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森の探索 4

本日、9話同時更新。

この話は8話目です。

 翌日


 冒険者ギルドから派遣された冒険者を15人連れ、昨日エルダートレントと戦った現場を訪れる。


 今日は彼らの力も借りて木材を回収するが、レイピンさんのディメンションホームに収納される分以外は全てこの街とギルドの倉庫で一時保管。後日馬車でギムルに運ばれる事になった。


 理由は単純。仕留めたトレントの数が多すぎた。派遣されて来た冒険者もまず最初に驚いていたが、総数は1000匹以上にまで及ぶ。


 どんどん集まってきていたから次々と倒し続けなければならなかったし、俺を含めた全員が攻撃範囲に入った奴からサクサク仕留めていた。そして全員が仕留めた数を合わせたらこの大量討伐という結果になったわけだ。


 こんなに森の木々がトレントとして切り倒されて、森は大丈夫なのかと心配になったが、地元の冒険者に聞くとあっさり大丈夫だとの答えが返ってきた。


 なんでもこの森の木々は“トリギリ”という木で、生える場所が限られている代わりにとても生命力が強く成長も早いらしい。その早さは何と一度根元から切り倒しても半年以内に元通りになり、苗を植えて育てても1年以内に木材として伐採可能な大きさまで成長するそうだ。


 だから今回の様に木が切り倒されても来年には元通りになるし、街の収入にも大して問題なく、そもそもここまで森の奥には滅多に木の伐採に人が来ることが無いと言われた。


 俺はその説明に納得しつつ、ここが異世界だった事を思い出す。


 地球じゃ苗を植えて木材にできるようになるまで何年、十何年とかかるのにここだと半年。地球の常識が通じない事もあるよな……





「さぁ、始めるでござる!」


 時々発見されるトレントを仕留めながら、木材回収が始まった。


 アサギさん達が木材を一箇所に集め、ディメンションホームに木材を突っ込まれた俺とレイピンさんが街と森を往復する。


 人手と魔法によるピストン輸送で、大体午後3時頃には木材の回収作業は終了。最後に木材の受け入れ準備を整えて貰うため、俺の店にアインスを飛ばしてギムルの冒険者ギルドへの連絡を頼む。


 これでトレント材に関しては一段落したので、木材回収の手伝いをしてくれた冒険者達は街へ帰っていった。


 しかし、俺たちにはまだ1つやらなければならない仕事が残っている。


「さてと……最後の大物ですね」


 エルダートレントの解体と回収だ。


 ギムルで受けた依頼の内容はトレントの木材の調達。エルダートレントは対象外。


 この場合、素材は狩った者の好きにしていいが、伐採と運搬を冒険者ギルドに依頼するとその分の依頼料は自腹になる。しかしエルダートレント材は魔法使いの杖の素材として一級品。市場に流せば高値で売れるという話で、捨てるのは勿体無い。だからこのエルダートレントは俺達で回収する。何分大きいので手間がかかりそうだけど。


「ま、最後の仕事さ。さっさと片付けるよ」


 ウェルアンナさんがナタを持ち出した。まずやる事は枝を落とす作業。事前に用意しておいたはしごに登って枝打ちをするが、このエルダートレントは成長し過ぎて梯子では届かない位置にも枝がある。


 そこではしごが届く位置は皆さんに担当して貰い、俺が届かない位置の枝を担当する。


 使う道具はスティッキースライムの糸を編んで作り上げた強靭なロープと、鉤爪や体の固定用金具に変形してもらったメタルスライム達。


 まずロープの先端に輪と結び目を作り、メタルスライムにガッチリとしがみついて貰えば鉤縄の完成。それを振り回して勢いをつけ、狙いを定めて投げる。


 鉤縄は狙い通りに飛び、太くてしっかりとした枝に巻きついた。


 ロープを何度か引っ張ってみるが、びくともしない。強度に問題は無さそうだ。



 ロープを使って上に登り、正確に狙える距離から周囲の枝を一本ずつウインドカッターで切り落とす。周囲に落とせる枝が無くなったら場所を変えて同じことを繰り返していくだけ。


