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魔術師と喫茶店はセカンドライフを楽しんでいます! 1

最終話まであと数話です!

 この喫茶店を閉めておくべきなのかもしれないが、そんなことをすれば店がつぶれる可能性が高く、結果維持する方針で進めた。

 念のために魔術協会と話し合い、周囲に魔術師をひそかに配置し、ジャック・ザ・リッパーをおびき寄せることになった。

 しかし、さすがにそのまま捕まってくれるほどやさしい奴ではないので、こちらとしては根気よく付き合っていくしかない。


「今日から新しいメンバーを加えて喫茶店を再開させるわけなのだが、いざとなった俺とメリビットは魔術式を展開させて戦う。その後はお前達は喫茶店を回してくれ」

「いざとなったらどうするつもりっすか?」

「その時は話す。この喫茶店はマスターにだけ受け継がれている魔術式が存在する。その魔術式を展開させると別次元にここと似た場所を作ることが出来る。そこで戦う」


 魔術式を知っているのは俺だけなので、俺が厨房から展開させることになる。

 フィリアが魔術式の事を知らなかった事に不満げにしているが、直接行動に出ないのであれば良しとする。

 結果から見て俺達はいつも通りの日常を送る事を選んだ。



 イリーナについてだが、俺は最初は喫茶店で仕事をさせないようにしようとした。

 死んだ目をしながら仕事をされても困る。

 しかし、彼女は仕事をする道を選んだ。

 無理なら俺がストップを出すし、最悪は全員でフォローすればいいというフィリアからの提案でその場を呑む事になった。


「いらっしゃいませ。好きな席へどうぞ」


 フィリアの声が全員が反応するが、俺は手元でコーヒー豆を挽きながら入ってきた初老の老人相手に俺は冷蔵庫からサンドイッチの具材を取り出す。

 俺の後ろではイリーナが厨房の仕事を覚えようと必死になっている。


(まあ、あの様子だとまだ大丈夫か………)


 サンドイッチを作りながら注文を取って来たのはメリビットだった。

 メリビットは注文票を棒読みで読み上げてくるのだが、それがどうも読みにくいことこの上ない。


「サンドイッチセット一つ。飲み物はホットコーヒーです」

「あ、ああ。分かりにくいなぁ」

「オジサン………浮気?」

「俺がいつそんなことをしたよ!?」

「ははは!ここはいつも元気だねぇ」


 注文した初老の男性は大きな声で笑いながら返してくれるのだが、フィリアはいつだってこの調子なので困る。

 この喫茶店では俺とフィリアのやり取りは一種のコントである。


「マスター!今日はモーニングセットの飲み物はアイスカフェラテで頼むよ」

「ちょっと。直接マスターに注文したらうちらの意味ないじゃないっすか」

「悪かったね。エーフィーちゃん」


 エーフィーが心底不満げにしているが、あれでも場を和ませようとしての行為であり、本心ではない………と信じたい。

 エーフィーは念のためにと注文票を持ってくるが、三人同時に全く同じ注文票を持ってくるので困る。


「「「注文です」」」

「全く同じ注文を三人で持ってくるんじゃない。コミュニケーションや店員同士のやり取りぐらいきちんとしなさい」


 俺は注文票を受け取るが、三人は俺が三つの注文票の内どれを捨てるのかと確かめようとしている。


「いいから仕事行きなさい」


 俺は頭の中に記憶して三つとも捨ててしまう。

 すると、三人は実に不満げな声を出すが、俺としてはそんなことで競って欲しくない。

 俺はふと後ろを見ると、野菜の皮むきに絶賛苦戦しているイリーナの姿が有り、俺は声を掛けるべきかどうかでふと悩んでしまった。

 仕事をしていた方が落ち着くだろうというのは分かるし、そういう時だってあるだろうが、それでもイリーナは今休んでおくべきだと思った。


「イリーナ辛いなら少し休んでいていいぞ」

「大丈夫です!だから………今だけは働かせてください」

「………分かった。でも、本当に辛いときはちゃんと休めよ」


 俺はサンドイッチとモーニングセットを作ってお盆の上に置きそれをフィリアとメリビットに渡す。

 二人に「落とさないように」と忠告するが、重さゆえにか二人は足元をフラフラさせながら歩き出していく。


「危なっかしいな」

「渡すからっすよ。なんで私に渡してくれなかったんすか?」

「お前が注文を取りに行っているからだ」


 なんて話し合いをしている間に一つのお盆が空を舞った。

 俺とエーフィーが同時に「あ~あ」と言いながら俺はサンドイッチセットを作り直し、エーフィーはお掃除セットを取りに行く。

 落としたメリビットのサポートにフィリアが入っていくが、イリーナはそれどころではないぐらいに仕事に精が入っていない。


 魔術協会は落ち着いた対応を求められており、街に残っているはずの殺人鬼である『ジャック・ザ・リッパー』への包囲網を完成させている。

 しかし、変化の魔術を行使するジャック・ザ・リッパーを見つけ出す事すら至難の業であるため、まるで相手にならないというのが本心でもある。


「で?喫茶店ファンシーキャットはどうなっていますか?」


 魔術協会会長は低い声で魔術師の一人に尋ねた。

 隻眼の魔術師は目の前にある資料に目を通す。


「今の所定期的に見回りを続けており、念のためと魔術師を二人ほど内部にいますので万が一も無いと思います」

「油断はしてはいけませんよ。相手は伝説の殺人鬼。油断をしていると被害を増す可能性すらあります。それに本人が直接殴り込みをするとは思えません」

「確かに………では少なくとも張飛とメリビットは喫茶店からなるべく動かさない方が良いでしょう」

「ええ、それでよろしくお願いします」



 俺は朝のラッシュを乗り越え一息ついていると、お昼のラッシュの準備の為に食材の調理とコーヒー豆の準備に入る。

 フィリア達厨房班は各テーブルの清掃をし終え、一旦落ち着くが俺はコーヒー豆が足りないという事に気が付いてしまった。


「コーヒー豆を取ってくる」

「私が取ってきます」


 イリーナの一声に皆が反応してしまう。

 俺としては重たいコーヒー豆を女の子に運ばせることはなるべく避けたい、エーフィー当たりならよさそうな気がするが。


「今私に事で失礼なことを考えてないっすか?」


 エーフィーの直感が尖っていると思う。

 俺の脳内すら読み切って見せるとは。


「重たいものだし、俺が持ってくるぞ」

「いいえ。私前半あまり役に立てませんでしたし………コーヒー豆ぐらい持ってきます」


 そんなことを言いながらイリーナは裏倉庫へと歩き出していった。


では明日七時に会いましょう。

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