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若年寄の一歩手前

本日10話同時投稿。

この話は10話目です。

「お疲れー」


 最後の巣からは予想通り、奥のトンネルアントも出てきた。総数は見張りを含めて15匹。俺が先に5匹を倒したので、ベック達が戦ったのは残りの10匹。


 安全に対処できると考えた倍に近い数を任せたが、なんとか倒しきった。何度か転ばされたり噛まれたりもしていたけれど、誰も大きな怪我は無い。


「水か回復魔法はいるか?」

「いら……やっぱ傷を洗う水だけ。飲み水は用意があるから」


 賢明だ。石の器に魔法で水を用意する。


「あっ、同じ水は使わなくていい。全員分用意する」

「え? ま、まだ綺麗だしもったいないよ……」

「いやいや、それ続けると後がどんどん汚くなるから。擦り傷程度でも変な細菌が入ったら大変でしょう」

「サイキン? 最近?」

「あー、病魔の一種と考えてもらえばいいかな」

「……ウィスト。本人がいいって言ってるんだから、うだうだ言わずに使わせてもらえよ」

「う、うん……それじゃ……」


 傷を洗って死体を拾いに行ったベックに続き、ウィスト君が傷を洗って死体集めに加わる。その後も残りの4人が入れ替わり立ち替わり傷を洗った後は、俺もスライムとリムールバード達を呼び集めてディメンションホームの中へ。


 しかし街へ帰る道中……


「ねぇリョウマ君。なんでそんなに強いの?」


 ルースから突然そんな事を聞かれた。


「急にどうしたの?」

「ゴブリンの時もそうだったけど、今日はトンネルアントを簡単に倒してたから」

「相手になってなかった……です」

「絶対に1人で回ったほうが早かっただろ」


 同じ魔獣を自分達も相手にして、力量差を強く感じたということだろうか?


 俺からしたら人生一回分の鍛錬があるから当然というか、それで彼らが同レベルだったら若干へこむ。見た目同じくらいだから、彼らもそんな気持ちか?


 となると……


「まぁ……師匠がいたからかな」


 ちゃんとした技術を持つ指導者の指導の下、生活の保護を受けながら鍛える時間も捻出できていた。そこが大きかったのだろうと無難に答える。


「その細い双剣の技を教えてもらったの?」

「これは剣じゃなくて刀。あと2本使ってたのは1本を片手で使う訓練をしていたんだ」

「それをやれば強くなれるのか?」


 ベックが興味を示しているけれど、ただ片手で振るだけでは意味がない。


 この訓練には握力や筋力の強化という目的もあるが……それ以上に“片腕が使えなくなった場合”に備えるのが最大の理由だ。


 戦闘には怪我の危険が常につきまとう。また敵と必ず万全な状態で戦えるとも限らない。戦闘中に傷を負い片腕が使えなくなった場合。武器が振れなければ命は無い。中途半端に振れたとしても、万全の状態で深手を負わされた相手にはどれほどの効果があるのか。まず圧倒的に不利な状況に陥ってしまう。


 そこで1本の武器を片手で扱う訓練を行うのだ。先ほども一刀の技を片手で、左右どちらの手でも自在に振れるよう二本使った。二刀流と言うよりも、そう表現するほうが正確だろう。


 当然ながらこれは行う前にある程度基礎ができていなければならない。両手で正確に扱えない武器を無理に片手で扱った所で滅茶苦茶になるだけだ。まずはギルドかどこか、ちゃんとした所で訓練を受けるのが良いと思う。


 というか、ベック達に師匠はいないのだろうか?


 聞いてみると基本的なことはスラムの先輩から習ったが、その方々も忙しいので自主鍛錬の割合が多いとの事だった。ギルドで指導を頼むという手もあるが、身につくまでの依頼料が不安だと彼らは語る。


「まずは金を貯めないとな……」

「ぼ、僕からもいいかな?」

「いいよ。何かな?」

「リ、リョウマ君はその……戦う時に何を考えてるの? えっと……怖くないのかな……って」


 なるほど……確かにウィスト君は遠慮がちというか、戦ってるとき積極的に攻撃できずにいた。


 戦い方を見た限り、ベックが身軽さを活かして短剣と格闘で牽制。マルタの木魔法によるサポートを受けながらルースとルーミルが剣と槍で敵を抑え、腕力のあるフィニアとウィスト君がハンマーでとどめを刺す。というのが彼らの基本戦法だった。


