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金持ち喧嘩する

本日、3話同時投稿。

この話は1話目です。

 参加者が多いからか、大会議場の正面には演台と黒板があり、その前に机と椅子が並べられる。まるで学校の教室のような配置。


 そして参加者が全員着席すると、最初に声をかけた男が演台に立って口を開いた。


「本日は皆様の貴重なお時間をありがとうございます。私は会議の発起人の“ワンズ”と申します。若輩者ですが、本日は会議の進行役も務めさせていただきますので、何卒よろしくお願いいたします」


 ワンズと名乗った男が一礼すると、パラパラと拍手が上がる。


「ありがとうございます。では早速ですが、皆様は現在のこの街の治安をどう考えておられますか?」


 そんな問いかけから始まったのは、今のギムルがいかに危険で、協力と対策が必要な状況であるかを強調した(・・・・)スピーチだった。


「ギムルの警備隊は無能じゃない。増員もされて、警備体制を強化していると聞いているが」


 それに時々反論する人もいる、が、


「確かに増員や警備体制の強化については私も聞いていますし、ギムルの警備隊を無能とは思いません。しかし! 増員や強化はそもそも増加した事件に対して、従来の警備隊員の数では手が足りない! 犯罪を防ぎきれない! 増員や強化の必要がある! ……そのように、他ならぬ警備隊が判断した(・・・・・・・・)ために行われた結果ではありませんか?」

「ん、そりゃぁ……」

「必要に迫られての増員や警備の強化。これは“苦肉の策”、なのです。それに急遽増員された警備隊員はまだ錬度が低く、犯人をとり逃したり、犯人に返り討ちにされてしまう事例が増えているとか。

 もちろん、彼らは彼らで努力をしているのでしょう。それは認めます。ですが! 街の人々を守るべき警備隊員が、逆に被害者となってしまう。そういう事例が起きているのも現実なのです! 警備隊に任せておけば大丈夫、絶対安全、貴方はそう言いきれますか? そこまで皆様は今の警備隊を信用できますか?」

「で、でもな」

「でも、ではありません! その信頼が万が一にも裏切られた時、被害に会うのは貴方、いいえ、貴方の大切な人かもしれませんよ?」

「……」


 こうしてワンズに言い負かされる。またその度に、負けた本人やそのやりとりを聞いている参加者へ、不安を植え付けていく。


 万が一、いざという時を考えるのは、俺も似たようなものだろう。

 だからだろうか? 言っていることは理解できたが、“同時に強烈な違和感も覚えた”。

 そしてその違和感の原因を考えると、自分とワンズの違いが浮かび上がってくる。


 俺は万が一の可能性をついつい考えてしまい、それが起きても大丈夫なように、対応できるよう備えたいと思う。しかし、その考えを他人に押し付けようとは思わない。


 対してワンズは、問題を深く考えて備えるよう参加者へ訴えている……ように見えて、仮定や可能性でしかない悪い未来を語って参加者の不安を煽っているように見える。


 さらに、


「私は今年、長年修行をした店から独立を許されました。いわば、ようやく巣立ちを迎えたばかりの若輩者。そしてギムルでは新参者でもあります。残念ながら、私は現状をギムルの警備隊に任せて座っていられるほど肝の据わった男ではありません。店を開いたはいいものの、街の様子には皆様と同じように(・・・・・・・・)、常に不安を抱えています」

「街が荒れているのは事実だからねぇ」

「防犯対策は必要だと思っていたところだな」


 皆と同じ、または我々という単語を交えて不安を口にするワンズ。それに同調する声が上がるたび、だんだんと追従するように彼の言葉を受け入れていく人が増えていく。


 不安を煽って……もしかして悪徳商法?


