リョウマの売り込み
本日、2話同時更新。
この話は2話目です。
昼食後
マッドサラマンダー討伐が終わり、人がいなくなるはずの浜辺には、再び人が集まっていた。その顔ぶれには朝は見なかった幼い子供とご老人の姿も多く含まれている。
この状況の原因は……間違いなく俺の足元に群がる総勢1000匹のポイズンスライムとスティッキースライム達。あとはその横で疲れきっているシクムの桟橋の皆さんだろう。
「どうですか? うちのスライムはなかなかやるでしょう」
「た、確かに」
「つーかこいつら本当にスライムか!?」
「俺の知ってるスライムの動きじゃねぇ……」
「同感」
「スライムってもっとこう、鈍くてちょっと叩けば潰れて、そもそも武器なんか使わないんじゃない?」
シンさん、カイさん、セインさん、ペイロンさん、そしてケイさん。
口々に疑問の声を上げているが、目の前にいるのは紛れもなくスライムである。
「色々教えたらこうなりました」
「教えたからって、こうなるかな……」
「想像していたよりもはるかに強いな。まさかスライムが槍を構えて、統率の取れた動きをするなんて」
「何より数が多い」
「跳ね除けるにしても、あんな次から次にこられちゃさすがになぁ……しかも器用に核への攻撃だけは避けやがるし」
「で、リョウマはこいつらをどう使う気だ?」
カイさん、よくぞ聞いてくれた!
「野生よりは素早く動けると思いますが、やはりスライムは機動力が弱点なので。彼らには加工処理場の防衛をさせたいですね。今見てもらったようにポイズンスライムによる複数層の槍衾で、マッドサラマンダーの突撃を迎撃。数を減らします。
またその槍衾にはあえて抜けやすい隙間を作っておき、進行ルートが絞れれば、そこでスティッキースライムを待ち伏せさせます。スライムは打撃力も凄く強いわけではありませんが、棒の重さと遠心力、あとは待ち伏せで10対1や5対1。とにかく複数でタコ殴りにすれば倒せるかと。
また、倒せなかったとしても殴られた分だけマッドサラマンダーは弱るはず。そこを人間が狙えば倒すのはもっと簡単になるはずです!」
「ああ……」
「なんか、人が変わったみたいだね」
「そういや初めて会った時もこんな感じだったか」
「でも待ち伏せて袋叩きなら、確かに倒せるかもな」
「倒せなくても数を減らすか、全体の勢いを殺せればいいわけだ」
セインさんとシンさんの仰る通り。
だけどそれは槍衾と隙間への誘導が機能して、さらに維持できる場合のこと。
槍衾で群れを止められない。隙間への誘導がうまくいかない。最初はよくても後続で崩壊する。
そんな場合に備えて、もう一手。
「『ディメンションホーム』」
浜辺へ新たに呼び出したのは、お馴染み6羽のリムールバード達。そして魔法の使えるアーススライム、ウインドスライム、ダークスライム、ライトスライム、ヒールスライムの5種類。
俺が魔法を使うのは主に日常生活。戦闘ではあまり使わない方なので、彼らもあまり目立って活躍する機会がなかったけれど……実は彼らは毎日、とても真面目に魔法の訓練をしていたりする。
だからこそ、能力は十分。
「ヒールスライムは回復要員。ライトスライムはサポート要員として。残る彼らには後方から必要に応じて、魔法で援護射撃をしてもらおうと考えています」
「魔法が使える魔獣はランクが高いか珍しいって聞いたんだが、こんなに持ってたのかよ」
「しかもほとんどスライムだし」
「ここまでくると感心するな」
なんだか俺を見る目が変わってきた気がするが……言うべきことはまだある!
「ちなみにこちらのダークスライムなんですが……なんと、ついこの前中級魔法の“ダークミスト”を習得したんです!」
ダークスライムの使う闇属性の攻撃魔法は他の属性とは異なり、直接的に肉体を傷つけることなく“生命力を奪う”。ダークミストはそんな生命力を奪う闇を霧状にして広範囲へ散布する魔法である。つまり、一回の発動で複数匹をまとめて退治することもできる! ……らしい。
つい先日お世話になった公爵家で読ませていただいた闇魔法の本、それも魔法ギルド監修と書かれていたので、情報源としては信頼できるはずだ。
「ただ正直なところその魔法、ダークスライムが習得してから本当に日が浅くて、丁度良い敵がいなかったので実験もしてないので、この機会に試させてほしいです」
「こちらに被害は出ないだろうね?」
「その点には十分注意します。最前線で撃たせれば人的被害は出ないと思いますし、広範囲といっても人が5,6人並んで入れる程度なので、むしろマッドサラマンダーを上手く効果範囲に収める努力が必要かもしれませんが……」
槍と棒で戦うポイズンスライムやスティッキースライム。魔法での援護もあるし、仕事に支障は出ないだろう。
「あとは……」
高速移動が可能なメタルスライムやアイアンスライムの戦力も加われば、万全と言えたところだけど……金属系スライムの体重と砂地は、思った以上に相性が悪い。
彼らの移動方法は体の後ろ側を一部、わずかに変形させ、ジャンプするように勢いをつけて転がるもの。下が浜辺で足場が悪いのは分かっていたが、実際に試してみると真っ直ぐに進むのも難しいようだ。
それが悔しかったのか、現在彼らは彼らで砂浜の走り込み? を始めたが、その後にポイズンスライム、スティッキースライム、魔法を使えるスライム達と、順に皆さんへ紹介し終わった今でも、ちょっとは慣れたかな……という程度。これでは戦えない。
しかし、彼らはこれまで俺の“武器”という形で、常に戦闘に参加していたからだろうか? 参加不可を伝えようとしたところ、2種類のスライム達から不満を感じる。
なんとか参加させてあげられないか……形を変えてバリケードにはなってくれるか……
「おーい」
「今度は考え込んじまった」
「真面目でいい子だけど、結構変わった子でもあったんだね」
「……かなり村人が集まっているが」
「リョウマ君はこの調子だし、現状の説明だけでもしてこようか」
この後、気づくと集まっていた村の人々に“スライム好きの変わり者”と認識されていた……解せぬ……。
スライム関係の話題なら平常運転。




