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リムールバードの活躍

本日、5話同時投稿。

この話は5話目です。

「お帰り~」


 新しいスキルに頭を悩ませながら宿に帰ると、受付の男性から声をかけられた。


 入り口が真っ暗だったので誰もいないのかと思った……でもちょうどいいや。


「すみません、この辺りで従魔を出しても迷惑にならない場所はありますか? 鳥の魔獣なんですが――」


 ペドロさんがこの道を使ったのは間違いないようなので、改めて森の様子を見てみたい。


 事情も含めて受付の男性に説明すると、


「そういうことなら、屋上を使ってくれて構わないぜ。この時間だと何にも使ってないし……ああ、もし洗濯物があればそれには気をつけてくれ」

「ありがとうございます。助かります」

「街道の安全は我々の生命線でもあるからな」


 快く許可していただけたので、さっそく屋上へ。


 指し示された木の階段を登り、たどり着いた扉を開ける。そこでは満天の星空の下、物干し用のロープが月明かりに照らされていた。他には屋上の縁に落下防止用の手すりがあるだけなので、ここからならどの方位にでも自由に飛び立てる。


「『ディメンションホーム』」

「「「「「「ピロロロ!」」」」」」

「おっと!」


 夜の宿だから、静かにしてくれ。


「「「「「「ピ……」」」」」」


 分かってくれてありがとう。


「それから、もう一度力を貸して欲しい。町の上から山全体を俯瞰して」

「「「「「「ピッ!」」」」」」


 6羽のリムールバード達がV字に並び、雲のない星空へと上っていく。


 先頭は唯一の上位種、ナイトメアリムールバードの“アインス”。餌にする獲物を狩る時は、俺の指示がない限り彼が指揮を取っている。ちょくちょく俺の頭を止まり木の代わりにしたりする、6羽のリーダー。


 そこに続く“ツヴァイ”と“ドライ”。この2羽は手紙を運ぶのが楽しいらしいので、手紙を出すときは大抵この2羽のどちらかに頼むことが多い。しかし食欲が旺盛で、帰宅後には食事を多めに要求するちゃっかり者。


 お礼とご褒美を兼ねて、要求には応えているけれど……契約した時より若干体格が大きくなっている気がする。手紙でそれとなく聞いたところによると、届け先にもご褒美が用意されているらしいし……単に成長したのか、それとも太ったのか。注意が必要そうな2羽だ。


 そんな2羽の後ろについていくのが、“フィーア”と“フュンフ”。6羽中この2羽だけはメスで、ツヴァイとドライ、それぞれとなんとなくいい感じである。大きな群れを離れて、俺と一緒にいてくれる彼らだが、もしかしたら近いうちに家族が増えているかもしれない。


 そして“ゼクス”。最後尾を飛ぶ彼は、6羽の中で最も体が小さい。しかし隊列を組まずに飛んでいる所を見ていると、どうも最も速く飛べるのも彼のようだ。他とペースを合わせるために最後尾を飛んでいる、という感じだろうか? 


 純粋に飛ぶことが好きなようで、たまに弾丸のような速度で廃鉱山の上を飛び回っている時もある。スピード狂の可能性あり。メタルスライム達と同じで、事故には注意してもらいたい。


「ピロロッ」


 小さく聞こえたアインスの鳴き声を合図に、6羽がそれぞれ綺麗に6方向へ散っていった。


 では俺も……視界の共有。


「……よし」


 特に問題はなさそうだ。空高くから山を見下ろすアインスの視界が脳裏に浮かぶ。宿場町の灯りが暗い闇の中で星のように輝いていた。


「だいぶ高い所を飛んでるな……」


 他はどうだろう?


 視界を切り替えてみるが、どれも似たような映像だ。


「やっぱ夜だからなぁ……」


 全体的に暗闇ばかりが見えている。


 従魔と術者の距離が離れすぎると視界の共有はできなくなるらしいが、その場合は暗闇すら見えないはず。だから距離の問題ではないと思うけど……


 今一番遠くにいるのがゼクス。視界を切り替えればもう麓が見えている。……障害物のない空を気持ちよく突っ切れたようだ。楽しそうなのはいいけど、手がかりを探すのも忘れないでくれよ……?


 注意を促してふと気づく。


 ここから麓って、直線距離でも100や200メートルじゃ足りないはず。高度があって遠くまで見えるにしても……そういえば意思の疎通も前よりスムーズになっていないか?


 もしや従魔術の腕が急に上がっている? だとしたらいつのまに? 何をきっかけに? ……従魔術関係で思い当たる事といえば、適性診断を受けた事くらい。だけどそれだけで変わるものか?


