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モブが公園で泣いていた少女にハンカチを渡したら、なぜか友達になりました~彼女の可愛いところを知っている男子はこの世で俺だけ~  作者: くまたに
一章・ハンカチを渡しただけなのに!?

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第12話 冷姫と遅帰り

「ふー、美味しかった〜!」


 朱莉は椅子に座りながら、腹をポンポンと叩いていた。


「夜ご飯、ありがとう。 その、とても美味し、かったわ……」


 唯は両手を胸の前で強く握り、顔を赤くしながら言った。


「喜んでもらえて良かった」


 そんな可愛らしい仕草に、琉生は反射的に目を逸らしてしまった。

 その場にいても恥ずかしいだけなので、机の上に置かれている皿を集め、キッチンの流し台に運んだ。


「あ、おにぃは座ってて。 全部私が洗うから」


 朱莉は椅子から立つとその場で「う〜んっ!」と体を伸びし、琉生のいる流し台の元へやって来ると、そっと耳打ちした。


「おにぃさん、おにぃさん。 唯ちゃんそろそろ帰った方がいいと思うけれど、まだ雨降ってるから送ってあげなよ」


「そ、そうだな。 ありがと、洗い物任せたぞ」


「りょーかいっ!」


 朱莉はパッと笑顔になると、「ふふふ~ん♪」と鼻歌を交えながらゴシゴシと皿を洗い始めた。


「唯さん、もう遅いから帰った方がいいんじゃない? 雨降ってて危ないから、俺が家まで連れて行くよ」


「いいよ。 申し訳ないから」


 琉生は唯のことを呼び捨てで呼んだ後に、朱莉から食事中永遠に煽られ続けたので、《《今は》》『唯さん』呼びをすることにした。


「そんなことは考えなくていいよ。 さ、行くよ」


「ちょ、ちょっと!」


 後ろで焦る唯の声を聴きながら、琉生はスタスタと玄関へ向かった。


「もうっ!」


 唯は一人その場に残され、頬を膨らませて少し拗ねたフリをしたが、本当は一人で夜道を歩くのが怖いと思っていたので、琉生が家まで着いてきてくれると言ってくれたのをとても嬉しく思ったのだった。


 ★★★


 エントランスを出る前から、外からは雨が地面を強く打ち付ける音が聞こえてくる。


「琉生くんがついてきてくれて助かったよ」


 唯は琉生の手元にある二つの傘を見て言った。


「だろ? さ、帰るぞ~。 って言っても俺の家はここだけどな」


 そう言って琉生は「ははは」と笑った。

 その横で唯は小さく口元を隠し、「ふふふ」と笑っていた。



 外に出ると湿った風が二人を襲う。

 慌てて二人は傘をさすと、頭の上からはザァザァという音がうるさく聞こえる。


「——の――、後少しで――から」


 唯は琉生に向かって喋っているが、全て雨の音にかき消されてしまう。


「え、なんて? ちょっと聞こえない!」


「ど、どう、これで聞こえる?」


 唯は距離を縮めながら言った。


「あぁ、聞こえるよ。 さっきはなんて言ってたの?」


「私の家、あと少しで着くからって言ったのよ」


「なるほどな、って! 唯さん、か、傘が!」


「え、傘?」


 そう言って唯は琉生から傘に視線を移すと、傘が豪快にひっくり返っていた。

 二人はその場で立ち止まり、傘が飛んでいかないように息をそろえて引っ張った。


「あ、危なかった。 飛んでいかなくてよかったよ」


「ごめんなさい……」


 唯はわかりやすくシュンと俯いて謝った。


「大丈夫、大丈夫。 それもう古いからほとんど使ってなかったんだよ」


「……ほんと?」


「あぁ、本当だ。 安心しろ」


 琉生はニカッと笑って、傘を持っていない右手でサムズアップをした。


「ありがと……!」


 唯には琉生の嘘に気づいていたが、琉生の優しさで胸の奥が熱くなるのが分かった。


「うーん……。 よしっ、はいこの傘を握って!」


「え、そうしたら琉生くん濡れちゃうじゃない」


「安心しろ、帰ったらすぐに風呂に入るから大丈夫だ」


「だめ! ――片方が傘から出るくらいならこうするしかないよ!」


 そう言って琉生から傘を受け取り、肩が触れそうなくらいに距離を縮めた。


「これって、相合い――」


「静かに、これ以上は言ったらだめ!」


 唯は恥ずかしそうに琉生の唇に人差し指を当て、ぷいっとそっぽを向いてしまった。

 唯と琉生には二十センチ以上の身長の差があるため、唯は頑張って傘を持つ手を上にあげている。


 頑張っている唯の姿に少し可愛いと思い見とれてしまったが、一人大変な思いをさせて少し申し訳なくなり、唯の手から傘を奪い取った。


「お、俺が持つよ……」


「えっ!?」


 唯はわかりやすく声を上げて驚いた。

 そしてもう一度そっぽを向いてしまったが、髪の隙間から覗く耳が真っ赤になっていることに気づき、自分のしたことに羞恥心を覚えた琉生は、唯の家に着くまで口を開くことができないのであった。


「ここまででいいよ、ありがと!」


 先程の件で唯のことを少し意識してしまった琉生は少し胸の鼓動が早くなるのが分かった。


「あぁ、また明日な」


 琉生はそう伝えると、颯爽とその場を去ったのだった。

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