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母国を捨てた冷遇お飾り王子妃は、隣国で開花し凱旋します  作者: 鳴宮野々花@書籍4作品発売中


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26. 重なる屈辱(※sideリリエッタ)

 ヒューゴ殿下の次の妃に選ばれたエリヴィア・ラモールという侯爵令嬢は、ここ最近やたらとあたしを持ち上げ、チヤホヤしてきていた令嬢の一人だった。

 セレステがヒューゴ様と離縁し王宮を去ってからというもの、ことあるごとにあたしを茶会に招いては褒め称えたり、異国の土産品を贈ってきたり。それなのに、あの王妃陛下主催の茶会にちゃっかり参加していた時は、こちらに目もくれず、澄ました顔でしとやかに振る舞っていた。

 家柄や、当主が大臣職を歴任していること、さらに侯爵夫人が前王妃の遠縁にあたることなど、強力なバックボーンもあったらしい。全然知らなかった。

『引き続きご懇意にお願いいたしますわ、リリエッタさん』なんて言っておきながらあたしを出し抜いた挙げ句、ヒューゴ様と婚約して以来、一切連絡もしてこなくなった。自分が上の立場になった途端切り捨てるなんて、本当に最低ね。人間性を疑うわ!


(でもまだ二人は結婚したわけじゃない……。王妃陛下はあの女を選んだかもしれないけど、ヒューゴ様が納得するはずがないわ。彼はあたしのことがずっと大好きなんだし、あたしと結婚するためだけに、セレステとの白い結婚を三年も貫いた人なのよ。今頃絶対王妃陛下に直談判してるはずだわ)


 あたしはヒューゴ様に面会を求め、何度も手紙を書いた。けれど、何ヶ月経っても返事は一度も来ない。今後の作戦を考えたいのに。だんだん苛立ちが募っていく。

 あまり役に立たない義父にも縋ってみた。

 居間でのんびり紅茶なんか啜っている義父にイライラし、強い口調で頼み込む。


「お義父様、どうにかしてよ! どうしてあたしじゃダメなの!? おかしいじゃない!! ヒューゴ様に愛されているのは、このあたしなのに!! 王妃陛下は一体何をお考えなの!? お願いだから、お義父様から王妃陛下に嘆願して! 侯爵って発言力強いんでしょう!?」


 けれど義父も母も、あたしを冷めた目で見るだけだった。さらに母は、何度もあたしを同じ言葉で責め立てた。


「だからお義父様がおっしゃったのよ。完璧でなくてもいいから、必死で努力して勉強して、伸びしろがあることを王妃陛下に示しなさいと。あんなに諭してくださっていたのに。お前が楽な道に逃げたから、こんなことになったのよ……!」

「……まぁ、どうせこういう結果になるとは思っていたがな。はなからリリエッタには期待してはいなかった」

「そ、そんな、あなた……!」


 ため息をつき突き放すようなことを言う義父を、母が狼狽えて見つめる。義父は光のない目をあたしに向けた。


「お前には相応の嫁ぎ先を整える。まだ婚約者のいない、家格の釣り合う家の子息など限られてくるが、致し方あるまい。……王家に嫁げぬ以上、お前の夫にはこのメロウ侯爵家を継ぐだけの器量のある男を選ぶ」


 義父のその言葉に、あたしは焦った。この人あたしを王家に嫁がせることを、もう諦めてしまっているじゃないの……!

 せっかく王子を籠絡していたのに。子爵家の娘から侯爵令嬢に、ついには王族にまで上り詰められると思っていたのに。

 目の前にチラついていたその椅子を取り上げられて、今さらその辺の貴族の息子と結婚しろと言われても、受け入れられないわ……!!


「お義父様!! ヒューゴ様はあたしを望んでいらっしゃるの! 何年もずっと、お互いに秘めた恋心を抱いていたんだもの。向こうだってあたしを簡単に諦められるはずがないわ! 誰かが少し手助けしてくれればあたしは王子妃になれるし、お義父様だってもう一度娘を王族に嫁がせることができるのよ!? ちょっとはやる気出して頑張ってよ!!」

「リリエッタ!!」


 すると突然、母が立ち上がり、あたしのもとへと足早に近付いてくる。そして思い切り、あたしの頬を叩いた。


「きゃ……っ!!」

「お義父様になんて口のきき方をするの!! 謝りなさい!」

「お……お母様……っ」


 母が目を吊り上げ、あたしを真正面から睨みつける。ラモール侯爵令嬢がヒューゴ様の婚約者に決まったと知った日から、彼女はあたしにひどく冷たくなった。


「……ご……ごめん、なさい……」


 母の圧に負け、あたしは渋々謝罪の言葉を口にする。父は低く唸るとゆっくりとソファーから立ち上がり、扉の方へと歩いていく。その時に吐き捨てるように言った。


「第二王子殿下は、ラモール侯爵令嬢と非常に睦まじいご様子だそうだ。彼女はしとやかで聡明な令嬢だ。王家の方々も期待なさっているのだろう。殿下も目をお覚ましになったご様子だな」

「な……っ!!」


 父が居間を去った後、母はもう一度あたしを睨みつけ頬を打ち、後を追うように出て行った。


 私室に戻ったあたしは呆然とした。お義父様……。ここへ来た頃は、あたしやお母様にあれほど気を遣ってくれていたのに……。こんなに冷たくなるなんて。それに、お母様も……まるで実の娘であるあたしのことを、完全に見限ってしまったみたいだわ……。


(ヒューゴ様……ひどいわ……!! どうして何もしてくれないの!?)


 別に本気であの人を好きなわけじゃなかった。ただ王子妃という椅子が欲しかっただけ。手に届く日なんか来ないと思っていたその立場と権力を、もう少しで手に入れられると思っていたのに……!!


 ヒューゴ様を恨み、憎んだ。悔しさと歯痒さに、数ヶ月間苦しんだ。


 さらに日が経ち、やがてあたしはお義父様から信じられないことを告げられた。


「リリエッタ。お前の婚約に関しては当面保留だ。お前は第二王子殿下がご結婚なさったら、王子妃の侍女として王宮に上がることが決まった。ラモール侯爵令嬢のご希望だそうだ。件の王妃陛下主催の茶会でのお前の振る舞いが、あまりにも目に余ったと。相応の礼儀作法を身につけさせるべきだと感じ、ご自身が監督したいとのお心遣いで、第二王子殿下に申し出てくださったそうだ。よく準備をしておきなさい」

「……は……?」


 じ、侍女……ですって……?


 あたしが、あのエリヴィア・ラモールの!?






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