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母国を捨てた冷遇お飾り王子妃は、隣国で開花し凱旋します  作者: 鳴宮野々花@書籍4作品発売中


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24. 収穫祭の花飾り

 収穫祭というだけあって、街全体が賑わっている。

 通りの外れからは楽しげな音楽が聞こえていて、気になってチラチラと見てしまう。すると殿下が私の手を引き、そちらの方へと連れて行ってくれた。

 広場になっているその一角ではいくつもの出店が軒を並べ、楽師たちが様々な楽器を鳴らし音楽を奏でている。


(わぁ……! なんて楽しい雰囲気なのかしら。こんな場所、初めて来たわ)


 何せ幼い頃から勉強一筋だった私。母国アルーシアでも季節ごとに様々な祭りが開催されていたはずだけれど、一度も連れて行ってもらったことはなかった。王子妃となってからも、祭りの場に視察に行ったことはない。


(……ヒューゴ殿下や皆はつつがなくお過ごしかしら……)


 母国での日々が頭をよぎり、ふと、かつての夫や周囲の人々のことを思い出す。リリエッタは……あれからどうしたのだろう。


『今に見てなさいよ! あたし絶対に王子妃になるんだから! どこぞの田舎町であたしの華々しい噂を聞いて、せいぜい悔しがればいいわ!!』


(あんなことを叫んでいたけれど、結局ヒューゴ様の次の妃は決まったのかしら。彼女ではなく、もっと理知的で堅実な女性が選ばれていればいいけれど……)


 もうとうに無関係になったはずなのに、こうして思い出すとどうしても、彼らのその後が気にかかる。あんなにひどい扱いをされていたというのに、長年の習慣とは恐ろしいものだ。自分を捨ててでも王家のために、民のためにと教え込まれて生きてきたからだろう。


「……おい、……セレステ」

「──っ!」


 ふと我に返ると、殿下が少し心配そうに私の顔を覗き込んでいた。とてつもなく整った顔が間近に迫っていて心臓が跳ねる。


「どうした? 人混みに酔ったのか?」

「い、いえ! 大丈夫です。すみません、少し考え事をしておりました」

「……そうか」


 殿下はそれ以上何も聞かず小さく微笑むと、私の手を引き広場を歩きはじめた。

 この辺りに並んでいるのは、祭り特有の品物だろうか。様々な珍しい品を売る出店を見ながらゆっくりと歩いていると、ふいに下の方から愛らしい声がした。


「おねえさーん、綺麗なおねえさーん」

「……え?」


 振り返り見下ろすと、そこには七、八歳くらいの女の子が立っていた。生成りのワンピースが、少し色褪せている。お花のようなものがたくさん入った大きな籠を両手で抱え、活発そうな明るい笑みを浮かべた彼女は、私と目が合うと顔を輝かせた。


「今年の収穫祭の記念に、花飾りはいかが? 綺麗なおねえさんにぴったりの可愛いものがたくさんあるわよ」

「……あ……、ふふ。とても素敵ね」


 どうやら髪に着ける花飾りを売り歩いているらしい。数人の護衛たちがそばに近付いてきたけれど、殿下は彼らを目で制した。


「この時期の収穫祭の名物だ。毎年こうして街の女性や少女たちが売っている」

「そうなのですね」


 私たちの会話を聞いた女の子が、すぐさま殿下に売り込む。


「恋人に一つ買ってあげて、おにいさん。着けてあげたら喜ぶわよ」


(こ……恋人……)


 この子にはそんな風に見えているのか。どう反応すればいいか分からずまごついていると、殿下が目を細めた。


「……ふ。じゃあ一つ貰おうか。そうだな……、その黄色と桃色の飾りをくれ」

「ありがとうございまーす!」


 女の子は殿下が指差した花飾りを取り出すと、満面の笑みを浮かべそれを彼に手渡した。

 小花を束ねて小さな布の土台に留め、細い銀色の簪に結わえつけた髪飾り。黄色と桃色の花弁の合間から、白いリボンがひらひらと風に揺れている。

 殿下はそれを受け取り、彼女にお金を渡す。女の子は嬉しそうに去っていった。

 すると殿下はごく自然に私の髪に触れ、耳の上あたりにその花飾りを挿した。


「っ! あ……ありがとう、ございます……」


 突然触れられた驚きで少し肩が跳ねる。殿下は花飾りを着けた私を優しい眼差しで見つめると、満足げに微笑んだ。


「可愛らしい」

「……」


 私は何も答えられず、熱を持った耳を気恥ずかしく思いながら、ただ俯いたのだった。


(どうしてこんな風にいちいち動揺してしまうのかしら……。受け流せばいいだけなのに。殿下と一緒にいると、何だか私、普段の冷静さを失ってしまう……)

 

 その後も二人で手を取り合い、店や人々を観察しながら辺りを周った。そしてしばらくして、殿下が大通りにある貴族向けの瀟洒なレストランに案内してくださった。そこで美味しい昼食をご馳走になりながら、私は街を見て気付いたことをあれこれと語り、殿下と意見を交わしたのだった。






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