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試合の後

本日、5話同時投稿。

この話は2話目です。

 ~Side リョウマ~


 試合が終わると生徒や教官を問わず、試合を見ていた方々の俺を見る視線が二つに分かれていた。


「リョウマ! 凄かったなさっきの試合!」

「どんな練習をしてるんですか?」

「やるじゃないか! こりゃ俺らも負けてられんな!」

「これから弓を始めて、実戦で使えるようになるにはどのくらいかかりますか?」


 片方はガゼル君やベック達を含め、俺の腕を認めてくれた好意的な人達。彼らは解説が済んでも、こうして声をかけたり、話を聞きに集まってくれる。


 もう片方は俺を遠巻きに見ていた。それもなんだか避けられてる感じ。ロッシュさんが参加者を労って解散の号令をかけると、彼らはそそくさと逃げるように帰ってしまった……原因はどう考えても試合内容だろう。


「何かまずい事をしてしまいましたか? 何か怯えられていたような気がするんですが……」


 生徒の質問に答えた後、ロッシュさんに相談してみることにした。


「……怖かったってのもあるとは思う」


 やっぱり、そんなに俺は怖かったのだろうか?

 どちらかといえば弱そうで、ベック達にも最初はナメられていたくらいなのに。


「お前が強いのはもう明らかになっただろ。それにただ真剣なだけかもしれないが、普段と様子が急に変わったからな。俺もなんとなく人間味に欠けた様に見えたというか……天敵に狙われる動物はこういう気持ちなのか? って気分だった」


 ……この姿になってから、せっかく怖がられることが減ってたのに。


 戦闘中の印象なんて考えたこともなかったから、少し悩む。


「そんなに悩むな。いきなりだったから皆も少し戸惑ってるのもあるだろう。時間が経てばもう少し落ち着く奴もいると思うぞ」


 ロッシュさんから慰めの言葉をいただいた。


「……話が変わるが、この前何で冒険者になったかを聞いたよな? その続きだが、冒険者としての目標はあるか?」


 話をそらしたいのかと思ったが、それにしては真剣な口調だったので、居住まいを正す。

 そしてシュルス大樹海へ行くことが今の目標だと答えると、


「よりによってそこかよ……」


 一通り聞き終わった後、ロッシュさんは一人で納得したように頷く。しかし同時に頭を抱えている。俺の目標に何か問題があるのだろうか?


 聞いてみれば、彼は自分の推測だがと前置きして、ギルドマスターが俺にパーティーを組んでほしいと願っていると話す。今回の依頼は、そう言う願いを込めて紹介したのではないかという話だ。


「パーティーですか……というか話してもいいんですか?」

「ギルドマスターの意思はあくまでも推測だ。口止めもされてないし、俺の感じたことを俺が言うだけさ。

 冒険者の仕事は上のランクに行けば行くほど危険度が高まる。お前が目標にしているシュルス大樹海だってそうだ。あそこで活動するために必要とされるCランクは最低でも(・・・・)Cランクって意味で、本当にCランクの冒険者が単独であそこに踏み込むなんて普通は自殺行為だ。いいか?」


 彼は落ちていた木の枝で、地面に二重丸を描いた。


「地元なら知ってる事ばかり、あるいは考え方が違うかもしれんが……これから言う事が、外での認識と考えてくれ。

 まずシュルス大樹海は外側から内側に向かうにつれて、生息する魔獣がどんどん強くなる。こいつを大樹海とすると、普通Cランク単独で活動できるのはせいぜいこの外側の円の傍。本当に樹海の浅い部分くらいだ。内側に踏み込めばBランクやAランクの魔獣も当たり前のように出てくるし、樹海の中心部はとても開拓できない領域になっている。

 リョウマの故郷がどこにあるかは分からないが、いま話を聞いた限り浅い地域とは思えない。だいぶ奥の方だ。連戦は必至。それに本物の大樹海は()樹海と呼ばれるだけあって広大だ。魔獣がいなくても1日や2日では踏破できない。中継地点を利用して、空間魔法を持っていても単独では厳しいぞ」


 彼は真剣に、単独で向かう危険を教えてくれている。


「正直に言うとな、俺やギルドマスターにお前を止める権利はない。何度も朝礼で言ってるが、冒険者は自己責任の部分が多い仕事だ。リョウマが規定のランクに達してしまえば、行くか行かないか、誰と行くかはお前の自由だ」


 だからこそギルドマスターは俺にこの仕事を紹介し、ロッシュさんはこうして話をしてくれているんだろう。……しかし、


「……申し訳ない、自分が誰かとパーティーを組む姿がいまいち想像できません」


 何度かジェフさんやミーヤさん達と即席のパーティーを組んだことはある。創立祭の前にはベック達と一緒に仕事をした事もある。どっちも問題はなかった。


 けれど、毎回? あるいはずっと一緒に? そう思うとどうもしっくりこない。


 改めて考えてみるが、何とも言えない違和感が拭い去れなかった。


「なら今すぐでなくても良い。正直、お前なら浅い所は問題ないと思う。それくらい見事な戦いぶりだったし、強さを肌で感じた。だけど、そういう奴だからこそ危ない事もあるって事は覚えておいてくれ。

 俺は仲間が居たから今日まで生きてこれた。引き際を誤りかけた時に止めてくれた。そういう時が何度もある。リョウマの実力に釣り合う仲間を見つけるのは難しいだろうが、樹海に行く前に一度は考えてみてくれ」

「ありがとうございます」


 どうするかは答えられないが、その気持ちは本当にありがたい。


「気にするな、これも先輩としての仕事だ。それに、若いのが無茶して死ぬのは俺も見たくない。自分の命を助けてくれたやつならなおさらだ。俺がもう少し若ければ一緒に行ってやっても良かったんだけどなぁ……今じゃ足手まといにしかならないだろうな」

「そうでしょうか?」


 ロッシュさんは肩を回してため息をつく。


「昔はAランク昇格間近まで行ったんだが、今じゃゴブリンナイトに隙を突かれて死にかける程度さ。リョウマも治療したから見たろ?」


 あぁ、あの時……というか、ロッシュさんって元Bランクなの?


