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森の探索 2

本日、9話同時更新。

この話は6話目です。

 翌日


 今日も変わらずトレント狩り。違う所があるとすれば、戦い慣れたおかげで初日より手際良く倒せる様になっている事だろうか?


 おかげで当初は1週間前後。トレント材の集まりが悪ければ2週間かけて集める予定になっていたが、今日までの集まり方を考慮した結果、今回の仕事は今日か明日で狩りを終わらせギムルに戻る事になった。


「はっ!」


 トレントの顔を額から顎まで一刀両断。続けてその右隣にいた1匹の顔を左下から切り上げて真っ二つ。さらに振り下ろされた別のトレントの枝を躱し、横から切り落とす。


 これ……何度もやってて思うけど、横から切り落とすとまるで仮面みたいになるな……


 くだらない事を考えつつ3匹のトレントを仕留め、周囲に他の個体がいないことを確認。


「リョウマもだいぶトレントに慣れたみたいだね」

「リョウマは元々しっかりと剣技を身につけていた分、対処に慣れるのが早いでござるな」

「動きに無駄がにゃいにゃ」

「ありがとうございます。武術は祖父から徹底的に叩き込まれているので、それなりに自信がありますよ」


 一応危険な場所なのだが、こうして皆さんと軽く話す余裕はある。気を抜き過ぎても良くないが、余裕が無さ過ぎるのも問題なのでちょうどいいだろう。


 しかし、更に奥に進むと突然周囲の雰囲気が変わった。


 魔力感知に集中……!


「レイピンさん」

「うむ。随分数が多いであるな……残念ながら、ここから全ては把握しきれないのである。アサギ」

「おそらくこの先にエルダートレントがいるのでござろう。退路を確保しつつ進み、無理だと判断した場合は情報を持ってギルドに戻るでござる」


 そして周囲に注意を払いつつ、先に進むと……


「「ハッ!!」」

「ニャアッ!!」

「――!」

「エイッ」

「『ウインドカッター!』」


 進行方向に新たなトレントの群れ。俺達に気づいた奴らがゆっくりと這いずり、襲いかかってきている。その数はあまりにも多く、総出で対処せざるを得ない。


 女性陣は手斧とナタで顔を狙い、アサギさんは顔より下を太刀で一刀両断にしている。レイピンさんはそれを魔法で援護。俺はトレントに囲まれない様に、俺達の背後へ回り込もうとするトレントを仕留める。


「……」


 奥から次々とやってくるトレントに終わりが見えない。幸いなのは1匹がそれほど強くない事。そして俺達が仕留めているトレントは移動中でしっかり地に根が張られておらず、仕留められると地面に倒れこむため視界が確保できている事だ。


「まだ問題ありませんが、キリが無いですね!」


 シリアさんのその言葉に対して誰からも返答は無かったけれど、全員が同意したのが何となく分かった。


「魔力感知で調べた限り、この周辺の木は殆どがトレントである! 全て伐採するつもりで行くのである!」

「皆、無理はするな! 撤退は恥ではない!」

「分かってるよ!」

「命あっての物種ってね!」


 会話内容の割に皆さんからはあまり深刻な感じがしない。単に確認をしただけで、すぐに次のトレントに向かっていく。やはり皆さんもAランクとBランク。この位は何ともないのだろう。


 俺も俺の仕事に集中しよう。少しこっちに来るトレントが増えてきた。


 刀を鞘に収め、代わりに鞘の役目を任せていたビッグメタルスライムに分離してもらう。


「むっ!? 何をする気であるか?」

「ちょっとペースを上げます!」


 足元には分離した100匹のメタルスライム。その内の2匹を持ち上げて指示を出すと、2匹は指示通りに変形する。


 メタルスライムが変形したのは投擲用の“斧”。


 投擲用なのだから当然の如く、体を気で強化して投げる!!


