面接
本日、3話同時投稿。
この話は1話目です。
「お待たせいたしました」
待合室で待機していると、モールトン氏が推薦したオックス・ロード氏と、その他に候補として選んだ9人の奴隷を連れてきた。客の安全のためか、全員丸腰かつ武器を隠せない薄手の服を着ている。
9人は人族と獣人族。牛人族と思われる男性も1人いたが、明らかに身に纏う雰囲気が違い、どちらが例の彼なのかは一目で分かった。
よく鍛えられた体に薄く残る無数の傷跡や鋭い眼光が放つ威圧感……おそらく本人にその気はないが、気の弱い相手なら萎縮してしまうだろう。
頭から生えた角は思っていたよりも小さく、戦う邪魔にならないよう短めに切られた髪から少し突き出る程度。筋骨隆々の肉体や眼光の威圧感と相まって、“牛”と言うより“鬼”のように見える。
他の方には申し訳ないが……やはり比べると見劣りしてしまうな……
面接方法は対面の席に5人ずつ座って行われる集団面接。彼は10人目なので2列目。
先に座った5人の後方、壁際でやや小さく思える椅子にかけている。
「どうぞご自由にお話しください」
会話を促すモールトン氏に従って、まずは基本の名前から聞いていく。
すると順番は守っているが、いきなり激しいアピール合戦が始まった。
ここで買い上げられることは彼らにとって自由への一歩。
それ以上に、楽しげに様子を眺めているイケメンに何か吹き込まれたのかもしれない。
……それはそれとして、しばらく話を続けているとふと思う。
俺がこの世界で面接をするのは二度目だけど、実質初めてだ。
初回でフェイさん達を雇った時は、何故か他の候補者が全員辞退してしまった。
それ以降は誰かの紹介で雇っているから、面接でまともに大勢を相手にしたことがない。
一応前世では何度か会社の面接に関わったこともあるが……あちらとはずいぶん様子が違う。
先ほどから続くアピール合戦もそうだけど、
「私はかの有名な冒険者ベルビオスが晩年に開いた道場に10歳から入門し、ベルビオス流剣術三段の免状を――」
「ええ……私はですね、免状や自分の腕を示す書類のようなものはステータスボードだけですが、冒険者として現場で鍛えて死なずにやってこれました。ですから――」
「絶対に損はさせません! 買ってください!」
各個人の口の上手さが如実に表れる。
昔、会社の面接では丸暗記したような“模範解答”が7~8割。残りの1割弱は個性を出して自分を印象付けようとしたのか空回る、あるいはそもそも個性の意味をはきちがえた人。他と違うと感じた人が1割いればいいくらいだった。
新卒も中途も皆、就活セミナーで徹底的に面接の注意点やテクニックを勉強してくるから、ほとんどが同じか似たようなテクニックの目白押し。口下手でも、というかむしろ口下手な方がそのテクニックに頼り切っていたと言うべきか……とにかく誰も彼もが徹底的に練習してくるせいで、その主張もだいたいが似通っていた。
あの会社じゃなきゃできない仕事なんて1つもないし、第一志望になることはまず考えられない、没個性的な会社だったこともあるだろうけど……志望動機とか聞く意味を感じなかった。
その点で言えば、いま目の前にいる彼らも志望動機は特に無いだろう。
職業選択の自由がない彼らは、ただ購入を検討していると言われたから来たに過ぎない。
その熱意は雇われることに対してであって、俺の店に対してではない。
だけどこの世界にはネットがない。
どこかで教えているかもしれないが、地球ほど簡単に面接のテクニックは学べない。
だからだろうか? 全体的にテクニックに頼らず、それぞれの言葉で熱意を語ってくれる。
……その分、口の上手い人と口下手な人の差が露骨に出てるけど……個人的には高評価。
変に取り繕われるよりも、分かりやすくて良い。
「ありがとうございます」
ある程度話をしたところで、次の5人に代わってもらう。
すると今度もアピール合戦が始まったが……例のオックス・ロード。
彼は口数が少なく、さらに俺達を見定めるような視線を正面からぶつけてくる。
熱意はあるようだけど、他の人とは明らかに方向性が違った。
「何かそちらから質問はありませんか?」
「……剣が振れる仕事なら本望。だが、私はこの通り左手がない。さらに言えば借金のせいで安くはない。それでも買いたいと思うか?」
「少なくともお店の護衛としては十分な腕をお持ちでしょう。金額に関しては、今の実力を見せていただいてから検討ということで。……できますよね?」
「もちろんでございます」
モールトン氏が言うには、中庭をそのためのスペースとして使っているとのこと。
面接の後に実力を見たいと思った候補者を伝えれば、用意をさせてから集めるらしい。
試験の内容は奴隷の退室後に相談。
そのように話がまとまると、既に話すべきことは話し終えたとばかりに黙り込む彼。
……既に実力試験に向けて精神を集中しているのかもしれない。
「ありがとうございました」
面接終了。
10人の退室後に皆さんの感想を聞いてみる。
「やはりオックス・ロードという方に目を引かれましたな」
「資料通り、実力では彼が一番だろうね」
「確かに風格はあったなぁ。……せやけどあれ、相当な頑固者やで?」
「あー……アレ、何と言うか分からないだけど……軍隊の偉い人みたいだたね。腕前と戦うことに忠実、信用はしていい、思うヨ」
俺も概ね皆さんに同意。
ちょっと気難しそうだけど実力はあるだろうし、実直そうだと感じた。
職人のようなタイプかと思ったけど、フェイさんの将軍? のようだという意見も分かる。
結論として……
「“悪くない”と思ってしまう時点で、掌の上で転がされているのでしょうか?」
「私はお客様にご満足いただけるよう、真摯に良い奴隷を紹介しただけですとも」
ニッコリと擬音が出てきそうな笑顔のイケメン。
しかし今の面接を思い返すと、どうも他の人が引き立て役に思えてしまう。
「それはそうとタケバヤシ様。実力審査はどのように行いましょう?」
「普通はどのように行うんですか?」
「奴隷同士で試合をするか、お客様の方で用意した誰かと試合をするのが一般的ですね。稀に魔獣と戦ってほしいと言われることもあります」
……だったらこんなのはどうだろう?
俺が思いついたことを口にすると、
「それは面白そうですね!」
間髪容れずに、人間観察大好きなイケメンが同意。
対して他の大人達はというと……
「ふむ。ある意味面接の続きになりますな」
「実力は分かるし、リョウマの好きにやってみればええんちゃう?」
とイケメンほどではないにしても、同意する商会の会頭2人。
そして残る2人は、
「言わんとすることはわかる。ただ絶対に試合をして終わり、にはならない気がするんだけど……」
「嫌な予感、というか、店主が何かやらかす予感するネ……」
と難色を示したが、同意側にいたイケメンがその手腕を発揮。
俺の思い付きをそのままの形で実行することに決定した。
「ちなみに当商会には回復魔法の使い手もいますので、どうぞご安心ください」




