ある日の夜……
ギムルの街のとある場所に、“閉店中”と書かれているにもかかわらず、人が入っていく酒場がある。
この日、そこへ訪れたのは9人の男達。
彼らはそれぞれ3人組で店を訪れ、1人が酒場の中心のテーブル席に着き、残りの2人はその背後のテーブルに控えた。
そして1人ずつ、集団の代表者が集まったテーブル席を中心に、この日の店には剣呑な空気が漂っている。
「ワンズさんよ……どういうことか、説明してくれや」
「そうだな、口先だけの詐欺師野郎がだんまりか?」
「説明と言われましてもね……我々の仕事が思うように進んでいないのは認めましょう。ですが、それはあなた方も同じのように見えますが、違うのですか?」
「んだと!?」
代表者席に座る1人はワンズ……以前、ギムル中規模店舗連合という名の団体を作って会合を開き、リョウマと舌戦を繰り広げた男である。
そんなワンズの挑発的な返答に代表の1人が声を荒げ、もう1人も不快そうに舌打ちをして、それぞれの同行者に緊張がはしる。
だが、ここで制止をかけたのは舌打ちの男。
「やめだ。ここで俺らが言い合いをしても意味はねぇ」
「そうですね。私の方は予定通り、商人を集めてギムル中規模店舗連合を発足させるまでは順調でした……」
「? おい、順調だった、の続きは――」
先程声を荒げた男がまだ、やや喧嘩腰に続きを促そうとして、
「ええ、ええ、そうです、順調だったんですよ、そこまでは。事前に入念に下調べを行い、事前に数人はこちらに引き込んで、話し合いも途中までは私の手の内だったというのにあのクソガキが引っ掻き回してくれやがって」
「……こいつ、スカした奴だと思ってたら、こういう奴だったのか」
表情をなくして呪詛を吐くように語るワンズに引いていた。
「予想はしていたがやはり“リョウマ・タケバヤシ”が原因だな……うちもあの小僧には困らされている。わざわざ求職者を装わせた部下に喧嘩を売って回らせ、求職者への目が厳しくなるように工作したというのに……」
「それを言ったら俺らもそうさ。生活苦に付け込んで悪事に手を染めるよう唆そうにも、あの子供が大勢人を雇うって話を聞いて、希望が見えたのか抵抗が強くなったからな……実際に何百人も雇いやがったし、しかも次の募集もあるんだとよ。一体どんだけ金があるんだ? 洗濯屋っつーのはそんなに儲かるのかよ」
「ふ、ふふっ、いえ、違うでしょうね。募集の条件を見れば給料はもちろん、住居や食事、傷病時の治療まで世話する破格の待遇です。確かにあの店は繁盛しているようですが、それだけでは到底、必要な資金をまかないきれません。
当然そこが気になる人は我々だけではないのでしょう。資金源はあのクソガキの祖父母が残した遺産という話が広まっています。しかし、この状況でそんな遺産を隠し持っていたなんて都合が良すぎますし、仮に真実だったとしてそれをこんな形でばら撒く人なんていませんよ。いたとしたら本物の聖人か、お金の価値が理解できないよほどの馬鹿です。
状況的にも明らかに我々の狙いを潰しに来ていますし、公爵家からの指示と資金提供で動いていると見て間違いないでしょう。あのクソ……少年はただの囮であり傀儡……まぁ、傀儡としての役割を演じられる程度には、歳のわりに賢いのかもしれませんがね」
喋るうちに少し落ち着いたのか、表情と調子を取り戻したワンズがそう言うと、残る2人も同意。
「あの小僧が全部考えて今の状況を作ってると考えるよりは、その方がよっぽど自然だな。周囲には公爵の手の者がいることもある……それはそれとして今後はどうする? 例の警備会社が巡回を始めるって話があるが、“窃盗団”のあんたらは動きづらくなるんじゃないか?」
「もうすでに動きづらくなってるよ……あの警備会社、ギルドを通して注意喚起しやがった。ご丁寧に俺達の狙い目とか、全部じゃないが俺らの手口をバラしながらな。どうも俺らの仕事に詳しい奴が向こうにいるみたいだ」
「……そうか、実はこっちも、いざという時の隠れ家や取引に使えそうだと目をつけていたスラムの空き家がいくつか潰されてるんだ。それだけじゃない、区画整理の名目でスラム街全体の風通しが良くなりつつある」
「“地上げ屋”の方もか。なら“詐欺師”、情報はもう流せるか? 見回りの日程と道筋が分かれば、手薄になった店を狙うなり、見回りに来た奴を待ち構えて痛めつけるなりできるんだが。地上げ屋の仕事もやりやすくなるように協力する、そういう話で俺らは協力することになってるんだろ?」
