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結局、鍛冶ギルド長をはじめとして、ゾンビにやられてゾンビになったと思ってたやつは全員元からゾンビだったやつだった。
酒場でゾンビ化してた男も、ゾンビに噛まれたという事実に動揺して精神の抵抗力が落ち、ワグバードの力に徐々に抵抗できなくなり暴徒化、というのが真相らしい。
確かに思い返せば住人ばかりがゾンビ化してたもんなぁ……
「おーいルーカスさん、こっち頼む」
「あいよー。カカシ、メリーさん、出力120%ぉ!」
「こっちの瓦礫も運ぶの手伝ってくれー」
まぁ、そんなわけで色々荒れ放題になった町の復興を俺達は手伝っていた。
とはいっても、多くの作業はイトー町長操るスケルトンが片付けてくれるので、基本的にはスケルトンでは持ち上げられない瓦礫の撤去とかだな。あとスケルトンたちへの細かい所の指示出しくらいか。
「あ、服屋の店員さん……腕とかめっちゃ斬り飛ばしちゃってたんですが大丈夫ですか?」
「あらルーカスさん。大丈夫ですよ。見ての通りローラさんに腕を縫い付けてもらいましたから。縫い目がオシャレでしょ?」
ほら、と赤く太い糸で縫い付けられた腕を見せつけてくる……この人も元々からゾンビだったんだなぁって。というかいいのか、そんな普通の糸でくっつけちゃって? 強度とかも下がりそうなもんだが――え? 骨は交換したから問題ない? 斬新な骨折治療法ですねぇ!
あ、ローラは【裁縫】スキルを活かしてこんなふうに取れた手足を縫い付けたりしている。ミルスはミルスで鍛冶場で大忙し、ドロシーは、まぁ、うん。金剛力士カカシの破片を抱えてふて寝してる。金剛力士カカシはとても役立ったよ……!
「やぁやぁルーカス殿! ご機嫌いかがかね?」
「あ、イトー町長」
「今回はお手柄じゃったなぁ。それで、どうじゃ、この町に骨を埋める気は無いかな――骨なだけに!」
ワイトのイトー町長がやってきた。……このノリはやっぱりデスパドーレ特有なんだろう。どこから来てるんだろうなぁ、この無駄な明るさ。
「いやー、やっぱり俺は――」
「実は今回のお礼として郊外にルーカス殿の家を用意したのじゃよ。色々入用なもんで、今ワシらが用意できるものとなったらそのくらいしかなくてのぉ」
ま……マジで!? 俺はイトー町長の話をしっかり聞くことにした。
「い、家ですか? ほほう、いやぁドラヴールにも家があるんですがね、まぁ、もしとてもいい家だったらやぶさかでもないというか」
「うむ。さすがに今ミルス殿に貸している屋敷ほどの家は無理じゃが……こっちじゃよ!」
俺の家は丁度ここからすぐ近くらしい。俺はイトー町長の案内についていく。人気が無い所だが……うん? ここ、墓地?
「ここじゃ、ここ!」
そして、そのうちの1カ所に。『ルーカス、ここで眠る』と書かれた墓があった。
「……あの、ちょ、町長? どう見てもこれお墓なんですが」
「一等地じゃよ! あ、ワシん家の隣じゃよ?」
町長が指さした隣の墓には『イトー、ここで眠る』と書かれていた。『ここに眠る』じゃないのは、出歩いて仕事したりするからなのだろうか。
……アンデッドな町長にとっては墓=家という認識なのかなぁ。うん? これ入り口はどうなってるんだろう。
「良い所じゃぞ? 日当たりが良いからのう、上はぽかぽか、奥に潜ればひんやり、気分次第で快適加減が変わるんじゃ」
「え、ええ……」
そう言って実際にイトー町長は家に、いや、墓に入って見せてくれた。
モグラみたいに。土に潜って。
「ささ、ルーカス殿も! 遠慮せんでええよ、ここはもうルーカス殿の家じゃからの!」
「か、棺桶とかないんですかね?」
「棺桶じゃと蓋閉まっとると外出られないじゃろ? 変わっとるのぉ!」
ははは、土葬で棺桶に死体を入れるのってちゃんと意味があるんだね。
俺は、苦笑いを浮かべるしかなかった。まぁ、貰えるってんなら、貰っとくけど。別荘にしていいって話だし……墓だけど……マイホーム……墓……
こ、これはこれで……? いや、だが、ううっ……! 墓ぁ!
「ま、将来本格的にここに住むことになったら、で、ええからの! 気長に待っとるよ。ワシ、いくらでも待てるでの――アンデッドじゃからの!」
こうして俺は、死後の家を手に入れた。
* * *
そして、ミルスの任期が満了した。3カ月一杯と、ついでにもう少しだけサービスで働いてから、デスパドーレの皆に惜しまれつつ帰還することになった。
……『また来てね!』という垂れ幕。ここまでやられるとかえって気恥ずかしい……!
「良い所だったな、ご飯は美味かったし。ミルスは攫われたりしたけどな」
「それね。まぁ、悪い所じゃなかったけど。お土産も貰ったし」
と、ミルスは荷台に乗っている結構な量の野菜を見る。……使い切れるのかな? とは思う。一応輸出品として取り扱われてる日持ちするタイプの野菜だけど……じゃがいもとかニンジンとか。
「全然いい所じゃなかったわよ! 私はこんなとこもう来ない! カカシの居るおうちに帰る!」
「まぁうん。うん……辛かったね?」
結局、ドロシーにとってはカカシの要らない場所ということでさほどいい思い出にはならなかったようだ。基本的に引きこもってて、少ない外出ではカカシが無いことに絶望し、さらにはゾンビパニックだったもんなぁ。
「……もう人の手足を縫うのはこりごりです」
「お、お疲れローラ」
ローラはなんだかんだ【裁縫】スキルを頼られて、片っ端から手足を縫い付けたりしていた。
……【裁縫】スキルの力で普通に縫うより何倍も丈夫で、かつ糸の縫い目がオシャレだとかで。あの服屋の店員さんが嬉々として広めてたのもある。
「ルーカスさんは……よかったですね? 家も貰えて」
「墓、だけどな」
結局、貰うだけ貰うことになった。普段はイトー町長が別邸として管理しておくとのことらしい。実状的には今までもそうだったそうなので変わらないそうな。
……というか、俺は生きたまま墓に入れないからな。「出入りしやすいほぐれた土じゃよ」とか言われても困るのだ……ガチで墓だからなあの家。
第二の人生があったらあそこで過ごすことになりそうだな……ハハハ。
「……帰ろう、俺達のドラヴールへ!」
そんなこんなで、俺達一行は懐かしさすら感じる故郷、ドラヴールに帰還した。