「オッ……」

「オ……オォ……」


 2本の斧は綺麗に弧を描き、寄って来ていたトレント2匹の額に突き刺さる。そして倒す。その後もすぐに次のメタルスライムを斧にして、投げる。投げたら次のメタルスライムを……と繰り返し、ひたすら斧を投げまくる!!


 これまでの経験で分かってきたが、トレントの魔力には偏りがあるようだ。


 全体的には均等な量の魔力が行き渡っている様に感じるが、その中に一箇所だけ他より魔力が多い点が存在する。それが弱点である“顔”。


 どうやらトレントの顔は体に魔力を行き渡らせる要。人間で言う所の心臓になっているらしく、魔力が集まっているらしい。そしてそこを傷つけられると、傷口から一気に魔力が抜けて死んでしまう……顔を心臓、魔力を血に例えると、まるで人間のようだ。


 しかし血と違い、魔力の流れは魔力感知で把握できる。言い換えればトレントは、魔力感知ができれば弱点の位置まで分かる魔物という事。だから魔力感知で狙うべき的の位置も把握できるようになっていた。


 それを攻撃の届かない間合いの外から一撃で倒す。


 これなら魔法を使っていないので魔力切れにはならないし、体が気で強化されているので疲れにくい。……正直、かなり楽になった。


 なお普通の投擲武器であれば、手持ちの武器を投げきってしまえばそれ以上の攻撃はできない。だけど俺が投げているのはメタルスライムなので、刺さった後は自分で帰ってくる。よって弾切れの心配は無く、拾い集める手間もかからずサクサク倒せてしまう。


 おまけに投げたメタルスライムが帰ってくる際にトレントが反応して攻撃を仕掛けるが、その際にはただでさえ遅い足が止まるのでさらに狙い易く、攻撃範囲まで近づかれる前に倒す事ができている。もはや戦闘ではなく作業に近い。


 ちなみに攻撃を受けたメタルスライムは全員無事。金属の塊に対して木の棒での一撃では効果が無かった。


 こうして一方的に俺たちの後ろに回り込んで来ようとするトレントを仕留め、他の皆さんが前方のトレント達を蹂躙する。


 みるみるうちにトレントの数は減り、周囲の森は倒れたトレントが散乱しているだけの広場に変わった。普通の木はまばらにしか生えていない。


「とりあえず乗り切れたであるな……しかし、やはり妙なのである」

「何がですか?」


 呟いたレイピンさんに問いかける。


「まずはトレントの数が多過ぎる事。こんな数の群れは見た事が無いのである。そしてこの場所。トレントは魔力を持って魔獣となった木々であるが、ここまで広範囲の木々がトレントになるなど初めて聞いたのである。最後に、極めつけがアレである」


 レイピンさんが示した方向には、遠目に巨木が立っていた。強い魔力を感じるので、あれがおそらく……


「あれがエルダートレントですか?」

「だと思うが……吾輩は何度かエルダートレントを見ているが、あれだけの巨体と強い魔力を持つ個体は初めて見たのである。それに、なぜあのエルダートレントが我々に向かって来ないのかも気になるのである」


 その言葉を聞きつけて、ちょうど近くに来たミーヤさんが俺より早く問いかけた。


「気づいてにゃいという可能性はにゃいか?」

「ここまで同族であるトレントを倒している以上、それは無い。我々に勝てぬと思って襲ってこない可能性もあるが、それなら逃げずにあの場に留まっているのはおかしいのである」


 だったら……


「何かあそこから動けない理由が?」

「そう考えるのが妥当であるが、前例が無い。少なくともエルダートレントが逃げもせず、襲いかかっても来ないなんて吾輩は聞いた事がないのである」

「放置しておくのは少々危険か……討伐、もしくは何か情報だけでも持っていくべき……レイピン、リョウマ、魔力は?」

「問題無いのである」

「僕も、魔法は殆ど使いませんでしたから」

「そう言えばそうでござったな。まさかスライムを斧にして投げるとは思わなかったでござるよ。……それでは警戒しながらになるが、もう少し休んでからエルダートレントを狩りに行くでござる」


