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終わりは始まり

本日、2話同時投稿。

この話は2話目です。

 公爵夫妻がギムルの街を訪れてから、ギムルの街の復興は加速度的に進んだ。


 徐々に他の街からの物資も届くようになり、一月が終わる頃には厳しい冬も過ぎ去って、毎日のように降り積もっていた雪が解ける。それにより滞りがちだった街道の行き来が活発になり、流通も回復した。


 その頃になると、俺が復興の手伝いをする必要はほとんどなく、冒険者として街の近くでできる討伐依頼をこなしながら、事業移管に関する各種手続きを進めた。


 警備会社は俺の手から離れ、以前から決めていた通り、公爵家が管理する。雇われていた人員は、ほぼ半分が給金を持って故郷に帰り、残る半分は公爵家で雇用するか、新しい働き口を紹介してくれるだろう。


 警備会社に併設されていた病院も同じく、公爵家にお任せしたけれど、こちらは職場に被害が出ていた医療従事者の方々に場所を提供する形で経営を継続中。マフラール先生や研修医の4人とも交流し、共に勉強や研究をしながら働いているので、だんだんと大学病院のようになりつつある。


 洗濯屋・バンブーフォレストはまだ俺が権利を握っているけれど、元副店長として俺の補佐をしてくれていたカルムさんに店長の座を委譲。経営は完全に委託する形にして、俺はオーナー兼、新設した“営業部”の部長の座に就いた。


 営業部長としての仕事は様々な街を渡り歩き、次の支店の予定地を見つけること。また、バンブーフォレストの顧客を獲得するために、どのようにお客様にアプローチしていくかを考え、カルムさんと相談すること。


 ……ぶっちゃけて言えば、冒険者活動のついでに行った街を見て回り、良さそうな場所の情報や思いついたことを、ギムルに帰った時に報告するだけだ。これまでよりも自由度が高くなるだけで、俺のやることに変化はない。


 なお、ゴミ処理場や建築関係、食堂やホテルなど、色々と手を出していた事業も、店長のできる人を雇って経営を任せてある。例の件で被害を受けた人の中には、自分の店を失った経営者も少なくなかったので、そういう方々から希望者を募ることができた。災い転じてなんとやら……というと少々不謹慎かもしれないが、お互いに助かる形で話がまとめられたと思う。


 あとは、公爵家の技師になったことで、俺への信用も上がったのだろう。求人には経営者だけでなく、そのお店で働いていた従業員、警備会社やテイマーギルド所属の従魔術師からも、沢山の人が応募してくれた。


 手続きよりも面接のほうが大変になったけれど、おかげで細々とやっていたお店は全て委託できたし、洗濯屋の従業員も増やせた。今は“経理部”、“接客部”、“警備部”、“スライム管理部”に分けて新人教育中。今回雇い入れた方々は経営や接客の経験者が多いので、最初から手際のいい人もいて、仕事も教えやすいみたいだ。


 ちなみに指導担当はギムル本店の方々と、支店長候補として雇用していた元スライム研究者の3人。丁度いい時にレナフの街の支店から、彼らが“一通りの教育を終え、店を任せられると判断した”との連絡を受けたので、この機会に戻ってきてもらい、それぞれに新たな支店と新人教育の一部を任せた。


 彼らの下でうちの店のやり方を覚えてもらい、信用できるとカルムさんが判断した暁には、彼らの中から新たな支店を任せる人材が出てくることだろう。

 

 もちろん、本人にその気がなければ強制はしない。失った店を建て直すため、あるいは生活や独立のための資金稼ぎと割り切って働くのであれば、それはその人の自由だ。故意に店や従業員に損害を与えたり、クリーナースライムを盗んだりしないのであれば、好きにすればいい。


 資金面については、俺の技師就任や事業移管に伴って、公爵家からの補填金や研究費といった形で少しずつ、これまでの出費総額以上の金銭をいただくことになっているので、潤沢である。この状況に甘んじているようではいけないけれど、心配する必要もない。


 ……そんなこんなで二ヶ月が過ぎた頃からは本格的に、冒険者活動に専念。リムールバードと従魔を目印にした長距離転移魔法を活用し、手当たり次第に依頼を処理した。また、討伐依頼には複数人でなければ受注できないものもあったので、そういう時には手の空いている誰かと一時的にパーティーを組んだ。


 一番多いのは、店の従業員で都合がつけやすく、冒険者資格を所持していたフェイさんとユーダムさん。次に、なんだかんだで交流が続いている若手の元不良冒険者集団。街の近くでの仕事では、ミーヤさん達とも時々一緒に仕事をしている。


 そんな風に、ひたすらランク上げに勤しむ日々を送り……三ヶ月が経過した、今日。


「依頼の完遂を確認しました。これをもちまして、リョウマ・タケバヤシ様は昇級試験に合格、Cランク冒険者となります。おめでとうございます」

「ありがとうございます」


 旅の途中で昇級条件を満たし、試験を受けてとうとうCランクになれた。

 しかし、その弊害として、ちょっとした問題も発生している。


「念のための確認ですが、これは正当な手続きと冒険者ギルドの判断によるものですよね?」

「もちろんです。タケバヤシ様は依頼達成、魔獣や盗賊の討伐が多くはありますが、規定以上の実績があります。また、先日の一次試験、そして二次試験となる今回の依頼を達成していますので、昇級は正当なものと判断いたしました。

