第31話 冷姫とパジャマ
「ひゃっほ〜っい!唯ちゃんとパジャマパーティーだぜぇ〜!!」
部屋着に身を包んだ朱莉はリビングのソファーを跳ねている。
その前では、琉生と唯が苦笑している。
朱莉の言った通り、今宵近衛宅でパジャマパーティーが行われる。なぜ開催が決まったのか。遡ること一時間前。伊織宅にて──
◆
「ひっく………………、ひっく………………」
赤子に還ったかのように慟哭していた唯は、今は琉生の胸の中で落ち着きつつある。
胸を貸している琉生としては、目の前で唯が泣いているというのに、ドキドキと高鳴る鼓動に自己嫌悪する。
勝手に動いてしまうので本人にはどうにも出来ず、唯さんには聞かれませんように、とただ願うことしかできなかった。
「……ありがと。少し楽になったよ」
聞こえていた、鼻のすする音が聞こえなくなったと思うと、胸から離れた唯が微笑む。
しかしそれは作り笑いで、実際は無理をしているように見えてしまう。
このまま一人にさせることはできない、と琉生は思い、つい口を開く──
「唯さん、良かったら今夜家に泊まっていかない?」
「えっ……?」
男ではあるが、《《そんなこと》》はしてこないと分かっている。しかし声に出されると疑ってしまい、唯は琉生の顔を覗き込んでしまう。
「と、泊まると言っても、もちろん俺は別の部屋だ。それに唯さんが家に泊まれば、朱莉はきっと喜ぶ」
「ふ、ふふっ。大丈夫、琉生くんは《《そんなこと》》しないでしょ。……正直一人じゃ寂しいから、今日はお言葉に甘えさせてもらっていい?」
「ああ、もちろん。──そうと決まれば今すぐに行くぞー。善は急げだ!」
琉生の慌てた様子を面白いと思ったのか、唯はくすくすと肩を揺らし、笑っている。表情が柔らかくなったように見えたのは、琉生の気のせいだろうか?
その後唯は必要なものをリュックサックにまとめ、琉生と共に近衛宅に向かう。──これで三度目の訪問。初めよりは緊張が無くなっていることに気付き、慣れって怖いな、と唯は密かに思うのだった。
◆
──そして今に至る。
早くお風呂をすませれる琉生から始まり、その次に唯、最後に朱莉の順でお風呂に入ることとなった。
現在は唯がお風呂に入っている。その事実に琉生は少しドキリとする。
「朱莉、下の部屋の人に迷惑だぞ~」
「ちぇっ、おにぃは分かってないな~。私はこの喜びが溢れだして、跳び跳ねているんだよ~」
いつもならこの時間は眠たそうな朱莉だが、今日は目がぱっちりと開いている。
ふとなにかを思い付いたかのように、朱莉はニヤニヤしながら言う。
「あ、おにぃ?私がお風呂に入っている間に唯ちゃんに手を出したら駄目だよ~?」
「うっせぇ。俺はそんなことしないから安心してくれ」
「へぇ~?いつも唯ちゃんを嫌らしい目で見ているくせに~」
「ち、違う……。唯さんは可愛らしいから少し見すぎているかもしれないが、決して嫌らしい目で見ていない!」
「ふぅ~ん?分かったよ。唯ちゃんが可愛いことは認めるんだね~」
「唯さんが可愛いという事実に嘘をつく理由がないからな」
琉生は照れ隠しをしながら、朱莉は愉快そうに笑いながら話しているので、二人の背後から近づく足音に気がつかず──
「私がどうかした?」
「「ふぇっ!?」」
二人の声は虚空で重なる。思わず振り向くとそこにはパジャマ姿の唯が。髪はバスタオルで拭けどまだ湿っており、琉生は嫌でも今から唯が家に泊まることを痛感する。
モコモコとした桃色のパーカーに、お揃いのショートパンツのパジャマに身を包む唯の姿は、高校生と言われなければ中学生と勘違いしてしまうように幼く、可愛らしい。──同姓の朱莉もぎゅっと抱き締めたいと思うくらいに。
ぽけーっと口を開いたままの二人に向けて、唯はもう一度言う。
「……えと、私がどうかした?」
止まっていた時間が動き出すように、二人ははっとする。
「えっと……、唯ちゃんとお泊まり嬉しいな~って話していたんだよ!──ね?おにぃ」
「そ、そうだな!」
The陽キャの朱莉に助けられ、琉生は恥ずかしい思いをせずに済んだ。──そして琉生は明日は朱莉の好きな、甘いお菓子を作ってやろう、と心に決めるのだった。
その前で唯は何かが引っ掛かっているような表情を浮かべるが、結局二人の話していたことを知ることはなかったのだった。
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