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テイラー支部長のアドバイス

 昼頃には予定の通り、商業ギルドの会議室では、3人のギルドマスターと街の警備隊長であるダムマイアー氏、役所のトップのアーノルドさん、最後にスラム街のまとめ役であるリブルさん。そこに俺も含めた、関係各所の代表者7人での会議が行われた。


 そして2時間ほどたった現在……予定の時刻を30分ほど残して会議が終わったため、簡単なお茶会を開いていた。


 ちょうどいい機会だったので、テイラー支部長に先日の“スライムとの感覚共有”について聞いてみたところ、


「ふむ、それはおそらく“魔獣の視界”だろう。君の場合はスライムの視界、厳密には魔力感知と言っていたけれど、とりあえず“魔獣が見ているもの”ということで“視界”という言葉を使わせてもらうよ」


 俺が頷くと、支部長は続きを話してくれる。


「まず、従魔術の感覚共有で術者が見る魔獣の視界は、厳密には、魔獣本来の視界じゃない。改めて言葉にすると“当たり前”だと思うかもしれないが、我々人間と魔獣では体の作りが違う( ・・・・・・・ )からね」


 言われてみれば、確かに。これまで特に意識していなかったけれど、確かに人と魔獣では目や耳といった感覚器官の構造が異なる。ゴブリンのような人に近い魔獣ならまだしも、鳥型のリムールバードと人間である俺の視界が同じというのは考えにくい。


「もう気づいたみたいだけど、我々人間と魔獣では、同じものや風景を見ても、実際の見え方は違うんだ。本来なら、ね」

「本来なら異なる視界を、従魔術の効果で人間に合わせて、理解できるようにしている、ということですか?」

「その通り。契約の効果は魔獣との意思疎通を可能にすること。それは従魔術師からの命令を魔獣に伝えるだけでなく、魔獣の気持ちを従魔術師に伝える。同じように、視覚的な情報も魔獣のものから、従魔術師に理解できる形に変換する。それが従魔術の“感覚共有”。

 でもリョウマ君の場合は、仮説を立てて実験した結果、ある程度“意図的に”スライムの本来の視界……いうなれば“魔力感知のみで把握する世界”を見てしまったんだろう」


 つまり、俺の“スライムは魔力で周囲を把握している”という仮説は正しかったと考えてよさそうだ!


「楽しそうなところに水を差すようだが、その研究を続ける気なら、よく気をつけなさい。私は君の他にそんなことをした人の話は聞いたことがないから、詳しくは分からない。しかし、我々人間が普段複数の器官で捉えている世界を、魔力感知というたった1つの能力で捉えようと考えたら、必然的にその1点に負荷が集中する可能性は考えられる。実際に、君が感じた“スライムの視界”の情報量は膨大で、少し見ていただけで体調を崩したんだろう?」


 確かにそうだ、こうして心配してくださることはありがたいし、実験をするときは十分に気をつけて行おう。


 そう決意して、気をつけると支部長に伝える。すると、


「よろしい。ところで話が変わるが、ゴブリンを飼い始めたんだってね? 確か登録では8匹」

「はい。畑を荒らしたゴブリン達を捕まえたので、僕の作業とスライム達の補助をさせる目的で契約しました」

「契約してみて、どうだい? 上手くやれているかい?」

「そうですね……スライムほどではないですが、意思疎通はできていますし、捕獲した時点で上下関係ができたのか、反抗されることもないので、上手くやれていると言っていいと思います」


 ただ、気になることがまったくない、というわけでもない。


「というと?」

「なんだか、これまで僕が見てきたゴブリンと雰囲気が違うんですよ、温厚というか、緊張感がないというか。大人しいに越したことはないので、放置してますが」

「ふむ……具体的にどう緊張感がないのかね? それと、普段どのように接しているかも聞きたい」

「僕が彼らに求めているのは、労働力です。ただし、無茶な仕事を押し付けるつもりはないので、ほどほどに、いろいろな作業に従事して貰ってます。その他の時間は、廃鉱山から出ることや人を襲うことを禁じていますが、ほとんど自由にさせています。

 それから、彼らはどうも欲望に忠実で、彼らが楽しい、心地よいと感じる事に関しては積極的かつ作業の覚えも早いので、どの作業がどう自分のためになるかを教えながら作業を任せています」


 たとえば、農作業を任せるときには、魔法も使って作物を作り、腹一杯食事ができることを一度経験させた。


 彼らはほとんど裸だったので、服を着れば暖かい、ということを教えたら、自主的に服を着るようになった。


 あとは腹が減ると作物を丸齧りし始めるので、温かい料理を与えたら喜んで、それ以降は温かい食事を求めるようになった。


 さらに最初は手掴みで食べていた食事も、食器を使えば手が熱くない、と教えたら少しずつ使うようになった。


「あとは、清潔を保つためにお風呂に入らせたら、気に入った奴は入れと言ってないのに朝晩2回入るようになったり、最近始めたお酒造りの試作品を飲んだら、廃坑の1つを埋め尽くす気かというほど熱心に、しかも自由時間に自主的にお酒の仕込みを始める奴も出てきたり……あ、一昨日なんか“お風呂にお酒を持ち込む”という贅沢を思いついたらしく、お風呂場で全員ベロベロになってたので“風呂場では酒が回りやすくなる”ことを教えて厳重注意しました。問題と言えばそれくらいですね」


