第16話 冷姫と水着選び
「私、ちょっと本屋さんに行ってくるから二人で先に水着を選んでおいて!」
朱莉がそう言ったのは、三人で私服を選び終わってすぐの頃。
元々家を出る前から、本屋に行きたいと言っていた朱莉であったが、琉生は「別に今じゃなくても」と心の中で不満をぶつける。
しかし朱莉は気づくことなく、笑顔で去っていった。
琉生はチラリと横目に唯のことを見ると、朱莉の去っていった方をずっと眺めて固まっていた。
「ど、どうしよっか。 二人で水着選ぶの、嫌だったら他を回ってもいいんだよ?」
もちろん唯のために言った言葉だが、琉生も羞恥心で死にそうな気がしたので、唯が二人で水着を選ぶのを嫌がることを願った。
しかし──。
「や、二人で水着を選ぼ?」
「──っは!」
上目遣いで琉生の顔を見上げる唯は、もはやあざとかったがこれはこれでいい。 あまりにも可愛すぎるから、唯が天使の生まれ変わりか何かかと琉生は疑ってしまった。
しかしここは断らねば。 二人で選ぶと、お互いに沈黙の流れる地獄の時間になるに違いない。
(しかし唯さんの水着姿。 み、見てみたい……!)
「わかった。 二人で水着を選びにいこう」
琉生はダメだとわかっていても悪いことをしてしまう子供の気持ちがわかった気がした。
琉生は恐る恐る唯の顔色を窺うと、顔を赤らめながらもはにかむように笑っていた。
★★★
琉生と唯が店の中に飾られている水着を眺めているなか、少し離れた柱の影に隠れる長い黒髪。 その招待は──。
「んふふ~、唯ちゃんは確実におにぃのことを好きになってるはず! でもガードの固いおにぃの考えておることは、なかなかわからない。 この水着選びイベントが起こっている今日、絶対に解き明かして見せるんだから!」
朱莉だった。
どこから出したのかわからないシャーロックハットを目深にかぶり、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながらジッと二人を見ていた。
「ん~、なかなか試着しないな。 まさか唯ちゃんってあんなに細いのに太ってるって言ってる系の女子!?」
探偵朱莉の活動が始まり、早くも五分が過ぎた。
後ろから「むむむ」と強い圧をかけられていても、唯は気づかず水着を眺めている。
「あはは! おにぃのあの顔面白すぎ! 顔真っ赤じゃん!」
更に五分後には朱莉は琉生の心中を探ることを忘れ、琉生の反応を楽しんでいた。
カシャカシャと遠くから琉生の表情を写真に納めているが、当の本人は全く気づかず、顔を真っ赤に染めていた。
「おっと! ついに試着かぁー!?」
やっと手に持った水着と共に試着室に入って行く唯を見て、朱莉は我に帰った。
★★★
先程から琉生の心臓はすごい早さで高鳴っている。
それも無理もない。 目の前のカーテンの先には水着を試着する唯がいる。
「どこにもいかないでよね!」と釘を刺されてしまった琉生は、その場を離れることができない。 耳のいい琉生は試着室の中から聞こえてくる衣擦れの音に、思わず生唾を飲み込んでしまう。
慌てて耳を押さえ、音を遮断するが、脳内では先程の音が永遠に再生されている。
(クソぉ……! 俺はなんて変態なんだ! 唯さんは俺を信じて一緒に水着を選びに来てくれたのに!)
琉生は後悔するが、もう遅い。 遠くからは琉生の動作を見て全てを理解した朱莉が、腹を抱えて笑っている。
そして待ちに待った時が訪れた。 カーテンの隙間からは指先が少し顔を出し、ゆっくりとカーテンが開かれた。
カーテンの方へ視線を向けていた琉生は、高鳴っていた胸の鼓動が、更に早くなるそして──。
「琉生くん。 どう、かしら? ──って大丈夫!?」
唯が恥じらいながらも水着姿を琉生に見せたが、琉生は唯の姿が視界に入る前に立ったまま気を失ってしまった。
琉生を心配する気持ちよりも「せっかく恥ずかしいのを我慢したのに!」という気持ちが前に出てしまい、唯は勢いよくカーテンを閉じた。
すぐに駆けつけた朱莉によって琉生は意識を取り戻したが、唯はこの時感じた羞恥心を忘れることはないだろう。
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