 会議の様子を見ていて、俺はそんな疑いを持ち始めた。

 また、ワンズの言葉に対する反論が減ってくると、さらに思い出したことが1つ。


 会議場のこの空気。この空気を俺は知っている。

 既に“上層部が決めていたこと”を“会議で決まったこと”にするだけの、形だけの会議だ。


 会議とは銘打たれているが、その場で新たな意見を出すことも求められておらず、議論を交わすための場でもない。反対意見を口にしたものは、黙殺されるか叩かれるか、どちらにしても無意味。これならば会議ではなく、“ただの報告”でも事足りる。


 物事を始める際には根回しが大切とは言うが、この会議はその度を越えて、事前に用意された筋書き通りに進められているだけだ。そのために、まず間違いなく、率先して賛同や擁護を口にした何人かは既にワンズに抱き込まれているのだろう。


 不安を煽り、主導権を握り、ワンズらが意図した方向に舵取りが行われている現状。

 もう既に“協力する”ということで満場一致の空気が流れている。

 今はまだ無難な事だけを語っているが、このままだとマズイ。

 考えれば考えるほどに、頭の中で警鐘が鳴り響く。


 裏で貴族が糸を引いている可能性があるという、今のギムルの状況。

 もし仮に、ワンズとその仲間が治安悪化にかかわっているなら、この会合も罠ではないか?

 今まさに求められている“相互協力”の名目で何をさせようというのか?


「同じ土地で商いをする経営者同士、力を合わせてこの難局を乗り切りましょう!」


 参加者から最初よりも大きく、熱のこもった拍手が上がる。


 ここで俺は、隣へ声をかけた。


「カルムさん」

「はい?」

「すみません」

「は、え?」

「1つよろしいでしょうか」


 戸惑う彼を放置して、挙手。その際の一言で参加者一同の視線もこちらに集まるが、最後尾の座席に座っていたからか、ワンズの目に留まるまでは少し間があった。


「ええと、どなたでしょうか、ちょっとお顔が……」

「私はリョウマ・タケバヤシ。ギムルの西側、住宅街近くでバンブーフォレストという洗濯屋を経営している者です」

「これはこれは! ご丁寧にどうもありがとうございます。貴方の事はギムルに来て日の浅い私も伝え聞いています。若くして優秀な経営者だと。すぐに気づけず申し訳ない」


 朗らかな笑顔からの謝罪。周囲からはかすかな笑い声が上がる。


「大人の中に子供が1人。それもこんな後方にいたのでは仕方ありませんよ」

「そう言って頂けると助かります。ところで、何かありましたか?」

「はい。まず先ほどまでのお話ありがとうございます。個人的にとても興味深いお話でした……というのも、私も今年の春ごろからギムルに店を構えたばかり。貴方と同じくギムルでは新参者であり、いわゆる“横の繋がり”というものもほぼ持ち合わせていません。今回は同じギムルに店を構える先達の皆様との交流の良い機会。もちろん今現在悪化している治安についての懸念もありますし、皆様と良い関係を結び、協力し合えればという思いもありました」


 これは事実であり本心だ。ギムルに来て知り合ったお店の経営者はさほど多くないし、地域の人と良い関係を築けるならば築いておきたい。協力し合えるなら協力したいと思う。“和”を重んじると言えばいいのか、これは俺が元日本人だからだろうか?


 ……しかし、それはあくまでも“協力しあえる相手”ならの話だ。


「おお! それでは貴方も――」

「だからこそ!」

「ッ!」

「お聞かせ願います。治安悪化に対して、協力していくと仰いましたが、具体的に(・・・・)どのような策を講じるのかを。我々は具体的に何をするのか(・・・・・・)を」


 そう伝えた瞬間、ごく僅かに、ワンズの口元が固まった。


 だがそれは本当に一瞬のこと。注視していなければ気のせいだと思うか、そもそも気づかないだろう。少なくとも普段の俺なら気づけたかどうか……自信はない。


「おっと! それは当然の質問ですね。これは失礼」


 そしてワンズは再び語り始める。

 だがそれは、俺という質問者への返答というよりも、周囲に聞かせ丸め込むような言葉。


 情報交換、連絡を密に、夜間の見回り、護身術教室、店員の防犯意識を高めるセミナーetc……それらしい内容に“警備隊に頼りきりではいけない!”など、義務感や自尊心を刺激し、やる気にさせるような言葉を組み合わせているだけ。


 裏で繋がっていると思われる参加者が4、5人。交代でその内の誰かが率先して賛同の声を上げ、場を盛り上げているが、正直な感想を言わせてもらえば、


「さて、私からの提案は以上になります。いかがでしょうか皆様」

「すば――」

話になりません(・・・・・・)


