張飛は魔術師になりました 2
二話目。今回の作品はギャグ要素に気合を入れており、特にヒロインと主人公の関係は自分のお気に入りです。
魔術師の集まる『エーテルライト』という街は五百㎢で、北から南に掛けて縦断されており、魔術の研究が日夜行われている街でも有名だ。
特に名物として木組みの建物に色とりどりの鮮やかな色彩、街灯が魔術の力で浮かんでおり、空は常に明るく照らされるこの街並みは多くの観光客の多さではこの国一番を誇る。最も観光客と称される人の半分は魔術師になろうと魔術協会に訪れようとする者が混じっている。
この石畳を歩いている足並みをどこか軽くさせるのは、見たことも無い町並みに心ときめくからだろう。
旅行鞄を引きずりながら石畳から受ける感触を右手を通じて全身で受け止めつつ、綺麗な街並みをどこか楽しめる。
白と赤のドレスとヒールや付けているネックレスはどこか高貴さを感じさせ、長い金髪をカチューシャで纏めている。
イリーナ・フォン・アウルレーゼ。
それが彼女の名前である。高貴な生まれの彼女はこの国の王の第二王女として生を受けた。しかし、彼女は城に閉じ込められるような生活に飽き飽きしていた。
そんな生活を終わらせようと彼女はエーテルライトにある学校への進学を決めた。
それに対して父親である国王は猛烈に反対した。
しかし、大事な一線。イリーナには譲るつもりなど無かった。母親である女王が結果として認める条件が『学校に合格する事』『宿屋生活費は自分で何とかする事』が条件だった。
学校自体は合格したのは良いが、今日中にでも見つからないと最悪野宿になりかねない。
彼女の中には城から出ていった以上帰るなんて選択肢は存在しなかった。
「そんなのは絶対に嫌です!せっかく逃げてきたのに……」
しかし、昨日の夜から何も食べておらず最後に食事したのは昼食である。そして今は次の日のお昼。いくら我慢できるとは言っても丸一日何も食べていないと力が出ない。
もう何日かぐらいなら耐えられる。
そう思いながら街を徘徊していると、街角から何かにぶつかってしまう。
その場で転倒してしまうイリーナが目撃したのは、180はあろうかという男で、髭を生やしていて、深緑のパーカーに脛ほどの丈のズボンを着ていた。
「すまん。よく見ていなかった」
紙袋を左腕に持ちながら右腕を差し出す。イリーナもあまり慣れていないような状況で驚きしかなくどうすればいいのか分からないでいると、まるでしびれを切らしたように男は強引にイリーナを起こす。
「あ、ありがとうございます」
「いや、こっちの不注意が原因だ。それより迷子か?何だったらこの辺を案内できるが。買い物ついでに付き合ってやるよ」
唐突に優しくされることになれておらず、動揺しながら両手をパタパタ振り断ろうとする。何せイリーナは別に迷っているわけでは無いのだ。
とりあえず住む場所が欲しいというだけの話だ。
どう説明すればいいのか言いよどんでいると、男が何かを組んだように尋ねてきた。
「もしかして、宿がないとかそういう事か?」
「ど、どうして?」
「別にみていれば分かるさ。旅行鞄を持っているのに別段迷っているわけじゃないと言っている。なら旅行客じゃないという事だ。見た感じの年齢的に十六と言った所か?なら寮探しと言った所かと思ってな」
驚きすぎて声が出ない。心を読まれたのでは?という疑いをかけてしまうが、そもそも心を読むなんて魔術がその辺の一般人に出来るわけがない。
「あなたは魔術師なのですか?」
この街は魔術師を育成するための街だ。
この男性が魔術師の可能性も十分にある。
「?そうだけど。A級魔術師の張飛だ。喫茶店兼アパートの『ファンシーキャット』のマスターだな」
A級魔術師という言葉の重みを彼女はなんとなくでしか知らないが、もし本当なら魔術協会からそれなりに信頼されている人物のはずである。
イリーナは恥を捨て頼み込もうと思ったその時、この世界で一番聞きたくない言葉を聞いた。
「イリーナ様!!発見されましたよ」
ゆっくり、ちょっとずつ後ろを振り向くとそこに居たのはイリーナの側付き兼騎士長の一人の女性が私服姿で立っていた。
「アマリー」
アマリー・レイ。
火曜日は毎週休みになっており、定休日の朝は食材の調達の日だと決めてある。今日のお昼にでも業者に頼んでもらって鍵を直そうと思ったが、フィリアがまた壊すだけだと諦めた。
学校がもうじき始まるこの時期、アパートや寮を探す学生が増える。
特にこの街は魔術師を育成している数少ない街、様々な方策がなされており、その方策目当てで外国から来る者が居るほどだ。
しかし、こればかりは予想外だった。
ぶつかってしまった女性が学生だという事はなんとなくで分かってしまったし、実際当たっていたみたいだし。しかし、疑われてしまう事は予想外だった。それ以上に妙な問題に巻き込まれた。
このイリーナと呼ばれている女性を追いかけてきたアマリーと呼ばれる女性。
イリーナと呼ばれた女性がお嬢様風の容姿をしているなら、こちらの女性はどちらかと言えばメイドが無理をしてスーツ姿を着ているような感じがする。
実際動きが多少ぎこちない。
スカートを普段から来ているメイドが、いきなりスーツを着れば今みたいに動きに無駄が生じると思う。
しかし、俺も世俗慣れしてしまったものだな。と涙が出てきそうになる。
「イリーナ様。帰りましょう。ここはお嬢様が居るような場所ではありません。お父様も大人しく帰ってくればきっと許してくださいます!」
「嫌です。ここで大人しく帰ればお父様の手で一生城から出してもらえなくなります」
なんか、城から飛び出したお嬢様と追いかけてきたメイドみたいな話をしてやがるな。めんどくせぇ。
しかし、無視をするわけにもいかない。
「なんかよく分からんが。アマリーさんだっけ?あんたはこのお嬢さんを連れ戻したいみたいだけど、このお嬢さんの話を断片的に聞いてみると、どうも最低限の許可をもらっているんじゃないのか?」
「貴様のような野蛮そうな男に何が分かる!?」
野蛮そうという言葉そのものを否定しようとは思わない。しかし、ああも言われるとこうイラっと来るのは俺が結局の所で成長できていないのが原因なのではないか?
「そのような言い方は無いでしょうアマリー!確かに少々野蛮そうな外見をしていらっしゃいますが!A級魔術師なのですよ。あなたより上のはずです」
お前の言い方もイラっと来るぜ。
野蛮で悪かったな。昔からよく言われてきた言葉だ。否定しねぇよ。
「こんな男が私より上?信じられません」
見せてやろうか?ライセンスを。
俺はライセンスを見せてやる。写真に『チョウ ヒ』と書かれた名前、その下には『A級魔術師』と有効期限が書かれている。最後には魔術協会公認という文字とハンコがこのカードが証拠であるという事を示している。
「嘘だ………」
俯き、綺麗な顔立ちに苛立ちを表面化し、短めの黒髪を振り回して告げてくる。
「勝負だ!貴様が勝てばお嬢様の独り立ちを認めよう」
なんで俺がそんなことを巻き込まれなければならないんだ。
はぁ………今日はツイてねぇ。
始まったばかりのお話ですが最後までお付き合いしてくださるとうれしいです。一日一話を目標に掲載していきます。一話が短めの話ですがどうか楽しんで!