「残念ながら、経営者の取り込みが不十分です。あの少年とのやり取りで、不信感を抱いた者もいるようで、話し合いをまとめるだけで一苦労なのですよ。しばらくは落ち着いて信用されるよう努めなければ」
ワンズの答えに店内には沈黙が流れるが、その沈黙を破ったのもワンズだった。
「ひとまずはそれぞれ工作を続けましょう。貴族の後ろ盾があるのは我々も同じこと。求職者もまだ当分は送られてくるはずです。職にあぶれた不要な人間など、いくらでもいるのですから」
「それしかない、な……我々も依頼を受けてこうしている以上、中断するという選択肢はない。我々のような裏の人間が仕事を放棄するということは死に等しい。よしんば命は助かったとしても、ろくな生活は送れまい」
「地上げ屋の言う通り、だな。動きにくくはなったが、まだ手が無くなったわけでもない」
そう語る男たちの表情は、危機感に満ち溢れていた。
一方その頃。
就業の時間を過ぎ、ほとんどの従業員が寮へと帰った警備会社では、公爵家から派遣された4人の護衛と3人のメイド、さらに医師として新たにやってきたマフラールと、たまたま訪ねてきていたセルジュが一室に集まっていた。
「じゃ、今日もお疲れさん! 乾杯!」
『乾杯!』
ヒューズの掛け声で一斉に杯を掲げる参加者達だが、真面目なジルは難しい顔でヒューズに問いかけた
「おいヒューズ、報告の場がこれでいいのか?」
「固いこと言うなって、ジル。報告ったって、今のところ問題はあっても全て想定内。一応の確認なんだから。飲みのついででもいいだろ。だいたいリョウマに気にしすぎるな、とか思いつめるなって言っといて、大人の俺らがピリピリしてちゃ説得力がないだろ」
「それはそうだが……」
「それよりそんな顔してちゃ、飛び入りのセルジュ殿も困るぞ」
「む、それは失礼。……いや、セルジュ殿はお前が無理矢理引っ張ってきたんだろう!? ……全く、うちのヒューズが申し訳ない」
「そんなことはありません。ヒューズ殿は私が無駄足にならないようにと誘ってくださったのですから」
「そう言っていただけると助かります」
と、そんな2人の会話が一段落すると、ふと疑問に思った様子でカミルがセルジュに問いかける。
「そういえばセルジュさんはどうしてここに?」
「懇意にしている魔法道具職人から、リョウマ様への届け物を頼まれまして。私も少し工場の製品について相談できればと思っていたので、ちょうどいいと引き受けたのですが……」
「運悪く、ちょうど行き違ったみたいなんだよ。ほら、最近のリョウマは結構帰りが早いだろ?」
「そういえば、ゴブリンを飼い始めてからは早めに仕事を切り上げてますよね」
「新しい従魔と契約したのですから当然でしょう。リョウマ様もゴブリンのことを知る必要があるでしょうし、従魔も生き物ですから。ゴブリンに限らず新しい環境に慣れるまでは、暴れたり体調を崩したりしやすいと聞きますからね」
「ルルネーゼの言った理由がなくても、リョウマは基本的に働きすぎるやつだし、早く帰るのには賛成だけどな」
ヒューズの言葉に、参加者全員が頷く。
そして場の空気が緩んだ所で、今度はリリアンが質問。
「ところでセルジュ様。リョウマ様に相談とは、工場の方で何か問題が? 急ぎの用であれば私の従魔を連絡に飛ばしますが」
「ありがとうございます。特に急ぎというわけではないので、お構いなく。今後の生産計画と主力商品や、リョウマ様に注文を頂いていた色々な商品について、細かい話ができればと思っていただけですので」
「問題なければいいのです。しかし、主力商品とは防水布ですよね? 何か新しい物も作るのですか?」
「そうですね。仰る通り、工場ではスティッキースライムの粘着液を塗布した防水布の生産が主流になるでしょう。しかし、それとは別にスライムを活用した新たな商品開発の話もいただいていますし……少し話が変わりますが、先日、私の店が一部とはいえ燃やされてしまったことはご存知ですよね?」
当然だというように、セルジュ以外の全員が頷いた。