 すかさず賛同しようとした男の言葉を遮るように、俺ははっきりと口にする。

 そして会議室内が凍りついたかのように沈黙し、一部からはかすかな敵意すら感じた。


「話にならない、とは? どういうことでしょうか? タケバヤシ君」

「言葉通りの意味です。そういうものは普段から継続することで、初めて意味を成すものであって、今から慌てて始めたところで即効性がない」

「確かに、即効性はないかもしれません。しかし! だからと言って始めなければ何も得られませんよ」

「その通りだ!」

「始める前から諦めてどうするのかね」

「まったく、これだから最近の若者は」


 やはり、ワンズの提案に反対した俺への叩きが始まりかける。

 ここは覚悟を決めるしかない。


「揃いも揃って馬鹿ばかりか」

『なっ』


 あえて挑発するように言うと、俺を叩こうとしていた連中も、まさかここまでストレートに罵倒されるとは思わなかったのか、一瞬言葉に詰まった様子。


「店長!?」

カルム(・・・)、黙ってろ」

「!? ……」


 隣のカルムさんには……本当に申し訳ないが黙っていてもらう。元々察しの良い人だし、普段と違う言い方をしたおかげで伝わったようだ。納得はしていない様子だけど、とりあえず戸惑いつつも信じて黙っていてくれるらしい。


「街の治安が悪化して、今まさに逼迫している(・・・・・・・・・・)状況だから何とかしよう、という話をしているのに即効性を考慮しなくてどうする」

「それでもやらないよりは効果がある!」

「護身術も学んでおいて損はないだろうな」

「見回りはやるべきでは?」


 肯定的な呟きもかすかに聞こえたが、それを掻き消すかのように1人が声を張り上げ、さらに1人また1人と意見か何かを口に出して騒がしくなる。


「まぁまぁ、皆さん落ち着いてください。会議への積極的な参加はありがとうございます。おかげさまで色々な意見が出ていましたね。

 私としては、見回りは提案の中でもまだ即効性が見込めると思いますし、誰かが仰っていたように護身術も学んで損はないと思いますが、どうでしょう?」

「別に見回りをしたければするといい、護身術を学びたければ学ぶといい。貴方達が勝手に学ぶ分には構わないので、そこは好きにしてください。

 ただ護身術についてはワンズさん、他ならぬ貴方自身がついさっき話していましたよね? 急遽増員された警備隊員について、まだ錬度が低く、返り討ちにされたり、逆に被害者になった例があると」

「それは」

「その例は紛れもない事実でしょう。そして訓練が行き届かず、中途半端な腕前で、武器を持った暴漢や強盗を相手にした結果。警備を“仕事”として、専念している警備隊ですら、実際の事件現場では被害が出ることもある。

 なのに商人の皆さんが、今から仕事の片手間で護身術を学び、襲われたら対応しよう? できると思いますか? 私は思いません。

 あ……そういえば“警備隊の努力は認めるが、結果に繋がらなければ意味がないのです!”とも仰っていましたね? 僕も、まさにその通りだと思いますよ」

「……」


 夜間の見回りについても同じだ。


「確かに人目には犯罪を抑止する効果はあると思います。ですが不審者や犯行現場を目撃したら、そのまま戦闘になる可能性もある。人を殺す前提で押し込み強盗を働く犯人もいれば、見つかったことでカッとなり、目撃者を殺そうとする犯人だっているかもしれない。

 ここで先ほどの護身術と同じ話になりますが、そんな時にあなた方で対応できると思いますか? 周りを良く見てください」


 男女の差はこの際置いておくけど、太っていたり、逆にやせ細っていたり、お歳を召していたり。ここの参加者は商人であり、半数以上が普段から体を鍛えていないと分かる。


「まして夜の見回りとなれば、周囲は暗く視界は悪い。見回り以外の人通りや目撃者も少なくなるでしょう。

 ここに知っている人がどれだけいるかわかりませんが、私は現役の冒険者としても活動しています。その視点で言わせてもらえば……実戦を舐めるにもほどがある」


 武器や魔法が身近な世界といえど、彼らは街中が主な活動の場。いざとなれば警備隊が来てくれるし、本当に命がけの状況とは縁遠いのかもしれない。


 貴方は本当に理解できているのか? 死にたいのか? 家族や従業員を死なせたいのか? そんな疑問を込めて、ワンズやその仲間と思しき連中から参加者全体へ視線を移していく。


