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食料調達

本日、4話同時更新。

この話は1話目です。

 担当の時間まで自由時間が与えられた。


 当面の住処は用意できているし、次にすべきは食料と水の確保。


 通常の装備に加え、採取用の皮袋と皮手袋も用意した。


「というわけで、行って来ます」

「おー、気をつけてな」


 念のためロッシュさんに一声かけて、少し歩いた所にある林へ向かう。


 どうもこの野営教習は事前に調べることの大切さを生徒に教えたいのか、知識の有無により野営の難易度が大きく変わるように仕組まれているようで……俺が買った冊子には野営の注意点から、川の存在や食用可能な野草の種類まで事細かに書かれていた。


 あの冊子の内容をしっかり頭に叩き込んでおけば、不慣れな人でも何とかなりそうだ。


「?」


 馬車道に沿って歩いていると、不意に視線を感じる。


 そちらを見ると、生徒の1人だった。


 特に用があったわけではなく、ただ視界に入ったから見ていたんだろう。俺が視線を向けると、一度頭を下げて草原を進み始めた。依頼か、それとも俺と同じく食糧確保か。分からないが、同じように草原へ向かう生徒達の姿がちらほらと見られる。


 怪我の無いようにと祈っていたら、目的の林に到着。


「さーて、まずは何が見つかるか……おっ! アカカサタケ」


 林に入るやいなや、食用可能なキノコを見つけた。名前の通り傘の赤いキノコで一見毒々しいが、毒は無い。香りが良くてうまみ成分が豊富なおいしいキノコだ。これは幸先がいい。おっ!


 隣の木の陰には“エノクタケ”が生え、その根元には刺々しくて危なそうな“ヤリジュッポン”が地面から突き出ていた。どちらも食用可能なキノコだ。全部まとめて煮物にしたら絶対に美味しい。


「そういえばもうそんな時季か」


 夏が過ぎれば秋が来る、そして秋がキノコの季節なのはこの国も同じらしい。ガナの森でもこの時季になるとキノコ類を目にすることが多くなるので、毎年様々な種類のキノコを楽しむことができた。


 今日は少し多めに取って豪勢な夕食にするかな。日持ちしない物を優先的に使って、残ったら干して持って帰ればいい。それならシェルマさんに頼んで、店の食事に使ってもらってもいい。


 この国ではキノコの人工栽培に関する技術がまだ確立されておらず、食べようと思えば天然物を採取するか、採取されたものを買うかしかない。だから収穫量は時の運。天候や冬に向けて餌を探す野生動物にも左右されてしまう。


 日本でも江戸時代あたりまでは干し椎茸が高級品だったように、この国でもキノコはそこそこの値がつく。こんな風に自力で色々な種類を採取して、新鮮なまま食べられるのは狩人や冒険者の役得なのだ。


 食べても美味いし、ダシをとるにも使える。もっと気楽に年中買えるといいんだけどなぁ……


「この際、自分で育ててみるか?」


 栽培方法は“原木栽培”と“菌床栽培”2種類。


 原木栽培はキノコの菌を染みこませた木片を木に植えて、原木で育てる方法。


 菌床栽培はオガクズに菌糸と栄養源となるものを混ぜた培地で育てる方法……だったはず。


 適正な温度や湿度、その他細かいことは知らないけど大まかなやり方はわかる。……ちょっと試してみよう。細部は分からなくても大まかな流れが分かるだけ可能性は高いかもしれないし。


 でも一発当てれば大儲けだ! と、人工栽培に金をつぎ込み破産するって話もあるのでほどほどに。成功すればラッキーくらいの気持ちで気楽にやってみよう。今じゃないけど。今は食糧確保が優……?


「いたか?」

「そっちは?」

「ダメだ。そっちは」

「みつからねー」


 木々の間から届いた子供の声。何かを探しているようだ。


 気になったのでこっそり近づいていくと、ベック達と初日から言い争いをしたあの4人組だ。


「やっぱり草原の方だったんじゃねーの?」

「ロックリザードって岩のふりするトカゲだろ? このへん、木と草ばっかで岩なんてほとんどないしなぁ」


 ……あの子ら、罠依頼を選んだな……


 ロックリザードなんて魔獣、買った冊子には名前すら載っていなかった。


 少なくとも事前に冊子を買ってよく読んでいれば避けられるはずだけど……お金を節約しようとしたのかな? とにかくここは離れよう。気づかれて万が一意見を求められても面倒だ。


