表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/381

草原の噂

本日10話同時投稿。

この話は8話目です。

 宴もたけなわになってきた頃、気になる話を聞いた。


「街道に魔獣が?」

「ええ。我々は南の草原を通るルートで来たのですが、ケレバンを出る前に草原で“アント”を見たという話を聞きましたね。おかげで道中は普段よりも気を張り詰めてしまい、疲れました」


 “アント”とはアリ型の魔獣の総称。種類は多いが、全体的に甲殻が硬く頑丈で群れる習性を持つ。危険度はその種類によって変わるらしいが……


「まさかマーダーアント?」


 マーダーアントは強固な甲殻と顎を持ち、生物に対して非常に好戦的な肉食の巨大アリ。群れを成して襲われれば脅威。冒険者ギルドでは巣の規模によってCランク以上の討伐対象に認定されている。


「いえいえ、それでしたら別のルートを選びますよ。種類はトンネルアントだそうです」

「ん……すみません。その種類について教えていただけますか?」

「そうですね……。まずアントの特徴である硬い甲殻は持っていますが、顎や爪、それに力も他の種類と比べると弱いほうだと聞きますね。毒もありません。総じて攻撃能力は低く、アントの中では温厚な部類で積極的に人や獣を襲いはしないそうです。

 しかしその分柔らかい地面を掘ることに特化し、広範囲に巣穴を広げるのが特徴です。この巣穴が問題でして……知らずにその上を馬車で通ると、地面が陥没して嵌まり込むのです」


 巣穴はトンネルアントの体液で補強されているらしく、人が歩いた程度では崩れない。しかし荷物を乗せた荷馬車などでは重みに耐え切れず崩れる。そんな微妙な強度を持っているとの事だ。


 トンネルアントそのものの危険は低いが、陸路で馬車を使う人間にとっては迷惑な魔獣のようだ……


「そうなると運送業の人は大変でしょうね」

「お祭りの用意や客足に影響が出なければ良いのですが……」


 隣で聞いていたセルジュさんにも懸念があるようだ。


 ……だったら俺は明日からそっちへ行ってみるか。


「リョウマ殿が、ですか?」


 プレナンスさんが不思議そうな顔をしたので、冒険者をやっていることを説明。ついでにシュルス大樹海に行くことを目的としている話もしておく。


「なるほど、それで最初にマーダーアントが出てきたのですか」


 大樹海にはマーダーアントの他、数種類のアント系魔獣が生息しているので参考になるだろう。


「流通への影響も気になりますし、とりあえず一日様子見に行こうかと思うのですが」

「そうしていただけると助かりますな」

「我々もお願いしたいですね」


 セルジュさんだけでなく、プレナンスさんも?


「お客様に未熟な芸は見せられませんからね。練習場所にギムルから少し離れた草原を使おうと考えていたのです」


 彼らのような旅芸人は街から街を渡り歩くため、特定の練習場所を持たないことが多いらしい。さらに彼らにとって芸は商品。未熟なものは客に見せられないので、人目につかない場所でひっそり練習するのだそうだ。


 しかし今回は予定していた草原にトンネルアントが出てしまった。万が一を考えると利用は避けたい。だから早急に駆除されることが好ましい……か。


「……だったらうちを使いませんか?」


 もし人目につかなければいいのなら、俺が住む廃鉱山も人は来ない。公爵家から好きなように使って良いと言われているので、芸の練習に使うくらいなら許可を出せる。それに危険な魔獣が出ないのも確認済みだ。万一出てもソルディオさん一人いれば対処できるだろう。あの人も十分強そうだったし。


「よろしいのですか? 我々のような旅芸人には盗みを働き子供をさらう集団もいると言われます。もちろん我々にそのような腹積もりはありませんが……」

「あー……そのへんは大丈夫です。家といっても大した物は置いてないですから」


 大切な物は基本的にアイテムボックスの中に収納しているし、広場を貸すくらいなら問題ないだろう。勝手に家に入るとむしろ危険だし。下手に触ると冗談じゃなく痛い目を見る物も置いてある。熟成中の石鹸とか苛性ソーダが残ってたら洒落にならない。


「本当に場所を貸すだけなら何も問題はありませんが……」

「でしたら是非お願いします」

「では、いつからにしますか?」

「リョウマ殿さえ良ければ明日の朝からでも」


 着いて間もないはずだけど、いいのか。


「わかりました。それでは明日の朝、お待ちしていますね。場所はギムルの北門を出てまっすぐ進むだけですから、迷うことは無いと思います」


 こうして明日からの打ち合わせをしているうちに、今日の懇親会はお開きとなった。













 次の日



 我が家を訪れたセムロイド一座の皆様に練習場所を提供した。と言っても入ると危険な場所だけ説明し、飲み水だけ用意して後の事はプレナンスさんに任せて出勤。昼前に到着した冒険者ギルドはいつもより人が少なくなっている気がした。


 その分待たなくても良さそうだけど……


「あらリョウマ君じゃない」

「こんにちは。メイリーンさん、南の草原でトンネルアントが出たって話を聞いたのですが」

「耳が早いわね。仕事ならあるわよ」


 言ったと思えば、もう数枚の依頼書をカウンターに出していた。


「……トンネルアントの討伐に巣の捜索。それに、発掘作業? この二つは分かりますが、発掘作業とは?」

「地面を掘りかえして巣を取り出すのよ。中に卵があれば潰しただけだと後々また出てくるし、巣が残ってると思わぬ事故につながるから」

「なるほど……もしかして今日ギルドに人が少ないのはそちらに?」

「正解。もういくつか巣が見つかっていてね。その処理に動いてる人が多いわ」

「……トンネルアントによる被害状況ってどうですか?」

「今のところ目立った被害は出てないわ。でもねぇ……」


 メイリーンさんの表情は暗い。何かあるようだ。


「巣がいくつも見つかったって言ったでしょ? どこかから繁殖のためにやって来たか、繁殖したトンネルアントが新しい住処を求めて来た可能性が高いのよ。だから今後、まだ巣が見つかりそうだし、被害も出てくるかも……って感じね。

 だからギルドとしては巣の捜索に力を入れて欲しいかなー。討伐と発掘作業はテイマーギルドの協力もあって、そこそこ進んでるから」


 テイマーギルドと協力? 