 エルダートレントを狩りに行く事が決まり、敵の特徴を再確認。


 以前トレントの上位種として聞いていた通り、木属性魔法への注意が呼びかけられた後、休憩を取った。


 休憩中には俺のスライム投擲に皆さん興味があったらしく、特に普段は弓を使っているシリアさんに質問された。




 ※スライム武器※


「リョウマ君。その武器なんですけど、スライムですよね?」

「はい。皆さんには以前の仕事でヒュージスカベンジャースライムを見せたと思いますが、これも種類がメタルスライムとアイアンスライムに代わっただけです。多数のスライムの集合体ですよ。

 僕の得意な武器は刀なんですが、残念ながら現状では入手しづらい物なので、こうして解決しました」

「解決できたのは良かったでござる。しかしそのメタルスライムは斧になっていたが」

「はい。この武器はスライム特有の“変形可能な体”とメタルとアイアンの“金属の体”。この2つを利用した可変式武器です。先日装備の手入れ用品を買いに行ったところ、武器屋のティガーさんという方とお話したんです」


 武器屋を営んでいる身として興味があるとの事で、色々と話をしてみた。


 その中で“自由に形を変えられるなら他の武器にもなる”“獲物や状況に合わせて自由に武器を変えることもできる”“形は似せられても、実用に足る質を持ち合わせていなければ逆に危険”という風に話が移り変わり、最終的にティガーさんの協力の下、多数の武器への変化をスライムに教え込むことができた。


「刀やナイフに関しては最初から問題ないとお墨付きをいただけたのですが、普段武器として使わない斧などはまだ甘いと言われまして」

「その結果がさっきのであるか。あれだけの数に教え込むとなると、大変だったのでは?」

「経験を共有しているみたいで、ビッグの状態で覚えた後はバラバラになってもできていましたから、それほどでもないですね」


 ちなみに先ほど見せたように、投擲したら自力で戻ってきてくれるだけでなく、ビッグ以上だと“肥大化”と“縮小化”のスキルを持っているので、片手剣から大剣などの大型で重量級の武器まで自由自在に変形可能。おまけに刃こぼれなどもスライムが勝手に変形して修復してくれる優れ物である。


「武器として考えるととんでもないね」

「買い替えの手間が省けるし、お金の節約にもなる」

「それより制限無しに使い続けられるなんて、安心感が違います」

「遠距離武器は弾切れが問題だからにゃあ……軽く反則にゃ」


 女性陣から呆れたようなお言葉をいただいた。


「あ、ちなみに……」


 アイテムボックスから一本のロープを取り出して見せる。


「このロープ、すごく頑丈だと思いませんか? うちのスティッキースライムが吐ける糸の中で最も強靭な物をより合わせて作ったんです」

「確かに細いのに頑丈にゃ」

「この斧で切ってみてください、ミゼリアさん」

「いいけど……あれ? なかなか、切れない」

「頑丈でしょう? この材料になってる糸についてもティガーさんと話したところ、この糸を利用した防具も試してくださるそうなんですよ」

「リョウマはいつか全身をスライムで固めそうな気がするにゃ」


 そんな事を言われながら休憩をとり、再出発。


 だがエルダートレントに向かって歩き始めると、途中で突然メタルスライムに異変が発生。


「ちょっと待ってください」

「どうした?」

「メタルスライムの様子が……恐怖? ……何かに怯え始めたんです」


 契約の効果でメタルスライムの様子が分かるが、今すぐにでも逃げ出しそうなほど怯えている。この怯え方……何か苦手な物でもあるのだろうか……?


