第14話 冷姫と終業式
期末テストの翌日は、珍しく晴天に見舞われた。
「その、昨日はありがと……」
学園で自分の席に着くなり言われた言葉に、琉生は「きのう?」と疑問を持つが、すぐに唯が倒れた時のことを言っている事を理解する。
「あー、大じょ──」
いや違う。 ここで「大丈夫」と言っても、唯さんは昨日の事を思い出し、後悔するだけだ。
昨夜だって唯から通話がかかってきた。 その時は何度も謝ってくれたし、電話越しでも分かるくらいに声も震えていた。
それなら俺の取るべき行動は──。
「いやー、制服越しに唯さんの感触をしっかりと味わわせて貰いました! ご馳走様でした!」
「ふぇ?」
予想していた言葉と全く異なった言葉を伝えられ、唯は自然と素っ頓狂な声を出してしまう。
「何言ってんのよ、この変態っ!」
教室に誰もいなくて良かった。 もしクラスメイトが一人でもいたら、俺は(視線のレーザービームで)焼き殺されていただろう。
結果的に変態呼ばわりをされてしまったが、なんとも言えぬ心地良さを感じてしまった琉生だった。
テスト期間が終わり数日経ったある日──。
「テストの順位が貼られてるらしいぜ!」
クラスカーストの高い男子が、教室の扉を勢い良く開き、言った。
(ついに出たか……)
琉生は開いていたスマホの画面を閉じ、テストの順位が貼られている所に向かった。
琉生が着いた頃には既に情報を聞きつけた生徒が殺到している。 流石に学年は分けられているが、人の数が物凄い。
「おい! 近衛琉生って誰だよ!」
「それな! 誰なんだ、近衛琉生!」
生徒達が口々に琉生を探す。 必死に影になる琉生。
琉生が探されている理由はすぐに分かった。
「琉生って奴が十一教科全て満点で一位だぞ!」
どうやら琉生は全教科満点のようだ。 一教科でも満点を取るのは過酷だ。 それを十一回。 周りから探されるのは当然だ。
そんなアリエナイ偉業を成し遂げたのは、生まれつきの人並みを外れた記憶力と、過去の努力が関わっているのだろう。(今は努力をしていない)
琉生は遠くから順位を眺める唯の姿を見つけた。
その顔には涙が滲んでいた。 それほど悔しかったのだろう。
唯から勝負をふっかけたのだが、結局一学期中はテストについて一切触れなかったのだった。
★★★
「──本日をもって一学期を終了とします。 夏休みだからと言って羽目を外し過ぎないように」
校長が終業式の挨拶を行ない、琉生達に夏休みが訪れた。
「校長先生も仰っていたが、お前ら、羽目を外し過ぎるんじゃねぇぞ」
相変わらずハスキーボイスな祐靡が生徒を睨みつけ言う。
流石に三ヶ月も顔を合わせていると生徒も慣れてきたので、初めの時のように、空気がピリつくことは無かった。
「おいてめぇら、聞いてるのか!?」
祐靡は少し赤面しているのは、怒りによるものなのか、羞恥心を覚えたことによるものなのか、ここにいる生徒全員が疑問に思っているのであった。
「祐靡ちゃんもそんな事言ってるけれど、夏休みに誰よりも羽目を外すのは祐靡ちゃんでは?」
「うっせぇ! そんなことを言ってると単位落とすぞ!?」
「「「先生としてそれをしていいのか!?」」」
クラス中で盛大にハモられる。
そしていつもは祐靡ちゃん呼びを止める祐靡であったが止めなかった。
「やれやれ……。 お前達が事故や事件を起こさない事を願っている。 これでHRも終わりだ、帰った、帰った。 私はこれから用事があるんだ」
「え、祐靡ちゃん彼氏出来たの!?」
「彼氏じゃない! ──それに祐靡ちゃん呼びやめろ!」
先程とは違い、今回は祐靡ちゃん呼びを止める祐靡。
教室内には微かに明るい雰囲気が漂ったのだった。
「琉生くん。 夏休み予定ある?」
琉生は帰ろうとしたその時、唯に呼び止められた。
「無いぞ。 モブはとっても暇だ」
「奇遇ね、冷姫もとても暇なの。 良かったら夏休みにまた家にお邪魔していい?」
唯からのお誘い。 これにはとても価値がある。
なぜなら男子で唯と友達なのは琉生だけ。 となると必然的に、唯からお誘いを受けることの出来る人は、元からの友達と琉生だけだ。
冷姫ファンの男子達が唯からお誘いを受けると、恐らく泣いて喜ぶ筈だ。
それくらい価値がある。
「いいぞ。 その時は俺がご飯を振る舞うよ」
「いいの!?」
唯は目を輝かせて言う。
「もちろん!」
唯に自分の料理を認めてもらえていることに、琉生は喜びを感じ、思わずサムズアップまでして言った。
この時は唯と琉生。 お互いに軽い気持ちで夏休みに会うことを約束したが、実際は一生忘れることの出来ぬような、波乱万丈の夏休みとなるが、今の二人には知る由もなかったのであった。
〈一章・ハンカチを渡しただけなのに!?〜完〜〉
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