魔術図書館の司書は女の子 3
いよいよラスボス登場です。
ジャック・ザ・リッパー≪切り裂きジャック≫
この異名が知られ渡ったのは十九世紀末のロンドンに実在した連続殺人鬼、五人の女性を次々と殺害した狂気の殺人鬼。
それこそがアマリー・レイの正体なのだろうか?
それを考える暇すら与えないまま、俺の前にアマリー・レイは現れようとしていた。
魔術図書館の個室の中で大人しくしていた俺達に響き渡るような音、それが魔術図書館の出入り口から来るのだと気が付き、俺は急いで引き返す。
大きく破壊された魔術図書館の出入り口は俺のみ知らぬ形になっており、図書館の本が瓦礫と一緒に周囲に散らばっている。
「お、お嬢様………?」
「アマリー・レイなのか?もう………面影もねぇな」
メイド服を着てこそいるが、その顔立ちや姿はまるで別人になり果てている。
しかし、「お嬢様」という言葉と両手に持っているナイフで確信した。
間違いないこの目の前にいる人物こそが『アマリー・レイ』本人だろう。
「メリビット!もしかして、お前の前任の司書は女性か?」
「はい。魔術図書館は特殊な魔術の構築式で錬成されていまして、ここはエーテルライトにとって頭脳でもありますから」
「なるほどな……」
なるほどななんて言ってはみたが、正直に言えば全部を理解できたわけじゃないし、納得しているわけじゃない。
しかし、建物1つが魔術の構築式になっているというのは別段疑う事ではない。
何故なら王都の広場も又構築式になっているし、ファンシーキャットもある意味ババから俺へと構築式の引継ぎをしているからだ。
「記憶の引継ぎか?」
「はい。魔術図書館に記録されている魔術を私は行使することが出来ます」
他の三人は驚きで口を覆い、メリビットが俺の隣に立つ。
「ここで暴れ回るなら私が許しません」
真剣な面持ちで語り掛けてくるメリビットにアマリーは狂気に満ち溢れた表情を作り出す。
もう元には戻れそうになさそうだ。
「もうやめて頂戴アマリー!どうしてあなたが?」
「………あなたの所為だ……!あなたが王都から……出ていかなければ!」
イリーナの驚きを押し殺した声が俺とメリビットにも感じ取る事は出来る。
そんな言い方は無いだろうが、しかしアマリーからすれば全ての原因はイリーナがこの街に来た事が原因でもある。
「どうして………教えて!アマリー!」
「もういい!張飛さん………殺してください」
俺やメリビットがしてやれることはきっと『死』だけなのだろう。
後ろにいるフィリアは俺の名を大きく叫び、エーフィーも「止めてっす!」と叫ぶが俺は二本の剣を創造して駆け出していく。
「分かっている!お前を殺す事がお前を救う事なんだろ!アマリー・レイ!いや………『ジャック・ザ・リッパー』」
メリビットは両手を合わせ、周囲の本を自分の周りに集めて回る。
「オジサン!私も参加する!」
「駄目だ!お前は其処にいろフィリア!これは魔術師の戦いだ!お前はまだ未熟!今は後ろにいればいい」
「どうしても………だめ?」
「ああ………お前は俺にとって大切な人だ。今はまだ俺が守らせてくれ」
俺の攻撃をアマリーはギリギリで回避、メリビットは本から検索した魔術を構築していき、色は『黄色』で構築式の形は『雷』である。
雷があまりの頭上で構築されていき、素早い速度で落ちていく。
俺はそれを回避するため後ろに大きく移動して行き、同時に逃がさないように俺はアマリーを逃がさないように鉄線を『創造』する。
しかし、あまりは自分の体と近くの瓦礫の場所を空間ごと交換していく。
「魔術の構成式は『空間交換』ですね。それともう一つ………『変化』です。これは対象者の肉体情報物質を取り込むことで対象に変化する能力ですね。前者は襲らく『闇』が表に出てしまった際に変質したもので、後者は元々有している力です」
「やはり元々暗殺稼業を縄張りにしていただけはあるな、変装し身を隠す術をきちんと身に着けていたというわけか」
俺は二本の剣を『拒絶』して、一本の矛を創造する。
アマリーに駆け出していき、アマリーはナイフを俺の方へと投げつけていく。
こんなナイフが俺に当たるとも思えないが、しかし、アマリーが俺の後ろに突然姿を現した。
俺の反応が遅れる中、メリビットが周囲の瓦礫を操作して俺の盾にする。
「ナイフに飛んだのかよ!?」
「ナイフを空間の切り替え地点として利用しているんです。気を付けてください」
とことん暗殺向きだな。
元々本人は殺し続けてきた身、おそらくこれが彼女の前世の願いなのだろう。
『もっと人を殺していたい』
それを押さえる為に彼女は新し『主』を与えられた。
しかし、その主は『自由』を求めた。
それがすれ違いを生み、アマリーに深い闇を作り出したのだろう。
もっと殺したいと、もっともっと人の死ぬところを見たいという前世の願いに屈した姿でもある。
「ギャハハハ!!楽しい!殺し合う事がこんなにも楽しいなんて!」
「下品だぜ!おまえ……」
「お前の前世の方が下品だろうが!多くの人を殺し続け、また一人を殺そうとしている」
「かもな………」
アマリーの言う通りでもある。
かつての俺は最低だ。
多くの人を、自分の部下だって殺し続けてきたのだろう。
それは俺自身が逃げようとも思わないことでもある。
何故なら、俺はもう……その過去に戻るつもりはまるでないのだから。
「俺は前だけを向いて生きる。俺にとってフィリアが俺の願いになってくれた。フィリアを守り一緒に生きていきたい」
それはきっとフィリアへの告白なのかもしれない。
でも、かといってそのまま逃げるつもりもまたない。
「お前だって同じだったんだろ?分かるよ……大切だったからこそお前は……」
「ハァ!?なにが分かるんだよ!お前と違って俺は過去は捨てねぇ!きっちり殺して見せるからよぉ」
「もう………アマリーじゃないんだな」
きっと何を言っても無駄なのだろう。
今、目の前にいる人間は『アマリー・レイ』ではなく『ジャック・ザ・リッパー』という殺人鬼なのだ。
しかし、残念ながらここでジャック・ザ・リッパーを殺す事は無理だろう。
一旦場を整える必要がある。
殺すために、イリーナに辛い思いをさせないためにも、愛するこの街を救い続けるためにも……。
「日を改めろ。俺とお前で決着をつけさせてやるよ」
「場所は?」
「喫茶店『ファンシーキャット』だ。あそこで決着をつけさせてやる」
そこは俺が万全な体制で戦う事が出来る。
「良いだろう。お前は一番先に殺してやる。それでいいだろう」
「ああ、喫茶店で待っている」
では次回です!