「そこの所、詳しく聞かせていただけますか?」

「詳しくと言ってもそのままよ。問題の内容次第ではギルド同士で連携を取り合って対応する場合もあるの。今回みたいに早期解決が望まれる場合はね。特にこの街は鉱山に近いでしょ? テイマーギルドには力持ちな魔獣を使役してる人も多いから」

「……こんな事をメイリーンさんに聞くのもどうかと思いますが、テイマーギルドでも同じ依頼を受けられますか?」

「たぶん受けられるけど、あっちで受けるの?」


 うっ、視線がなんとなく痛い。


「実は僕テイマーギルドにも登録していて、向こうのギルドマスターにも何かとお世話になっているのですが……従魔の特性上受けられる依頼がこれまで無くてですね。一度も依頼を受けてないんです」

「恩返しかしら? いいわよ。そんな気まずそうな顔をしなくったって、別に依頼を受けるか受けないかは個人の自由なんだから」


 そう言って笑う彼女。どうやら気を悪くしたわけではなさそうだ。


「良かった、ではすみませんが今回は」

「はーい。また気が向いたらこっちでも依頼を受けてね」

「ありがとうございます」


 理解を示してくれた彼女に礼を言い、冒険者ギルドを後にした。












「気をつけて行けよ!」


 南門の門番に送り出され、南の草原へ足を踏み出す。テイマーギルドではあまりに顔を出さずにいたため新規登録者と間違われたが、それ以外に問題もなく普通に依頼を受けることができた。


「よし、行くぞ!」

『クルルルッ!』


 掛け声と共に連れてきたリムールバード達が空へ舞い上がり、V字の隊列を組む。彼らには空からトンネルアントや巣がありそうな場所を探してもらう。


 テイマーギルドで仕入れた情報によると、トンネルアントは巣作りで出た土砂を周囲に排出する性質がある。いわゆるアリ塚のような物は作らないが、一度掘り起こされたような地面を見つけたらその付近に巣がある可能性が高いそうだ。


「ケーッ!」

「おっ、もう見つけたか」


 感覚共有で滞空するアインスの視界を見せてもらう。すると青々とした草原に一部、土で斑模様に見える場所があった。肉眼ではどこまでも青々としているように見えるが、空から見ると一目瞭然。


 すでに発掘作業が始まっている場所に用はない。討伐が始まっている場所も同上。空間魔法で後を追いつつ、人のいない街から離れた場所の1つへ足を向けた。


 この辺を探してみるか……


「『ディメンションホーム』」


 廃坑から連れてきたメタルとアイアンを草原に放し、全部出揃ったところで一列に並ばせる。その数なんと400匹。


 2種類のビッグスライムへ合体させることを目指して積極的に増やしていたのだが……ちょっと餌を与えすぎて増えすぎた。ビッグスライムは100匹でいいのに、今は各200匹いる状態だ。しかし、これだけ数がいるからできる事もある。


 一番変形の上手いスライムを刀に変形させて指示を出す。


「そのままゆっくり進んでくれー!」


 列を成した金属の玉が、土にまみれた草を掻き分けて進む。

 そして数分後。


「みつけたか?」


 スライムは弱いが危険察知能力は高い。進化して多少衰えているかもしれないが、アイアンスライムの一部が反応を示した。もう少し進むと何かがいるらしい。彼らは彼らなりに警戒している。たとえそれがただ動きを止めただけだとしてもだ。


 スライムの前へ出て慎重に進んでいく。1歩、2歩、3歩……アイアンの示した位置が目前になった、その時。


「!」


 地面から飛び出す触角。続く複眼。自分の体の胸ほどまである巨大アリが姿を現した。

 印象はケイブマンティスに近い。完全に地面から出る前に首へ刀を一振り。


「ピキッ……」

「これがトンネルアントッ」


 さらに出てきた2匹を同じように狩る。

 それ以上は……出てこない。


 テイマーギルドの情報によれば、トンネルアントは外敵の多い時間帯を避けて行動するため夜行性。昼間はあまり巣の外に出ず、巣の奥で眠っている。唯一見張りをする個体だけが出入り口のそばに控える。出てきた見張りを巣に戻させなければ、基本的に次は出てこない。


 この巣の見張りは今の3匹だったんだろう。


「とりあえず1つめ発見……っと。『アースニードル』」


 今日の仕事は巣の捜索であって討伐ではない。位置情報を記録して、近くに目印を立てれば一段落。あとは無駄に巣を刺激しないよう、他の出入り口を探しつつスライム達とその場を立ち去る。そして次の候補地へ。


「せっかくだし走るか」


 普段は廃鉱山しか走らせていないのでこの機会に草原を走らせてあげよう。そう意思を伝えると、2種類のスライムからなんとなくうれしそうな雰囲気を感じた。そしていざ合図を出せば即行で転がっていく。


 速い……最近、あいつらだんだんスピード狂になってきてる気がするんだよな……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