「確か最初の自己紹介ではCランクと聞いていた気がするんですが」

「俺のパーティーは皆Bから1つ下げてCにしてるんだ。あまりやる奴はいないが、正当な理由があれば降格は手続き一つでできるんだよ。

 俺の場合は若い頃に無茶をして何度も怪我をしたせいか、体にガタがきててな。特にここ数年は歳のせいもあって持久力が落ちてきてる。短時間ならなんとかなるが、あの大樹海みたいに連戦になるときついのさ。

 Aランク昇格の話もあって悩んだが、中途半端な気持ちで仕事をするのも危ないと仲間に気づかされてな。昇格はすっぱり諦めることにしたんだ。ランクを下げたのは未練を捨てるのに良いんじゃないかと相談して……って、俺は何を話してんだ」


 ロッシュさんは恥ずかしそうに頬を掻いている。


「とにかくそういうわけで、俺達は残りの時間を後進の育成と老後の資金集めに使う事にしたわけだ」


 なるほど、これも冒険者としての選択か…………なんだかしんみりしてしまう。


「そういえばロッシュさん、もしかしてシュルス大樹海にお詳しいですか?」

「詳しいってほどでもない。何度か行った事はあるが」


 経験者だったのか!


「もしよければ、もっとお話を聞かせていただけないでしょうか?」

「それは構わないが、あそこの出身なんだろう?」

「それが、村人とはほとんど交流が無かったので……祖父母が生きていた頃はほとんど間に二人が入っていましたし、二人が亡くなった後すぐに村を出たので」

「なるほど。まぁ分からんでもない。俺も親なら子供をあの辺の空気に馴染ませたいとは思わないしな……」


 ? どういう事だろう?


「あ、すまん、リョウマの故郷を悪く言うつもりはないんだ」

「いえ、僕も祖父母の事以外に愛着があるわけではないので、特に何とも思いません。純粋にどういう意味かが気になります。外の人の認識を教えてください」

「そうか? ……なら簡単に言うと、大樹海の中は“強い者が正義”なのさ。危険な土地だからこそ強さが要求され、強い冒険者はもてはやされる。どこでも多少はあることだが、大樹海の場合はそれが行き過ぎてる。例えば……」


 ロッシュさんは野営場を指し示す。


「あそこで皆が野営をしているが、もしここが毒虫ではなく危険な魔獣がうようよいる地域だったらどうなると思う?」


 普通に考えて、生徒を守ることに注力しなくてはならないだろう。


「そうだな。その状況で俺達教官役が生徒を放り出したらどうなる?」


 ……あまり考えたくないが、悲惨な事になると思う。


「冒険者が活動するための中継地点では、冒険者が採取した素材の買取、補給物資の販売、武器や防具の整備。そういった仕事に従事する商人や職人も結構いる。彼らが居なければ冒険者の仕事はしづらくなる。冒険者を支えてくれるのが彼らだ。彼らの支援を受けて、冒険者は拠点の防衛や拠点外での仕事に励む」


 だから本来の関係は対等なはずなんだが……とぼやくように、ロッシュさんは言葉を続ける。


「長い時間を経て、“守る側”と“守られる側”の力関係が捻じ曲がってるのさ。強い者は偉い、弱い者は守られなければ生きていけない。俺達が最後に行ったのはもう10年ぐらい前だが、全体的にそんな雰囲気が漂っててな……あそこでの生活が長くなると、その空気に染まっちまう奴もいる」

「そうなった後は?」

「大樹海では目を瞑ってもらえた横暴も、外じゃ普通に顰蹙を買うからな。外に出てから苦労する。それが嫌になって樹海に戻る奴もいると聞いた事がある。あとは……強ければ多少のことには目を瞑るって風潮が流れているから、評判の悪い冒険者も集まりやすい」


 素行不良だろうと、犯罪者ギリギリだろうと、よそのギルドで仕事を干された冒険者でも、腕さえあって仕事をするなら受け入れられる。もはや文化の違いと言うべき認識の差が、シュルス大樹海という場所にはあるのだそうだ……


「だから仕事に行くならともかく、俺はあそこで子育てはしたくない。それにリョウマがあそこの出身と聞いた時は少し驚いた。よっぽどまともな、立派なご家族だったんだな」

「ありがとうございます」


 試合後は少々残念なことになってしまったが、おかげでアドバイスや経験談が聞けた。


 ロッシュさんやギルドマスターの心遣いに応えられるかは分からないが、帰ったらパーティーについても調べるだけ調べてみよう。

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― 新着の感想 ―
まあせいぜいが行ったことがあるという程度の人では外側からしか見れないわけで…正確な内情の把握などできる訳もなく てか別にソロが危険な理由には納得しかない気がするので、素直にパーティを組む方向で考えれ…
[一言] 指標であると同時に、生き残れる限界点という意味もあるんだろうな。恐らく、簡単な統計で出て来る解答だろうし。 D以下で生き残った者もいるんだろうけど、仲間に助けてもらってどうにか・・・というと…
[気になる点] なぜギルドではCランク以上じゃないと大樹海には行ってはいけないと強制しているのかがわからない。指標程度ならわかるが・・・もともと住んでいる人にもギルド員になったら住むところを追われてし…
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