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魔術図書館の司書は女の子 4

四話目です。

 滅茶苦茶にしてしまった図書館を直すべきなのかもしれないが、俺達にそんな技術があるわけが無く、半壊している図書館の出入り口から涼しい風が吹き荒れている。

 多くの魔術師や王都の役人が半壊した図書館の修繕などに全力を傾けているので、俺達としては警察などからの事情聴取を受けた。


「メリビット。悪かったな、その……図書館を壊してしまって」

「いいえ。張飛様の責任ではありませんから。しかし、こうなると私は住む場所が当分なくなります」

「?司書と言っても暮らす場所は別にあるはずだろ?」

「いいえ。私はたくさんの本に囲まれながら寝ています」


 本をベットにして寝ているという明らかに本を罵倒しているような寝方を思いつくが、それこそ失礼な寝方だろう。

 言ってくれれば家に止めるのにと思ったが、現状で泊める事はあまりお勧めしない。

 何故なら俺の提案によって今後俺の喫茶店が狙われる可能性があるのだから。


「泊めてください」

「え?狙われているから止めておこうかと思ったんだけど?」

「でも、図書館が修復するまでは私のやる事ないですし、私は魔術師ですよ。少なくとも戦えます」


 むう。そう言われると彼女は少なくとも戦えるのだ。

 ジャック・ザ・リッパーが襲撃した来た際に役に立つかもしれない。


「まあいいか。だったら今日からうちに泊まってくれ。ただし、図書館の仕事が無いうちはうちの喫茶店を手伝ってもらうぞ」

「分かりました。こう見えても接客業を知っているんですよ………本で」

「なるほど……あまり役に立ってくれそうにないな」

「そんなことありません。「いらっしゃいませ」どうですか?」

「どうだったかと言えば、無表情で言葉にだけ感情を持たせているから正直怖い」


 よくもまあ器用なことが出来るものだ。

 表情は百点満点でうまく言葉が出ないなんて話ならまだありそうだが、まあ元々無表情が板についているような奴なのでこれ以上突っこまない。

 まあ短期のアルバイトが入ったのだと思えば少しは楽になるだろう。

 そう思って振り返るとそこには不機嫌そうなフィリア、もう俺にはすっかり慣れ親しんだ状況である。

 こういう状況下で言い訳をするのはむしろ機嫌を損ねる行為だと俺は分かり切っている。

 黙って頭を下げ誠意を見せるが、フィリアは何もしないでいる。

 何事かと視線をフィリアの方に向けると、フィリアは心配そうな顔つきでイリーナの方を見ている。


 イリーナは今にも死にそうなほど弱り切った顔をしており、それは隣にいるエーフィーが心配そうな表情をするぐらいである。

 正直周囲がどう声を掛けたらいいのかが分からない。


 彼女の狂気的な一面、俺とメリビットとフィリアは先ほどそれを知ったわけなのだが、イリーナは心構えをしてなかった分強烈なイメージを持ったに違いない。


「この場合私はどうすればいいのかがわかりません」


 メリビットの言葉に俺も答えを知りたいと願うだけだった。

 俺だって知りたいのだ。

 イリーナに俺達が語り掛ける言葉を、何よりこの状況下で一番精神的なショックを受けているのは間違いなくイリーナだ。


「イリーナ………喫茶店に帰ろう。まずはそれからだ」

「ですが………アマリーはどうするのですか?」

「………」


 どうするのかなんて言われたら俺は「殺す」とは言えなかった。

 何よりアマリー自身がジャック・ザ・リッパーに変貌する前、彼女でいられた間に願ったことが「殺してほしい」なのだから。

 俺だって殺したくないし、出来るなら殺さないで済むのならそれ以上の手段はない。


「………イリーナ。何より彼女自身が望んだことなんだ。もしお前が見ていられないなら一旦王城に戻れ」


 無慈悲な事を言っているかもしれない。

 でも、最も親しい人を殺す姿何て俺は彼女自身に見せたいとは思わないんだ。

 それはフィリアやエーフィーだって同じことだし、何より彼女とのかかわりが少ないメリビットだってそんな惨酷な事を彼女に貸したくはない。

 それでもイリーナは嫌がった。


「………いやです」

「だがな………」

「私なら大丈夫ですから………今帰ったらお父様やお母様と喧嘩してしまいそうで」


 確かに両親がこのことを知らなかったとは思えないし、少なくとも王妃の方は知っていたはずだ。

 今帰ればイリーナはアマリーの事を黙っていたと追及しかねないし、その上でわがままを言いかねない。

 そんな状況になったら間違いなくイリーナは一生軟禁生活が待っているだろう。


「分かった。でも当分学校は休め。いいな?」

「………分かりました」

「フィリアやエーフィーも取り敢えず事件が落ち着くまでは学校を休みなさい。何だったら魔術協会から連絡をしておくから」


 二人は渋々ながら仕方なさそうにしているが、喫茶店に住んでいるメンバーが襲われる可能性が高い今、下手にばらけさせることは出来ない。

 俺としては全員を守るぐらいの気持ちでいるしかない。


「取り敢えず。一旦喫茶店に戻ろう」



 喫茶店に戻り婆に諸々の事情を説明している間に、フィリアとエーフィーにそれぞれイリーナとメリビットを部屋へと案内させた。

 イリーナに関しては不安という事もあり、当分は俺以外の誰かの部屋に止めておこうという事になった。


「そうかい………そんなことがね。しかし、お前もこの喫茶店をよくもまあ標的にしたねぇ」

「まあ、この喫茶店の魔術師気があれば勝てる勝負になると思ったしな。それに、下手に他の人間を巻き込むわけにはいかないだろ」

「まあねぇ。私は今日にでも発つよ。お前の影が護衛してくれるらしいからね」

「あいつは?」

「外で待ってくれているよ。取り敢えず遠くに旅に行くつもりさ。まあ、こっちは大丈夫だからね。でも、この喫茶店を壊すんじゃないよ?」


 分かっているつもりだ。

 ここは俺の暮らす家でもあるのだから。


「でもね。あんたの好きにしなとは言ったけどね。あんたが闇を内包しないで帰って来たという事は克服したって事だからね。もうこれで安心して任せられるね」

「婆………!やっぱりあの事を知ってやがったのか!?」

「まあね。転生者の事は私は全部知っているからね。あんたが過去を振り切れるかどうか試そうとも思ってね」

「まあいい。フィリアの事は俺に任せてくれ。絶対に守り切って見せる」


 婆はどこか安心したような表情をし、「フン」と鼻を鳴らしながら手荷物を持った状態で喫茶店のドアに手を掛ける。


「それはともかく。きちんとケリは付けなよ。ズルズル引きずると後悔することになるよ」

「分かってるよ。でも簡単な事じゃねぇしな」

「そうだね。でも、一番大事なのは戦うあんたの気持ちだよ」


 それも分かっているつもりだし、それについて手遅れになる前に行動するつもりでもある。


「じゃあ行ってくるね」

「今度帰ってくるときは一言言えよ」


 俺は全くと言いながらキッチンの後かたずけに入った。


では明日です!

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