気まぐれでお節介
本日10話同時投稿。
この話は9話目です。
「5ヶ所目発見……っと」
リムールバードが空から目星をつけ、スライムが数を活かして捜索。そして俺は確認と記録。それぞれに合った作業分担であっという間に巣が見つかる。あとは報告するだけで良いのだが……こう簡単に見つかると、少々物足りなく感じる。
捜索依頼は巣を見つけることが仕事だが、余裕もあるしもっと報告の質を高める事はできないだろうか? 巣の大きさや敵の数が分かればいいが……スライムを送り込めば調査はできる。しかし奥のアントと遭遇することになるだろう。そうなればもう調査どころではなくなる可能性が高い。
殲滅できれば良いが、数が多いと取りこぼすかもしれない。特にトンネルアントは地中を進める魔獣だ。……『探査』
「……だめか」
通路が狭いアリの巣だからか魔力の流れが複雑すぎる。入り口付近しか分からない。型取りするイメージで大量に魔力を流し込むというのは……魔力の消費が多すぎる。
悩むこと5分。
ふと足元を見れば掘り返された土を踏み、きれいな足跡が残っていた。
……………………もしかして……試してみるか。
もう一度探査の魔法を使う。ただし今度は無属性ではなく土属性の魔力で。ロックやブレイクロックと同じく、地面に魔力を染み渡らせるようにイメージして……
「『探査』……お!」
成功した!
魔力が地面を伝って広がり、土のない場所は通らない。探索範囲にぽっかりと空いた空白地帯が巣の形状を如実に伝えてきた。トンネルアントに反応は……無いようだ。
巣の中身を探査している訳じゃないから敵の詳細な数は分からない。しかし巣の中のアントを刺激することも無いようだ。それに巣の大きさとトンネルアント1匹の大きさから考えれば、大まかにだが巣に入れる最大の数は推測できそうだ。
巣の形状は忘れないうちに大体のモデルを作っておこう。『ロック』を使えば簡単だ。あと調べた時間もメモに加えて……よし。今後は土属性の探査での調査もやっていこう。……土属性の探査ってのはちょっと言いにくいな。……探査だけど無属性じゃないし……“アースソナー”と呼ぶことにしよう。
「次にいくぞ!」
スライムを率いて次の候補地へ。
右と左、複数あるがどっちへ行こうか………………? あれ?
アインスの視界に小さめの荷車を引く6人組が映っている。体格からして子供。なんだか見覚えがあ……あ、やっぱりベック達だ。
「挨拶でもして行くか」
「おーい!」
休憩中らしき6人へ、警戒されないよう声を上げて存在をアピールしながら近づく。
「リョウマじゃねーか。最近ちょくちょく会うな……後ろのはスライムか?」
「お互い同じ街で活動してますしね。こっちはメタルスライムとアイアンスライムです」
「ま、またすごい数だなぁ……」
ウィスト君の顔が引きつっている。スライムは苦手なのだろうか?
「で、何か用か?」
「トンネルアントの巣の捜索中。テイマーギルドの仕事でね。たまたま見かけたから声をかけたんですが……そっちも?」
「私たちは討伐です。一応」
「一番の目的はトンネルアントの甲殻……です」
ハーフエルフのマルタと、ハーフドワーフのフィニアだったかな? それに目的が甲殻?
「スラムの兄貴分が防具職人に弟子入りしててさ。材料を持って行けばその分安く防具作ってくれるんだよ」
「練習って言ってるけど、親方から認められたちゃんとした防具なの!」
犬人族の兄妹が補足してくれた。
「ルースとルーミルが言った通り。アントの甲殻は金属より軽くて革より頑丈だから、鎧や盾に使えるんだとさ。多めに材料を持って行けばその分も少し割り引いてくれるって言ってたし、討伐できた分はお金になるし、このチャンスに全員分の装備を整えたいんだ」
「それに……こ、この草原って僕らがよく薬草を採る所だから……早く前みたいになってほしい……」
「なるほど……」
しかし荷車を見てみると、トンネルアントの死体は1匹分しかない。
「まぁ見ての通りなんだけどね」
「トンネルアントが見つからないんだよなぁ……」
「やっぱり夜の方がいいのかなぁ」
「ギルドのお姉さんはそう言ってた……です」
「でも夜は暗いし、どれだけ沢山出てくるか分からないよ」
「お、多すぎても困るよ……」
ちゃんと安全マージンも考えてるようだし……
「だったらアントがいる場所を教えましょうか?」
提案してみた。
俺の仕事は“巣の捜索”。発見するだけで討伐する必要はない。しかし巣に近づくと見張り役が数匹出てくるので倒さざるを得ない。そこで俺は巣に案内するだけ、見張りを倒すのは彼らに任せてはどうだろうか?
