第20話 冷姫とハプニング
「やっと滑れるね〜」
ウォータースライダーの待機列の先頭に並ぶ朱莉は嬉しそうに言う。
「やっとだな」
琉生も嬉しそうに言うが、朱莉とは嬉しそうな理由が違う。
楽しみにしていたウォータースライダーに滑れることに嬉しそうにしている朱莉な対して、琉生は周りからの視線がやっと少なくなることに嬉しそうにしているのだ。
「こちらは三人用の浮き輪となっています」
とスタッフに言われ、三人は初めて気づく。先に滑っている人は、丸型の浮き輪に一〜三人で乗っている。
「どうする、俺だけ別で乗るか?」
「大丈夫、大丈夫。後ろも少し並んでるから三人で乗ろ」
「そうね。後ろ並んでるからね」
琉生は二人。主に唯に気を使って言ったが、二人にすぐに却下される。琉生は内心「そこまで並んでないが?」と思ったがあえて黙っておいた。
「それでは、行ってらっしゃ〜い!」
スタッフに力強く押され、三人の乗る浮き輪は急降下する。
「「きゃ〜!!」」
琉生の左隣からは二人の叫び声が聞こえる。
ちなみに並びは左から朱莉、唯ときて琉生だ。
隣には朱莉が座ると思っていたが、唯が隣に座り、琉生は叫ぶ所ではなかった。
景色が早く進む。
あと少しでゴール。といった時に、事件は起きた──。
「うわっ!!」
琉生は左から驚くような声を聞いたと思うと、腕に衝撃が加わる。
いた、くわない。なぜなら……。
たわわに実った果実が当たっていて、痛いどころか柔らかい。
チラリと隣に目を向ければ、唯は胸を押し付けるように琉生の腕にしがみついている。
「……」
琉生は先程唯の水着姿を前にした時以上に、脳が思考停止する。
気づいた時には水の中。本気で溺れるかと思い、直ちに水から顔を出す。
「──っは!」
(空気が美味しい!溺れなくて良かった……!)
ほんの数秒間息を吸えなかっただけだが、琉生は心からそう思う。
(しかしどうして唯さんが倒れてきたんだ?あの時は真っ直ぐなコースで、倒れるような衝撃も無かったはずだが……)
ふと周りを見渡すと唯はすぐ近くに居るが、朱莉の姿はどこにも見当たらない。
「さっき倒れた時って朱莉とぶつかった?」
「朱莉ちゃんと……?うん、ぶつかったよ。というかさっきはぶつかっちゃってごめんね」
琉生はあえて「押された?」とは聞かずに、「ぶつかった?」と聞く。
どうやら予想は的中したらしい。
琉生は「大丈夫だよ」と優しくいい、唯と二人で朱莉を探すことにした。
探し始めて三分程が経過した時。遠くに大学生くらいの男達に囲まれる朱莉を見つけた。
その顔は酷く怯えていて、左腕は男に強く掴まれており、中々離れられそうにない様子だ。
近くに居る一般人は子供や女性ばかりで、少しずつ距離をとるように下がっていた。
「ちょっとあなた達!朱莉ちゃんが嫌がってるでしょ!?」
この頃よく聞く声がすると思えば、その声は唯のものだった。
「あ?やんのか?……って胸でっか」
「むふふ、ほんとだ」
「俺この子と遊びたい」
不良とキモオタと……、とにかくヤバいやつは朱莉から手を離し、唯にゆっくりと腕を伸ばす。
それでも唯は動かない。
(大事な朱莉ちゃんを守るためなら、私の体なんて……!)
唯がそう考えたその時。唯と男の間に立ち塞がる者が現れる。
「おいおい、俺の大事な妹と友達に何しようとしてんの?」
「お前そんなブッサイクな顔でこの女と遊んでるの?ウケるわ」
不良はそう言い、琉生を無視して朱莉に伸ばした腕を再び動かす。
「いデデデデデデ……!」
数秒後、伸ばした腕を擦りながら不良はその場に膝を着いている。
それは不良の伸ばした腕を琉生が力強く握りしめたから。ゴリゴリと不吉な音を鳴らし、不良は膝を着いたのだ。
「俺がブザイクなのはどうでもいいが、この二人に手を出すやつは俺が許さねぇ。分かった?」
琉生は不良の耳元で静かに伝え、その場を立つ。
最後に不良を強く睨み、唯と朱莉の二人を連れてその場を去る。
その直後、不良を含めた三人が走り去ってゆく音が聞こえて安堵の息を吐く琉生だった。
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