 トンネルアント用に対策を練ってきたようで戦い方に文句はないが、ウィスト君個人は積極的に攻撃に出られていない様子が見受けられた。


 怖がりというだけでなく、優しすぎるというか……遠慮で力を入れきれず、仕留めるために2、3回殴っていた。おそらく全力で殴れれば一撃で倒せると思う。


 まぁ心構えを聞いてくるあたり、自覚はしているんだろう。


「またそんな弱気になるなって。思い切って振れば良いんだっていつも言ってるだろ?」

「うん……でも相手を目の前にするとどうしても……」


 やはり昨日今日始まった話ではないらしい。しかしなんと答えたものか……


「僕は……特に何も」

「えっ?」

「戦うときは戦うこと。敵の行動と自分の動き方に集中することだよ」


 鍛えて実力が身につけば自信にもなる。彼に言うと自分を責めてしまうかもしれないが、俺はトンネルアントと対峙しても恐怖は感じない。


「そのためにはやっぱり地道な訓練と経験を積む事だね」


 実に当たり障りのない意見。もっと上手い事を言えればいいのだけれど、そんなコミュ力は持ち合わせていなかった。せっかく質問してくれたのに、申し訳ない。


「リョウマ君は悪くないよ! 大人たちにもそう言われてるし……」

「ん? まだ何か?」

「ううん、何でも――」

「冒険者に向いてないって言われてんだよ。ウィストは」

「っ!」


 割り込んだベックの言葉に、彼は黙り込んでしまう。図星のようだ。


「言われてるって、誰に?」

「他の奴ら。スラムの子供で冒険者やってるのは俺達だけじゃないんだよ」

「冒険者には誰でもなれるし、元冒険者の肩書きがあった方が就職先を探すとき受けがいいからね」

「スラム出身……警戒されるです。元冒険者の方が安心、です」

「真面目に働いてた記録があってこそですけどね」


 吐き捨てるようなベックに続き、女の子達が補足してくれた。


 その横で肩を落とすウィスト君。ルースに慰められているが……


「仲、悪いのか? その子達と」

「悪いっつーか、そいつらは戦うのが得意なんだよ。稼ぎもあっちのが多くて、最近薬草採取ばかりしてる奴を馬鹿にし始めたんだ。特にウィストは力も強いし体もでかいだろ? なのにこの性格だから余計にな……ウィストもうじうじしてんじゃねぇよ! あいつらはあいつら、お前はお前だろ! だいたい強さで比べたらあいつらだってコレには敵わないだろ」


 俺が引き合いに出された。コレ呼ばわりは酷くない?

 しかし子供同士でも色々あるんだねぇ……


「でもぉ……冒険者を続けるなら人を殺すときもあるって」

「そんなのあいつらだってまだ先の話だろ!」

「でも、ベックだって言ったじゃないか」

「何をだよ!」

「僕がもっと、ちゃんと攻撃できたらって」

「馬鹿! 俺はあいつらみたいな意味で言ったんじゃ」


 ……ベックがヒートアップしすぎかな。


「ちょっと待った。ここで2人が言い合いをしても意味無いだろう」


 頭に血が上ってきたようなので割って入る。


 少し冷静になってほしい一心で、歩きながら話を聞いてみると……


 1.ウィスト君はさっきまで話していたような事をその子達に言われていた。

 2.ベックの言う通り、言った子達も当分縁のないような状況や心構えの話も多々ある。

 3.実際に冒険者として活動を続けるならばいつかぶち当たる可能性もある。

 4.ウィスト君は真面目に考えて、早く一人前になり仲間の役に立ちたいと思っている。

 5.ベックは長い目で見れば良いと思っているし、それまで付き合うつもりもある。


 要点はこんな所だ。


 ウィスト君は問題点をちゃんと自覚していて、弱気だけど向上心はある。それだけに焦って空回りをしているような感じだ。それにはベックも気づいているようだけど、性格の問題だろう。自分が“気にせず笑い飛ばしてやればいい事”ぐらいの認識なので、なんでウィスト君がそこまで悩むのかが分かっていない。


 ……難しいな。


「とりあえず個人的な意見を言わせてもらうと、ウィスト君はちょっと考えすぎかと思うけど……」

「だろ?」

「そんなぁ……」

「いや最後まで聞いてよ。確かに今の内から気にしすぎる必要はない。でも将来を考えることは大切だし、他人や生き物を傷つけることに抵抗があるのは大切な事だ」

「結局どっちなんだよ」

「その“どっちか”じゃなくて、たとえば……そうだな……街でお腹が空いたとしよう。さてどうする?」

「そんなの飯を食うに決まってるだろ」


 ベックは迷いなく答えた。なら手元に食料がない場合は?


