第28話 冷姫と屋台
「次はどの屋台に行く〜?」
唯は相変わらずハイテンションで、キョロキョロと屋台を見渡している。
「たこ焼きとかどうだ?俺屋台のたこ焼き大好きなんだよ」
「お、いいね〜!私もたこ焼き好き〜」
「よし。それなら行くか」
「うん!」
こうして二人はたこ焼きの屋台を探しながら、足を進めた。
すれ違う人々の顔は満開の花のようで、二人も思わず頬が緩む。
「あ!たこ焼き見つけた!」
そう言って唯が指差す先には『たこ焼き』の文字が。ソースと鰹節の香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。
「早く並ぼ〜?」
唯は上目遣いで琉生の袖を引っ張る。その姿があまりにも可愛いので、周りからは羨望の眼差しで見られて面白くない。
琉生は周囲の視線をあえて気付かないふりをして、たこ焼きを二人分購入した。
「はい、あげる」
「ありがと!」
唯は百点満点の笑顔で言った。琉生は、この笑顔が見られるなら、いくらでもたこ焼きを奢れる、と思った。
「はあ〜、美味しかった!」
「そうだな」
たこ焼きは中はトロトロ、外はカリカリで家では再現出来ない美味しさで、二人とも言うことなしだ。
「次は〜!また甘いの食べたい!」
たこ焼きを食べ終わってすぐのこと。唯は小柄の割に食欲旺盛で琉生は感心した。
(そういえば、前に家でご飯を振舞った時もよく食べてたような……)
「琉生くん……。もしかしてだけど、今凄く失礼なこと考えてない……?」
「えっ!?」
完全に心の中を見透かされているようで、琉生は大きな声を出してしまった。
「そ、ソンナコトナイヨ〜。──あっ、あそこに美味しそうなクレープの屋台が……!あそこに行こうか〜」
「むぅ……。話逸らされた気がする……」
口頭ではそう言っているが、クレープの屋台を見た途端、ぷくーっと膨らんでいた頬はけろりと元通りになり、「はあ〜っ!」と歓声を上げている。
「へい、らっしゃい!大人気、カップル限定"超てんこ盛りフルーツクレープ"があと少しで完売するよ〜!買いたい方は、彼氏・彼女と手を繋いで来てね〜!」
屋台の中で、頭にハチマキを巻いた中年のおじさんが声を張り上げて言う。
しかし、カップル限定ならば俺には無関係だな、と琉生が思ったその時──右手が小さくて暖かいものに包まれる。
何かと思って見てみると、唯が琉生の手を握っていた。
「唯さん!?」
「私はなんとしてでも食べたいの!」
「でも俺たちカップルじゃ……」
「それならカップルの振りをしたらいいじゃん。私、前のテストで負けちゃったから、手を繋ぐくらいなら別にいいよ?」
(なんだ?俺が食べたいみたいになってるじゃないか。──たしかに食べたいよ?でも唯さん程ではないのだが……)
「分かった。恥ずかしいからすぐに済ませよう」
「うんっ!」
唯の表情は、今日一輝いた。それは琉生と手を繋いでいるからなのか、それとも限定のクレープを食べられるからなのかは、誰にも分からないのだった。
「カップル限定のを二つください!」
琉生の隣で唯が注文してから、屋台のおじさんに手を繋いでいるところを見せる。──しっかりと《《恋人繋ぎ》》で。
「ごめんね〜。君達の前の人で数が足りなくなっちゃった。だから一つしか作れないよ……。どうしようか?」
おじさんは、申し訳なさそうに言ってくる。琉生は、俺が食べなかったらいいだけだ、と思い口を開いた。
「はい。一つで大丈夫です」
「ありがとね〜。生クリームをちょっとオマケするね」
「わ〜い!ありがとうございま〜す!」
唯は手を繋いだまま、手を上げてバンザイの形となる。流石は甘党。甘い物には目がない。
「どうぞ〜」
「ありがとうございますっ!」
「ありがとうございます」
二人はきっちり礼を言うと、おじさんからクレープを受け取り、一休みできそうな所を探した。
幸いにも、屋台のある通りから少し離れると、小さな公園があり二人でブランコに腰を下ろした。
田舎では綺麗に見えた星々は、都会の明るさで少し薄れて見える。しかしそれも趣がある。
琉生の隣では唯がクレープを幸せそうにパクパクしている。
「唯さん、俺達が初めて出会ったのも公園だったよな」
「うん、そうだね。……もうあれから二ヶ月くらい経ったんだよ。早いね」
琉生は目を閉じると、唯との思い出が昨日の事のように思い出すことができる。
プリクラや勉強会。料理を振る舞ったし、プールにだって行った。友達のいなかった中学校三年間の思い出を全て足したとしても、この二ヶ月には敵わない。そう思った。
「唯さん、俺と友達になってくれてありが──っぶ!」
口を塞ぐように甘いものが当たり、琉生は言おうとしていたことを最後まで言えなかった。
その甘いものとは、唯が先程まで食べていたクレープ。完全に間接キスだが唯は気づいていないようだ。
唯は琉生の目を見て言った。
「お別れみたいなこと言わないの。私達はこれからも沢山思い出を作って、大親友になるの」
そして最後に「もちろん朱莉ちゃんもね!」と付け足して。
暗闇でしっかりと表情は見えないが、きっとすごく優しい表情わしているのだろうと、琉生は確信した。
お互いにはっきりと見えなくても、呼吸音で《《そこ》》に居るのはわかる。時間がゆっくりと流れてゆく。
自然と顔と顔が近づく。そして二人の唇同士がぶつかる寸前──大きな爆発音と共に、夜空に花が咲く。
「「──っ!」」
夢から覚めたように二人は顔を離し、黙って花火を眺めるのだった。
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