第15話 冷姫と夏のお買い物
琉生は朱莉と共にアクアモール前の、大きな石像の前で立ち話をしている。
「おじいちゃん、私達が知らない内にとんでもないショッピングモール作っちゃったね……」
「ん、それな。 俺も前唯さんと来たけれど、痛感しよ」
「ありぇりぇ〜、おにぃさん?」
朱莉は久しぶりに琉生を煽ることが出来そうでワクワクしだす。
「なに、唯さんと一緒に遊びに来ただけだけど? 悪いか?」
琉生は顔色を一つとして変えない、真顔カウンターを決める。
「な、何も悪いことはありません」
(ド正論だ……。 おにぃがド正論を決めてきただと!? いつもはムキになって言い返してくるから、ついボロが出たりするのに……!)
朱莉は表情には出していないが、心の中ではミニ朱莉が「く、クソォ……!」と四つん這いになり、地面を強く叩く。
(そうだ!)
朱莉は琉生の真顔を破壊する、とっておきの言葉を見つけ出す。
「ねぇ、おにぃって唯ちゃんの事を──」
「ごめん、お待たせ……!」
朱莉の"とっておきの言葉"は、遠くから走ってくる唯にかき消されてしまう。
「大丈夫だよ」
「唯ちゃん、全然だいじょぶー!」
「ありがと、待たせちゃったね」
唯は走ってきたので、肩を揺らし呼吸を荒くしている。
しかし少し待てば元通りになり、三人は回る店を決めている。
「私は甘いものが食べれるとこ行きたい〜! 唯ちゃんは〜?」
「私ですか。 ……私は少し夏用のお洋服を買いたいです!」
「分かった、ならお洋服屋さんに行ってから甘いものを食べに行こー!」
「俺のこと忘れてるよね! わざと!?」
明らかに朱莉が故意で仲間はずれにするので、琉生は慌てて二人の間に入る。
「ごめんごめん。 おにぃだけ容姿偏差値が低いから、一緒にいるって思われたくなかっただけだよ〜」
「朱莉さん、そんなことないよ。 前に琉生くんの前髪の下を見たことがあるけれど、他の人と比べ物にならないくらいカッコよかったよ!」
琉生の胸はジーンと暖かくなる。 そして顔は熱くなる。
「確かにおにぃは顔はいいけれど、ムカつくの! 目立たないようにわざと髪を伸ばして、不清潔感を出そうとしているらしいけれど、毎日髪の手入れをしっかりしているせいで、全く不清潔感がないの! やるならしっかりしてよ!」
言葉だけを見るとものすごく怒っていそうだが、実際は半笑いで言っている。 朱莉は久しぶりに琉生の髪を整えた姿を見たいと思ったので、そう言っただけである。
「確かに、琉生くんの髪って私よりも綺麗かも」
「そんなことないよ。 唯さんは俺よりももっと長い髪を、そこまでツヤツヤに保てるのは本当に凄いことだと思うよ」
朱莉を差し置いてお互いに褒め合う二人。 朱莉は「なーにデレデレしてんの」とツッコミを入れたくなったがここはグッと堪え、こら、──。
「なーにデレデレしてんの、お二人さんよ」
堪えることは出来なかった。 ジト目でツッコミを入れる朱莉の目の前には、茹でダコが一匹、二匹。このまま行けば唯も朱莉の煽りの対象にされること間違いなしだ。
「と、とにかく! 時間は一分一秒でも大切にするべきだ。 もう開いてるから行くぞ!」
「そ、そそ、そうね……!」
琉生は照れを抑えきれてはいないが、ほとんど隠せている。 しかし唯は全く隠せていない。 それどころか、むしろ怪しい。
先を歩く二人に『この人達付き合ってんの!?』と内心思いながらも、後に続いた。
(そういえば今日ってどうして集まることになったんだっけ……)
思い返すこと二日前──。
終業式の日。 学校から帰ると、開放感に満ちた朱莉がリビングのソファで寝転がっていた。
流石運動部なだけある。 額に汗をかいているので走って帰ってきたのだろう。
七月中旬となれば日に照らされるだけでイライラするくらい汗をかく。 朱莉ほどでは無いが、琉生も汗をかいているので、冷蔵庫からキンキンに冷えた麦茶を取り出す。
「おにぃ、明後日予定空けておいてね〜。 唯ちゃんと水着買いに行くから〜」
琉生は飲んでいた麦茶を吹き出しそうになる。
(水着だぞ? 朱莉のはともかく、あの唯さんの水着を買いに行くのに俺も行くの!?)
「もちろん私とおにぃの水着も買うからね」
「……?」
琉生の頭の中は『?』でいっぱいになる。
「と、に、か、く! 明後日の予定は空けておくこと! 分かった!?」
「は、はい!」
黙り込む琉生に、嫌気がさしたのか朱莉は少し強い口調で言う。
琉生は勢いでOKしてしまう。
(あ、明後日……、何も予定は無い。 しかし心の準備ができない。 出来るわけがないよぉ……!)
琉生はドキドキし眠れない夜を過ごすのだった。
物語内での説明の言葉(?)を変えました!
変更前→「〜でした」
変更後→「〜だ」「〜である」
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