第29話 冷姫と帰り道
『──祭り花火大会を終了します。お帰りの際は足元に気をつけてください。また、屋台は午後十時までとなっております。時間を見ての行動を、お願いします』
花火大会の終了を告げるアナウンスが会場内に鳴り響いている。琉生と唯は、会場からあまり離れていない公園に居るため、アナウンスをしっかり聞き取ることができた。
「どうする、もう少し屋台回る?」
「んー、琉生くんが決めて……」
唯は眠たそうに瞼を擦っている。琉生は少しだけ小腹が空いていたので、帰りに唐揚げと家で留守番している朱莉へのお土産用に、ベビーカステラを購入し、二人は帰宅することにした。
花火大会の会場に来た時と同じルートを遡るだけの帰り道。二人の周りにも、ポツポツと帰宅している人が。各々楽しそうに、一緒に祭りに来た人と話している。
二人はと言うと、唯の眠気がピークに達しているようで、会話のキャチボールが続かない。
「唯さん、花火綺麗だったね」
「そうだね。たこ焼き綺麗だった……」
このように唯は訳の分からない返事をしている為、自然と琉生は口元を綻ばせている。
信号で止まった時、琉生は空を見上げた。今日は天気がとても良かったが、星が薄らとしか見えない。これは周りの街灯やビルの光が原因だ。
ふと生まれ育った故郷で見た満天の星空を思い出す。
周りには星空を見えなくする明かりも無く、星がくっきりと綺麗に見える。琉生は、あの景色をいつか唯さんにも見せてやりたい、と強く心に思ったのだった。
◆
『──電車が発車します』
アナウンスが流れると、電車の扉がゆっくりとしまった。少し間を開けて電車は最小限の揺れで動き出す。
花火大会の会場の最寄り駅という事もあり、電車の中は満員だが、この駅が出発駅だった為二人は運良く席に座ることが出来た。
座ってシーツの背もたれにもたれていると、唯はすぐにすーすー、と可愛らしい寝息を立てて眠ってしまった。
車窓から覗く景色は星空とはまた違って絶景だった。輝くマンションの窓一つ一つには、必ず誰かが住んでいる。
しかしこの先の人生で出会えるのはほんの数人、下手したら一人もいないかもしれない。
俺は半年前までは田舎の学校に通い、何の変哲もない面白くない毎日を過ごしていた。それが今は百八十度反転し、一緒に花火大会に行く友達が出来た。
可能なら半年前の自分に、お前はこれからたくさん思い出ができる。だから楽しみにしていろ、とでも言ってやりたいくらいだ。
「唯さん、友達になってくれてありがと」
隣で眠る唯にそう伝え、琉生はまた流れる景色を眺めた。その時だった──
キィー、と高い音を鳴らし、電車はカーブに突入する。車体が少し傾いたが、二人ともバランスを崩す事は無かった。無かったのだが……
「唯さん!?」
シートにもたれていた唯の小さな頭が、こてん、と琉生の肩に倒れてくる。耳元で聞こえる規則的な寝息に、琉生は思わず呼吸が止まりそうになる。
琉生は心臓の音が唯にまで聞こえるのではないか、というくらいまで激しく跳ねている。
顔に熱がこもっているが、同時に二人の目の前でつり革を握る男性達から睨むような視線を浴びて、背筋が凍てつきそうになる。
そんな温度差の激しい時間はまだまだ続き、琉生は早く解放されたい、と強く願うのだった。
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