 ゴブリンにも酒量制限させるべきか……という考えが頭の中に浮かんでいると、テイラー支部長から“微笑ましいような、しかし困ったものを見た”という感じの微妙な視線が送られていることに気づく。


「失礼しました、話すことに夢中になってしまいました」

「いや、大丈夫だよ。とりあえず私が懸念していたような問題はないみたいだからね。やや堕落しているようにも聞こえるが……温厚なゴブリンと良い関係を築けているのなら、それに越したことはないだろう」


 堕落! そうだ、そんな感じだ。あいつら全員。堕落でなければ、癒しを求めて前世の動画サイトで見ていた動物の動画のタイトルについていた“野性を失った”という表現。


 野性を失ったゴブリン……癒し要素はまったくないが、彼らを表現する言葉としてはしっくりくる。


「まだゴブリンの数が少ない、ということもあるのだろう」


 ここで支部長は、会議中にも使っていた筆記用具を取り出して、要点や簡単な図を紙に書きながら、ゴブリンの生態を説明してくれた。


 ゴブリンは単体の場合、そこまで危険な魔獣ではない。これは弱い魔獣ということもあるが、単体の時には危険を避け、自分の腹を満たすことを考えて行動する。つまり自己の“生存”を第一として行動するからだ。積極的に他の生物を襲うことも少ない。


 しかし数が増える、または集まって二桁の数になる頃から、徐々に凶暴性が増してくる。また、頭数が増えた分の食料確保のために、狩猟を始める。数が少ない内は主に小動物を対象とするが、数が増えてくると人間を含む中型の生物を対象にすることもある。


 そして大体、100以上の規模の群れになると、より凶暴で生まれながらに武器を扱うことに長けた“ゴブリンアーチャー”などの上位種や、体格が人間並に大きくて力の強い上位種“ホブゴブリン”も生まれる。


 それ以降は武器の扱いに長けた上位種が、多数のゴブリンを率いて集落の防衛や狩猟による食料確保を行い、体格がよく力の強いホブゴブリンが集落の拡大など力仕事全般に貢献することで、ゴブリンの集落はさらに急速に拡大していく。


 そのうちに2つの上位種の長所を兼ね備えた“ゴブリンナイト”などの上位種が生まれるようになり、最終的にはキングと呼ばれる個体を頂点とした大規模軍団ができる。


 餌を与えすぎると上位種が生まれやすくなる、とは聞いていたけど、数が増えることでも凶暴化するのか。


「徒党を組むと気が大きくなる。ちょっと人間みたいですね」

「集団の舵取りをする地位に危険な者がいれば、集団に属する全てが危険となりうる。そういう意味では人間もゴブリンも大して変わらんよ。だからこそ、従魔術師がしっかりとゴブリン達の手綱を握ることが大切なんだ。その点、リョウマ君は一応しっかりと手綱を握れているようでよかったよ。これからも油断には気をつけて、頑張ってほしい。

 あとは、スプリントラビットの資格試験が来週に迫っているけれど、準備はできているかい?」

「大丈夫だと思います。みなさん協力的なので、勉強時間を作るのに協力してくれますし、公爵家から派遣されているメイドさんの1人が資格を持っていたらしく、いろいろ教えてくれているので」

「それは良かった。私は試験を行う側なので、あまり詳しくは言えないが……スプリントラビットはそこまで強く危険な魔獣ではない、にもかかわらず飼育、および繁殖に資格が必要なのはなぜか?」

「スプリントラビットは繁殖力が異常に強く食欲旺盛であるため、害獣化した場合、畑や農作物に大規模な被害を生む可能性が高く、適切な管理が求められるから、ですね」

「その通り。そこが基本であり一番の要点だから、そこを中心に具体的な管理の方法や施設の規定をしっかり確認すること。可能なら過去の例や実際に飼育が行われている環境なども調べて理解を深めておけば大丈夫だろう」


 テイマーギルドのトップからのアドバイス、これは非常にありがたい!

 試験までに、このアドバイスを参考にして、また復習をしておこう。


 ――そんな話をしていると、予定の終了時刻となり、会議は正式に終了。そのまま解散となった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 食うだけのスプリントラビットに資格が必要なのに、食う以外にも悪さをするゴブリンが無資格でokってどういうことなのか謎
[気になる点] 堕落ゴブリン 以前ゴブリンにホブに成りたいか聞いてみるとか言っていたが、希望者居なかったのか。
[一言] 堕落したゴブリン…………… しかも、まったりとか、のんびりとか、趣味に走る感じで(笑)
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