「実はあの件でリョウマ様には随分と心配をかけてしまったようで、まず火を出さないための“防火対策”や万が一火災が起こってしまった場合の“消火器具”、燃える室内に取り残された人間がいた場合の“救助方法”からそのための“特殊装備”まで……まるで滾々と湧き出る泉の水のように、次から次へと提案……いえ、あれは会話の中で思いついたかのようでした。次々と案が出て、またその1つ1つが一考に値すると思えるものばかりなので、順を追って試作、その結果次第で商品化も考えているのです」
「そういえば警備会社の訓練内容にも……今はまだ基礎となる体力作りと規律を叩き込んでいる段階だが、将来的には救助訓練を。希望者には衛生兵としての訓練も加えることをリョウマは提案していたな」
「よっぽどセルジュさんのお店が燃やされたことがショックだったんですかね?」
「坊ちゃんは他人のことを大切にしますし、自ら率先して動く人ですからね。まあ、だからこそ、あっしも放っておけないというか、手伝ってやろうって気になるんですがね」
そんなゼフの言葉にも同意が集まった、直後、
「? ……」
突然首をかしげたヒューズに注目が集まる。
「どうしたのですか?」
「ルルネーゼ……今更だけど、リョウマってこの街で上手くやってるんだと思ってさ」
「そうですね。だからこそ今、私達だけでなく多くの人の力を借りて、計画を実現、実行できているのでしょう?」
「だよな? それにリョウマってかなり顔が広いよな? ジル」
「警備会社を手伝ってくれている冒険者仲間に、3人のギルドマスター、役所のトップにスラム街のまとめ役。後はセルジュさんのような大商人と権力者が目白押しだな」
「街の知り合いも多いみたいだね。最近知り合ったお店の経営者とかもいるみたいだけど、ゴミ処理場では知り合いらしいスラムの子供達が働いてるし、あと教会にもよく行って寄付もしてるらしくて協力的だったし」
「私は彼と出会ってまだ日が浅い方ですが、細かい気遣いができる子だと思いますからね。多少感性が独特なのか、常識がズレているように感じる時もありますけど」
「だよなぁ……」
リビオラの言葉にも同意しながら、ヒューズは何か考えるような様子。それを見たジルは僅かに心配そうな顔を浮かべて口を開いた。
「さっきからどうしたんだ? 悩むなんてお前らしくもない。体調でも悪いのか?」
「いや、ちょっと疑問っつーか意外に思ってさ。俺らが最初に出会ったばかりの頃から随分と変わったなと。ほら、リョウマって最初、森の中に引きこもってただろ?」
「そうだったな。街の生活に馴染んでいて、あまり考えなくなっていたが」
「だろ? それにさっきの知り合いの話もそうだけどさ、ここ最近のことを思い返してみると、うまく言えないけど本当にうまくやってるって言うか……こう、あいつって“人付き合いが苦手”とか言ってたけど、実はそうでもないんじゃないかと思い始めてさ」
ここで、これまで黙っていたマフラールが口を開く。
「私も彼が人付き合いが下手とは思いませんね。彼はこちらに来たばかりの我々に、細やかな気遣いをしてくれました。それに計画の準備段階では迷いなく皆さんに仕事を割り振って、空いた時間で根回しに奔走したそうではないですか」
そう言われて参加者はここしばらくのことを思い返し、
「……忙しくてあまり気にしていませんでしたが、誰に言われたわけでもなく、自然にやっていたようでしたね」
「う~む……確かにリョウマが付き合い下手とは思えなくなってきたな」
「本人は苦手意識があるのでは? あとは“やや自己評価が低い”ことと、“自分に対する”負担は軽視する傾向にあるかと」
「ああ……そうか。セルジュさんの言う通りかもしれん。リョウマって一人で何でもやる傾向はあるけど、人を頼れないわけじゃないのかもな」
納得の声を上げたヒューズは安心したのか、それとも悩みが解消してスッキリしたのか、どことなく機嫌よさそうに酒を煽った。
さらに、この時神界には……
「ふむ、問題なさそうじゃな」
「だね。ギムルの街で暗躍していた連中はまだ諦めてないみたいだけど、竜馬君には仲間もいるみたいだし、街の様子も前と比べたら落ち着いてるしね」
「ところで竜馬君は今どうしてるのかしら?」
「従魔になったゴブリン達と、スライムの食事の用意を終えて、自分達の夕食を作っているところですね。そのついでに保存食の試作実験もやっているようですが」
「おらがこの前教えた通り、ちゃんと農業の勉強さ始めたみたいだ。まだまだ基本のきの字を知ったくらいだけんど、前よりは確実にいいものが作れるようになっとるよ」