 すると身を縮こまらせて俺の視線を避ける人々の中、2列先に唯一俺を正面から見据え、ゆっくりと立ち上がる男性がいた。ダルソンさんだ。


「リョウマ、気持ちはわかるが少し落ち着け。殺気を引っ込めろ。そんなに威圧してちゃ、こいつらも何も言えねぇよ」

「お言葉ですが、ダルソンさん。僕のような“子供”が、少し威圧した程度で黙り込んでしまうようでどうするのですか? 彼らは護身術を学んで自ら対処できるようにすればいい、とか言っているのでしょう? 黙って聞いている人は受け入れて武器を取り、最悪の場合、自分か家族や従業員が命を落とす。もしくは襲ってきた相手を殺す。その覚悟があるのですか?」

「お前の威圧は子供が出せるような……いや、しかしそれを言われるとな……」


 ダルソンさんが苦虫を噛み潰したような顔になり、そっと視線を進行役の方へ向ける。


「ワンズさんよぉ。俺も元冒険者として言わせてもらうが、リョウマの指摘はもっともだ。理由はどうだとしても、襲ってくる相手と戦うって事は、殺すか殺されるかが基本だ。護身術を学ぶのは俺も反対しないが、それで安心だってのは楽観的過ぎるぜ」

「……そもそも“護身術”なんてのは、日々の生活の中でできる防犯対策を全てやった上で(・・・・・・・)、それでも足りずに、危機的状況に陥ってしまった場合。さらに無抵抗のままだと絶対に殺されるような状況下で、一か八かの限定された状況で使うもの。まずは危険を遠ざけ、近づかないことが第一。最初から使って戦う前提なら、それはもう護身でもなんでもない。ただの格闘術や武器術の類だ。そこを履き違えるな」

「なるほど、なるほど……これは現役と元冒険者。現場を知るお2方の貴重なご意見ですね」


 ダルソンさんの言葉に付け加えると、ワンズは納得したように頷く。だんだんと分かってきたが、こいつは常に飄々とした態度を崩さず、相手の意見を肯定的に受け止めているフリをしてから否定する。なんとなく、だけど、かなり場慣れしている感じがする。


「ではお2人ならば具体的にどうするか。我々はどうすべきなのか? 専門家の意見を聞かせていただきたいですね」

「それは良い提案だ!」

「さぞ素晴らしい答えを用意してあるのでしょうな」

「冒険者か傭兵を雇えばいい。現役でも引退した“元”でもいい。とにかく付け焼刃ではなく、まともに戦える人間をそれなりの人数雇い、定期的な巡回と緊急時に即応できる体制を整えましょう。必要な資金はここにいる全員で金を出し合えば、それなりの額が集まるでしょうし、1人の負担金も1人で払うよりは少なく済むはずです。

