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母国を捨てた冷遇お飾り王子妃は、隣国で開花し凱旋します  作者: 鳴宮野々花@書籍4作品発売中


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48. 変わっていく大国

 こうしてアウグスト王太子とフロレンティーナ王女は、アルーシアへと帰国した。ヒューゴ殿下のあの軽率な開戦宣言が現実の戦へと発展することはなさそうで、皆胸を撫で下ろした。彼らがすぐさま来訪しそのことを伝えてくれたおかげで、周辺諸国へ無用な報せを流す前に事態を収められた。結果として他国に余計な動揺を広げずに済んだのはよかった。


 数ヶ月が経つ頃には、アルーシア王国は大きな変化を見せた。宣言通り、アウグスト王太子は国王陛下らとともに、大国の改革に乗り出したようだ。

 ヒューゴ第二王子殿下は、外交、内政の務めを果たせず王国を未曾有の危機に追い込んだ責任、さらにイルガルド王国に対し独断で開戦宣言ともとれる発言をした責任をとらされ、王位継承権剥奪の後、王宮を追放された。

 彼は今、王都から遥か離れた王国北側の小さな離宮で、療養という名目の幽閉生活を送っているらしい。


 ヒューゴ殿下の失脚からほどなく、アルーシア王宮では重鎮らの処罰が次々と決まっていった。彼らも大国の屋台骨でありながら、王国が急激に衰退していくのを前に何ひとつ有効な策を講じず、ただ時間を浪費してきたのだ。その怠慢と無責任さは明らかであった。

 アウグスト王太子の主導による徹底的な洗い直しの末、彼らの様々な悪事が白日のもとにさらされた。国庫を食い物にし賄賂や利権に溺れてきた重臣たちは、爵位を剥奪され財産を没収されるとともに、王都から遠ざけられた。

 また長きにわたり政務を怠り国の衰退を看過したあげく、土壇場になって初めてヒューゴ殿下へ判断を押しつけた者たちは、一斉に官職を罷免された。一方で、直接腐敗には手を染めなかったものの、状況を知りながら沈黙を守り続けた者たちもまた、降格や減給、地方への左遷などの処分が言い渡された。

 こうしてアルーシア王宮は変わっていった。長らく権威にあぐらをかいてきた顔ぶれが一掃され、その空いた席には新たな人材が呼び込まれはじめた。王太子主導のもと新しい方針が次々と定められ、これまでの国の慣習により遠ざけられてきた有能な女性たちも政務に携わることができるようになっていった。

 王宮の門は広く開かれ、性別や貴賤を問わず才覚ある者たちが登用される。そんな体制へと変わりつつあった。

 

 またエリヴィア王子妃は離縁させられ、実家であるラモール侯爵家に帰された。けれど件の理由で王宮を追われた王子の元妃というレッテルで、周囲からは冷たい目を向けられているようだ。今は領地の侯爵邸でひっそりと過ごしているらしい。


 リリエッタや父の行く末については噂さえ聞くことがなく、ずっと心の片隅で気にかかってはいた。けれど、どうすることもできない。できるだけ考えないようにしながら、私は私で自分のやるべき仕事に邁進していた。


 時折訪れるアルーシアからの大使とのやり取りで、アウグスト王太子やフロレンティーナ王女が懸命に頑張っていること、そして王太子妃の体調も徐々に回復し、今では人前に姿を見せることもあるという話を聞き、胸が温かくなった。それと同時に、どこか誇らしくもあった。

 私がかつて身を置いていたあの冷たく傲慢な王宮が、今その姿を大きく変えつつある。

 誰もが尊重され、誇りを持って生きられる国々に。その輪の中に、アルーシアも加わってほしい。心からそう願う。


 およそ一年後には、アルーシア王国の姿も随分と良いものに変わっていた。

 そして、ちょうどその頃だった。

 私のもとに、リリエッタからの一通の手紙が届いたのは。


『セレステお義姉様へ』と始まるその手紙を手にした時、驚きとともに言いようのない胸のざわめきを覚えた。






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