「店に買いに行く」

「い、今ならお店で食事もできるよ……」

「外食は高いよ。少しでいいなら街を出て、野草とか食材を採りに行った方が安く済むわ」「近所の人と何か交換で分けてもらう、です」


 次々と意見が出てくる通りだ。


「他にも畑を作っていれば作物を収穫するだとか、悪い方法なら食べ物を盗むという手もある」

『盗みはダメ』


 6人の声がそろう。


「……前に捨てた獲物勝手に持って行こうとしてただろうに」

「うっ」

「そ、それは……」


 指摘したら急激に気まずそうな表情へ変化した。ちょっと意地が悪かったか。


「別に責めてるわけじゃないよ。反省してるみたいだし、あの事はもう別になんとも思ってないから。

 ……話を戻そう。確かに盗みは悪い事だけれど、“1つの手段”ではある。僕が言いたいのは1つの目的を達成するために、取れる手段は色々あるって事。同じようにさっきの質問も、ベックとウィスト君の意見以外にも答えがあると言いたいんだ。2人は極端すぎるんだよ」

「じ、じゃあリョウマ君はどうしてるの? 魔獣と戦うときは……」

「命を奪うことに対しては、“必要だから”」


 食料にするため。衣服にするため。あるいは仕事のため。“必要だから”獲物の命を奪う。

 襲ってくるなら魔獣だろうと人であろうと、身を守るために“必要だから”命を奪う。


 それだけだ。


「厳しい言い方になるが、腕を鈍らせてしまうような悩みは戦う邪魔にしかならない」


 羽虫1匹も人間1人も、1つの命。


 “平時においては羽虫も人の如く扱い、戦時においては羽虫を払うかの如く人を斬れ”


 一瞬の迷いが命取りになる状況では、悩みは捨てるか割り切った方が生存率も上がる。


 古くから伝わる我が家の家訓である。


 そして俺はこれを間違っているとは思っていない。


 流石に人を羽虫と同列には考えてないけれど、戦闘中に腕を鈍らせるほどの抵抗も無い。


 ……かなり割り切っている方だと自分では思っている。


 でも、


「だからこそ、人でなくても生き物を傷つけることに抵抗を持つのはごく普通の感性で、大切な事だとも思う。ウィスト君の姿勢は人として間違っていないと僕は断言するよ。すぐに割り切れとは言わないけど、どこかで納得できる落とし所を見つけられると良いんじゃないかな?」

「……うん」


 ……少々極論で刺激が強すぎただろうか……全員反応が鈍い。俺も明確な答えを与えたわけではないけど。結局こういうことは本人が納得できるかが重要だろう。


「で、そのためには……ベック!」

「俺!?」

「まぁ他の皆もだけど、時々全員で冷静に話し合ってみたらどうかな? 頭に血が上らないように。まともな大人を交えて話を聞いたり、できる事は色々あるさ。ウィスト君も、慌てなくてもまだ当分は地道に冒険者を続けるでしょう?」

「う、うん! 戦うのは怖いけど……まだ始めて1年も経ってないし、皆と一緒にやりたい……」

「ならゆっくり考えるといい。今日見た限り、無謀な事をしなければ大怪我もしなさそうだしね」


 それで最終的にどんな決断をしようと、俺は否定するつもりは無い。


 冒険者を辞めるなら店に来ないか誘ってみてもいいかもしれない。今は言わないが……おっ。


 門に到着。ギルドカードを提示して門をくぐる。


「ここから……そっちは冒険者ギルドに行く?」

「そうだな。まず報告に行かねーと」

「それじゃこっちはテイマーギルドに報告だから、お別れだ」

「分かった。今日はありがとうな」

「お、お世話になりました」

「とても助かった、です」


 口々に礼を言う6人と別れ、1人テイマーギルドへ向かう。










 ……柄にもないことをしたなぁ……


 さっきまでの事を思い返すと何であんな話をしたのか。


 応援したいとは思ったが、余計なお世話だったんじゃないだろうか?


 俺も新人のくせに偉そうに。だんだん説教臭くなっていた気もしてくる……


「店長!」

「! あ、フィーナさんにリーリンさん。どうしたんですか? こんな所で」

「私達、買い出しネ」

「連日の試作で調味料が切れてたんです。他にも紙とか消耗品の補充があったので。店長は?」

「仕事帰りですよ、ちょうど今戻ってきたところです」

「何かありましたか? 考え事、してる顔してたヨ」

「そんな顔してました?」

「悩んでるかんじでしたね。困り事ですか?」

「そうではないんですが……僕も歳をとったのかな……と」

「「え?」」


 2人に心底意味が分からないという顔をされた。

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― 新着の感想 ―
[一言] > 「僕も歳をとったのかな……と」 ミルコさん「お前は何を言ってるんだ」 爆笑しましたw
[一言] 半世紀はええよww
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