 貴方がたは商人でしょう? だったら商人らしい解決方法がある。なにも不慣れな冒険者や傭兵の真似事をする必要はない」


 奇しくもつい先日、似たような事を話し合ったばかりだったので、ノータイムで答えてやる。

 すると一部から納得したような声が上がり、隣同士で話し合う声が出てくるが、


「はぁ……何を言ってくれるかと思えば、期待はずれですね」

「なにか問題でも?」

「冒険者を雇う、金は皆で支払う、ええ、それは良いかもしれませんね。お金と戦力の問題は解決するでしょう。ですが、君の提案には大きな穴が(・・・・・)あります!」


 わざわざ“大きな穴”を強調する、ということは……


「御託はいいからさっさと言え。何が問題だ?」

「単刀直入に言いましょう。君のやり方では、貴族に睨まれます」


 その一言で、会議室のざわめきが大きくなる。


「君は“ギルド”の存在意義を考えたことがありますか? ああ、この場合は“貴族にとっての”と付け加えるべきかもしれませんねぇ」

「“平民の持つ権力と戦力の管理”でしょう?」


 これもつい先日聞いた話。

 あまりにももったいぶるので、おそらくこれが言いたいんだろう、ということを言ってやる。

 すると男は図星だったのか、ようやく明確な動揺を見せた。


「……貴方、知っていたんですか? 知っていて尚、今の提案を?」

「知っていて、なにかおかしいですか?」

「おいおい! 俺らにも分かるように話してくれよ!」

「おっと失礼!」


 流石に会議の主導権は向こうにあるか……


「まず前提として、貴族が常に恐れ警戒している物事がある、ということを知ってください。それは“民衆の反乱”です。もちろん貴族はその権力と財力により、強力な武器や私兵を有して身を守るでしょう。しかし! 人数で言えば、貴族は平民の1割にも満たない少数派なのです。

 歴史書を紐解けば平民が一致団結し、数の差によって貴族の権威に立ち向かい、絶対的な立場を覆した例は多い。貴族にとっていつでも起こり得る恐怖。そんな反乱を防ぐためにはどうすればいいのか? 我々平民を団結させなければ(・・・・・・・・)いいのです」


 ワンズはまるで舞台の上の役者のように、周囲に自分の言葉を聞かせ始めた。


「ギルドは全て国王陛下の認可を受けて、国の管理下で運営されています。故に貴族でもおいそれと手出しはできないのですが、国を管理・運営しているのは貴族。つまり遠まわしにですが、ギルドは貴族の管理下にある、とも言えるでしょう。

 そして商業ギルドは個人の財力を、冒険者ギルドや傭兵ギルドなら戦力を把握できますし、ギルドを介することで我々が様々な恩恵が受けられる反面、我々はギルドを通して貴族に監視されているのです。そして権力や戦力が一点に集中させすぎると……後は分かりますね? 団結した勢力が小さな内ならば、貴族側は問題なく対処できるでしょう」

「で、でもよ、ワンズさん? そんな反乱だなんて大げさなこと、ここにいる連中は考えてないだろ。そのリョウマって子も」

「もちろんそうでしょう! 我々の誰も、そして彼も反乱を起こす意思はない、とはいえ! 必要以上の戦力を集める団体があれば、貴族としては心穏やかではいられません。我々にとっては“防衛目的”でも、貴族はその裏に“反乱の準備”を疑ってしまう。それが人の心、貴族の思考というものです。

 この際我々の目的は関係ないのです。問題なのは貴族にどう見えるか! 多くの戦力を集めたことが貴族の警戒心を煽れば、必然的に資金を提供した我々全員が団結した、“共犯”とみなされる可能性は非常に高いのです!」


 ワンズは大げさな話をしているが、それだけに参加者は理解が追いつかないようだ。

 “本当か?”“流石にそんな”“でもまさか”“もしかしたら……”

 そんな言葉が会議室内に飛び交う。

 だけど、


「意気揚々と演説してもらったところ大変申し訳ないのですが、その心配は無用です」

「なんですって?」

「まともな感性と常識を持っている方々なら、街や店を守るための戦力だと、ちゃんと理解して許してくださるそうですよ」


 ワンズの語った情報はやはりというか、悪い方向に偏っている。

 確かに戦力を集めすぎて貴族に反乱を疑われた例はあるらしい。

 しかし、人々がお金を出し合って冒険者や傭兵を雇うのはよくあることだ。

 特に小さな村や集落では、そうしなければ魔獣や盗賊から身を守れない場所もあるという。

 要は“節度を守ればまず問題はない”のだ。


「それにご存知の方もいるかもしれませんが、僕はこの地の領主でもある、ジャミール公爵家の方々と親しくさせていただいているので、事前に連絡し、叛意がないことや事情の説明もできます」


 俺は自信を持ってそう告げた――が、しかし、


「……それは君だけ無事ってことじゃないのかい?」

「いや、そもそも本当にそんなことが可能なのか?」

「公爵家と繋がりがあるとは聞いたが……」

「自信がありそうに言うけどさ、子供にそんな交渉ができるのかね」


 出てくるのは懐疑的な声ばかり、か。仕方ないな。


「フフッ……おっと失礼。しかしリョウマ君、君は分かっていませんね。“我々のような(・・・・・・)”普通の商人の気持ちを」

「貴族様の庇護があるってのは気楽で良いねぇ。怖いものなしか」

「子供でも店を持って稼げるんだものな」

「ちょっと貴方達、将来が安泰なのはうらやましい限りですが、口を慎まれたほうが」


 ……なるほど。理解した。

 同じ経営者でも、彼らはセルジュさんやピオロさん、モールトン奴隷商会のオレストさんとは違うのだ。あの3人は貴族が相手だろうと、商売に関係すれば立ち向かう気概がある。そうして店を維持、または大きくしてきたはず。