 木陰に隠れ、そっとその場を後にした。









 数十分後


「ただいま戻りましたー!」

「お疲れー」

「お疲れ様」


 荷物を拠点に置いてから、帰還の報告に一声かけて、待機中の教官方から返事をいただく。


「食料が豊富でしたよ、あの林。結構見つけやすい所にあります」

「へぇー。じゃあ今回は食べ物がなくなりましたー、なんて泣きついてくる子は出ないかしらね」

「そういう人も出るんですか? ルーシーさん」

「慣れてない子にはわりと多いわよ。事前に用意する量を間違えたり、何らかのトラブルで持ってきた食料をダメにしちゃう時もあるから。食料がある土地ならその調達技術を教えればいいし、困ることはないでしょ」

「そうですね。……そういえば生徒の皆さんはどんな感じで過ごしているんでしょうか? 一部は林の中で見かけましたが」

「他も同じさ」

「依頼か食料調達で、林か草原。だから俺達は馬の世話くらいしかすることも無いねぇ」

「楽っちゃ楽だが退屈だな。ハハッ」


 生徒は全員外出中か。やる気があるようで何よりだ。


 あ、そうだ。林の中で気になることがあったんだ。


「それからちょっと気になることもあるんです」

「何かしら?」

「あの林なんですけど、キノコの類がかなり生えてきてるみたいで。食用もありますが、それと似た毒キノコも豊富でした」


 怪しいものを不用意に口にしないのは基本だし、改めて注意はされていた。


 しかし食用と思って採取していたら、そのまま気づかずに食べてしまうかもしれない。


「採取物のチェックを強化した方が良さそうね」

「はい。その方が良いかと思います。薬は多めに持ち込んでいるので、必要であれば声をかけてください。毒の種類によっては、林にあった材料で解毒薬を作ることもできますから」

「分かったわ。その時はお願いする」

「それじゃ、またあとで」


 採ってきた食材の処理をしなければ。まずは水から。


 冊子に書かれていた通り、林の中では川を見つけた。それほど発見が難しい場所ではなかったが、問題は水質だ。あまり澄んだ川ではなかったので、一度ろ過したい。


 煙で燻され、すっかり虫のいなくなった拠点の外で土を採取。それを材料に土魔法で砂と砂利、そして大きな漏斗の上に円柱を取り付けたようなタンクと台を作成。次にそれらを拠点へ運び込み、アイテムボックスから布と砕いた炭を取り出す。


 あとはタンクの中に布を敷いて、炭、布、砂、布、砂利、布……と、布をはさみながら層を作っていけば、水に混ざったごみは取り除ける。最後にそれを部屋の隅に設置して、下に布と管で水漏れを防止。


「簡易浄水器、完成!」


 川の水は大きな水瓶で汲んである。あとは必要な時に水をろ過して、煮沸すれば問題のない飲み水ができる。


「ではさっそく」


 動作確認がてら、水をタンクへ注入。


 水がろ過されるまでの間に、余った砂利と布でもう一仕事しよう。


 砂利を集めて魔法で整形。深さはいらない。平たくて大きなプランターを作り、そこへスカベンジャースライムの肥料を投入。残った砂利を土に戻して混ぜ合わせれば、早くも準備完了。


「あとはこれをパラパラと……」


 林で採取したゴマ粒大の豆を撒いた上から、水魔法の綺麗な水で潤いを与え、布を被せて暗室に。そして木魔法で強制的に発芽させてやれば……みるみるうちに伸びる芽が、暗闇の中でその白さを浮かび上がらせる。


「もやしの完成、っと」


 覆いの布を取り外してみれば、窓から差し込む日光がもやしの細く白い肌を輝かせた。


 とりあえず今晩の分を採取した後。残った分にはさらに成長してもらう。


 この豆は雑草並みに成長が早いので、肥料と魔法を併用すればすぐにまた新しい豆ができる。それを取っておけば、明日以降ももやしを生産することが可能。ガナの森でも大変お世話になった食材だ。なんだか懐かしくなってきた。


 ……そうだ、懐かしい食材といえばもう一つあった。


 “コツブヤリクサ”

 川岸に群生するススキに似た植物で、成長すると長く延びた先端に小さな種子を大量に付ける。そのため見方によっては槍のように見えないこともない。麦や米と同じ穀物に分類され、粉にすれば無発酵のパンらしきものだって焼けてしまう便利な草だ。


 ただし、これは食べられるというだけの話であり、味は悪い。雑味も多く、世間一般では雑草と見られている。食用として常食する人はまずいない。それこそサバイバル生活でもしていなければ、普通に小麦粉のパンを食べるだろう。



 しかし……キノコ各種、もやし、コツブヤリクサ。山菜や野草も採れたし、持ち込んだ保存食や調味料もある。今晩も無事、まともな食事にありつけそうだ。

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[良い点] 面白いよ [気になる点] つまんない [一言] よくある話だから、どうでも良いんだけど日本人転生者なのに、大豆に触れないのが疑問 サラダ油 豆腐 味噌 醤油 日本人はコメと大豆だよ
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