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モブが公園で泣いていた少女にハンカチを渡したら、なぜか友達になりました~彼女の可愛いところを知っている男子はこの世で俺だけ~  作者: くまたに
一章・ハンカチを渡しただけなのに!?

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第13話 冷姫とテスト当日

 四日間に及ぶ期末テスト最終日は、どんよりと曇った空の下行われた。


 現在六月下旬──。

 東京はすっかり梅雨入りし、蒸し暑さはテストに取り組む生徒達に不快感を植え付ける。


 一学期の中間テストでは納得いく結果を出すことが出来なかった唯は、今日まで寝る間を惜しんで勉強してきた。


 現在十一教科中、十一教科目。 教科は『数学Ⅰ』だ。

 琉生との勉強会のおかげか、いつも以上にスラスラ解けた。


(今回のテストは琉生くんと勝負しているの、なんとしてでも五位以上を取る。 そして琉生くんにも勝ってやるわ!)


 唯は琉生になんとしてでも勝つために、一問一問を正確に読み、丁寧に答えていった。


 ★★★


「ふぅー」


 琉生はテストからの開放感と共に、机に突っ伏す。

 生まれつきの天才である琉生でも、流石に四日間も連続でテストとなれば疲労が溜まる。


 脳が猛烈に糖分を欲している。

 以前朱莉に甘いものを作ると約束していたので、今日作ることにした。


 チーズケーキやガトーショコラ、プリンもいいな……。

 そんな事を考えながら琉生は体を起こすと、隣の席に座っていた唯が消えていた。

 どこに行っても唯の自由だが、「唯さんのことだから今すぐにでも自主採点をするに違いない」と思っていた琉生は、少し驚きを覚えた。


(にしても喉が渇いたな……)


 朝食時に飲んだ麦茶を最後に、琉生は今日一滴も水分をとっていない。

 六月の下旬だというのにも関わらず、教室の気温は三十度に近い。 下手すれば熱中症になりかねない。


 琉生は席を立ち、学園内に設置されている自動販売機の元へ向かった。

 廊下ですれ違う生徒達は今日の天気とは違って、とても晴れ晴れしい表情を浮かべている。

 琉生もその晴れ晴れしい表情を浮かべている生徒の内の一人だった。


 自動販売機の元へ着くと先客がいた。


「唯さんもいたんだ」


「……」


 周りに人がいないことを確認し話しかけても、唯は虚ろな目で自動販売機を眺めたまま動こうとしない。


「おーい、唯さん生きてますかー」


「……」


 もう一度声をかけるが反応はない。


 琉生はキンキンに冷えた缶ジュースを二種類買い、片方を唯の頬に当てた。


「ひゃっ!」


 唯は驚いた表情をしながら琉生の顔に目を向けた。


「あれ、琉生くんいたんだ。 どうしたの?」


「唯さんが死んだ目で立ってたからどうしたのかなって思っただけだよ」


 唯の顔がいつもと比べ少し青いように感じた。


「私、そんな目をして──」


「お、おい!」


 唯は倒れた。

 琉生が目の前にいたから支えることができたが、咄嗟だったため胸に抱き抱える形となった。

 肩を揺らしてみるが、唯は目を覚ます気配がない。


(嘘だろ……)


 周りには数人の生徒がいる。

 女子達は「きゃーっ!」と黄色い声をあげるが、男子達は「誰だアイツ」と琉生の素性を調べだした。

 今は周りから認識されてされていなかったことを嬉しく思った。


 とにかく保健室に運ぶ必要がある。

 しかし俺も含め、男子が気安く冷姫の体を触れてはいけない。


 そんな時視界に先程の女子達が入った。


 唯さんは身長も低く引き締まっているが、女子達に持ち上げられるかな……。

 こうなったら!


「そこの《《お嬢さん達》》、保健室から先生を呼んできてくれないか?」


「わかったわ」


 そう言って女子達は、小走りで去っていった。


 ★★★


「ここは……」


 目を覚ますと目の前には真っ白な天井が広がっていた。

 周りを見渡すと、カーテンで覆われていることがわかった。


「あら、伊織さん。 目を覚ましたのね」


 養護教諭の先生がカーテンの奥から現れた。


「あの、私はどうしてここに……?」


「どうしてって覚えてないの? アナタは自動販売機の前で倒れてたのよ。 たまたま近くにいた女の子達が私を呼びに来てくれたの。 私がアナタのところに行ったら近衛くんの胸にもたれ掛かって気を失っていたわ」


 今年新任らしい先生は「うふふ」と微笑み、唯に優しい目を向けている。

 唯は非常にいたたまれなくなり、頭から布団を被った。

 当たり前だが視界が真っ暗になる。 羞恥心によるものか、気を失ったことによるものか頭が熱くクラクラする。


「もう少し休んでいなさい。 近衛くんに会ったらお礼を言っておくのよ」


 そう言って先生は去ってゆく。

 一人残された唯は、胸に新たな感情が芽生えるのを感じたが、この感情が何なのか解き明かすことはできなかった。

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