 しかし彼らにはそれがない。街中に1つの店を持って、相応の苦労はあるだろうけど、ある程度安定した収入を得て、ある程度余裕のある生活をしている。そこで満足している。貴族とのかかわりを余計なリスクとして遠ざけている。


 彼らは十分に成功者と呼べるだろう。だが、さらに上を目指そうとする超一流ではない。

 そして彼らが抱く貴族への恐怖を解消できるような説得力が、俺にはないのだろう。


「どうやら、これ以上話していても無駄なようですね」


 言いながら席を立つと、


「おや? お帰りですか?」

「ええ、これ以上時間を無駄にしたくありませんし、協力もできそうにないのでね」

「そんなことを言って、最初から協力する気なんかなかったんじゃないのか?」

「とても誰かと協力しようと考えているような態度ではなかったなぁ」


 ワンズやその仲間と思われる連中が、周囲に聞こえるように、わざとらしく声をかけてきたので、最後に一言、言ってやるか。


「それはここの参加者の大半に言わせてもらいたいですね。誰とは言いませんが、私が入ってきた時から、勝手に値踏みをして勝手に見下していたのでしょう?」


 軽く視線を向けてみれば、俯いたり顔をそらす参加者が多数。

 そういう視線(・・・・・・)を今日この会議室に入った時から感じていた。

 顔は笑っていたけれど、俺に一定の敬意を払う、対等に扱う、そんな意思を感じなかった。

 そういう意味でも、彼らはセルジュさんやピオロさんとは違った。

 会議室に入った瞬間、ここはダメだと感じたのもそれが理由。


 尤も、俺が子供なのは事実だし、経営はカルムさんに頼るところが大きい。

 俺自身の経営者としての能力は大したことがないだろうから、それだけならまだ飲み込めた。

 さらにそういう相手は初対面でもあったので、付き合いを続けていくうちに理解してもらえばいいだろう。

 そう一度は思ったが、結果はこれだ。


「せっかくだから言わせてもらいましょうか。

 確かに私は見ての通りの子供ですし、経営者としての知識や能力は、このカルムに頼っている部分が多い。公爵家との縁にも恵まれるなど、幸運が続いているのも事実。

 ですが、“ギムル中規模店舗(・・・・・)連合”なんて名前のこの会合に呼ばれている以上、うちの店の規模はあなた方と同格かそれに近いということ。また、相応の資金力を持ち、収益を上げているということ。

 貴族との縁があるから? 運がいいだけのガキ? 貴方がた1人1人が私をどう思ってるか知りませんが――あまり舐めてもらっちゃ困る。

 たとえ運の結果だとしても、商売をするうえで資金力と人脈を持つ人間がどれだけ強いか? また商売においてそれらがどれほど重要か? 理解できないようなら、またはそれを持ってる私が卑怯だと思うのなら、今すぐ商売を辞めることをおすすめします」


 全力の笑顔と共に言ってみると、誰も文句すら言わない。

 1人くらい言い返してくるかと思ったけど、まぁいいや。


「……行くぞ、カルム」

「は、はい!」


 同じく固まっていたカルムさんを揺すって起こし、そのまま商業ギルドを後にした。

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― 新着の感想 ―
読み返してるんですが、、主人公に対して『若頭!!』と、思ってしまった。チンケな弱小ヤクザもどき共に対しての啖呵www
[一言] >  ですが、“ギムル中規模店舗・・・・・連合”なんて名前のこの会合に呼ばれている以上、うちの店の規模はあなた方と同格かそれに近いということ。また、相応の資金力を持ち、収益を上げているという…
[一言] ドキドキしました。興奮して読み進めるのが大変でした。 面白かった!
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