第35話 モブと桃色の髪の友人
「かんぱ〜いっ!」
「か、かんぱい……」
如月さんにはクレープなど、甘い物を奢るつもりでいたが彼女の希望でハンバーガーショップにやって来た。
店に入ると、ポテトの揚げる香りが鼻腔をくすぐる。
節約の為、何も食べないつもりでいたのだが、お腹は正直で、ぐ〜、と大きな音が鳴ったのでLサイズのポテトと、コーラを自分用に注文した。
「近衛くんは伊織さんの事が好きなの〜?」
「ぶッ!!」
いきなりの質問に、飲んでいたコーラを吹き出しそうになったので必死にこらえる。
俺が唯さんの事を……好き?
そ、そんな事は……否定は出来ない。友達としては大好きだ。だが如月さんが聞いているのは、恋愛感情でどうかという事だろう。俺はどう思っているんだ──?
「……ごめん。分からない」
「えー」
そんなジト目で見られても、分からないものは分からないんだよ。
如月さんはつまらなさそうな声を出したかと思えば、続けて口を開いた。
「ならさ、伊織さんとの馴れ初めを教えてよ」
馴れ初め?残念だったな。俺達は親友ではあるが、恋人じゃないんだ。
俺のようなモブが唯さんと釣り合うわけないじゃないか。
「あのな……俺と唯さんは親友であって、恋人じゃ無いんだよ」
「分かったよ。なら2人はどうやって知り合ったの?正直伊織さんは私も話しかけづらいなって思ってたんだよ。教えてくれない……?」
「少しならいいよ」
「やったぁ!ありがとう!」
そんなに嬉しいものか?如月さんはニコッと笑っているが、俺には彼女の考えている事が分からない。
しかし教える事に同意したので、色々と隠しながら話した。
公園でたまたま出会った事。
俺が話しかけて、唯さんに初めて認識された事。
少し嘘をついたが、大きくは離れていないので良しとしよう。
「なるほどね〜。少し引っかかるところはあったけれど、いいか。教えてくれてありがとね!」
「おう」
今更ながら、どうして俺と唯さんの事を聞いたんだ。
恋愛関係と勘違いして、面白そうだと思ったからかな。
ええい、自分で考えていても答えは出ない。さっさと聞いてしまえ。
「どうして気になるんだ?」
「そりゃ、面白そうだと思ったからだよ〜」
「そっか」
面白そう、ね……
それは本当かな。
「せっかくなんだし、違う話をしようよ」
違う話?──と言っても俺達、まだお互いの事をあまり知らないから話続かなさそう。
いいや、お互いの事を知る為に違う話をするのか。
「分かった。そうしよう」
「なら私から問題です。私達が初めて出会ったのはいつでしょう」
何言ってんだ。そんなん決まってるだろ。
「高校に入学してから」
「ぶっぶ〜。違いま〜す」
声だけを聞いてみればいつも通りの明るい声だが、表情は大事なものが抜け落ちたかのような感じだ。
話の流れ的に、俺達は高校入学以前に出会っていた。しかし俺はすっかり忘れている。それにガッカリしていると言ったところだろう。
「ごめん。過去を思い返してみても思い出せないや」
「あ、あはは……さっきの問題の答えは、近衛くんので正解。高校に入学してからで〜す」
そう言う彼女の目は暗く、どこを見ているのか分からない。
今言った答えも、適当に考えた嘘だろう。
正直過去に如月さんと会った事なんて無い気がする。しかしあの表情を見てしまったら、罪悪感で夜も眠れなさそうだ。
俺が答えの事を聞こうと思ったその時──
「じゃ、私は帰るね」
彼女は残り1つだったポテトを口に放り込むと、プレートにゴミを乗せて立ち上がりながら言った。
そして分別スペースでゴミを分別すると、そのまま店から消えていった。
1人残された俺は、なんとも言えない気持ちで彼女が出ていったドアを眺めていた。
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