お嬢様の優雅な毎日は事件と共に 2
最後にもう一人の張飛現るです!
魔術協会は古ぼけたような洋館をしており、中は魔術で様々な道具が動いて回っている。その姿は怪しい魔女が住んでいますなんて言われたら信じてしまいそうになるぐらいだ。
それ故にここに近づく一般人など存在しない。
魔術を研究する部署や今までの事件を管理する部署など様々な部署が存在し、張飛は事件対策本部と呼ばれている会議室へと呼び出しを受けていた。
『魔術師の資格を持つ者は必ず本日11時から行われる対策会議に参加する事。参加資格の魔術師はB級以上とする』
張飛としてはあまり真剣に参加したくないし、正直春は新入生がたくさん集まるいい機会。この機会に多くの学生をアルバイトとしてアピールしたいところである。
元々の顧客だっているが、正直言えばここ最近フィリアだけでなくイリーナがアルバイトをしている影響なのか右肩上がりの傾向にあるのも事実。
どうするべきなのか。
なんて悩みながらも結局この一週間に満たない時間をまともに使う事もできないまま過ごしていた。
イリーナやフィリアだけでは回せないだろうという考えの下、本当なら今日一日を休みにしたくないという意見を曲げてでも参加した会議。
じつはこの会議場に近づきつつある二人の人間の存在に気が付かなかった。
フィリアとイリーナは北の噴水庭園前で昼食をとる為に市場で購入したサンドイッチを中心にしたお弁当を食べている。
どちらもベクトルが違うだけで美人という点ではきっと大差ない。
でも、サンドイッチを一切れ食べたところで二人は噴水広場の林の方、人だかりの中でガヤガヤと様々な声が聞えてくる。
気になってしまった二人はその人だかりへと近づいていく。
「可哀そうに………見た感じ十代じゃないか?」
「顔の皮をはがされているぞ…………これって魔術か?魔術協会に通報にした方が良いんじゃないか?」
なんて話をしているとそこにはイリーナと同じ高校の制服を着た女子生徒の顔の皮がはがれた遺体が転がっていた。
フィリアとイリーナはこの光景を前に吐きそうになる気持ちを必死で抑え、震える体をお互いに抱き合いながら抑える。
フィリアは上に視線を動かし、イリーナに怯えながらも意見を出す。
「ねぇ………おじさんに言いに行かない?」
イリーナには黙って頷くことしかできなかった。
会議室の中にエーテルライトに在籍しているB級以上が集まっており、俺にとってはほとんど見知らぬ人間達ばかりだった。
俺が一番前の席に座る頃、会議室の中へこのエーテルライトに存在する魔術協会で一番偉い人物。魔術協会元老長である『フィー・エウロゼア』と呼ばれる80のお婆さんである。
白髪としわの寄った顔立ちとは裏腹の高貴さが印象的な女性。魔術の腕前では衰えこそあるが、今でも十分通用する人間だと言われており、この人に憧れてこの街で魔術を習う人も多い。
「皆さん集まってくださりありがとうございます。実は残念な報告があります」
フィーは心底残念そうな表情はどこか印象深い表情をしてしまう。
「この街の中で殺人事件がここ二日で既に二件発生しています。そして………先ほど―――――、更に一件先ほど発生しました。この三件の事件は統一性がある事から同一犯の犯行であると判断されました」
一人の男性魔術師が立ち上がり手を挙げて意見を述べようとする。フィーはその人物の方に手を伸ばし「何でしょう?」と尋ねた。
「統一性とは何でしょうか?」
「顔の皮が剥がされていました」
俺を含めて全員が息を呑む声が聞えてきたのが分かる。
「間違いなく同一犯の犯行でしょう。皆さんに言っておきたいことがあります。魔術協会に在籍する魔術師として命じます………早急にこの犯人を捕まえなさい!これは魔術協会元老長としての命令です!」
俺の中で最悪の予想が作られていった。
フィリアとイリーナは魔術協会へと足を踏み込むとこのまだ見たことも無いこの世界の中で、色とりどりの世界の中で二人はドキドキより恐怖の感情が勝っているそんな恐怖に負けそうになりながら、恐怖で震える足を何とか動かしながらロビーの中でうろうろしていると、張飛の姿を見かけて近づいていく。
「おじさん………」
フィリアが駆け足で近づいていく中、トーンの低い声が聞えてくるので足を急に止めてしまう。
「今回の一件にもう一人の俺が関わっていないと言えますか?」
「ええ言えるわ。あなたの『影』が人の顔の皮を剥ぐようなことを考えると思う?私が貴方の立場なら絶対にしないと思うわ。あなたは人の顔の皮に興味があるのかしら?」
「それはありませんけど……」
「勿論警戒してほしいのは確かよ。でも、今回の事件に転生者の『影』が発生することは分かっているわ。それが問題を起こすことが多いのも事実よ。実際あなたの『影』はあなたと対峙しているし………でも、警戒しておく事例かもしれませんね。では」
フィーはこっちに歩いてくるのを見てフィリアとイリーナは隠れるように身を隠す。
張飛は立ち尽くしたまま話しかけずらい雰囲気が続いていく。
二人はゆっくりと歩きながら魔術協会から去っていく。
「どうしましょうか……」
フィリアでも聞いた事の無い『影』と呼ばれる存在を初めて知った。
二人の知らない所で事件が起きている事に、自分達を守る為に張飛が日夜どれだけ頑張っているのかなんてことを考えてしまう。
そんな時だった。
張飛の声が聞えてきた。
「なんだ………二人共来てたのか?話しかけてくれれば良かったのに」
二人は同時に振り返ると心配そうな表情が印象的で、イリーナは不用意に近づいていく。
「すみません。立ち聞きするつもりは無かったのですが………フィリアさん?」
「違う………この人、おじさんじゃない!」
イリーナはフィリアから張飛へと視線を移すと、悪そうな表情を作り出し張飛はイリーナに手を伸ばす。
「さっきの話をもっと詳しく教えてくれないか?随分面白そうな話を聞いてしまったんでね。なあ………お嬢さん?あんたの名前は?」
イリーナは張飛の陰に逆らうことが出来なかった。
毎日一話ずつ一話が短めの話になります。では明日。




