてリョウマと拮抗できる実力を持ち、なおかつ魔法の運用はリョウマを超える。その実力差はリョウマの僅かな隙を見抜き、的確に突くことを可能にすると同時に、リョウマには苦戦を強い、シーバーに僅かな余裕を与える。


 だが、


「ヌゥッ!?」


 その状態は、長くは続かなかった。


 一時的な劣勢、その原因が自らの魔法にあること。シーバーを相手にするために、自分自身の魔法はまだ未熟であること。それを僅かな攻防で自覚したリョウマは、決断した。


 “魔法を使うと隙が出来るのならば、使わなければいい”

 “自らが長く鍛え抜いた剣術1つに全身全霊を込め、相対すべきだ”


 そう、自らを戒めたリョウマの戦い方が変わる。

 全身に滾るような気を巡らせ、懐に飛び込んでの突きは、速度も精度も格段に増した。

 シーバーも負けじと反撃に移るが、先程までの僅かな余裕は完全に消える。


 そこからの試合は、熾烈を極めた。


 シーバーがハルバードを左上から右下に振るい頭部を狙えば、リョウマは右斜め前に半歩踏み込み、体を沈めて円を描く刀で受け流した。さらに、そのまま左足を大きく踏み込んで間合いを詰め、シーバーの左足を刈り取ろうとする。


 シーバーは体を捻りつつ後退することで刃から逃れると、リョウマの足に向けてハルバードを振るい牽制。それを躱して追撃を狙うリョウマに魔法を放ち、回避先を読んで魔法武器のトルネードカッターを叩き込む。


 地面が大きく抉られ、土砂が風に巻き上げられた。周囲には土煙が舞う中、肝心のリョウマはかろうじて躱す事に成功。土煙を押しのけて、再びシーバーに斬りかかるべく駆ける。


 こうして互いに、全力で力と技をぶつけ合い、数分が過ぎた頃……余計な事を考える余裕の無いやり取りの間で、シーバーは忘れて久しい充実感を覚えていた。


 老いて力を失ったと思っていた肉体には力が戻り、鈍ったと思っていた技が研ぎ澄まされていく感覚。それが心地よく、シーバーは無心にハルバードを振るい、魔法を放ち続ける。


 しかし、それも無限に続きはしない。激しい戦闘の中、不意に両者の距離が離れると、重い圧迫感を放つ視線が交差する。申し合わせたわけでは無くとも、2人は同じ事を考えていた。“次が最後だ”と……


「「はっ!!」」


 張り詰めた一瞬の緊迫感の中、同時に裂帛の気合を込め、最後の攻防が始まる。


 リョウマは刀の切っ先をシーバーに向けて抱える様に構え、体に巡らせていた全ての気を下半身に集中させた。これにより爆発的な脚力を得たリョウマは、2人の間に距離など初めから無かったのではないか、と錯覚する程の速度で間合いを詰める。


 尋常ではない速度で迫るリョウマに対し、シーバーはハルバードに魔力を込め、更に無詠唱でトルネードカッターを使った。自身と魔法武器によって威力を倍加させた風刃の渦は、リョウマを迎撃する渾身のひと突きと共に放たれる。


 高速で突き出されたハルバードの穂先が、リョウマの体を捉える刹那、リョウマはそれを紙一重で回避。しかし、ハルバードが纏う竜巻と風の刃までは避けきれず、頬と肩、そして体の左半身数箇所に浅い切創を受け、吹き出た血が吹き飛ばされていく。


 それでも構わず、リョウマは更に踏み込む事でそれ以上の負傷を逃れ、気を集中させていた下半身から全身に戻しながら突き進む。その攻撃後の隙を狙った体当たりにも近い突きに対し、シーバーは腰を思い切り捻ることで、負傷はしたものの、左脇腹を浅く裂かれるに留めた。


 勢いそのままにシーバーの脇を駆け抜けたリョウマは、気で強化された足腰で思い切り地を踏みしめ、無理矢理に体の勢いを止めて反転。突き出していた刀を背負う様に振りかぶり、足と膝にかかる負荷をバネに変え、弾けるように飛び出した。


 一方のシーバーも負けじとハルバードを引き戻し、迎撃の構えを取る、次の瞬間。


 暮れかけの陽光を受けた2つの刃が閃き、赤々とした血飛沫が舞った――

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― 新着の感想 ―
[一言] 良いですね。 考えてみれば、リョウマとまともにやり合える存在なんてのは、父親(ダメ親父)くらいでしたか。 一応こっちの世界に来てから、ジャミール公爵家の上の方3人が加わったわけですが。 ただ…
[良い点] 2話更新という予告のところ、3話も更新していただけてありがたい。 [気になる点] > スライムに襲わせるのは反則 自分で帰ってくる無限おかわり矢はどっちに入るのだろうか。
[良い点] あっつ、おもしろ、更新頻度が気にならない面白さがある
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