 先日の件は、大変申し訳――」

「ああ、謝罪を要求するつもりはありません。疑わしく思われた理由そのものは、まったく理解できないとは言いませんから。しかし、一方的に不正と決め付け“拘留”や“冒険者資格を剥奪する”という話をされたのも事実。昇級の後から難癖をつけられるとこちらも困りますし、そうなってしまえばその時こそ、身を守るために公爵家の権力を頼らざるをえない事態になるでしょう。ですからそこだけは、お互いのためにはっきりさせておきたいと考えた次第です。ここにいる皆様を訴えようという意図もありません」


 青い顔で頭を下げようとした受付嬢の言葉を遮る形になってしまったけれど、手続きを担当していた受付の女性だけでなく、その様子をうかがっていた他の職員や冒険者達は安心したようだ。おかげで、俺が入ってきてから張り詰めていた空気が、少しだけ和らいだ。


「では、ギルドカードの更新をいたします。少々お待ちください」


 担当の女性が、俺のカードを持って奥の部屋に向かう。手持ち無沙汰になったので、ちょっと周囲に目を向けてみれば、


「!」

「おい、何だよこの空気。あのガキが何か難癖でもつけて――」

「馬鹿っ、下手なことを言うなっ」


 一部、俺が最初にこのギルドに来たときのことを知らない人を除いて、ほとんどの人が俺から目を背けてしまう。こんな状況になるまでの流れを3行でまとめると……


 ・俺が“全力で”頑張る。

 ・討伐の速さと量から、受付で不正を疑われる。

 ・聞いていた冒険者がその時、または後に絡んできて実力行使。


 大体こんな感じだ。今回絡んできたのはちょっと(・・・・)頭の硬いギルドマスターと、その息のかかった嫌味な試験官。あとは、晒し者にするような一次試験で“実力を見せろ”と言われたので、かなり目立って話が大きくなってしまったけれど、内容的には似たり寄ったり。


 まさか、今頃になってこんな異世界テンプレイベントが発生するとは思わなかったけど、本気でランク上げを始めてから……何回目だろう? ギルド内では(・・・・・・)二桁は行っていないはずだから、8回目くらいか。何にせよ、最近はよくある。


 正直なところ、居心地は良くないけど、別にこっちから喧嘩を売ったわけでもないし、穏便に解決しようと過度に気を使う必要もないので、気分的には楽な部分も多い。だいたいそんな話になるのは、俺のことがあまり知られていない場所だけで、ギムルの街やその周辺ではまったく疑われない。


 それどころか、最近は俺のことを“掃除屋”なんて呼ぶ人まで出てきた。有名になると容姿や活躍にちなんだ異名で呼ばれることがある、という話は聞いていたけれど、俺の場合は洗濯屋の経営に、清掃系の依頼をよく受けていることが由来らしい。


 しかし、冒険者やギルドの職員といった、俺の戦闘能力や討伐依頼の実績を知っている人は“魔獣や盗賊を始末して綺麗に消し去る”という、どこかの仕事人のような意味も込めて呼んでいるのだとか……


 なんだか恥ずかしい気もするけれど、実力を認めてくれているということには違いない。そう考えれば、今の生活は“順調”と言っていいだろう。


「お待たせいたしました」


 受付の女性が戻ってきて、俺のギルドカードが返却される。……偽物を渡して偽造の罪で逮捕させる、なんてことはないだろうけど、一応内容を確認。とりあえず、見て分かる範囲での問題はなさそうだ。まぁ、そんな企みがあったとして、パッと見で分かるようでは意味がないだろうけど……


「あの、何か不備がございましたでしょうか……」

「いえ、Cランクになった事実を噛み締めていただけですよ。ありがとうございました。それでは失礼致します」


 別に恨みはないし、謝罪を要求するつもりはないが、信用できるとは思わない。だから、念のために警戒をしているだけだ。


 おずおずと聞いてくる受付の人にはお礼を言って、ギルドを後にする。そのまま空間魔法で街の門まで転移して街を出たら、さらに事前に送り出していたリムールバード達の所へ。


「お? ここは……もしかして次の街の近くか。結構、遠くまで到達してたんだ。やっぱり速いなぁ」

『ピロロロロロ!!』


 現在地は高い岩山の中腹といったところだろう。殺風景な山道の先、切り立った崖の向こうに見える街の外壁を眺めながら言えば、リムールバード達が“どんなもんだ”と言うように、高らかに鳴き始めた。


 実際、彼らの機動力は大したものだ。聞いた話では、次の街はこの国の最西端。言ってしまえば辺境であり、その道程は高低差の激しい山を3つ越えなくてはならない。そのため、陸路であれば急いでも3日はかかるらしい。


 空を飛べば地形を無視できるとはいえ、彼らを送り出したのはほんの数時間前。この数時間で3日以上の距離を移動したのだ。今回のランク上げのような、急いでいる時にはとても助かる。


 この様子なら、仮に追っ手がかけられていたとしても、振り切ることができただろうし……この距離ならゆっくり歩いても、日が暮れる前には最西端の街・テレッサにたどり着けるだろう。


 多少のいざこざはあったけれど、Cランクにもなれたことだし、大樹海まではあともう一息。頑張っていこう!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 皆さん勘違いしてるみたいですね。 旅の途中で試験を受けた…ってちゃんと書いてありました。 トラブルがあったギルドは、リョーマを知らないギルドだと思います。
[気になる点] ギルドマスターって知り合いだったと思ったけど、いつの間にか交代してたのかな? リョーマを知ってる人なら、普通は変な絡み方をしないはずなんだけどなぁ…。
[一言] 「私が――場合、――してくれ」 そういえば、黒幕が計画屋に頼んだ依頼は、何だったのだろうか? 敵サイド見てみたいな
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