魔術図書館の司書は女の子 2
そろそろクライマックスが見えてくる頃です。
魔術図書館。
魔術を学ぶこのエーテルライトだからこそこの図書館が存在しているのだ。
そんな図書館に訪れたのはいいものの、入ってすぐにメリビットと逢ったのはただの偶然だったのだが、エーフィーの余計な一言に過敏に反応したフィリア。
「この人も張飛さんの知り合いっすか?もしかして……元カノ?」
「馬鹿!アホみたいなことを言うんじゃねぇよ!」
そう思うのだが、既に時遅くフィリアは怒りの表情を浮かべ、イリーナはそんなフィリアを押さえようと必死になっているが、フィリアがその程度で止まるわけが無い。
俺は何とか弁解しなければ酷い目に合うという直感に従い、フィリアに目線を合わせようとするが、フィリアはそれ以上に早く俺の脛目掛けて鋭い蹴りを入れてくる。
「痛!」
脛を押さえようと前かがみになった所にフィリアの渾身の右ストレートが俺の鳩尾に直撃。
「ガフ!」
鳩尾の痛みで更に前かがみになった所に人中へのストレートパンチ、とどめとばかりに俺の股間に蹴りを入れてそのままノックアウト。
「それで魔術図書館にご用件でしょうか?」
メリビットはまるで他人事のように俺の体を踏み越えて容赦なくフィリアに近づいていく。
取り敢えず俺を踏む必要が全くないので謝ってほしい。
「………あなたはオジサンの何なの?」
「私は個々の司書です。張飛様とは同じ魔術師というだけです」
「本当にそれだけ?一夜を共にしたとか!?」
誰だぁ!?フィリアに奇妙な事を教えているのは!
俺は体を起こしイリーナとエーフィーの方を強烈に睨みつける。
すると二人は顔を逸らすだけ。
「一夜?とは?」
「一緒に寝たとか!」
もうやめてください!フィリア様!
これ以上俺の恥を表に晒し出さないでくれ!
顔を覆いたくなるほど恥ずかしいやり取り、もうここに居ることが俺にとって耐えられない事態である。
走って逃げてしまいたい。
フィリアのしつこい質問攻めを全て綺麗に掻い潜り、メリビットは今一度「ご用件は?」と尋ねる。
俺はようやく立ち直り、王妃から聞いた言葉を頼りに説明してみるが、本人は首を傾げるだけだった。
「知らないのか?王妃は知っていると言っていたぞ」
「私はここに赴任したばかり。前任の司書なら知っているかもしれませんが……」
「前任の司書って今どこにいるんだ?」
「夜逃げしました」
「「「「夜逃げ!?」」」」
おおよそ図書館の司書になった人間の末路ではないだろう。
どういう生き方をすれば『夜逃げ』なんて末路をたどりつくのだろう。
「どういう事をすれば『夜逃げ』するんっすか?」
「分かりません。結局今に至るまで夜逃げの正体は分かっていません。ですのでどこに行けばいいのかなんて私にはわかりません」
困ったことになった。
分からないとするとおおよその場所すら分からないのだろう。
「おおよそで良ければ分かりますよ」
「「「「分かるの!?」」」」
だったら何だったんだこの話。
まあいい。もうさっさと案内してもらおう。
メリビットに案内されると、誇り被ったような個室と言っても学校の図書館クラスの大きさを誇る場所。
メリビットが魔術で鍵を開け、中に入る。
「この中にあると思いますよ。この中にあるのは西暦世界の歴史書です」
うんざりするぐらいの本の量に気が滅入ってしまう。
ここで引くわけにはいかないので、俺達もなるべく早めに探そうと中に入っていく。
ある本棚の前で一人で探していると、隣にメリビットが立っていることに気が付いた。
「メリビット……さっきはありがとな」
「何を言っているのか分かりません」
「そうか………ならいい」
俺はある本を手にとって中身をめくりながらふと尋ね返す。
「本当に夜逃げしたのか?」
この話に意味なんてない。
「はい。私が秘書見習いで王都で勉強していた頃呼び出されました」
「そうか………」
俺は本を閉じ、今一度真剣な面持ちでメリビットに語り掛ける。
「本当は何があった?王妃は確かに言ったんだぞ。司書なら分かると。あの言葉が嘘なら彼女は俺に本当の事を話したはずだ。それにお前は今『夜逃げ』と言ったぞ。図書館の司書が夜逃げする理由に見当もつかん。それに夜逃げなら王都の人間が探すだろうし、魔術師をみすみす逃がすとは思えない」
それこそここは魔術図書館。魔術師だけが利用することが許され、魔術師の為に整えられているような場所である。
国で管理され、国に選ばれた魔術師が『夜逃げ』するとは考えにくい。
「本当はなんなんだ?同じ魔術師にも言えない様な話なのか?」
「殺されたんです。先日の話でした。橋の下で顔の皮を剥がされた状態で発見されました。私はたまたま司書としての資格を持っているという事で急遽呼ばれて……」
「国から黙っているようにと言われたのか?」
「はい。代わりの司書が来るのが明日の朝になるらしくそれまではここで管理しなくてはいけなくなってしまって」
彼女は指をもじもじさせながら年相応の顔を作る。
「知っている人が来てよかったです」
「そうか………そりゅあ来て良かったな」
俺は頭を優しく撫でてやると、俺の背中からフィリアの気配を感じ取る。
振り返るとそこに案の定無表情に近いフィリアが俺の方を見ている。
「フィリア様。どうか許してくださいませんか?」
深々と頭を下げて誠意を見せる作戦、それでもフィリアの怒り度合いは全く緩まずジェスチャーで腰を低くするよう俺に指示が出た。
俺は言われた通り腰を低くさせ、顔を突き出すとフィリアは俺の両頬に紅葉の痣を付けてくれる。
俺は床に腰掛けながら本を一冊一冊確かめながらイリーナ達の方を見ている。
そこには『十九世紀 ロンドン』と書かれており、俺は適当に本のページをめくっていると、これ以上俺が変な気を起こさないようにという監視が右隣にいた。
フィリアだった。
さらに左隣にはメリビットが俺の見ている本を一緒に見下ろしている。
「蒸気によって発達した時代らしいな。それによって空気が悪く治安が悪かった時代とかいてある」
「オジサンが生きていた時代から何年後?」
「張飛様が生きていた時代から何年後ですか?」
確か王妃さんが言っていたことを計算すると………?
「約千七百年以上後の時代だな」
「「千七百年!?」」
驚きで口が閉じない様で、パクパクさせる姿が少しだけ面白かったりする。
最ももうほとんど覚えていないので知らないといったほうがいいかもしれない。
特に面白そうな話もないので正直頭に入ってこない。しかし、そんな中に見知らぬ項目が書かれていたのを見付けた。
『ジャック・ザ・リッパー≪切り裂きジャック≫』
では明日にお会いしましょう!