「大丈夫にゃのか?」

「申し訳ないですが、この状態ではメタルスライムは戦えそうにありません」

「無理はさせないでやると良いのである」


 お言葉に甘えてメタルスライム達をディメンションホームの中に入れる。しかし、気になる……メタルスライム達の怯え方は尋常じゃなかった。天敵でもいるのかと思ったが……見える範囲にはエルダートレント1匹のみ。


「エルダートレントってスライムの天敵だったりします?」

「聞いた事が無いのである」


 ……確かに、怯えていたのはメタルスライム達だけでアイアンスライムは平気のようだ。メタルスライムは一体どうしたんだろう? ……まぁ、アイアンスライムは参戦できて良かった。一応予備の武器はあるけど、アイアンスライムの刀が一番良い武器だから。


 あらためて様子を見ながら進むと、今度は周囲に異変が起こる。


「左の木!」

「にゃっ!」


 まばらになった木々の横を通ったその時。


 その木は俺の魔力感知ではただの木。おそらくレイピンさんの感知でもそうだったんだろう。しかし俺たちがその木の横を通ろうとした瞬間に、急に木がトレントに変化して襲いかかってきた。


 尤も、すぐさまレイピンさんに察知されてミーヤさんに仕留められたが……


「これはどういう事であるか?」

「レイピン?」

「この木は先程までトレントでは無かったのである。今、この瞬間にトレントになったのである。こんな事は本来ありえないのである」


 トレントは木が魔力を持って魔獣になった魔獣だが、一気に魔獣になる訳ではない。時間をかけてゆっくりと変化するのが普通なのだとか。


 そんな事を言っていると、まばらにあった木々がまたしてもトレントに変化したのを感じる。


「レイピンさん」

「うむ、トレントが続々と生まれているのである」

「こりゃ予想外だねぇ……」

「この様な状況、予想のしようがあるまい」


 まぁ、先ほどより数が断然少ないので問題は無いが、この異常事態は気にかかる。そう思いつつも周囲のトレントに対処するため、魔力感知に集中。すると土の中から魔力を感じた。


「土の中に何かあります! 『ブレイクロック』『ブリーズ』!」


 魔力を感じた地面をブレイクロックで崩し、風魔法の強風で吹き飛ばす。


 するとそこには木の根が通っていて、その中に魔力の流れを感じる。


 レイピンさんもそれに気づいてこう叫ぶ。


「エルダートレントの根! ……もしや、エルダートレントがこの根を通じて木々に魔力を送り込み、トレントに変えていたのであるか? そう考えればエルダートレントが現れるとトレントが急増する事に納得できる。しかしそれを奇襲に利用する個体がいるとは。これは驚くべき発見である!」

「研究より対処が先でしょ!」

「とにかく、この状況を解決するにはエルダートレントを倒してしまうしか無いのか?」

「その可能性が高いのである。これを放置すればその分さらにトレントが増える可能性もあるのである」

「エルダートレントまではまだ500m程か……一気に接近しエルダートレントを仕留めるでござる。リョウマ、殿を頼む。エルダートレントは我々が受け持つ故、追ってくるトレントの足止めを頼む!」

「了解!!」


 そこから行動に移るまでは早かった。


 ウェルアンナさん、ミーヤさん、ミゼリアさん、アサギさんの4人が先行して進行方向のトレントを伐採。続いて俺、レイピンさん、シリアさんが後を追う。


 トレントの動きの遅さが幸いし、トレントは障害にはならなかった。しかし近づくととうとう、エルダートレント本体が直接攻撃を加えてくる。


 枝の攻撃範囲にはまだ遠い。けれど地中にある根を地面に出して攻撃してきたのだ。


 しかも情報にあった木魔法を使っているらしく、根が伸びて俺達を捕まえようとしている。


 レイピンさんはウインドカッター、俺達は武器で切り落として対処しているが数が多く、特に足元からくる攻撃が躱しにくい。……そうだ!


「『ペイブメント』!」


 店を作る時にも使った舗装用の魔法。これで地面を押し固めてしまえば、多少の時間稼ぎにはなるだろう。


「援護します!」

「助かる!」


 こうして俺達は一気にエルダートレントに突撃した。

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― 新着の感想 ―
『ペイプメンド』は便利すぎるし、レイピンさんは研究が好きなんだ
[一言] 物凄く今更ですがアニメ化おめでとうございます! このまま映画化したりしてw
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