「……あ」


 フュンフが何かを見つけたようだ。考えるのは後回し。視界を切り替える。


「……よくわからないな」


 何かを見たらしいが、俺の目には夜の闇、かろうじて針葉樹の枝葉が見えるくらいだ。


 一体何が見えた? ……動くもの? 動物かそれとも人か? ……音? ……どうやら姿が見えたわけではないので、人かどうかは分からないらしい。しかしここにきて初めての報告。おまけにフュンフが飛んでいるのはケレバン側の道、それも山裾の方……


「一旦、全員集合」


 念のため、6羽揃ってあの一帯を重点的に探してもらおう。


 一度帰還の指示を出すと、フュンフはこちらに方向転換。他にも指示は届いて……るよな?


 視界を切り替えて確認。


 アインス、OK。ツヴァイ、OK。ドライもOKでフィーアも近づいてきてる。ゼクスは遠くまで行き過ぎたか。一番遅くなりそうだけれど、戻って来ている。


 ……いちいち切り替えるのが少々面倒くさい。全部一度に見られないかな……


 契約の効果で意思の疎通はできるし、何かあれば伝わってくるけれど、できれば常に全部の視界をすぐに見られるようにしておきたい。


 視界の共有はカメラとテレビ画面のイメージ。だったら画面を分割するイメージを加えて……そういえば昔、警備員のバイトもしたなぁ……お? おっ! 何かいけそう!


 片方は今も見ていたゼクスの視界、もう一つはもう町の上に到着したアインスの視界。その二つが混ざり合うことなく、脳裏に浮かぶ。ややノイズが入っている様にも思えるが……うん。


 監視カメラの映像を集める監視室のように、用意された複数の画面から別々の映像が流れているイメージをさらに強く思い浮かべていく。すると、だんだん映像が鮮明になってきた。……これならいける。三つ以上は練習が必要そうだけれど、二つなら何とかなりそう。


 やっぱり従魔術の腕が上がっているみたいだ。特に訓練した記憶もないので不思議だけれど……それは今度ギルドマスターか公爵家の方々に聞いてみよう。


「お疲れ様」


 試している最中に集合した6羽にもう一度捜索を頼むと、今度はフュンフを先頭に6羽が最初何かが見つかった場所へ急行。さらに到着後は3羽ずつ、2つの班に分かれてもう一度捜索をしてもらう。


 魔獣の可能性もある、慎重に頼むぞ……危険そうならすぐ離脱して構わない。


 了解の意思が届く、と同時に6羽が高度を下げていく。2つの視界に映る木々が大写しに、星空はほぼ見えなくなった。上空よりもさらに暗い映像……木々の輪郭がなんとなくわかる程度だけれど、探索は可能なのだろうか?


 ……あまりスピードが出せないが、問題ないらしい。そういえば彼らは本来渡り鳥だ。夜行性の鳥のように、夜空を飛ぶこともできるか。引き続き捜索を頼む。


「……」


 二手に分かれての捜索が始まった。その様子を共有した視界で観察する。しかし、


「……見えない……」


 リムールバードが本気で動くと目が追いつかない。暗い中でも移動が速すぎて、俺の目が追いつかなかった。


 リムールバードは見えているようだし、暗視効果とかないのかな……そもそも鳥と人間。生物としての目の作りが違うのに、人間が理解できる映像を見られるだけでも便利と言うか何というか……暗視効果くらいあってもおかしくないと思うが、俺が未熟なだけか?


 こう一生懸命に働く彼らを眺めているだけだと、ちょっと申し訳なく思えてくる。


 そんな時、


「!!」


 ドライ、フュンフ、ゼクスの3羽からの報告。何かを発見したようだ。まだゼクスの視界には変化はないが……一旦待機、そしてアインス、ツヴァイ、フィーアと合流を指示する。


 空へと上っていく2つの視界を眺めつつ、ペドロさんか手がかりであることを祈るうちに、空では6羽が無事合流。そして探索再開。


 これまでよりもさらに速度を落とし、木々の間をすり抜けていくリムールバード達。音が聞こえるらしく、既に全員が“何かいる”と確信しているようだ。


「……………………! ストップ!」


 光だ、木々の隙間からゆらゆらと揺れる光が漏れている。焚き火の光だろう。焚き火をしている誰かがそこにいる、ということだ。


 もう少し、注意して様子を見てくれ。


 少しずつ光に近づいていく映像。やがて人の影が見えた、1つ、2つ? 3つ……


「ペドロさん、ではないな……」


 そこにいたのは焚き火を囲む5人組。疲れきった顔で木箱に座り込む、ボロボロの男達だった。

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