「ついでに酒も作り始めたな。あのファットマ領の地酒。材料から自分で栽培して、美味くなるように試行錯誤し始めたみたいだぜ。ゴブリンを従魔にして手が増えたからなんだろうが、廃坑に住んでたのも良かったかもな。環境整備は必要だが、酒を寝かせる場所として悪くねぇし、何より竜馬の気質を考えれば期待できるかもしれん」
竜馬とその仲間達を中心に、街の様子を観察している6柱の神々の姿があった。
神々はそれぞれ好みの飲み物を飲みながら、まったりと得た情報を共有している。
そんな時、虚空から新たに2柱の神が現れた。
「お疲れー」
「キリルエルか。終わったのかの?」
「まだ終わってねぇけど、罰は一時中断だ。こいつがこの状態だからな。オラッ」
「ぐへっ!?」
キリルエルは掛け声と共に、抱えていたもう1柱の神、セーレリプタを放り投げた。
セーレリプタは落下して苦悶の声を上げたが、その体はピクリとも動かない。
「も、もう少しそっと降ろしてくれても……」
「なに馬鹿なこと言ってんだ。お前のやったことに対しての罰はまだ終わってないんだからな? その状態で罰を与えても意味がないってのもあるが、休憩入れてやるだけありがたいと思え」
セーレリプタはか細い声で訴えるも、瞬時に却下された。
そんな彼を連れてきたキリルエルは、周囲を見渡して一言。
「フェルノべリアはいないのか? 見張りの交代にも来なかったんだけど」
「なんじゃ、あやつ連絡せずに行ったのか」
「あいつなら帰ったぜ。珍しく慌てた様子でな」
「は? なんでまた急に?」
「竜馬君が魔法とスライムを組み合わせて使い始めたんだけど、魔法とスライムの生態が上手くかみ合ったというか、仕様の穴を突いたというか、相乗効果でちょっとすごいことになっててね」
「“詳しく調べてくる”って言って帰っちゃったのよ」
「魔法は他ならぬフェルノベリアの領分ですし、真面目な子ですからねぇ」
「ふーん……まぁいいや。それでこっちはどうだった?」
「大丈夫。下界の様子に、セーレリプタは干渉しておらんようじゃ」
そんな会話が行われると、当の本人が声を上げる。
「え……なにそれ、そんなこと疑ってたの……?」
「竜馬君へ予言のようなことを言っておったからな。何か仕組んでないかと一応、念のための確認じゃよ」
「いくらボクでもそこまでしないよ……あれはただあの時の、彼の拠点の街の状況を見てそうなるだろうなと思ったことを言っただけさ」
「普段の態度が悪いから疑われることになるのです」
「はいはい、分かったよ……ところで今、竜馬君はどうなってるのさ?」
「ん……まぁいいか。ほれ」
ガインが倒れたままのセーレリプタの頭に手をかざすと、
「あー……やっぱりこういう感じになったんだ」
それだけで情報の共有が行われ、セーレリプタは状況を理解したように呟く。
「予想していたようですね。貴方の掌の上ということですか?」
「僕が彼に何も言わなかったとしても、高確率でこうなったと思うってだけだよ……だってあの時点でもう街は荒れ始めてたんだから、彼が街に帰ればどのみち分かるはずだし、セルジュっていう商人の燃やされた店も見るだろう? それに他所の貴族が裏で暗躍していることを彼に教えたのはセルジュだし。ボクじゃないし」
「……確かに、それはそうですね」
「そんでもって事情を知ったら、ああいう風に備えて当然でしょ。だって、裏の人間を使ってこっそり領地を荒らして、領主の評判を落とそうとするなんて“宣戦布告”と言ってもいいじゃない。
領主のラインハルトは無駄な武力衝突は避ける方針で進めているみたいだけど、それがどうなるかなんて神であるボク達にも、わざわざ力を使わなきゃ確実なことはわからないわけで、人間の竜馬君に未来を知る術はない。
そうなると彼にできることは備えることの一択なんだから、対応が早いか遅いかの違いだよ……まぁ、緊急時にどれだけ早く対応できるかは、大きな差になるかもしれないけどね」
「貴方のその何もかも見透かしたような口振りが怪しいのです」
「ウィリエリスが頭を使ってないだけじゃないのぉ~?」
「ちょっと、やめなさいよ2人とも」
「まったく、顔を合わせるとすぐこれなんだから……っていうか、セーレリプタは動けもしないのによくやるよ……」
「何か別の話に変えるべ」
ここで声を上げたのは戦の女神であるキリルエル。
「竜馬が色々準備を始めたみたいだけど……戦支度と考えても悪くないな。さっきコイツが言った通り、今回の件は貴族同士の戦の火種になりえる内容だし、いくら領主の方針でも、絶対に武力衝突を回避できる保証はないのは事実。