 初めに地面に倒してやれば楽だと思うが、幹より枝の方が杖に適している部位らしく、先に切り倒すとせっかくの枝が折れてしまうのだから仕方がない。


 黙々と作業を続けた結果、なんとか今日中に枝を落とす作業は終わった。残りは明日に回す。木の上り下りは一回や二回ならともかく、何度も繰り返していると流石に疲れた。







 次の日


 昨日に続いてエルダートレントの回収作業。


 枝打ちは終わっているので、今日は根を掘り返して切り落とす作業になるが……


「皆さん! ちょっと来てください!」


 思わぬ事態が発生。


 アーススライムと一緒に土魔法で根元を掘っていると、エルダートレントの真下に朽ちて原型が崩れた木箱が大量に出てきた。


「どうしたんですか?」

「何かあったのか?」

「ここに何か埋まっているみたいなんです。ほら」

「これは……木箱か?」

「随分と沢山あるにゃ」

「何でこんな物が埋まってるんだい?」

「とりあえず、いくつか取り出して中を調べるのである」


 言い出したレイピンさんが慎重に箱を回収して開ける。


 中には白く濁った色の石が大量に詰まっているようだ。


「何でしょうか?」

「魔石であるな。それも使用済みの。魔石は魔力があるうちは水晶のように透き通っているが、中の魔力が失われる過程でだんだん白く濁っていくのである。これらは……全部完全に空であるな」

「……これはギルドに伝えたほうがよさそうだな」

「我輩が伝えに行くのである。皆は発掘と確認を続けてもらえるであるか?」


 誰からも異論は出ずに、レイピンさんは街へ転移する。


 残された俺達は、他の箱も次々と回収して開けてみる。するとその殆どに使用済みの魔石が詰まっていた。しかし完全に使い切られていない魔石も少量だが残っていて、無属性と闇属性の魔石が発見された。


 そしてここにこれほどの量の魔石があった理由も判明する。


「戻ったであるよ。変わりないであるか?」

「どうも。私、ギルドから派遣されました……ヒッ!?」


 レイピンさんが連れてきた女性は挨拶をしようとしたのだろう。しかし、そのために俺達の足元にあったモノまで見てしまった。


 心の準備も無く見れば驚くだろう。それは人間の死体なのだから……


「そ、それは?」

「これらの箱と一緒に埋まっていたのでござる」


 体は朽ち果ててしまっていたが、骨格からして男性と思われる遺体が数人分。


「持ち物が少し残っていました」

「ありがとうございます……」

「大丈夫ですか?」

「怪我とか血は平気なんですが……こういう状態の遺体はちょっと苦手で……すみません、少し手伝っていただけますか……」


 顔色を悪くした彼女と共に所持品を改めると、その中にあった帳簿から遺体は魔石商人。それも密輸や横流しを行う非合法な商人の物だと判明。この大量の魔石は彼らの商品だったようだ。


 人目のない森の奥で取引をしようとしていたのか、それとも密輸品の隠し場所だったのかまでは分からないが、エルダートレントはここにあった大量の魔石の魔力を吸収して成長・巨大化。


 そして魔石の魔力を使って大量のトレントを生み出し、闇魔法まで使えるようになっていた可能性が高い。エルダートレントがこの場を動かなかったのは、魔石の入った大量の箱を持ったままでは動けなかったと推測される。


「ご協力ありがとうございました。もう作業を続けていただいて構いませんので、それでは!」


 調査……と言うより状況の確認は終わったようだ。彼女は逃げるようにこの場を立ち去った。


 その背中を見送って作業再開。


 横倒しにしたエルダートレントをアイアンスライムとメタルスライムの大鋸で切り分け、俺のディメンションホームへ収納。これで俺達がこの街でやるべき事は終わったのだが……最後に見つけてしまったモノのせいで達成感が微妙だ。


 と言うわけで……


「今日は飲みましょうか」


 微妙な雰囲気の払拭も兼ねて、夕食後に今日までの働きをねぎらう打ち上げを軽く行うことが決まった。会場は俺のディメンションホーム。


「まだギムルまでの道中が残ってはいるが、トレント材は十分に確保できた。今回の依頼は達成したと見ても良い。今宵はひとつ、呑むでござる。乾杯!」

『乾杯!』


 アサギさんの乾杯の音頭で酒を飲み始め、目の前のつまみに手をつける。


 今日のつまみは天ぷら。


 俺達がトレントを狩っていた森では山菜の類がよく採れるらしく、街の八百屋で沢山売られていた。


 アサギさん以外は天ぷらについて何も知らなかったけど、この街に来るまでの旅で俺がちょくちょく日本食を出していたから興味を持ってくれたようだ。


 なお、驚いた事にこの国の人は揚げ物を食べる機会が少ないらしい。


「この前の創立祭、フライドポテトとか普通に売っていたと思いますけど」

「無いわけじゃないですけど……ほら、揚げ物ってどうしても大量の油を使い捨てにしますよね? 何度も使いまわすと体に悪いと聞きますし、そうなるとちょっとお金もかかって勿体無いじゃないですか」