「……そりゃ俺らは助かるけどよ、何でそんな事してくれんだよ」
「んー……気まぐれとしか言いようがないんですけど……」
出会い方はあまり良くなかったけれど、彼らは彼らで頑張っている。そういう姿を何度も見て、少し応援したくなった。理由としてはそれくらいだ。
「変なやつ。……遠慮はしねーからな」
ベックは続けて皆に休憩は終わりだと声をかけた。
どういう意味かは分からないが、やる気になったようだ。
新たに6人を仲間に加え、仕事を再開する。
「よーし!」
6人と合流して7つめの巣。たった今見張りが倒された。ベック達は積極的に戦っている。そして俺は完全に荷物番。遠慮しないと言っていたのでもう少し頼ってくるかと思ったけど、巣を見つけるだけのお仕事だった。その巣を見つけるのも従魔がやってくれる割合が多いので、ほぼ何もしていない。
「リョウマ、次で最後な」
「もういいの?」
「材料はもう十分だし、荷車に乗らなくなっちまうしな」
荷車にはすでに12匹分の死体。甲殻だけ取ればまだ乗せられるが、素人が下手に手を出すと質が落ちると職人から止められているらしい。俺もアントの解体は経験がないので従っておく。
なんなら少しアイテムボックスに入れてもいいが……次で帰れば確実に日が暮れ始める前に帰れるか。
「了解」
倒したアントを荷車に積み、移動開始。走らずのんびり歩いて向かう。
それにしてもこんなに巣があるとは……やはり繁殖期なのだろうか?
アント系の魔獣には女王となる個体が存在する場合が多い。しかしトンネルアントはそれと関係なく巣を作るし繁殖もするらしく、女王がいた場合は規模が大きくなるだけだという話なので判断が難しい。
「……この辺ですね」
用意を整える6人を横目に、『アースソナー』で巣の位置と規模を確認。
……?
「……ベック。ここ、まずいかもしれない」
「デカイ巣なのか?」
「逆。これまでの巣と比べて狭い。それだけ入り口と最奥部が近くて、もしかするとこれまでのように見張りだけでは済まないかもしれない」
だいたい3分の1くらいだろうか? 巣が小さいだけアントの総数は少ないだろうけど……これまでの彼らを見る限り、安全に対応できるのは一度に3匹か4匹くらいだろう。
「別の巣にする?」
「そうだな……でも数が多い敵にも慣れておきたいし、ちょっと待ってくれるか?」
ベック達は6人で集まり、何度か意見を交わした後……
「リョウマ、ここで戦いたい。この前みたいな事がまたいつかあるかもしれないしさ」
そうか。まぁトンネルアントなら死にはすまい。
「じゃあ僕も加わるよ」
どうしても手が回らない分は俺が受け持とう。
「いいのか?」
「サポートくらいなら問題ないでしょう」
……こうしていると会社の事を思い出す。
過去の部下も、目の前にいる彼らも、あらを探せばいくらでも見つかる。けれどあらがあるのは新人であれば当然のことだ。最初から何もかもができる奴はそうそういない。極まれに要領が良くてすぐ仕事を覚える奴はいるけれど、本当に最初から一人前の仕事ができるのはどこか別の会社で経験のある中途採用の人ばかりだった。
必然的に新人は社内で教育することになり、勤続年数だけは長かった俺も何度も担当した。残念ながら指導力はそう高くもないが……ただ1点、忍耐だけは他よりあったと自負している。
1日に10の仕事をこなせれば一人前と考えて、新人は0~1しかできないとしよう。自分の仕事として10がある。上司は新人にも10を求める。結果、新人にできない仕事9が俺に回って19になる。
それでもまずはその1を確実にこなせるように1の仕事を与え、慣れてきたら2に増やす。1も確実にできない内から3、4、5と仕事を増やし、1すら疎かになっては無意味だ。19でも20よりは労力は減っている。だんだんと10に近づいていけば良い。
そう考えて不足があれば補い、間違いがあれば指摘し、質問されれば答える。たとえそれが何度でも、同じ事でも。
……ベック達も今はまだそれほど強くないし、自力で巣を見つけることは難しいかもしれない。しかし目の前のトンネルアントをしとめる事はできている。
なら今はトンネルアントとの戦い方をしっかりと身につければ良い。その中で体の動かし方や連携など、学べることは多いはずだ。それができたらまた別の相手を見つけるか、巣の見つけ方などを学んでいけば良いと俺は思う。
そのために今彼らに不足している技量を補い、帳尻を合わせる事ならできる。
部下は3くらいで放り投げる奴がほとんどだったけど……
「リョウマ? どうかしたのか?」
「……いや、なんでもない」
余計なことを思い出した。ベック達は部下じゃないからノーカン。あいつらとは違うだろう。
そう片付けながらアイアンスライムをもう1匹。刀に変えて戦闘準備を整える。