仮にそうなったら、竜馬の性格からして強制はしないだろうけど、警備会社で育成している兵士は純粋な戦力の強化と数の確保、保存食の研究は兵站に繋がるし、医学の知識や技術も戦場では必要になる。
流石に軍人や傭兵と比べたら寄せ集めみたいな物だろうけど、最前線で戦うだけが戦じゃないからね。基礎的な教育がされていれば、安全な地域での物資運搬とか後方支援ならできることはあるさ。戦になれば、徴兵された民間人が使われるのも珍しいことじゃない。
もちろん戦にならなければ本来の目的通り、街の保安に専念すればいいわけだし、どっちに転んでも損はないね」
キリルエルが自らの前に映し出した映像を見ながら笑って竜馬の備えを評価したところ、
「そりゃ、竜馬くんだからねぇ」
「ん~? また自分は分かってた、みたいな言い方をするね」
「実際予想の範疇だし。竜馬君には地球の神に押し付けられた才能があるもの」
「ああ……例の犯罪や殺人のか……」
「腐ってもボクらより古くて格上の神だからね、与えられた才能も伊達じゃない……けどその分、竜馬君はその手の物事にカンが働くみたいだ。空気感や状況から自分達を狙っている相手の動きを察知、予測してるような節がある。前世で人の悪意に晒され続けた経験もあると思うけど、上手く鍛えたら“直感”とかそれ系のスキルに昇華するかもね。
あと、彼に“殺人や犯罪の才能が埋め込まれている”なんて言ったのはボクだけどさ、才能なんて結局のところ、道具みたいなものじゃない? あれば作業が楽になる。なければ持っている人より苦労する。だけど“絶対に必要なものではない”。そして何より“使い方次第”さ。人間は才能だけで生きるわけでも、才能だけで人生が決まるわけでもないんだから」
それを聞いた神々も同意を示す。
それはセーレリプタとは何かと対立するウィリエリスもだった。
「そうですね……貴方の言う通り、犯罪の才能も上手く応用すれば人を助け、守るために使える。ここ最近の彼はそれを無意識に実証してきたと言ってもいいのかもしれません」
「才能と経験による“擬似的な直感スキル”で、自分にできる範囲の最善に近い備え方を無意識に選択したのかもな」
「それに今、彼が多くの協力者に恵まれているのも、私達の加護の影響だけではないものね」
「そうじゃのう……竜馬君にコミュニケーションの才能は、確かにない。皆無と言ってもいい。しかし前世の39年間で、できるだけ人と上手くやっていこうと努力はしていた。そしてこの世界でも継続している。だからこそ今、竜馬君の周りには多くの人がいて、その力を貸してくれているのじゃろうな」
「っていうか、前世の人付き合いが上手くいかなかったのって、ほとんど地球の神の妨害のせいだよね? 僕らはたまに地球の様子を見に行くけど、リョウマ君の元同僚って半数はそもそもまともな会話にならないタイプな気がするんだけど」
「……俺なら絶対に勘弁だな。そんな奴らと四六時中一緒にいたら、ぶん殴りたくてしかたねぇ」
「そんな連中相手に付き合い続ける忍耐があれば、人並み以上になっていてもおかしくなさそうだぁ」
「グリンプの言う通りだとボクも思うよぉ……ただ経験も浅い子供の頃は本当にダメダメだっただろうから、その苦手意識が染み込んでるんだろうねぇ……人生一回分の思い込みだからそう簡単には取れないのも無理はないけど、これを機に色々と気づいてくれたらいいんだけどねぇ……ま、今の彼はまだ10代でボクらは神だし、時間はたっぷりあるんだから、のんびりと様子を見るとしようか」
神々の間には穏やかな空気が流れる……が、
「セーレリプタ、お前もう回復したな? のんびりするのはまだ早いぞ」
「……え? な、なんのことかな? ボクはまだ動けな――」
「お前の悪いところはすぐに調子に乗る所だ。今の今まで饒舌に語っていただろ? 声の調子で分かるぞ。それだけの元気があるなら、罰の続きを受けてもらわないとな」
「ちょっ! あっ、抱えなくても自分で――」
「気にするな。ここにきた時のように私が運んでやるから」
次の瞬間、回復に気づいたキリルエルの手によって。セーレリプタが強制連行されていく。
「……やれやれ、騒がしいのぅ……」
ガインの感想に残された神々はまた笑い、下界の観察に戻るのであった……