「それに調理法に詳しくないと火事になる。だからそういう料理はお祭りで食べるもの」


 そういう理由で一般家庭では敬遠されがちなのだとか……


 俺としてはそっちの方が勿体無いと思うけど、使う油の量が多くなるのは確かだ。それに油の使いまわしは油が酸化して体に良くないのも……俺の場合は錬金術で酸化した油から酸素を分離すれば良いだけなので、油そのものが汚れない限りは使い回せると思うけど。


 ……というか油だけ分離してしまえば汚れも取れる。今更だけど、俺は錬金術でジュースとか油とか料理に色々手を加えているが、錬金術の使い方として正しいんだろうか? まぁ、間違っていても便利だからやめる気は無いけど。


「しっかし、本当にリョウマのスライムは変わってるねぇ」

「スライムは雑食、酒を飲んでもおかしくは無いであるが……」

「確実に味わって飲んでますよね、おつまみと一緒に」


 そう。実はこの打ち上げには俺を含めた男3人と女性4人の計7人に加え、俺のスライムが1匹混ざっている。


 以前エールを与えて以来、俺が晩酌をしていると寄ってくるのでそのまま晩酌につき合わせていたこのスライムは、初めは他のスライムが水を飲むのと同じく、器に入れた酒に飛び込んで一気に飲んでいた。


 しかし最近は俺が作ったスライム専用のお猪口を使い、段々と俺に合わせてゆっくり飲むようになってきている。


 近頃はお酒が無くなると注いでくれるし、つまみも食べる。


 そんな事を皆さんに話していると、突然スライムが震え始めた。


「おっ、まさか」

「どうかしたのかにゃ?」

「スライムが進化を始めました」

「えっ!?」


 ……間違いない。進化を始めている。それを伝えると皆さんの視線がスライムに集中。


 そしてスライムは他のスライムと同じ様に、魔力の放出と吸収を10分ほど繰り返して進化した。


「……動きが止まったであるな」


 さーて、進化したスライムは……


 ドランクスライム

 スキル 酒精生成Lv4 病気耐性Lv3 消化Lv5 吸収Lv1 分裂Lv1

 加護:酒の神テクンの加護


 ……ちょっと待った。酒飲んでたし、ドランクスライムって名前はいい。真新しいスキルも酒精生成になるのは納得できる。間違いなく酒が原因だと分かるから。でもなんでここにテクンの加護が出てくるんだ? スライムに加護って与えられるのか?


 ……まぁ、それはいつかテクンに聞こう。とりあえず好む魔力をチェック……闇、水、木か。


 そこでレイピンさんから声をかけられた。


「リョウマ、どうなったのであるか?」

「あ、ええ……なんか、ドランクスライムってスライムになりました。酒精生成というスキルを持ってます。多分お酒を吐き出すのかと」

「また変わったスライムであるな?」


 とりあえず俺は新しい器を出し、酒精生成スキルを見せてもらう。すると予想通り、ドランクスライムが吐き出した液体からはアルコールの匂いがした。


 鑑定の結果、アルコール度数40程、人体には無害と出たので飲んでみる。が……


「ふぅー……お酒、ではありますね。ただ……」

「ただ?」

「強いだけで味がないです」


 特に味も匂いもしないので美味しくはない。そのまま飲むのではなく梅酒とか、果物を漬けて果実酒にすればいけるかもしれない。これは要研究としよう。


 そんなことを考えていると、今度はスライムの進化祝いにもう一度乾杯され、酒とつまみを楽しんで今日が終わった。

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― 新着の感想 ―
そもそも人間じゃない生き物とか魔獣、獣に加護が与えられることがある?
[一言] スライムにまさかテクンの加護がつくなんて笑
[一言] あれ?酒スライムが出て来た・・・ のんびり農家読んでたんだっけ?
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